『An unexpected excuse』
〜良美編〜
「俺が、好きなのは……」
恭也は少しだけ言葉を区切り、すぐにその名を口にしようとする。
途切れたのに特に意味はなく、ただ息継ぎのような短い時間。
だが、そこに第三者の声が滑り込む。
「あ、恭也くんこんな所に居たんだ。
皆も一緒なんだね。こんな所で恭也くんは何をしてたのかな?」
「いや、別に……」
「何もしてないって事はないよね?
少なくとも、お昼はここで食べてたんでしょう。何か大勢で食べてるみたいだけど」
「いや、食べてたのは美由希たちとだけで……」
笑みを浮かべたままそう言う良美に、恭也はそう返す。
だが、良美はふーんそうなんだと呟くと、FCたちへと笑いかける。
「えっと、それでこれは何の騒ぎなのかな?
あんまり大騒ぎされると生徒会としても見過ごせないんだけれど」
優しい事で有名な良美の笑顔に、しかし何故か言い知れぬものを感じて、
やっぱり生徒会役員としては甘くないのかと思う面々。
だが、恭也は違う意味で良美の様子に小さく肩を竦めると、その肩を後ろから抱くようにして引き寄せる。
「俺の好きな人は、良美だから」
「……え、ちょっ、やだ恭也くん。嬉しいけれど皆が見てるから恥ずかしいよ」
赤くなって俯く良美を更に抱き寄せ、恭也はもう一度同じ事を口にしてFCたちの質問に答える。
納得したのか、それともこれ以上ここで騒いで生徒会長や風紀委員長が出てくるといった事態を考慮したのか、
FCたちはぞろぞろと帰って行く。
一方、既に良美と付き合っている事を良美本人から聞いていて知っている美由希たちは、
恭也のこの場から立ち去れと言う視線を受け、理由は分からないながらも立ち去っていく。
周囲に誰も人が居なくなった途端、良美は恭也の腕から抜け出してその正面に立ち、睨み付けるように見上げる。
「恭也くん、私が生徒会の用事でお昼を一緒に出来ないからって、他の子と浮気しちゃうんだ」
「浮気って。それに、一緒にお昼を食べたのは美由希たちとだって言っただろう」
「そんなの何とでも言えるよね。
美由希ちゃんたちは恭也くんの事を諦めてくれたみたいだから、お昼ぐらい一緒にするのは許可したけど、
どうして他の女の子があんなにたくさんいたのかな」
「だから、それは……」
恭也は今更ながら良美に説明をする。
それを聞いていた良美は、恭也の説明が終わっても変わらぬ表情で恭也を見つめる。
「うん、本当は知ってたよ。途中から見てたから」
「だったら……」
「でも、どうしてすぐに言ってくれなかったの?
恭也くんがどうしてもって頼むから、美由希ちゃんたち以外には私たちが付き合っていることを言わなかったのに。
やっぱり、浮気するためだったんだね。だから、あの時すぐに私の名前を言えなかったんでしょう!」
「良美!」
恭也の強い声に良美は肩を震わせ、自分の頭を両手で抱えて激しく振る。
「ち、違うの、違うんだよ。分かってる。本当はそんなんじゃないって分かってるの。
でも……。う……うぅっ、……や、やっぱり駄目だよ、恭也くん。
あれだけ恭也くんが言ってくれて、あれだけやってくれたのに、やっぱり私まだ、信じられないよ。
ごめっ、……ごめんね。じ、自分でもどうしようもないんだよ。
やっぱり、私の事は嫌いにな……」
最後まで言わせる事無く、恭也は良美をその腕に抱き締める。
「前にも言っただろう。絶対に嫌いにならないって。
それは良美の所為じゃない。それに、前よりもかなりましになっているんだ。
大丈夫、絶対に」
「でも……でも、私、恭也くんにめ、迷惑ばっかりかけ……」
「迷惑なんかじゃないから。やきもちを焼くのは誰にだってある。
俺だって、良美が他の男と仲良くしてたらやきもちを焼くし。
ただ、良美はそれがちょっと大きいだけだから」
実際、恭也が言うように前よりも良美のこういった事はましになっている。
