『天に星 風に歌 そして天使は舞い降りる 27』






日もすっかり落ちた頃、冬という事もあって体の芯まで冷え込んでくる寒さから少しでも身を守ろうと襟元をぴったりと閉じてやる。
閉じてもらった美由希は礼を共に笑みを返し、兄の手をぎゅっと握る。
そんな微笑ましい兄妹の一こまに思わず心を温かくして同じく笑みを見せるのは薫と知佳である。
二人の眼差しに気付いたのか、恭也は照れ隠しにか顔を逸らし、足早に進もうとして繋いだ美由希に気付き一歩も進まぬ内に諦める。
不思議そうな顔で見上げてくる美由希に何でもないと返し、恭也は立ち止まっている二人に声を掛ける。
恭也の言葉で再び歩き出した一向であったが、薫が少し気遣わしげに口を開く。

「本当にうちらだけ先に上がっても良かったんだろうか」

薫が言ったのは今も翠屋で売り子をしているバイトたちの事である。
尤も、元からそういうシフトだったので特に問題がある訳ではないのだが、忙しさを思い出して思わず振り返ってしまう。
対する恭也は薫動揺に気にしている知佳にも伝えるように二人に言う。

「かーさんの許可もありますし、そろそろ店も落ち着いていると思いますよ」

帰り間際に急に忙しくなったのは確かだが、それもそろそろ収まっているだろうと恭也は桃子も予想していたと付け加える。
それを聞き、二人はこれ以上考えても仕方ないしと気持ちを切り替え、これから行われるパーティーを楽しもうと。
それから数分程歩いた四人の前に目的地であるさざなみ寮が見えてくる。
門扉を潜り、玄関の戸に知佳が手を掛け、空ける前に薫と視線を交わす。
分かっているとばかりに頷く薫。
ここから先は楽しみでもあるが、同時に不安な事もあるのだ。
誰とは言わないが、年長者だったり、漫画家だったり、ある人物の姉であったりするさざなみの魔王の暴挙が。
主に恭也辺りに絡んで飲酒させようとするのだけは止めないといけない。
なのはもその場に居る事を考えれば、煙草を吸う事はないだろう。
その辺りは意外にもしっかりしているのに、何故、飲酒に関してはああなのだろうか。
二人してバイト終わりに着替える際に首を捻ったものである。
ともあれ、羽目を外し過ぎないようにさせなければ。
そんな使命感みたいな物を交し合う二人の仕草は短く、また薫の背しか見えない恭也たちは気付く事はなかった。

ただいまとお邪魔しますという二種類の挨拶に対し、リビングから顔を出したのは管理人の耕介であった。
エプロンを着けている事からもまだ料理の途中だったのだろうか。
帰って来た二人を来客二人にそれぞれ挨拶を返す。

「こんばんは、耕介さん。かーさんは少し遅れて来ると言ってました」

「うん、聞いているよ。さあ、そんな所じゃ寒いだろう。
 ほら、早く上がって」

恭也とも挨拶を交わし、四人に上がるように促すと自分もまたリビングから続くキッチンへと向かう。
その後に続きリビングへと入った知佳がまず、ソファーに座り込んでいる真雪を見る。

「お姉ちゃん、お兄ちゃんは料理で忙しいんだから、せめて玄関を見に行くぐらいはしたら?」

「帰ってくるなり挨拶よりも先に小言かよ、知佳。
 ははーん、そんなにあたしが神咲に協力したのが気に入らなかったと」

「ち、違うよ! 私は単純に忙しそうなお兄ちゃんと違って、お姉ちゃんがいかにも暇そうにしているから……」

「あー、はいはい。だがな、これだけは言わせろ知佳。
 今はなんもしてないように見えるが、間違いなく今日の功労者だぞあたしは」

疑わしげに見てくる知佳に肩を竦めながら、キッチンへと顔を向け、

「耕介ー、お前からも言ってやってくれ。うちの妹が最近、疑い深くて信じないんだよ」

「あー、それに関しては俺はどちらかと言うと知佳の意見よりなんでって、睨まないでくださいよ。
 冗談ですよ、冗談。まあ、確かに今日に関しては真雪さんも働いたと言えなくもないですよ」

