『間違ったツンとデレの誤った傾向と対策』






恭也とリスティが付き合い始めて早数ヶ月。
本人たちはあまりベタベタしていないつもりなのだろうが、
やはり周囲から見ればあてつけられているように思う部分もあるようで。
例えば、翠屋でアルバイトをしている恭也の某悪友Sさんの証言だと――



「恭也もこのパフェ食べてみなよ」

「だから、俺は甘いのは…」

「自分の家のデザートを食べれないのは問題あると思うけれど。
 仕方ない、お姉さんが食べさせてあげよう。ほら、あーんして」

「リ、リスティ! さ、流石にそれは恥ずかしいというか、違う意味で甘いというか」

「相手が僕だと嫌?」

「そ、そういう意味じゃなくて…」

わざとらしく顔を俯かせた後に縋り付くような視線を向ける。
その仕草に恭也は分かっていても口を開けてしまう。

「どう、美味しい?」

正直、味は分からないのだがリスティの楽しそうな顔を見るとそうとも言えず、恭也はただ頷くのみ。
それに気を良くしたのか、またスプーンで一掬い。
それを恭也の口元へと運び、手前で止める。

「今度か恭也が食べさせてくれないか?」

戸惑いつつも、されるよりもする方がましかと判断してスプーンを手にしようとするも、
リスティの手が重ねられて止められる。
しろと言ったにも関わらずの行動に疑問を覚えるよりも先に、リスティはにやりと笑うと、

「勿論、口移しで」

言って恭也の口にスプーンを放り込む。
期待するような視線を向けてくるリスティ。
口の中に広がる甘い味と、周囲から向けられる視線を浴びつつ、恭也は心底困った顔を見せる。
恭也とて甘えられるのは嫌いではない。
だが、このような甘えられ方は、人目のあるところでは止めて欲しいと思うのである。
悩み考えている内に、口の中のアイスが溶けきってしまう。

「冗談だよ、恭也。あははは、悪い、悪い。
 困った顔が可愛くてね」

恭也の困り果てた顔を堪能したリスティは、何事もなかったかのように再びパフェに取り掛かり、
恥ずかしさから火照った顔を隠すように、恭也はコーヒーカップに口を付ける。



また、とある神社の巫女さん曰く――



「やあ、恭也。今日も鍛錬かい」

夕暮れの神社、辺りには参拝客などもおらずまさに二人だけの世界。
その裏で竹箒片手に掃除をしている巫女さんを除けば、だが。
とりあえず、視界には他には誰もいないのは確かである。

「ああ、少し時間が出来たから。それよりも、リスティこそどうしてここに?
 今日は夜まで仕事だったんじゃ」

「そのはずだったんだけれどね。思ったよりも早く片付いてね。
 で、恭也を探してここに来てみたら居たって訳さ」

「そうだったのか。でも、それなら電話をくれれば」

「いや、何となく偶然で会いたかったんだよ。
 電話とかで連絡を取って約束するんじゃなくて、偶々仕事が終わって何となく立ち寄ったらって感じでね」

そう言って柔らかな笑みを浮かべるリスティに、恭也は言葉を無くして見惚れてしまう。
そんな恭也に気付いているのかいないのか、リスティはゆっくりと恭也の横に並ぶとその腕にそっと抱き付く。
穏やかな表情で恭也を見上げながら、静かにその肩に頭を乗せる。

「こんな偶然も良いと思わないかい」

「偶然会って、偶然一緒の風景を見る。確かに良いかもしれないな」

探している時点で偶然ではないと思ったが、流石の恭也もそれは無粋と思ったのか口にはせず、
ただ沈んでいく夕暮れの中、リスティと二人、特に何をするでもなく寄り添っていた。



