『An unexpected excuse』
〜はやて編(Sts Ver.)〜
「俺が、好きなのは…………」
誰もが息を潜めて、今にも出てくる名前を聞き漏らすまいと耳を澄ませる。
ある意味緊迫した空気が漂う中、その名前が……。
「お父さま〜」
『お父さま?』
一斉に首を傾げるも、それがすぐに恭也が発した言葉ではないと分かり、その声の主を見つけ出すよりも先に、
向こうからこちらへと掛けてくる小学校低学年ぐらいの少女が一人。
腰辺りまで伸びた銀髪をそのままストレートに背中へと流し、その綺麗な髪が乱れるのも構わずに走り寄ってくる。
何故、学校にこんな小さな子がという疑問を抱くも、少女の方はそんな事を気にも止めず近づいてくると、
そのまま恭也へと抱き付くようにダイブする。
「お父さま〜」
「リインか。元気そうだな」
「はいです」
少女、リインを受け止めて頭を撫でてやりながら、恭也は僅かに嬉しそうな顔を覗かせる。
リインの登場に呆然となっていた一同であったが、やはり恭也の関係者はある程度の耐性があるのか、
すぐに我に返ると、思わず顔を見合わせて……。
「恭ちゃんの犯罪者!」
『お父さまってどういう事!?』
美由希だけが違う事を口にし、あれ、といった顔で忍たちを見る。
だが、見られた忍たちは何を言っているんだ、みたいな顔をした後、呆れたような顔になる。
「ま、まあ美由希ちゃんですし……」
「にしても、もう本能レベルで刻まれてるんとちゃうやろか」
「きっとそういう運命なのね、美由希ちゃんは」
「えっと、が、頑張ってくださいね、美由希さん」
口々に呆れや諦め、励ましの言葉を投げる。
その事を不思議に思うよりも先に、美由希は自分へと向けられる言い難い空気を感じ取り、
恐る恐るそちらを見れば、
「誰が犯罪者なのか、後でたっぷりと聞いてやろう。
それまでに良い言い訳を考えておくんだな、馬鹿弟子」
「はうぅっ!」
がっくりと肩を落とす美由希を無視し、恭也は未だに恭也に甘えているリインへと、
打って変わって優しい声音で話しかける。
「それで、今日は急にどうしたんだ?」
「あ、はい。偶々、この近くでお仕事があったんです。
時間が少しあるので皆がはやてちゃんに会いに行けばと言ってくれたんですよ」
「そうだったのか」
「そういう訳でこうして寄ってみてんけれどな。まあ、学校やろうから、こっそり覗く程度のつもりやってんけれどな。
それはそうとしてリイン、マスターである私を置いて先に行くんは、流石にうちも悲しいで」
恭也へと説明を終えたリインが、背後から聞こえてきた声に申し訳なさそうな顔で振り返る。
「ごめんなさいです、はやてちゃん。ですが、決してマスターをないがしろにした訳ではないんですよ。
お父さまとは滅多に会えないんでつい嬉しくて急いでしまったんです」
「うんうん、分かってるよリイン。別にそこまで怒ってないから、そんなに気にせんでいいよ」
今にも泣き出しそうな顔ではやての元へと駆け寄ったリインの頭を優しく撫で、
恭也と同じ年ぐらいのショートカットの女性、はやては笑みを浮かべる。
「久しぶりやね、恭也」
「そうだな。元気そうで何よりだ、はやて。
とは言え、何か疲れているみたいだが。」
「まあ、元気と言えば元気やけれど、確かにちょっと疲れてるかもな。
ここんところ、何かと忙しいてな」
首を左右に倒しつつ、肩を叩く真似まで交えてはやては苦笑する。
和やかに再会を喜ぶ三人を呆然と眺めていたが、忍が割って入ってくる。
「もしかして、その子って恭也とそちらの方の子供とか?」
「ああ、そうじゃな……」
「実はそうなんです。うちと恭也で頑張って作った愛の結晶で、リイン言います」
「リインです。よろしくお願いするです」
はやての言葉にその場に居る誰もが言葉を無くす中、恭也は慌てたようにはやてに詰め寄る。
「はやて、嘘を言うな」
「ひ、酷い、嘘やなんて。リインを誕生させるために、恭也も協力してくれたやんか」
「確かにそれはそうなんだが」
肯定した恭也の言葉に殆どの者が顔を赤くする中、それらに気付かない恭也にはやては続けて言う。
その顔は明らかに悪戯して楽しんでいるものであるが、恭也は不幸にもそれに気付かなかった。
「それとも恭也はリインやうちが嫌いなん? だから、そんな事を言うんやね」
「そんな訳ないだろう。俺ははやての事を……」
「うちの事を?」
「あー、だから、その……。言わなくても分かってるだろう」
「ええー、うち分からへんな〜」
言いよどむ恭也の顔をを楽しそうに覗き込み、はやては促すように言って、言ってと視線で告げる。
その視線に負けたのか、恭也は物凄く小さな声で、けれどもはやてには聞こえる程度でそれを口にする。
その言葉にはやては少しだけ紅潮しつつも嬉しそうな笑みを見せ、うちもやと返す。
「お父さまもはやてちゃんも顔がまっかっかです」
リインが二人を見てそう言えば、恭也もはやても思わず互いから視線を逸らしてしまう。
けれどもすぐに気になり、同時に相手を見てまた視線を逸らし、再び同時に互いを見詰めて視線が合う。
やがて、どちらともなく小さく笑い出す。
「全く何をやっているんだろな」
「ほんまやね。何をやっていると言えば、恭也こそ何をしてたん?」
「ああ、実は……」
そう言って改めて自分の好きな人を告げようとするも、既にそこには誰もおらずに首を傾げる。
「どうかしたん?」
「ああ、実は……」
そう言ってここであった事を説明する内に、恭也はこの場を皆が去った一つの可能性に気付く。
「まさかとは思うが、はやてにだけ聞こえるように言った事が聞こえていたのかも」
「あー、それで納得したって事か。うぅぅ、今更やけれど恥ずかしくなってきた」
恭也の言葉にはやても恥ずかしそうに頬を押さえる。
が、実際にははやてが冗談で口にしていた事が原因なのだが、既に自分がした悪戯を忘れているはやては勿論のこと、
完全に思い違いをしている恭也もまたその事を気づかず、単にはやてに言ったつもりの言葉を聞かれていた事に赤面する。
そんな二人の間で、にこにこと二人の仲睦まじい様子を嬉しそうに眺めるリインも当然の如く分かってはいない。
「まあ、今更済んだ事を言っても仕方ないしな。どっちにしろ、ちゃんと言うつもりだったんだから良しとしよう」
「うわぁ、結構恥ずかしい事を言ってるで恭也」
「言うな。俺も改めて言ってちょっと恥ずかしかったんだから。
それよりも、もう少しだけ昼休みがあるから」
言って恭也ははやてとリインを抱き寄せると隣に座らせる。
「そうやね。少しだけやけれど、こうしてのんびりするんも悪くないね」
「はいです」
暫しの時間を三人はのんびりと穏やかに過ごすのであった。
<おわり>
<あとがき>
久しぶりのこのシリーズ。
美姫 「今回ははやてのStsヴァージョンね」
です。あまり甘くはないけれどな。
同じくStsヴァージョンで、なのはとフェイトも書けたら書きたいな〜。
美姫 「どうなる事やら」
あははは。それじゃあ、この辺で。
美姫 「それじゃあ、まったね〜」
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