「何だその微妙な言い方は。全く、あたしの苦労を分かってくれるのは……」

リビングを見渡すも、見事に全員が視線を逸らす中、美由希だけが真雪を見詰めている。

「うん、高町妹一号、もとい美由希だけだ。そんな良い子の美由希にはあたしのとっておきの酒を後で……」

「仁村さん! 美由希ちゃんにまで何を飲ませる気ですか!」

「冗談だ、冗談。そんな剣幕で怒鳴るな。全く、耕介の奴がちゃんと説明しないから」

ぶつぶつ文句を言う真雪に肩を竦める耕介と順に見遣り、恭也は仕方なく真雪に何をしたのか振ると、

「おうおう聞きたいか、高町兄」

唇をきゅっと曲げ、楽しそうにそう返してくる真雪を前に別にと本心を口に出来ず曖昧に返す。
それで充分だったか、真雪はさも大変だったと言わんばかりに息を吐き出し、語り出す。

「なら聞かせてやろう。あたしが今日やった事をな。
 それはな……」

やけに勿体ぶった言い回しに思わず四人が聞く態勢を取れば、真雪はじらすようにゆっくりを口を開ける。

「料理を手伝おうとした愛を止めた。どうだ、凄いだろう」

それがどう凄いのかと首を傾げる恭也と美由希に対し、薫と知佳は顔を見合わせて何とも言えない表情を見せる。
よくやったと褒めれば愛に悪いと思ったのだろう。
そんな二人の反応に恭也は思わず小声で二人に尋ねる。

「もしかして愛さんは料理……」

「出来ないって訳じゃないと思うんじゃが」

「その、味がね。ちょっと独特というか。食べれなくはないんだよ」

二人して恭也へと口を揃え、

「「でも、あまり触れないであげて」」

そう懇願するように告げる。恭也も一つ頷くとこれ以上は聞かないようにしようと思う。
一方の美由希は意味が分かっていないのかキョトンとしているが、恭也が気にするなと告げると大人しく言う事をきく。
そんな四人の態度を見て、真雪は面白くなさそうに鼻を鳴らす。

「何だその反応は。その時、一緒にいた美緒なんかはもっと歓喜していたというのに。
 全く若い内からそんなに枯れた反応でどうするんだ、お前たちは」

「あ、あははは、えっととりあえず手を洗わないと。
 薫さんたちもほら」

真雪の言葉を受け流し、知佳が当たり障りのない事を口にしてこの場から離れる口実を作る。
これ幸いと飛びついて薫たちは手を洗う為にリビングから出て行くのだった。



恭也たちが再びリビングへと戻ってくると、そこには先程まではいなかった美緒や愛たちの姿があった。

「みゆきち、メリークリスマスなのだ!」

「メリークリスマス、美緒ちゃん」

「おかえり、知佳ちゃん」

「ただいま、みなみちゃん」

それぞれに挨拶を交わしつつ、四人でトランプを始める。
その様子を眺めながら、恭也はなのはを抱っこしている愛の隣に座る。

「なのはの面倒を見て頂いてありがとうございます」

「いいえ、大した事はしてませんから。それに、なのはちゃんは大人しくしてますからね〜」

後半はなのはに言うように笑顔を向け、少しだけ困ったような顔で再び恭也を見る。

「本当は私も耕介さんのお手伝いをしようと思ったんですけれど、真雪さんになのはちゃんの面倒を誰が見るんだって言われて。
 お預かりしているのに本当に申し訳ないです」

「いえ、そんな事はないですよ。本当に助かってますから。
 流石に付きっ切りは無理ですし」

裏というか、本当の理由を知った恭也としては何とも答え辛い言葉であったが、当たり障りのないように返しておく。
恭也の言葉に愛は良かったですと人の良い笑みを浮かべると、その腕に抱かれているなのはがうーうーと恭也に手を伸ばす・

「あらあら。ふふふ、やっぱりお兄ちゃんの方が良いのかしらね」

「すみません、気付かなくて。代わります」

言ってなのはを愛から受け取る。
愛の代わりになのはを慣れた仕草であやす様に抱きかかえる。
昼間にぐっすりと寝たからなのか、なのははきゃっきゃと笑いながら手を伸ばして恭也の顔を掴んでくる。
それを困った様にかといって振り払う訳にもいかずに好きにさせるしかない恭也と、そんな二人を見て微笑む愛。
それらを対面で眺めていた真雪がからかうように話し掛ける。