某お弟子のMさんが言うには――



「ほら、恭也も飲め」

「いや、俺は下戸だから」

「はぁ、本当に駄目ね、恭也は。折角、こんなに可愛らしい恋人が注いでくれるっていうのに。
 ごめんね、リスティさん」

「いやいや桃子さん気にしないで良いよ。
 飲まないのなら、飲ませれば良いだけだしね」

「それもそうね♪」

「ちょっと二人とも何を考えて…」

不穏な空気を感じ取った恭也が立ち上がろうとするよりも早く、その腕をしっかりとリスティに掴まれる。
流石に力任せに乱暴に引き離す事も出来ずに動きを止める恭也へと、
つかさず桃子から渡されたコップを近づけていく。

「ちょっ、止めてくれ」

「僕が近付いたからって、そんなに嫌がらなくても良いじゃないか」

「いや、リスティを嫌がったのじゃなくて、俺が嫌がったのは酒で…」

「恭也〜、アンタ女の子を傷つけてどうするのよ」

「かーさんにも原因はあるだろう!」

「あー、桃子さんの所為にするんだ。うぅぅ、息子が苛める」

「まあまあ、桃子さん。恭也もきっと照れているだけだって」

「優しいわね、リスティさんは。この子の事、宜しくお願いしますね」

「それは勿論ですよ。ねぇ、恭也」

「……言いながら酒を無理矢理飲ませようとしないでください」

ちゃっかりと恭也の口へとコップを運ぶリスティであったが、恭也は顔を逸らして何とかそれを躱す。
そんな様子に桃子は更に笑みを深める。

「お酒に関しては文句を言うけれど、さっきの私たちの話自体は否定しないのね」

「それは当たり前だろう。リスティが愛想を尽かさない限り」

「嬉しい事を言ってくれるじゃないか。今夜のお酒はいつも以上に美味しいよ」

無理矢理飲ますのを止め、恭也に飲ませようとしていたコップの中身を自分で飲む。
ほっと胸を撫で下ろしつつ、いつの間にか繋がった手を握り返すと、リスティが指を絡めてくる。
片手にお酒を、片手は恭也の手を持ち、リスティは満足そうにコップを傾けるのだった。



「という事で、他にも色々な証言がありますが、何よりも一人身の私たちには辛いという結論になりました!」

高町家のリビング、そこには美由希に那美、晶とレンが半円を描くように座り、
その正面に一人立ちながら演説をしていた忍が、傍にあったホワイトボードをバンと叩く。
忍の言葉に頷く一同。

「確かにちょっと目を憚る時もありますけれど、ほら、師匠も結構気を使ってるみたいだし」

「そうです。おサルと同じ意見なんはあれですけれど、お師匠も人前ではあまりベタベタがしてないと思いますが」

「甘いわよ、二人とも! ちょっとでも人目がないといちゃつくんだから」

人目がないのなら良いじゃないかと思わず晶とレンは顔を見合すが、よくよく考えてみれば、
最初のSさんの証言は兎も角――いや、これはリスティの冗談だったと考えればあれなのだが――、
他の証言は明らかに盗み見しているのでは…。
神社の時は周囲に誰もいなかったみたいだし。
Mさんの話を聞く限り、家人たちが寝静まった夜の事みたいだし。
そもそも、Sさんの証言にしても何故、そんなに詳しく一部始終を知りえたのか。
バイトとして働いていたはずなのに。
そんな感じで疑問と明らかな困惑を顔に出している二人であったが、このよく分からない会議は勝手に進んで行く。

「こうなったら、二人には暫くは距離を置いてもらうのが一番ね。
 冷却期間を置けば、少しはましになるはずよ!」

流石にそれはどうなんだろうと晶とレンは話が変な方向に進んできたのを感じ取るも、
他の面々はいい考えだとばかりに頷いている。
流石に止めた方が良いのではないかと思ったその時、件の人物の一人が戻ってくる。
すると、途端に那美と美由希は普通の会話を始め、忍は勝手にゲーム機を起動させる。
さっきまであったはずのホワイトボードは何処かへと消えており、
晶とレンだけがぽかんとした表情を浮かべる。

「どうした、二人とも?」

そこへ恭也がリビングへとやって来て、ぼーっとしている二人に声を掛ける。
それに慌てて何でもないと答える二人に、喋ったら分かってるわねという視線が突き刺さる。
その視線から逃れるため、普段なら喧嘩するはずの二人は仲良く夕食の合作をするといってキッチンへと避難する。
珍しく仲の良い二人を微笑ましく見送った恭也へ、三人が近付く。

