『天に星 風に歌 そして天使は舞い降りる 23』






季節もとうに冬を迎え、吐く息さえも白くなった十二月の半ば。
街もクリスマスに向けて華やかに彩られていく中、両手に荷物をまさに山ほど抱えた大きな男が歩いていた。
それを見かけた恭也はそちらへと足を向けると、

「こんにちは、耕介さん」

「ああ、こんにちは、恭也くん」

「買い出しですか。少しお持ちしますよ」

「悪いね」

断るかどうか悩んだ耕介であったが、思ったよりも多い荷物に言葉に甘える事にする。

「何処まで運べば宜しいですか」

「ああ、この近くの駐車場に車を止めてあるから、そこまでお願いできるかな」

「分かりました。ですが、駐車場ならわざわざこの付近に止めなくても、買い物をされたデパートに止めれば良かったんでは」

「いや、俺だけだったらそうしたんだけれどね。
 真雪さんがこの近くで打ち合わせで車を出すって言うんで便乗させてもらったんだよ」

言って笑うと、真雪が打ち合わせしている店の名前を上げる。
入った事はないが店自体は知っていたのか、恭也は納得したとばかりに頷く。

「いやー、夕飯の買い物だけするつもりだったんだけれど、偶々切れかけている日常品が特売しててね。
 車だから持って帰るには困らないと思ってちょっと買い過ぎたんだ。
 真雪さんが車をこっちに止めたんだって事をうっかり忘れててね」

「あの、だとしたら車のキーは誰が持っているんですか?」

「……あっ」

恭也の言葉に耕介は忘れていたのか、しまったという顔で恭也に申し訳なさそうな顔を向ける。
それだけで充分伝わったのか、恭也は嫌な顔もせず気にしないように慰める。

「いや、本当にごめん。すっかり忘れていたよ。真雪さんはまだ打ち合わせ中だし。
 そうだ、手伝ってくれた御礼も兼ねて、真雪さんの方が終わるまで付き合ってもらっても良いかな」

耕介の言葉に恭也は一人で荷物を持つのも大変だろうと頷き、耕介に連れられて一件の店へとやって来る。


「耕介さん、ここはお酒を飲む所では……」

「ああ、確かにバーだけれど、レストランも兼ねているんだよ。
 あ、国見さんこんにちは」

「ああ、耕介さん、こんにちは。今日はまた珍しい子を連れているね。
 もしかして、耕介さんの子供とか」

「どう見ても年齢的に可笑しいでしょう、それは」

国見の言葉が冗談だと分かっているからか、耕介は苦笑しながらカウンターに座る。
足元に置かれる荷物を見て、国見もまた随分と買い込んだねと話しかけてくる。

「いや、本当に失敗しましたよ。真雪さんの打ち合わせについでとばかりに便乗したんですけれどね……」

恭也に話したような事を国見にも話し、耕介はアルコールの入っていないものを頼む。

「恭也くんも遠慮しないで頼んでね」

「お言葉に甘えさせて頂きます」

そう言って恭也もまた飲み物を頼む。
飲み物を用意する間に、初対面の恭也と国見が軽く自己紹介するのを眺めつつ、耕介は棚に並んだ酒を物欲しそうに見詰め、
その視線に気付いた国見が二人の前に飲み物を出して笑いながら声を掛ける。

「流石に車だとお酒は無理だものね」

「まあ、まだ飲むには早いですしね」

「真雪さんならそんな事は気にしないんだろうけれどね」

言って笑いあう耕介と国見の話を聞きながら、恭也は店内を見渡す。
落ち着いた雰囲気が気に入ったのか、恭也は静かに一口含む。

「気に入ったみたいだね。でも、ここは何よりもお酒が美味しいんだよ。
 真雪さんだけじゃなくて、愛さんも常連なぐらいだしね」

「流石に恭也くんに勧める訳にはいかないけれど、数年後に良かったら」

「その時は俺が連れて来ますよ。恭也くんと飲める日が来るかと思うと、ちょっと楽しみです」

「耕介さん、気が早いですよ」

「いや、そんな事はないって」

そんな二人のやり取りを楽しげに見詰め、国見は耕介へとからかうように言う。

「まるで父親みたいだね」

「せめてお兄さんぐらいになりませんか」

そんな感じで三人で話していると、店の電話が鳴って国見が断って電話へと出る。
何やら話しているが聞き耳を立てるような真似もせず、耕介は恭也と話す。

「そういえば、この間は薫が世話になったと言っていたけれど」

「ああ、球技大会の件ですね。別に大した事はしてないですよ」

「まあ、それでもうちの子がお世話になったみたいだしね」

「それを言うのなら、うちだってかなりお世話になってますから。
 特になのはに関しては」

「あはは、あれぐらいはどうって事ないよ。
 愛さんもなのはちゃんの事はとても気に入っていて、殆ど愛さんが見ているようなものだし」

本当に何でもない事のように告げる耕介を前にして、恭也はやはりさざなみの人たちは良い人ばかりだと改めて感じる。
互いに軽くお礼を言い合いつつ、話はクリスマスへと移っていく。