「まるで新婚の夫婦みたいだな」

その言葉に薫や知佳が反応するも、言われた二人は苦笑しながらも互いに相手が自分では可哀相だと口にする。

「ちっ、からかい甲斐がないな、おい。もう少し慌てるなりうろたえてあたしを楽しませろよ」

「お姉ちゃん!」

「へいへい。まあ、実際には恭也の雰囲気は兎も角、見た目は子供だからな。
 夫婦ってのは無理があるか。うーん、なのはだけなら愛の子供っていっても通じそうだが、言ってからかえる奴がいないし」

咎める知佳を軽くあしらいつつ、真雪はそんな悪巧みを口に出しつつ考え込む。
その後ろで知佳が思わず頭を抱えているのに対し、当の本人である愛は横からなのはの頬を突付いたりして満足そうな顔をしていた。
やがて言っても無駄だと諦めたのか、それとも美緒や美由希に自分の番だとせっつかれたからか、知佳もゲームの輪に戻る。
そこへ耕介がエプロンを外しながらやって来る。

「ふー、一通りはこれで終わりかな。それで、今度はどんな悪巧みを考えていたんですか」

「第一声がそれかよ。……って、ふふ〜ん。こうすれば案外……」

「うわっ、明らかに悪い顔ですよ真雪さん」

「うるせっ。それより耕介、ちょーと今度頼まれてくれないか?」

「この流れで引き受けるととんでもない事になりそうなんでお断りさせて……」

「そうか、そうか。是非ともお願いしますとまで言われたら仕方ないな」

「いやいや、言ってませんよ。って、愛さんもなのはちゃんと遊んでないでもっと危機感を持ってくださいよ。
 明らかに愛さんも巻き込もうとしてますよ!」

「そうなんですか?」

焦る耕介の言葉に、なのはから目を離して首を傾げて真雪へと尋ねる。
純粋な瞳に思わずたじろぐかと言えば、長い付き合いもあってか、真雪は平然と表情を崩す事もなく、

「そんな訳ないだろう」

「ですよね」

平然と告げられた言葉にあっさりと納得する愛を見て、耕介は何処まで人が良いんだと肩を落とす。
そんな耕介の頭をぐりぐりと拳で押さえながら、真雪は楽しそうに笑う。

「いい加減、お前も愛の性格を把握しろ」

「いや、充分に理解してますって。当然ながら真雪さんの性格も」

「ほう、言うじゃないか。なら、さっきの返答ははいしかないってのも分かってるんだろう」

「うぅぅ、とりあえず何をさせるかにもよりますよ」

耕介の言葉にしめたとばかりにさっきとは少し違う趣の笑みを見せ、耕介の耳元に囁く。

「なーに、簡単な事だよ。しかも、悪い事でもない。上手くすれば、うちの寮生の安全にも繋がる事だ」

半信半疑ながらも寮生という言葉に耕介も一応は聞く姿勢になる。
そんな耕介に真雪は先程思いついた悪巧み、もとい、計画を話してやる。

「初めは標的に千堂辺りを考えたんだが、考えてみればなのはの事を知っているから無理だと気付いてな」

「はあ、何をですか」

「まあ、慌てるな。今から話してやるよ。今度、愛やゆうひの大学になのはを連れてお前が迎えに行くだけで良い」

「はい? それだけですか?」

不思議そうに疑問を浮かべる耕介に対し、真雪はそれだけだと返す。
その後に続く言葉は聞かれないように小声であった為に、耕介には聞かれる事はなかったが。

「くっくっく、中々楽しい事になるんじゃないかと思うぞ。
 特に愛の所だな、従姉妹で苗字が同じと言うのがゆうひよりも面白くなりそうだ」

しかし、当然ながら最初に言った寮生の安全に繋がらず、耕介は疑問を尋ねてくるのだが、真雪はやはり表情を崩す事無く答える。

「なに、ゆうひはよくナンパされて困っているだろう。少しでも改善されるかもしれないぞ。
 愛に関しても全くないという事もないしな。ようは悪い虫を追い払う殺虫剤だな、お前は」

「家事をする機械から今度は殺虫剤ですか」

「おお、昇格したな」

「昇格、ですかこれ?」

「まあ、細かい事は気にすんな。可愛い寮生の為だよ」

真雪の言葉にどうやったらそうなるのかは分からず、耕介は曖昧に頷いておく。
まあ、今は飲んでいないが酔っ払いの戯言だと思えば良いかと。
この時、もう少し真剣に話の内容を検討しておけばと後悔する事になるのだが、今の段階で耕介には思いもしない事である。
故に後日、実際に愛とゆうひの両名に対してこの行為を行い、それが回り回って幼なじみの耳へと届き、
凄い剣幕で来襲してくる事となるのだが、それはもう少し先の話である。



