『An unexpected excuse』

    〜フェイト編(Sts Ver.)〜






「俺が、好きなのは…………」

固唾を呑んで誰もが恭也を注視する中、恭也はそのあまりにも静かな、けれども張り詰めた空気の中にちょっとした異物を感じ取り、
ふっと息を抜くように微笑を見せる。
突然の事態に誰もが思わずその笑みに見惚れる中、恭也は一人ゆっくりと背後へと振り返り、そこにある木へと向かって声を掛ける。
いや、正確にはその木の陰に隠れている人物に向かってだが。

「フェイト」

別段声を荒げた訳でもなく、またその口調や表情から恭也が怒っている訳でもないのだが、
名前を呼ばれて出てきた恭也と同年ぐらいの女性は申し訳なさそうな顔をして、木の陰から出たまでは良いものの、
そこに立ち止まったまま、ただ恭也を見詰める。
だが、その視線は定まらず、ソワソワして落ち着かない。

「えっと、あの……。別に盗み聞きとかをしようとした訳じゃなくてね……」

恭也に怒られる、もしくは嫌われるとでも思ったのか、フェイトは口を開くのだが、
しどろもどろで最後まで続ける事も出来ずに口を閉ざす。
そんな様子を微笑ましく見ていた恭也であったが、すっと立ち上がるとフェイトの傍へと近寄る。
そっと伸ばされた手に身を竦め、目を閉じるフェイト。
だが、恭也からは叱りの言葉もげんこつもなく、ただ優しく撫でられるだけ。
閉ざしていた目を恐る恐るといった感じで開ければ、目の前には優しく微笑む恭也の顔があった。

「別に怒っていないよ。盗み聞きをしていたとも思っていない。
 だから、落ち着いて」

「は、はい」

恭也にそう言われ冷静になったのか、フェイトは少し恥ずかしそうな、ばつが悪そうな顔を見せるもようやく笑みを浮かべる。
そんな二人のやり取りを口を挟めずに見ていた一同の中、忍が少しだけ不機嫌そうに恭也に誰かを尋ねる。

「この人がさっき言おうとした俺の好きな人、フェイトだ」

恭也の言葉に言われたフェイトは顔を耳まで真っ赤に染め上げ、視線を地面に落とすと爪先をじっと見詰め、
嬉しさでにやけそうになる頬を両手で押さえ、もじもじと身体を揺する。
一方、そう言い切った恭也の方もやはり恥ずかしそうに頬を掻いている。

「あーあ、もうつまんなーい。本当は色々と聞きたいんだけれど、とりあえずそれはまた今度にするわ」

そう宣言して忍はこの場の集まりを半分無理矢理解散させると自身も立ち去って行く。
去り際、恭也へとまるで貸し一つと言わんばかりの笑みを見せる忍に肩を竦めて応えつつも感謝し、
とりあえずは未だに照れて顔を合わせようとしないフェイトと向かい合う。

「フェイト、その皆の前でああいう事を言ってしまったのを怒っているか?」

顔を合わせないフェイトに思わず勘違いしたのか、恭也はそう口にする。
そんな訳ない、と突っ込むような者はこの場にはおらず、だからこそ言われたフェイト自身がそれを否定しなければ、
恭也はこのまま本当に勘違いから謝りかねない。
それが分かっているからこそ、フェイトは顔をすぐさま上げ、力いっぱい否定を示すように首を横へと振る。

「そ、そんな事はないから。えっと、あの、だから……そ、その、う、嬉しかったです」

思い出したのか、また顔を赤くして俯きそうになるも何とか堪えて恭也を見上げる。
安堵した恭也と目が合い、思わず逸らしそうになるのを留めて恭也を下から覗き込むように上目遣いで見詰め返す。
が、やはり恥ずかしいのか赤く染まった頬にもじもじと落ち着きなく口元で組まれた指が動く。

「あの……は、恥ずかしいからあまり見詰めないで」

お願いするように呟くと、とうとう堪えきれずに目だけ下に向けてしまう。
それらの仕草一つ一つに恭也は改めて可愛いと感じ、思わず抱きしめそうになる。
だが、場所が場所だけにそれを何とか堪え、

