『An unexpected excuse』

    〜晶編〜






「俺が、好きなのは…………」

そこまで口にして、恭也は一瞬だけ美由希たちの方を見る。
そんな恭也の視線に、意味もなく照れたよな顔をする美由希たち。
それから再びFCたちの方へと向き直ると、恭也は静かに答える。

「別に言わなくても良いだろう。とりあえず、付き合っている人はいる」

恭也の言葉に不満そうな声を上げるFCと美由希たち。
そんな中、恭也は困ったように晶へと視線を投げる。

「師匠、こうなったら仕方がないですよ」

「そうか」

晶の言葉に恭也は頷くと、晶を手招きする。
晶は呼ばれるまま恭也の横へと行くと、その横に座る。
横に座った晶の背中に軽く手を添え、恭也は口を開く。

「俺が付き合っているのは晶だ」

恭也がそう告げると、2秒程沈黙が辺りを支配する。
そして、一気に悲鳴にも似た驚きの声が上がる。
それらを耳を塞いでやり過ごした後、恭也と晶は顔を見合わせる。

「一体、何をそんなに驚いているんだ」

「まあ、色々とあるんじゃないでしょうか」

落ち着いた口調で尋ねる恭也に、苦笑しつつ晶が答える。

「お師匠がおサルに取られるやなんて……」

「何気に失礼だな、このカメがっ!」

「なんやと、このボケ!」

今まさに喧嘩へと発展しそうな二人。
しかし、ここには二人の天敵、もとい仲介役を常に買って出るなのははおらず、
このまま続くかと思われたが、そこへ恭也が声を掛ける。

「晶、いちいち目くじらを立てるんじゃない。
 少しは落ち着こうと努力しているんじゃなかったのか」

「う、そうですけど……。でも、このカメが」

「まあ、確かに腹も立つだろうし、それがお前たちのコミュニケーションなんだろうが、
 真っ直ぐに責めるだけのお前では、風のような動きをするレンを捉えるのはまだまだだぞ」

恭也の言葉に晶は大人しく頷く。
それを挑発するように舌を出すレンを睨みつける晶の頭に、恭也の手が優しく乗せられる。

「別に晶は猿になんか似ていないよ。だから、落ち着け。
 晶は充分に可愛いから」

言って頭を撫でられ、晶は顔をふやけさす。
とろけきった顔を見せる晶を、レンは少し羨ましそうに見詰め、
その視線に気付いた晶は勝ち誇るように鼻で笑う。

「っ! このサル! やっぱり我慢ならへん!」

「はぁっ!? さっき我慢してやったのは、俺の方だろうがっ!」

噛み付くレンにすぐさま反論すると、再びレンへと向かって行く。
今度は恭也も止めず、ただ肩を竦めるだけである。

「恭ちゃん、さっきみたいに止めなくても良いの?」

「ああ。さっきも言ったが、あれが二人のコミュニケーションだからな。
 適度にはやらせるさ。さっき止めたのだって、大した意味はないからな」

小さく話す恭也と美由希の前で、レベルの高いバトルが行われている。
真っ直ぐに拳を出しながら前へと出る晶に対し、レンは力の流れを変えて全て受け流し、
それによって生じた隙を付くように、横から下からを多彩に攻撃を加える。
それらを喰らいつつも晶はただひたすら前へと進む。

「晶らしい、攻めだね」

「ああ。まあ、レンもちゃんと手加減しているみたいだし、もう少し放っておこう」

冷静に戦況を見る兄妹に、忍や那美はただ黙って二人を見詰める。
と、幾つかの攻防の後、レンの掌底が晶の腹部に決まる。
同時に後ろへと飛ばされる晶。
だが、恭也がいち早くその後ろへと駆けつけて晶を受け止める。

「ああ、すいません師匠」

「いや、気にするな。だが、レンはやはり手強いか」

「はい。悔しいですけど、あいつはやっぱり強いです。
 でも、このまま負けっ放しになるつもりもありません!」

「そうか。だが、今日はここまでにしておけ。
 レンもいいな」

恭也に言われては二人も反論できずに大人しく頷く。
と、晶は不意に自分が恭也に後ろから抱きとめられたままの態勢だと気付いて顔を赤くし、
慌てて離れようとする。
それを見て恭也の心にふと悪戯心が浮かぶ。

「何だ、晶は俺とこうしているのが嫌なのか」

「い、いえ、そういうい訳じゃないんですが……。その、レンたちが見てるし」

「別にこうしてくっ付いているだけなんだから、問題はないだろう」

「え、えっと……」

楽しげに告げる恭也に、晶はただ真っ赤になって俯くしかない。
充分に晶の反応を堪能した恭也は、ゆっくりと晶の身体を離す。
その時、残念そうな声を晶が上げ、慌てて口を塞ぐ。
その仕草に恭也も思わず照れくささと嬉しさを感じ、晶の耳にそっと唇を寄せて小声で囁く。

「ベタベタするのは、また二人きりの時にな」

自分の言いたい事だけを告げて背中を見せて離れて行く恭也を呆然と見ていた晶だったが、
すぐに恭也の放った言葉を理解し、その顔に力強い笑みを浮かべる。

「……あっ、はい!」

元気に、晶らしく返事するのを背中に聞きながら、恭也は足を止めて振り返る。

「ほら、そろそろ昼休みも終わる。
 早く教室へ戻るぞ」

晶だけでなく忍たちにもそう声を掛けると、恭也は晶が隣に並ぶのを待ってから歩き出す。
今までと変わらないようで少し変わった二人の後ろへと続きながら、
今更ながらに美由希たちはその背中へと祝福の言葉を投げるのだった。





<おわり>




<あとがき>

うおうおうおーー!
やっと晶編の完成〜。
美姫 「これまた今までとは少し違う感じね」
まあな。
さーて、これでとらハ3は美由希のみか〜。
美姫 「美由希の出番はあるのかしら。あるのなら、それはいつ?」
それは俺にも分からない〜。
美姫 「そんなこんなでまた次回でね〜」
さらば!







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