「もう聞いていると思うけれど、クリスマスパーティーなんだけれど」

「母もお邪魔させてもらうと言ってました。ただ、遅くなるとは思いますが」

「ケーキの販売をするんだってね」

「ええ。俺も手伝うので、美由希だけ先にお邪魔させてもらいます」

「今年は桃子さんがケーキを作ってくれると聞いて、うちの子供たちが大喜びでね。
 その分、料理の方は張り切らせてもらうから」

そんな風に話していると、国見が戻ってくる。
が、その顔が少し困ったように歪んでおり、それとなく耕介が尋ねてみると、

「いや、さっきの電話の事でね。実は、バイトとして雇った子だったんだけれどね。
 ほら、うちの店にピアノがあるだろう。それを弾いてくれていた子だったんだけれど、どうも腕を骨折しちゃったみたいでね」

「今からでは、そう簡単に見つからないでしょうね」

「そうなんだよ。明日からクリスマスまでの期間で良いんだけれどね」

困ったように呟く国見を見ながら、耕介の脳裏には一人該当する人物が浮かんでいた。

「ピアノが弾ける子に心当たりはあるけれど……」

耕介がそう口にすると、恭也も思い至ったのかああ、と呟く。
対して、国見の方は本当という様子で耕介へと視線を向ける。

「あ、でも、あまり派手な曲とかしか弾けないとかなるとあれだけれど……」

「それは大丈夫だと思いますよ。数回しか聞いた事はありませんが、色々な曲を弾いてましたし」

「流石にピアノで演歌を弾かれた時は驚いたけれどね。
 俺は音楽とか詳しくないからよく分からないけれど、腕も悪くないと思うよ」

国見の言葉に恭也が安心させるよな事を口にし、耕介が少し笑いながら言った言葉に恭也は頷く。

「そうですね。それに歌も上手ですよね。本当に歌うのが好きだと伝わってきます」

「あははは、流石は音大生という所かな。
 まあ、普段の言動からついつい忘れがちというか、芸人かと思ってしまうけれどね」

「耕介さん、流石にそれはゆうひさんに悪いですよ」

二人してそんな事を口にする間も、国見は一人考え込み、最終的に耕介にゆうひを紹介してくれるように頼む。

「話すだけ話してみますけれど、あまり期待はしないでくださいね。結構、忙しそうにしてましたし」

「それでも、全くあてがないよりはましだよ。
 もしその気があるのなら、一度聴いてみたいから店に来てもらえるかな?」

「分かりました。帰ったら伝えておきますね」

その話はそれで終わりとなり、耕介と恭也は話しに戻り、国見は仕事をしつつ会話に時折参加して時間が流れていく。
そこへ耕介の携帯電話が鳴り、相手は真雪からで打ち合わせが終わったというものであった。
それを受けて耕介たちは店を後にすると、真雪の待つ駐車場まで荷物を運ぶ。

「おう、待たせたみたいだな。恭也もご苦労さん」

「いえ、俺は別に」

「まあ、そう言うだろうと思ったけれどな。さて、それじゃあ、帰るか。
 恭也はどうする」

「なのはと美由希がそちらにお邪魔していると思うので」

「じゃあ、後ろに乗ってけ」

真雪が運転する車でさざなみに戻りながら、耕介はFOLXでの話を真雪に話す。

「ふーん、まあ、ゆうひが良いと言ったら良いんじゃないか。
 国見の所なら、下手な所でバイトするよりも安心だしな」

少し寮生に対する保護者的な言葉を漏らした真雪に何も言わず、ただ小さく笑う耕介。
それを目敏く見つけた真雪がその頬を抓り上げる。

「お前は何を笑っているのかな?」

「ちょっ、真雪さん。と言うか、ハンドル、ハンドル!」

「ちゃんと片手で握ってるよ」

「両手で、両手で握ってください」

「ったく、男のくせに煩い奴だな。で、恭也、お前もさっき笑ってなかったか?」

バックミラー越しに恭也を睨むも、既に恭也はいつものような仏頂面ではて、ととぼけるように首を傾げる。

「ちっ。耕介、タバコ」

真雪は舌打ちすると耕介に命じる。
それを聞いて耕介は車内に置かれてあったタバコを素直に手にし、そこから一本だけ取り出すと真雪へと差し出す。
咥えて受け取った真雪が何か言うよりも早く、同時に用意していたライターで火を点ける。

「うけけ、中々便利な自動家事マシーンだな。タバコに火を点けるオプション付きとはな」

「はいはい、機嫌が直ったのならそれで構いませんから、安全運転でお願いしますよ」

「分かってるよ」

そんなやり取りにまた恭也が少しだけ笑っていたのだが、幸いにしてそれは気付かれる事はなかった。





  つづく




<あとがき>

とらハ2の時って、携帯電話はどうだったかな……という突っ込みはなしで。
美姫 「いきなりね」
あははは。とりあえず、最初に断りを入れておこうかと。
ともあれ、宣言通りにゆうひ編に。
美姫 「まだ入ったとは言えないけれどね」
まあまあ。とは言え、この次からの展開は原作とそう変わらないと思いますが。
美姫 「それじゃあ、また次回でね〜」
ではでは。







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