「とりあえず、もう少しなら時間もあるから座るか」

そう言って恭也がさっきまで座っていた場所に腰を下ろすと、その隣にほんの少しだけ距離を開けてフェイトも腰を下ろす。
互いに照れつつも少しは落ち着いてきたのか、ぽつりぽつりと互いの近況を話し合う。
その間、恭也はちらりちらりとフェイトの手を見て、やがて意を決したように手を伸ばすと包み込むようにフェイトの手を握る。
これぐらいなら良いだろうと。
だが、握られたフェイトはびくりと身を震わせると、やはり先程の事でまだ照れくさいのか、恭也の手から逃れるように手を動かす。

「すまない」

「あ、いえ、ごめんなさい! その嫌とかじゃないんです。
 ただちょっと恥ずかしくて」

互いに似た所のある二人故、恭也もフェイトの気持ちが分かるのか一つ頷くと気にしてないと告げる。
申し訳なさそうな顔をしつつ、フェイトは胸の前で手を祈るように合わせる。

「そう言えば、今日はどうしたんだ」

「あ、はい。実は午後から急に休みになって……」

また他愛もない話へと戻るのだが、今度はフェイトの方が意を決したような顔でに小さく頷き、
そろりそろりといった感じで恭也の手へと自分の手を伸ばす。
それに気付いていた恭也であったが、気付かない振りをしてフェイトとの話を続ける。
やがて、フェイトの掌が恭也の手の甲と重なり、フェイトは恥ずかしそうにしながらも微笑を浮かべる。
恭也が掌を返し、互いに掌を合わせた形で握り返そうとするのだが、それよりも先にフェイトの手が動き、
恭也の小指を自身の小指で絡め取る。そこから少し待ってみるも、それ以上は動く様子を見せない。
恭也とフェイトの座る距離もぺったりと引っ付いているようなものではなく、僅かだが距離を開けたままである。
小指同士を絡めつつ、それ以上は恥ずかしいのか距離も詰めてこない。
寧ろ、恭也からすれば手を繋ぐよりもこちらの方が恥ずかしい状態なのだが、もじもじと照れながらも、
満足そうに嬉しそうな横顔を見せられ、何も言えない。

「こんなに幸せで良いんでしょうか」

思わず出たといった感じの言葉に、恭也は苦笑を浮かべて自由な方の手でフェイトの頭を撫でてやる。

「これぐらいで少し大げさだ。とは言え、俺も確かにフェイトが傍に居てくれるだけで幸せなんだが」

自分の言葉に照れつつもしっかりとフェイト見詰めれば、フェイトも恭也の言葉にはにかみながらも見詰め返してくれる。
僅かながらも繋がった小指に力が入ったような気もする。
その熱を感じながら、優しげな笑みを見せる恭也にフェイトは小さく呟く。

「本当に幸せです。このまま時が止まれば良いと思ってしまうぐらい」

「そうだな。だが、俺はまだまだいっぱいフェイトと色んな時間を過ごしたいな。
 だから時が本当に止まってしまうのは少し困るかな」

「あう、わ、私だって恭也さんと……」

恭也の言葉に自分も同じだと告げようとするも、恥ずかしさからか最後まで言い切れずに俯いてしまう。
その目に繋がった小指が写り、自然とフェイトの顔にまた嬉しそうな笑みが浮かぶ。
フェイトが言えなかった事は分かっているとばかりに、小指に恭也から僅かに力が込められる。
応えるようにフェイトもまた繋がった小指に力を込め、また反応が返ってきたのを楽しむ。
言葉は少なくとも確かに二人はちゃんと繋がっており、それを互いに感じられて共に嬉しさを感じ合う。
残された午後の僅かな時間、二人は互いの気持ちを感じ合いながら、ただ静かに寄り添い続けるのだった。





<おわり>




<あとがき>

……フェイト分が不足している。
美姫 「はい?」
という事で、久しぶりにフェイト分の補充の意味も込めて今回はお届けだ!
美姫 「少しは落ち着け!」
ぶべらっ!
美姫 「という訳で、今回はフェイト編ね。やっと、と言うべきかしら」
ちょこっとよりも少しだけ甘めという感じに、多分。
美姫 「その通りになっているかどうか」
ともあれ、ようやくフェイトStsバージョンを。
うんうん、フェイト分の補充も出来たし。
美姫 「よく分からないわよ」
俺が分かれば良し!
美姫 「いやいや、良くないからね」
はははは。それじゃあ、今回はこの辺で。
美姫 「それじゃ〜ね〜」







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