とらいあんぐるハート3
〜Sweet Songs Forever〜
−美由希編−
第一章
まだときおり冷たい風がふくものの、大分暖かくなり始めた4月上旬の朝。
日頃から訪れる者が殆どいない稲神山の渓流をさらに登った上流付近。
ここに今、二人の若者の姿が見える。
片方は切れ長の目に端整な顔立ちをした男性で、もう一方は、長い髪を首の後ろでまとめ、三つ編みにしている女性である。
二人とも両手に通常よりもやや短い木刀を持ち、振り回している。
正確に言うなら、男性の方が女性の振り回す木刀を受けている。
察するに打ち込みをしているのだろう。
「九百九十八、九百九十九、千!」
「よし、ここまでだ、美由希」
「はぁー、はぁー」
「よし、打ち込み千本終わり。これで今回の全ての鍛錬は終了だ」
「はー、はー、っと。師範代、1週間ありがとうございました」
美由希と呼ばれた少女は、男性に向かい一度お辞儀をすると、
そばにある腰ほどの高さの岩に持っていた木刀を立てかけ、自分もその上に腰掛ける。
「美由希、しっかりとクールダウンしておけ」
男性──高町 恭也──がそう呼びかけ、美由希に向かって水の入った水筒とタオルを投げる。
「ありがとう、恭ちゃん」
恭也はそれには答えずに朝食の準備を始める。
「とりあえず、飯にするか」
「うん、手伝うよ。って、とと」
腰掛けていた岩から立ち上がろうとするが、何かに躓き転びそうになる。
つかさず、恭也が美由希の腕を掴んで立たせる。
「大丈夫か、美由希」
「うん、ありがとう」
「とりあえず、朝食は俺が用意しておくから美由希はテントの中で着替えて休んでいろ」
「でも」
「いいから、そうしろ」
「わかったよ」
美由希は恭也に頷くと言われたとおりに、テントの中へと入っていく。
恭也はそれを見届けてから、朝食の準備を始める。
焚き火にかけた飯盒が煮えているのを確認するとそれを横にどけ、川で釣った魚をさばき、火にかける。
恭也はしばし、川のせせらぎを聞きながらここ1週間の事を振り返る。
1日の鍛練は打ち込み3000本、走りこみ2時間、そして実戦形式での仕合を数え切れない程こなしてきた。
普通の部活動などでやる練習量をはるかに凌駕する練習量である。
それもそのはずで、この二人は今だに暗殺面を色濃く残す『小太刀二刀 御神流』の使い手である。
もともと御神流は恭也たちの父親、高町 士郎が師範を務めていたが、
7年前、ボディーガードの仕事中に士郎が亡くなってからは恭也が師範代になり、
妹の美由希を一人前の御神の剣士にするべく日々鍛練をしている。
ここ1週間の鍛練は毎年恒例になっている彼らの春休みの過ごし方であった。
今しがたの打ち込みで鍛練の全メニューは消化され、今日1日はゆっくりと体を休め夕方頃に家に戻る予定になっている。
恭也は美由希の入っていったテントを見つめる。先程までは中から着替えていた為、物音がしていたが今は静かになっている。
恭也は火加減を確認すると再び、己の思考に没頭していく。
(この一週間、よくこれだけの鍛練をこなしたものだ。俺でさえ、音を上げるかもしれないというのに。
とにかく、これで次の段階へ行けそうだな)
恭也はこれからの鍛練メニューを考え始めた。
その時、どこからともなく電信音が聞こえてきた。
「ん。この音は美由希の携帯の音だな」
恭也は美由希の携帯電話をとり、ディスプレイの表示を見る。
そこに表示されているのが、自宅の電話番号だった為、恭也はそのまま、電話に出る。
「もしもし」
「もしもし。あーよかった。やっと繋がったわ」
「なんだ、母さんか」
「なんだじゃないわよ。一体、今どこにいるのよ。
昨日から恭也の携帯に何度かけても繋がらなかったから、何かあったのかと心配したじゃない」
言われて恭也は自分の携帯を見る。
携帯のディスプレイは消えており、電源を入れても表示されない。