それから少しして料理も整い、パーティーが開催される。
クラッカーの音になのはが驚き泣き出すというハプニングはあったものの、特に問題もなく料理も順調に消費されていく。
後から遅れてきた桃子も加わり、更に宴は盛り上がっていく。

「うま、うま。今年は桃子のケーキもあって楽しみなのだ」

「美緒、食べながら喋らない。って、ああ、口の周りをこんなに汚して」

美緒の口周りを拭いてやりながら注意する耕介に、真雪は呆れたように肩を竦める。

「と言うか、食べながら既にケーキの話かよ。全くよく食べるな」

「そういう真雪はさっきからお酒ばかりなのだ。
 よく飲めるな」

「酒にシャンパン、ワインにビール。全部、別種だから別腹だ」

「うむ、わたしもケーキは別腹だから問題ないのだ」

「なら仕方ないな」

「いやいや、入る場所は一緒だから」

「耕介は細かいのだ」

「全くだ」

二人に言われて耕介は肩を竦めるに止める。
言い返しても負けるのが分かっている以上、口を噤むが一番正しいと信じて。
そんな耕介の肩を恭也が優しくポンと叩いてやる。

「恭也くん……」

思わず弟分に縋る耕介を呆れる事無く、恭也はただ黙って頷き返してやるのだった。
そこへ陽気な音楽が突然流れ出し、シャンシャンと軽やかな鈴の音が響く。
一体、何事かと全員が動きを止め、音のする方へと視線が集まる。

「どうも中庭からみたいですね。カーテン開けてみましょうか」

耕介が立ち上がり、反対の声がないのを見てカーテンを開ける。
そこに広がる光景に全員が思わず言葉を失う。
いつの間にか降り始めた雪が薄っすらと雪化粧を見せる中、ソリがどんと鎮座している。
そのソリを引っ張るように伸びた紐のような物の先にはトナカイの角をモチーフにしたのか、ちょこんとそれをつけた猫の群れ。
その猫の逆側、つまりはソリに乗っているのは赤い服を来た女性。
俗に夜に広まっているサンタと呼ばれる格好なのだが、女性用にか、アレンジされている。
まず、ズボンではなく膝上の短めのスカートに、袖は一切なく、白い肌を惜しみもなくさらしている。
頭には同じく赤い帽子を被り、肩から大きな白い布袋を担いでいる。

「メリークリスマス!」

そう叫んだのはバイトの休憩時間に抜け出してきたゆうひであった。
皆が驚く中、恭也はこっそりと溜め息を吐く。
何故なら、そのゆうひの隣には全く同じ格好をしたよく知る女性の姿があったからである。