だが、良美はそんな自分を嫌悪して泣き喚き、腕の中で暴れる。
そんな良美の頭を身体を恭也は両腕で抱き止めて取り押さえると、そっと耳元で何度も囁く。
「好きだ、良美。本当に。
俺が愛しているのは良美だけだから」
「う、うぅぅ……」
何度囁いても不安そうに頭を力なく振る良美へ、恭也は諦めず飽きる事無く続ける。
「不安が無くならないと言うのなら、無くなるまでいつでも何度でも俺の気持ちを伝えるから。
俺はずっと傍に居るから。大丈夫、良美は本当によくなっているから。
不安ならそう言えば良い。
いつでも、何処に居ても、すぐに良美の元へ行って、不安がなくなるまでこうして抱き締め、
何度でも気持ちを伝えるから」
落ち着いてきたのか、大人しくなった良美はおずおずと恭也を見上げ、嫌われていないか、
捨てられないか、呆れられていないか、と不安をない混ぜにした瞳で見つめてくる。
そんな良美に優しく安心させるように笑いかけ、背中に回した腕にそっと力を入れる。
安心したように顔から緊張が解けて強張っていた体がゆっくりとほぐれていくと、
おずおずと良美も恭也の背中に腕を回し、それを拒否されないと分かると力いっぱい抱き締める。
「……ありがとう、恭也くん。これからもずっと一緒に居てくれるんだよね」
「ああ」
「私から離れていったりしないよね」
「勿論だ」
「こんな私でも……、それでも?」
「ああ」
「本当に」
「ああ」
「本当の本当に?」
涙をぽろぽろ流しながら、良美は恭也にぎゅっと抱き付き、その胸に顔を埋める。
既に良美の涙でびちょびちょに濡れて少し気持ち悪いが、それでも恭也は良美を離さずに抱き締め続ける。
さっき自らが口にしたように、良美の不安がなくなるまで。
そして、良美の言葉に応えるようにその唇に強く自分の唇を押し付ける。
気持ちを少しでも伝えるかのように。
良美もそれを受け止め、寧ろ自分から深く恭也へと唇を押し付ける。
不安を取り除くために行われていたソレは、いつしか互いを求めるものへと変わる。
ようやく唇を離した二人は、抱き合ったまま至近距離でお互いの顔を付き合わせる。
「もう大丈夫みたいだな」
「うん。ありがとう」
「気にすることじゃない」
そう言って笑う恭也にもう一度、今度は軽く口付けすると良美は少し照れたように顔を赤らめて恭也の耳元に囁く。
「その、今日の放課後うちに……」
「放課後まで持ちそうか?」
「た、多分」
「放課後にもお邪魔するけれど、我慢できないようだったらすぐに言うんだぞ」
「うん、その時はお願い」
顔を益々赤くしながら名残惜しそうに恭也の腕の中から抜け出し、
しかし、完全には離れずに恭也の腕を取って自分の腕を絡める。
「制服、濡れちゃったね」
「それこそ気にすることじゃないさ」
笑いながら言う恭也に、良美はその腕を少しだけ強く抱き締めて微笑む。
「今日は恭也くんばかりに言わせて、私はまだ言ってなかったよね。
私も恭也くんの事、とってもとっても大好きだよ。誰よりも何よりも愛しているから」
良美の言葉に照れて、自由な方の手で赤くなった頬を誤魔化すように掻く恭也を、
良美はただ穏やかに見つめる。
その視線がくすぐったくて少しだけ身じろぎする恭也を見て、良美は楽しそうに笑う。
本当に楽しそうに笑う良美を見て、恭也もその口に小さな笑みを浮かべるのだった。
<おわり>
<あとがき>
という訳で、つよきすの佐藤良美〜……ぶべらっ!
美姫 「という訳で、恒例の鉄拳制裁!」
だ、だって、書きたくなったんだよ〜(涙)
美姫 「はいはい。分かったからさっさと次を書く、書く」
そ、そうすれば怒らない?
美姫 「うーん、どうかしら。とりあえず、書かないと怒るのは確実ね」
が、頑張ります。それでは、また次回で!
美姫 「それじゃ〜ね〜」
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