『An unexpected excuse』

    〜沙耶編〜






「俺が、好きなのは…………」

一端言葉を区切った恭也へと注目が集まる中、恭也は秘密だと口にしようとして顔を傾ける。
直後、それまで恭也の顔があった位置を何かが通過して、後ろの木に大きな音を立ててぶつかる。

「ゴム弾?」

木にぶつかり落ちたソレを見て美由希が不思議そうな声を上げる中、物凄い勢いで一人の女の子が走ってくる。
整った顔立ちに流れるような長髪を白いリボンで纏めた少女は恭也の前で足を止めると、
何か言おうとするも、ここまで全力で走ってきたからか荒い呼吸音しか出てこない。

「朱鷺戸……じゃなかった、あや何をそんなに慌てているのかは知らないけれど、落ち着け」

「あ、ありがとう。って、原因は恭也くんでしょう!
 一体全体、これはどういう事よ! 私と言う恋人がいながら……」

「おい、それは秘密にするんじゃなかったのか?」

「しまった! 内緒にしておくって話だったのに」

自分で言っておいてショックを受けたのか両手で頭を抱えるも、恭也の視線に気付いたのか取り繕うに笑みを浮かべる。
だが、よく見ればそれは自虐めいた笑みで、あやは右手で顔を覆うと横目で恭也を見遣り、

「ふん、なによ、どうせ内緒にしとくと言っておきながら、自分からばらしやがったよこの女。
 脳みそまで筋肉で出来ているんじゃないか。そんなのでよくスパイだとか言えたもんだな。
 はっ、まったく口の軽いスパイもいたもんだな。ある意味貴重だな。
 尤もそんなスパイなんて使いたくないけれどな。
 どうせ、自分からトラップを発動させて自滅させるのがオチだろうぜ。
 むしろ、スパイなんてあってないんだからやめたらどうだ、って目は。
 可笑しいでしょう、可笑しいなら笑いなさいよ。あーはっはって笑えばいいじゃない!
 あーはっはっは!」

「いや、そこまで自虐にならなくても良いから落ち着け」

息に捲くし立てたかと思えば、突然笑い出す少女の存在に流石に他の者たちは若干引き気味になる。
何とか慰める間も、どんよりという思い空気を背負って肩を落とすあやの姿に肩を竦めつつ、
恭也はFCたちへとあやを紹介するように手を向ける。

「俺が好きな人というか、恋人のあやだ。
 本人からの希望で秘密のはずだったんだが、もうばれたみたいだからな。
 まあ、そんな訳だから」

「って、恭也くん、な、何を恥ずかしい事を。
 こ、この際秘密をばらしたのは良いとしても、何もこんな所で言わなくても……」

真っ赤になって照れながらも、どこか嬉しそうなあやに恭也は釘を刺すように告げる。

「秘密をばらしたのはお前なんだが?」

「うっ……。そうよ、そうですよ、私がばらしましたよ!
 自分から秘密だって言っておきながら、自分から盛大にぶちまけちゃいましたとも!
 そんな顔しながら、実際は心の中で大笑いなんでしょうね。
 可笑しいでしょう、可笑しいなら遠慮しないで盛大に笑いなさいよ!
 さあ、あーはっはって笑えば良いじゃない!」

「いや、本当に落ち着け」

また自虐的に笑う前に恭也はあやを止める。流石に二度目となれば先程よりもましだが、
それでもやはり若干引き気味になりつつ、FCたちはこれ幸いとこの場を立ち去っていく。
残された恭也は虚しい笑い声を上げるあやが落ち着くのを待つ。
ようやく我に返ったのか、あやは周囲に誰もいない事を悟る。

「あ、あははは」

「とりあえず落ち着いたみたいだから、事情を説明するぞ」

言ってあやを隣に座らせ、大まかな説明をしてやる。
それを聞いている内にあやは徐々に顔を俯かせ、全て話し終えるなり急に顔を上げる。

「あーはっはっはっ! いや、もう本当に大笑いね。
 勘違いした上に自分でばらすような間抜けな事を……」

また自虐的になる前に恭也はデコピンを喰らわせて無理矢理止める。
やられた方のあやは痛む額を押さえ、涙目で恭也を睨む。

「ちょっ、何するのよ恭也くん」

「だから、落ち着けと何度も言わせるな」

「うぅ、それにしてもこれはやり過ぎじゃない?」

「すまない、そんなに痛かったか」

流石に涙目で恨めしい視線を浴び、恭也も申し訳なさそうにあやの手をそっと握って除けると、
少し赤くなった額に顔を近づけてそっと触る。

「少し赤くなっているが、多分すぐに痛みも引くだろう。
 すまなかった」

「あ、いや、えっと」

恭也の謝罪に戸惑いつつ、あやはすぐ近くにある恭也の顔に顔を真っ赤にさせる。
そして、こんな反応に鈍感なのが恭也であり、恭也は急に顔を赤くしたあやを心配するように覗き込んでくる。
さっきよりも近づいた恭也の顔に、あやは視線を忙しなく動かし、何を思ったのか唐突にキスをする。
これには恭也も驚いてあやを呆然と見詰め返してしまう。

「あ、ごめん。キスの時は目を閉じるんだったわね」

言って目を閉じるあやを前にして、何か言うべき言葉は飲み込まれ、代わりにあやの肩に手を置くと、
恭也も目を閉じてそっと顔を近づけていく。
軽く触れ合うようなキスを数度繰り返し、やがて二人は離れる。

「うん、やっぱり何度やっても良いものよね」

「そうか。なら、良かった」

先ほどとは打って変わり、二人は穏やかな顔で肩を寄せ合い、残る休み時間を過ごすのだった。





<おわり>




<あとがき>

思わず、また新ジャンルのキャラを書いてしまった。
美姫 「リトルバスターズ!EXね」
ああ。しかも、ちょっとというか、かなりネタバレ的な部分を含んでしまっているが。
美姫 「多分、大丈夫だと思いたいわね」
だな。いや、沙耶のキャラが思わず良かったのでついつい。
美姫 「まあ、それは良いとして他のキャラもあるのかしら?」
うーん、どうなるかな。二木さんとかは結構、お気に入りだが。
美姫 「ふーん。まあともあれ、また次でお会いしましょう」
ではでは。







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