「見かけないと思っていたら……」

二人で笑いながらソリから降り、リビングへとやって来ようとしたのだが、生憎とカーテンは開けたものの鍵は掛かったままである。

「って、寒い、寒い。耕介くん、呆けてないで開けて! あかん、あかんて。これ以上はうち、うち、もう」

「って、大声で変な事を叫ぶなゆうひ。今すぐ開けるからちょっと待て」

慌てて鍵を開けてやると、ゆうひと桃子二人して駆け込むようにリビングへとやって来る。
その肌は近くで見ると鳥肌が立っており、唇は寒さからかやや変色していた。

「うぅぅ、まさか雪が降るとは思わんかった」

「流石の桃子さんもこの寒さは堪えるわ」

「二人して身体を張って何をしてるんですか」

「皆を喜ばせようとしたんや。芸人魂や!」

「そうそう。美由希、どうだった」

何だかんだで喜ぶ寮生やサンタ姿の桃子に喜ぶ美由希を見て、二人は満足そうに笑う。
そこへ真雪が桃子へと珍しく遠慮がちに声を掛ける。

「桃子さん、他の連中は兎も角、息子は外よりも寒い視線で見てますよ」

「う、うぅぅ、恭也の視線が寒い。ゆうひちゃん、うちの息子が酷いの!」

「可哀相な桃子さん! うちが温めてって言いたい所やけれど、あかん、今はどっちも身体が冷たいから二次遭難になってまう」

「二人とも、これをどうぞ」

まだ漫才めいた事をする二人に薫が熱いお茶を差し出す。

「思ったよりも寒かったわ」

「身体を張りすぎだゆうひ」

言いながらも耕介は思い出したのか少し笑っている。
その反応に満足しながらもゆうひは頭を掻く仕草を見せる。

「いやー、本当はズボンと長袖の予定やってんで。
 でも計画しているうちに桃子さんと話が盛り上がってな」

「とは言え、少し薄着にし過ぎたわ」

二人して反省していると、真雪が再び声を掛ける。

「桃子さん、息子さんの視線が更に寒くなってますよ」

「うぅぅ、本当にこの子は誰に似たのかしら。
 士郎さんなら喜んで抱きついて来てくれたのに」

「いや、それで母親に抱き付く少年ってのも想像できない上に、実際にしたらしたで色々と問題があるでしょう」

珍しく突っ込む真雪に知佳が普段の私の苦労が分かったと聞いておでこをデコピンされる。
そんな姉妹のやり取りを横目に恭也は諦めたかのように息を一つ吐き、なのはを抱きかかえる。

「なのは、お前はああなるんじゃないぞ」

祈るように腕の中で笑っているなのはにそう語り掛ける。

「そこまで言うなんて酷いわ、恭也」

がっくりと項垂れる桃子を見下ろしながら真顔のまま、

「冗談だ。それよりも着替えるなり上に何か着ないと本当に風邪を引いてしまう」

そう言って桃子を気遣う恭也に桃子が感激したとばかりに抱き付く。

「って、止めてくれかーさん」

「私、私も!」

じゃれているように見えたのか、桃子と恭也の間に美由希も入っていけば、桃子は勿論よと美由希ごと抱き締める。

「って、なのはが潰れる、潰れるから」

「大丈夫、母親の懐は大きいのよ」

「この場合、それは意味が違うから」

抵抗する恭也であったが、件のなのは泣くでもなく楽しそうに笑う以上はどうしようもなく、かといって振り払う事も出来ずにいた。
そんな親子のやり取りを眺めながら、ゆうひは耕介の腕に抱き付く。

「耕介くん、うちも寒い!」

「って、ゆうひも早く着替えるか上に何か着ろ」

慌てて言う耕介の腕をしっかりと抱いたまま、ゆうひが見上げるように上目遣いで見詰める。

「耕介くん……」

「な、なんだ」

「思ってたよりもうち、冷えてるみたい」

「はい?」

「耕介くんの腕、あったかいで〜」

「って、冷たっ。本当に冷えてるじゃないか。
 ああ、もう。笑いの為に身体張り過ぎだって」

思ってたよりも冷たいゆうひの身体に耕介は急いで何か用意しようとする。
そこへ愛がとりあえずと毛布を用意してゆうひと桃子へと掛ける。

「た、助かったで、愛さん」

「どういたしまして、ゆうひちゃん」

「うぅ、この身を包む温かさ。愛さん、結婚して!」

ゆうひの発言にただ笑っている愛の隣で耕介は呆れつつも軽くゆうひの頭に拳を落として突っ込んでおく。

「温かくて結婚するなら、相手は愛さんじゃなくてその毛布なんじゃないのか」

「そうか! 毛布さん、うちを幸せにしてな。あ〜、今まさに幸せやわ〜」

「いつまでバカやってないで、本当に着替えるか何かしたらどうだ。
 早くしないと、美緒に全部食べられてしまうぞ」

「って、それは困るね。耕介くんのご飯はうちも食べたい!」

言って、いつの間にか食事を再開していた美緒に残し置いてと言い置き、桃子と二人リビングを出て行く。
あまりの慌しさに恭也が思わず母がと謝るも、

「いや、その片割れはうちの子だしね」

「と言うか、パーティーなんだからあまり固く考えるなよ、少年」

そう真雪に締め括られる。
その後、戻って来たゆうひと桃子も加えてパーティーは続き、まず最初になのはが眠り出す。

「それじゃあ、そろそろお開きにしようか」

「うちもそろそろお店に戻らないとあかんしね」

「じゃあ、あたしらはゆうひの仕事振りを見学がてら飲み直しましょうか」

「その前に一旦、私はお店に顔を出しますね」

大人組みが揃って出かける事を話す中、恭也を始め、薫や知佳が片付けを買って出る。
その言葉に甘えて用意する真雪たち。
一方、最年少組みとなる美緒は美由希と一緒に遊ぼうとし、逆に美由希に手伝おうと言われている。