「恭也、ちょっと良い?」

「ん、何だ?」

恭也をソファーに座らせると、忍はその隣に腰を下ろしながら真剣な顔で話を切り出す。

「あのね、リスティさんと付き合って、もう結構な期間になるでしょう」

「ああ、そうだな」

それがどうかしたのかと見返してくる恭也へと、忍は深刻そうな顔をして、

「だったら、そろそろ気を付けないと駄目だよ。
 いつも同じような事ばかりしてたら、その内飽きられちゃうから」

「忠告は感謝するが、意味が分からん。つまり、同じ場所にばかり出掛けるなという事か?」

「そうじゃなくて、日常にも変化を付けた方が良いんじゃないかって言ってるんだよ、恭ちゃん」

「変化? どういう事だ?」

「今、巷ではツンデレというのがあってね…」

忍がそう切り出していく。
それら会話の片鱗を聞きながら、晶とレンはそんなに酷い事をするつもりはないみたいだと知って胸を撫で下ろす。
二人が安心して聞き耳を立てるのを止めて料理へと没頭し出した頃、

「つまり、偶には引き離すような態度も必要って事ね」

「そうは言われてもな」

いまいち要領が得ないという顔をする恭也に、美由希が砕いて説明する。

「つまり、一ヶ月、ううん二週間程度でも良いから、用事があるとかでリスティさんと会わないようにするの」

「それぐらいなら、仕事が忙しい時とかは…」

「電話とかもしないんだよ」

それは流石に難しいのか、恭也は少し考え込む。
このままでは拒否しそうだと感じ取った忍が那美をせっつく。

「え、えっと、そうそう、リスティさんに偶には一人の時間を上げるみたいな感じで…。
 それに大丈夫ですよ、その後にたっぷりと甘えさせてあげれば」

「そうそう。ツンの後にデレ。これで二人の仲は今まで以上になるはずだから」

流石にこれを聞いていたら晶やレンは止めたかもしれないが、生憎キッチンからはいつものやり取りが聞こえてくる。
故に恭也は三人の言葉に騙されるようにして、頷かされてしまうのだった。
また、時を同じくして、某女子寮でも同じような理由からリスティに対して似たような事が行われていたのだが、
流石に忍たちもそこまでは知るはずもなかった。



二週間後の高町家。
誰も居ない居間で二人だけで寛ぐ恭也とリスティ。
リスティは真雪に言われたようにいつも以上に甘えるように恭也の隣にぴったりとくっつき、
恭也も恭也でそんなリスティを甘えさせる。
そんな風に甘えている内に、リスティは物足りなくなったのか、恭也に擦り寄るようにして更に近付こうとする。
これ以上は近づけないというのに、身体を恭也へと押し付け、遂にはその足の上に横座りになり、
腕を恭也の首に回して甘える。
そんなリスティの髪を優しく撫でながら、恭也もまた久しぶりとなるリスティの声に静かに聴き入る。
リスティの背中を支えるように回した腕と、前から回した腕を組んで腕の中にリスティを抱き締める。

「流石にちょっと寂しかったかな」

「そうだな。でも、一度も電話がなかったのはどうかしたのか?」

もしリスティから電話があっても、今は忙しいと言って切るように言われていた恭也は、
一度も電話がなかった事に、その台詞を言わずに済んだ事に胸を撫で下ろし、
リスティもまた同様に胸を撫で下ろしていたのだが。
こうして恭也に耳元で囁かれ、本来なら黙っているはずだったのに、リスティは思わず口を滑らせる。