「すまない。どうやら携帯のバッテリーが切れていたみたいだ。
所で携帯に連絡をする程、何か困ったことでも?」
「はぁー、あんたね。まさかとは思ったけど。恭也、今日が何日か知ってる?」
「何だ、突然。今日は4月の6日だろ。それがどうかしたのか」
「今日、7日よ」
「はい?」
「だから、今日は4月の7日なの。
あなたたちが昨日の夜帰ってくるって言ってたのに、全然帰ってこないから心配になって電話したのよ
私だけじゃなくなのはやレンそれに晶も、ものすごく心配してたんだからね」
「ちょ、ちょっとまってくれ」
「恭ちゃん、どうしたの?」
恭也が誰かと会話しているのに気付いた美由希が、テントの中から出てくる。
「ああ今、母さんと電話でな」
言いながら美由希の鞄についている時計の日付を確認する。
「・・・・・・」
「恭ちゃん?」
美由希は恭也の背後に回り恭也の見ているものを覗き込む。
そこには4月7日の文字が表示されていた。
「えっ!?な、なんで?今日は4月の6日なんじゃ」
その文字を見て美由希が慌てる。
「もしもーし、恭也聞こえてる。急いで戻って来なさい。駅までフィアッセに迎えに行ってもらうから。
今から急げば何とか間に合うから」
「ああ。わかった」
恭也はその後、二言三言話した後電話を切る。
「美由希、急げ。食べ終えたら、すぐに下山だ」
「うん」
二人は急いで朝食を掻き込むと、下山の用意を始めた。
◇◇◇
電車に揺られること約1時間、恭也と美由希は海鳴の駅の出口にいた。
丁度、駅から出た所で長い髪の整った顔立ちをした女性に声をかけられる。
「恭也、美由希こっちだよ」
「あ、フィアッセ」
「お帰り美由希、恭也」
「ただいまフィアッセ」
「ただいま」
「とりあえず二人とも乗って」
フィアッセの運転する車で家まで戻り、慌てて着替え登校する準備をする。
もっとも、慌てているのは美由希だけで恭也はリビングでのんびりとお茶を淹れ飲んでいる所を母親である桃子に注意されてはいたが。
そして、再びフィアッセの運転で学校まで行く二人。
「なんとか間に合ったみたいだな」
「はぁー、よかった。フィアッセありがとう」
「どういたしまして。じゃあ二人ともいってらっしゃい」
二人は見送るフィアッセにそれぞれ返事を返し、校内へと入っていく。
毎年恒例の春休み合宿はこうして慌しく終わりを告げ、また新たな時が始まっていく。
<to be continued.>
<あとがき>
これで美由希編第一章が書き終わった。
紅「うそ、これで終わりなの。ちょっと浩、短いわよ」
そう言うな。なんせ執筆時間に30分もかかっていないんだから。
紅「うわっ、なんて奴」
いや、でも一応ここまでって前から予定していた所までは書いたし。
というかこの内容で長く引っ張れん事もないがそうすると全く別の話になる可能性があったし。
紅「まあ、いいわ。やってしまった事を今更言っても仕方がないし」
そうそう。その通り。
紅「お前が言うな。で、続きはちゃんとなるんでしょうね」
多分。
紅「多分?!(怒)」
いえ、次は大丈夫かと・・・(汗)
と、兎に角、第一章はプロローグみたいなものだから。
紅「ふーん。じゃあ第二章からはどうなるの」
一応この話はゲーム本編に沿っていく形で書くつもりだから・・・
紅「わかったわ。次は花見の話ね」
いや、花見の後ぐらいの話。
紅「なんで?」
いや、花見の季節は過ぎてるし・・・ってそれは冗談で、美由希をメインでいくからそこら辺の話は飛ばす。
紅「うーん。まあ、いいか」
はやっ。だったら聞くなよ。
紅「いや、ほら私としては『darkness pledge』の方が進めばそれでいいから」
ゴホッ、ガハッ、ゲホ。
はぁーはぁー、では皆さん、また次回までごきげんよう。
紅「って、ちょっと待ちなさいよー。浩ーーーーーーーー」