「うー、みゆきちが言うなら仕方ないのだ」

「終わったら遊ぼうね」

そんなやり取りを眺め、薫が呆れたような声を出す。

「全く、どっちが年上か分からんね」

とりあえず、知佳と恭也が食器を洗い始め、残った物でゴミの片付けなどを始める。
そこへ桃子が顔を出し、

「恭也、言い忘れていたけれど、今日はこのままここに泊めてもらう事になっているから」

「初めて聞いたぞ。と言うか、ここは女子寮だぞ、かーさん。美由希は兎も角……」

恭也の反論や何故か顔を赤くした薫や知佳を見ながら、桃子の後ろから現れた真雪が呆れたように返す。

「今更だろう、少年。それとも何か不埒な真似でもする気か」

「そんな事はしませんけれど」

「なら問題ないだろう。少なくともあたしたちはお前なら大丈夫だと判断したんだ。
 とは言え、流石に寝場所は耕介の部屋だぞ」

「分かってますよ」

「なら良い。まあ、どうしてもと言うのなら他の奴の所で寝ても良いがな。
 ただし、知佳の部屋以外でだぞ」

言うだけ言って手をひらひら振りながら玄関に向かう。
反論するだけ無駄だと悟り、恭也は無言で洗物に戻り、桃子は最後に美由希と恭也に声を掛けて後に続く。
大人たちが居なくなって少し静かになった寮で片付けも終わり、とりあえずと一息入れる。
知佳が入れてくれたお茶を前に、ふぅと少し大きめの息を吐き出した恭也に、知佳と薫が声を揃え、

「「お疲れ様、恭也くん」」

色んな意味で本当にお疲れ様な恭也にそう労いの言葉を掛けるのであった。





  つづく




<あとがき>

クリスマスイヴ午後。
美姫 「さざなみの他のメンバーも登場と」
とは言え、他の人の出番が多いという事もなかったが。
美姫 「ともあれ、久しぶりの更新を届けします」
後、今回は久しぶりのボツネタも宜しければどうぞ。
美姫 「このまま下へ」
さて、次の更新も頑張らねば。
美姫 「それじゃあ、また次回でお会いしましょう」
ではでは。



おまけ1

「いや、それで母親に抱き付く少年ってのも想像できない上に、実際にしたらしたで色々と問題があるでしょう」

珍しく突っ込む真雪に知佳が普段の私の苦労が分かったと聞いておでこをデコピンされる。
それら姉妹のやり取りとは別に、身体も少しだけ温まった桃子はゆうひに抱き付き、

「息子が関西のノリを理解してくれないの!」

「それは何て酷いんや」

「確かに関西の血は流れていないけれど、許婚は関西の血を引いているのに」

その言葉に恭也意外にも数人が反応するも、事情を聞けずに歯痒い表情を見せる。
そんな中、面白そうな話だとばかりに真雪が喰い付く。

「どういう事かな、少年」

「いえ、俺にも何の事だか」

本気で分からないと首を傾げる恭也に、桃子がそちらを見遣る。

「あれ、覚えてないの。ほら、小梅の娘さんで神奈川の病院の……」

「ああ、レンの事か。って、許婚って何だ!?」

「だって、結婚の約束をしたって」

「「それ、どういう事かな、恭也くん?」」

後に恭也は語る。
聖夜に悪魔が降臨した、と。



おまけ2

「なら問題ないだろう。少なくともあたしたちはお前なら大丈夫だと判断したんだ。
 とは言え、流石に寝場所は耕介の部屋だぞ」

「分かってますよ」

「なら良い。まあ、どうしてもと言うのなら他の奴の所で寝ても良いがな。
 ただし、知佳の部屋以外でだぞ」

「恭也、チャンスよ」

「何がだ!」

「私の初孫を若くして抱くっていう夢が叶うかもしれないわ」

「捨ててしまえ、そんな夢。と言うか、俺の年齢を考えてくれ」

「…………ああ、そう言えばそうだったわね。まだ少し早かったわね」

「少しじゃないだろう……。はぁ、この酔っ払いたちは」

疲れた声でそう漏らす恭也に、口を挟めずに居た耕介はほろりと涙を溢しながら、心の中で声援を送るのだった。







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