「うん、ちょっと真雪に言われてね…」

「真雪さんに?」

そう尋ね返す恭也にしまったと思うも、やはり久しぶりに恭也の声を聞き、思う存分に甘えている所為か、
もう良いかととあった事を掻い摘んで話す。

「確か、ツンデレとか言ってたかな。ようは、暫くは冷たくしてて、後から甘えろって」

「似たような事を俺も言われたが…」

お互いにそれで連絡もなかったのかと納得する。納得するも、どうにも腑に落ちないという表情になる。
だが、今はお互いの時間を大切にする方が先だとばかりに、この時間を楽しむ。
どのぐらいそうしていたか、晶とレンがそれぞれの用事から帰宅する。
流石にこの態勢はまずいと思ったのか、恭也はリスティを下ろそうとするが、
リスティは更にきつく恭也に抱きつき、その反応を楽しむ。

「師匠ー、これお土産……わわっ、ごめんなさい」

「って、何するんや、おサル! 急に立ち止まったら危な……あー、お邪魔しました〜。
 うちらはちょっと夕飯の買い出しに行ってきますんで」

慌てて出て行こうとする二人をリスティが笑いながら止める。
事情を説明するも、恭也の上からは退かない。

「ちょっと真雪に言われてね…」

その話を聞くうちに、晶とレンは軽いデジャビュに襲われる。
次いで、恭也からも似たような話を聞いた瞬間、晶とレンは先だって忍たちが話していた事を思い出す。
言うべきかどうか悩んだ挙句、二人は正直に話し出す。
晶やレンはその話に加わっていない上、正直に話してくれたのでお礼を言う恭也たちであったが、
その顔が怪しげな笑みを浮かべていたのは、晶もレンも気付かなかった。



その数日後の高町家。
朝から遊びにきていた那美や忍たちであったが、何故か疲れたような顔を一様に見せていた。

「恭也〜♪ 次はそれを食べたいかな」

「これか?」

言って恭也はそのお菓子を摘み上げると、リスティに食べさせる。
リスティは恭也に食べさせてもらった後、汚れた指を綺麗にしないととそのまま指を咥える。
当然のように恭也の足の上に座り、甘えるように鼻を鳴らす。
朝からずっとあの調子で見せ付けられ、なのはにリベンジに来た忍は調子を狂わされて連敗中である。
部屋に逃げようとした美由希と那美をしっかりと道連れにする辺りは抜け目はなかったが。

「……あー、もう! 前よりも悪くなってるじゃない!
 誰よ! 冷却期間を置けば少しはましになるって言ったのは!」

「「忍さんです」」

「あ、あはははは…って、なのはちゃん、それ待ってー! あ、あぁぁぁ。
 そ、そんなぁぁ。よ、四十連敗……」

がっくりと項垂れた後、忍はきっと視線を恭也たちに向ける。

「二人とも、人前で何をしてるのよ!」

半分以上八つ当たりを込めて叫ぶ忍であったが、恭也は平然とそれを聞き流すと、

「何も見ての通りだろう。そもそも、お前たちが言ったんじゃないか。
 今は、確かデレだったか? あの状態なんだ」

「う、うぅぅ。誰よ、恭也に変な知識を教えたの」

二人から目を逸らし、那美たちへと恨めし気な目を向けるも、それに対して突き刺さる無言のままの二人の視線。
それに耐え切れずに忍はそっぽを向くも、その方向はさっき逸らしたばかりの恭也とリスティたちの居る場所で。

「恭也〜♪ もう少し強く抱き締めて欲しいな」

「分かった。こうか? リスティは柔らかいな」

「そう? 自分じゃよく分からないよ。
 でも、恭也が気に入ってくれたのなら、それで良いよ」

人目も気にせずいちゃつく恭也とリスティであった。
散々見せ付けられた忍たちは、自分たちの発言をとっても悔やんだらしい。
因みに、同じような事が次の休日に某女子寮でも繰り広げられたのは言うまでもない。





おわり




<あとがき>

あぶら屋さんのきり番リクエスト〜。
美姫 「610万ヒットおめでとうございます」
という訳で、リスティとのお話。
美姫 「ツンデレのお話が出てたので、それをちょっと利用したのよね」
まあな。とは言え、タイトル通りにツンデレではないんだがな。
美姫 「とりあえず、リスティという事で」
そういう事。ちょい甘という感じでお届けです。
美姫 「それでは、今回はこの辺で。
ではでは。







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