『An unexpected excuse』

    〜エリカ編〜






「俺が、好きなのは…………」

恭也が意を決して告げるその前に、その決意を削ぐような能天気な声が届く。

「ハロハロ〜。何やら面白そうじゃない、高町君。
 はいは〜い、真相を知りたい人はここに一列に並んでね♪
 私が直に直診しながら教えてあげるから。女の子同士だし問題ないわよね」

「いや、思いっきり問題あるだろう。
 そもそも、直診は関係ないし」

「ちっ、妙に鋭いじゃない」

「鋭い、鈍いの問題じゃないと思うが」

急に現れた染めたのとは違う、自然な金髪の美女の出現に俄かに中庭が騒がしくなる。

「姫がどうしてここに?」

誰かが洩らしたその言葉に、姫と呼ばれた美女はにっこりと笑みを見せて手を振る。

「どうしてって、何か面白そうな予感がしたから?」

「俺に聞くな」

そう言って恭也を見る姫だったが、恭也からは素っ気無い言葉が返るのみ。
それを気にした素振りもなく、恭也の隣に当然のように腰を下ろす。

「うーん、出来れば椅子が欲しいわね。最低でも敷物が」

「だったら座らなければ良いだろうに」

「そこは高町君が手足を着いて椅子になるぐらいの甲斐性を見せないと」

「いらん、そんな甲斐性。大体、エリカは……」

「あー、はいはい。説教ならいらな〜い。
 それに、私の椅子になりたいって男なら他にもたくさんいるしね」

始まりかけた恭也の説教を耳を塞いで首を振りながらやり過ごすと、姫ことエリカはそう付け足す。

「本当に椅子になったら、足が飛んで行くんだろう」

「そりゃあね。実際にやられても座る気にはならないし。
 でも、自分から椅子になろうとするんだもの。私に蹴られれば本望なんじゃないの。
 と、それは置いておいて。今は……」

言ってエリカは恭也の足の上に強引に座り込む。
それに苦笑を溢しつつも、恭也も少し座りやすいように足を崩す。

「うん。座り心地はいまいちだけれど、とりあえずはこれで良いわ」

「何が良いのかは知らないが、珍しいなこんな人前でこんな真似をするなんて」

他の面々が呆気に取られるのを余所に、二人だけで話を進めていく。
恭也の言葉に不敵な笑みを見せ、

「ちょっとね。私としたことがぬかっていたわ。
 ファンクラブの存在は知っていたけれど、まさかこれ程とは思わなかったのよ」

「ん? 自分のファンクラブの規模も知らなかったのか? かなり大人数だと聞き及んでいるが……」

「違うわよ。そっちはちゃんと把握してるわよ。じゃないと、マネージメントを計算できないしね。
 私が言っているのは、こっちよ、こっち」

言ってようやくFCたちの方へと顔を向ける。
相も変わらず不敵な笑みを浮かべて、挑発的なものを含めた眼差しで見渡す。

「まあ、私ほどの女のパートーナーなんだから、
 これぐらいのカリスマは持っていてもらわないと困るんだけれどね。
 でも、やっぱりちょっと面白くないわね」

最後だけは傍に居る恭也にも聞こえるかどうかという小声で零すも、その表情には一ミリほどの変化も見せない。
FCたちの方はFCたちの方で、学園で知らぬ者が居ないと言っても過言ではないエリカの登場と、
恭也との親しそうな態度やその言葉に気が気ではなく、エリカのふと零した言葉に気付く者もおらず。
唯一エリカのぼやきとも取れる言葉を聞いた恭也は、照れつつもそれを顔には出さない。

「で、エリカ。どうするんだ?」

そうエリカにだけ聞こえるように呟けば、エリカは少しだけ考えた後、恭也の首に腕を回す。
ここに来てようやく照れた顔をする恭也に満足そうな表情を浮かべる。

「うんうん。さっきから照れた様子を見せなかったからちょっと悔しかったのよね」

「そう言うエリカこそ平然としていたくせに」

「あら、私は良いのよ。て言うか、実際はかなり……なんだけれどね。
 分かってて言ってるでしょう」

沈黙で返す恭也であったが、それが肯定しているようなものでエリカは少し起こったように前髪を弄る。

「うーん、別に言いふらすような事じゃないけれど、同様に隠すような事でもないのよね。
 まあ、良いんじゃないかな」

そう結論付けて恭也を見れば、未だに首に回されて至近にエリカの顔があることに照れた顔をしていた。
だが、エリカの言葉に恭也が口を開き、それよりも先にエリカが話し出す。

「もう気付いているかもしれないけれど、恭也は私の事を好きみたいなのよね。
 それもベタ惚れってやつ。という事だから、ごめんね〜」

「お、おい」

「あら、違うの? 私の事を命を懸けてでも守ってくれるんでしょう」

「確かに言ったが……」

「まあ、そういう事なのよ。あ、傷心した子は放課後にでも生徒会室に来なさい。
 私が優しく癒してあげるから」

言いつつ両手を怪しげに握ったり開いたりして見せる。
そんなエリカに呆れた視線を投げつつ、恭也は疲れた顔をする。

「全く、お前のその胸好きもなんとかならないのか」

「あら、失礼ね。私が好きなのはおっぱいよ、おっぱい。
 胸だと男子のまで好きみたいじゃない。ほら、言い直しなさい」

そう言って恭也を見つめる瞳は、間違いなくからかうソレであり、
それが分かっていても。恭也は照れて誤魔化すようにそっぽを向く。
本当ならもっと問い詰めたい所だが、今回は他にも人が居るからとエリカは追求を止める。
やりたい事があれば、人の事など考えないエリカには珍しいと恭也は思うも、
それを口にされて気が変わると困るので口を噤む。
一方のエリカはエリカで、困ったような照れたような恭也の顔を他に見せるつもりがなくて、
ここで追求するのを止めたのであるが、これまた口に出すような事はしない。
口を閉ざした二人に対し、他の面々はそれぞれに区切りをつけたのか一人、また一人とこの場を去っていく。
誰も居なくなった中、暫くは無言でいた二人であったが先にエリカが口を開く。

「これから更なる高みを、世界を相手に勝負を挑んでいくわ。
 まあ、手始めに邪魔する親戚一同をどうにかしないといけないんだけれどね」

「分かっている。俺はエリカの傍でずっとそれを支え、助ける。
 エリカが孤独で心を押し潰されないように」

「そう、なら良いわ。これで本当に憂いは何もないわね。
 後は頂点目指してただ走るのみってね」

二人は共に不敵な笑みを浮かべると、何も言わずにただ手を重ねる。
互いに相手を必要不可欠な存在として再確認するかのように。





<おわり>




<あとがき>

よし、エリカ編完成!
美姫 「意外に早かったのかしら」
うーん、どうだろう。
エリカはちょっと動かすのが難しいからな〜。
動き始めると楽なんだが。
美姫 「まあ、何はともあれ書けて良かったわね」
おう! これで『つよきすっ!』もメインヒロインは半分終わったかな。
美姫 「さてさて、次は誰になるのかしらね」
それでは、また次で。
美姫 「それじゃ〜ね〜」







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