『An unexpected excuse』
〜美沙斗編〜
「俺が、好きなのは…………美沙斗さんだ」
『え〜〜』
「だ、誰ですかその人は?」
美由希たちが大声で叫び、美沙斗を知らないFCの女の子達は戸惑いの声を上げる。
「そ、そんな高町先輩に好きな人がいたなんて……」
「ショックです……」
FCの女の子達は悲痛な表情をして、その場を立ち去って行く。その様子を見ながら、
「ふぅー、やっと解放されたか。しかし、一体なんだったんだ?」
安堵のため息を吐きながら、疑問を口にする。そんな恭也を今度は美由希たちが取り囲み、問い詰める。
その様子に、ただならぬものを感じた恭也は助けを請うべく赤星の方を見るが、既に異変を感じたのか、そこに赤星の姿はなかった。
(赤星〜恨むぞ)
そんな恭也の胸中などお構いなしに、美由希たちはさらに詰め寄ってくる。
「恭也!今、言ったことって本当なの!」
「そうです。恭也さん、どういう事なんですか」
「まさか美沙斗さんとは……」
「お師匠が年上好きだったなんて……」
「なんで!なんで、母さんなの!」
「お、落ち着け。何を言っているのか、さっぱり判らんのだが……」
「何って、恭ちゃんがさっき自分で言ったんじゃない」
「俺がか?」
「そうですよ。恭也さんが先程、言われた事です」
「恭也が美沙斗さんの事を好きだって」
「ああ。確かに言ったな」
「やっぱり。師匠は年上が……」
「お師匠ー、なんで……なんで、美沙斗さんなんですか!」
「なぜと言われてもな。現存する唯一の完成された御神の剣士で、その実力は俺などよりもかなり上だ。
実戦経験もかなり豊富だしな。今は亡き、静馬さんや一臣さんと並んで尊敬する人の一人だ」
『……………………………………』
「ん?どうした、皆して急に黙り込んで」
「ははははは、べ、別に何でもないよ。何でも」
忍の台詞に頷く美由希たち。
「そうか?なら、いいんだが」
「あのー、お師匠。一つ聞いても良いですか?」
「ああ、何だ?」
「お師匠の言いはった好きな人って言うんは、尊敬する人ってことですか?」
「そうだが。それがどうかしたのか?」
「い、いえ別に。何でもありません」
全員が恭也をあきれた様な目で見ながら、小声で会話を始める。
「幾らなんでも、鈍すぎると思うんだけど……」
「で、でも今に始まった訳ではないですし……」
「とりあえず、俺達の勘違いだったって事で」
「そ、そうです。それに、今のお師匠の発言でFCの人たちは諦めたと思うんで……」
「そうか。かえって好都合って訳ね」
「あー、何をやっているのかはあえて聞かないが、もうすぐ昼休みも終わる事だし、そろそろ教室に戻るぞ」
『はーい』
恭也の言葉に返事を返し、それぞれの教室へと帰っていく。
そして、この件はこれで終わりを告げ、平穏な日常へと戻って行く…………かと思われたが……。
〜〜夕方 高町家〜〜
恭也は帰宅した後、庭の盆栽の手入れをし、今は縁側に腰掛け、のんびりと過ごしていた。
美由希はさざなみ寮へ、晶となのはは久遠の所に遊びに行き、レンは夕飯の買出しとそれぞれ出掛けている。
その為、今家にいるのは恭也一人だけであり、この静かな時間を楽しんでいた。
「ふぅー。たまには、こんなのもいいな。ん?誰か帰ってきたのか?」
玄関の方から、誰かの気配を感じ、恭也は腰を上げる。玄関へと向いながら、一人ごちる。
「しかし、この気配は……まさか、な」
自分の考えを否定しつつ向った玄関には、恭也の予想を覆すように一人の女性が立っていた。
「あ、恭也か」
「美沙斗さん!どうしたんですか?」
「いや、ちょっと休暇をもらったんでな。その、なんだ……」
言いよどむ美沙斗の心中を察したのか、恭也は少し微笑む──注意して見ないと判らない程度の変化──と、
「おかえりなさい、美沙斗さん」
「ああ、た、ただいま……」
「どうぞ中に入ってください。今、お茶をいれますから」
「ああ……」
少し顔を赤めながら、恭也の後に続いてリビングへと入って行く。自分と美沙斗の分のお茶をいれ、美沙斗の向かいに座る。
お互いに無言で、お茶を啜る音だけが静かなリビングに響く。やがて、美沙斗が口を開く。
「他の人たちは留守なのかい?」
「はい。皆、それぞれ用事があって出かけています。まあ、もうすぐ帰ってくるとは思いますけど」
「そうかい……。所で、恭也」
「なんですか?」
「その、……なんだ……。ありがとう……」
美沙斗に突然、礼を言われ、訳が判らない恭也は美沙斗にその理由を聞く。
「美沙斗さん。どうしたんですか?俺はお礼をされるような事をした覚えはないんですが」
「いや、だから……その……昼間の……」*****
「すいません。よく聞こえないんですが……」
「うぅ。い、意外と意地悪だな、恭也……」
(美沙斗さん、いつもはもっとはっきりと話すのに。どうしたんだ?)
歯切れの悪い美沙斗に疑問を感じながらも、何の事を言っているのか判らずに訊ねる。
「美沙斗さん、何の事をいってるんですか?」
「だから、ひ、昼の事だよ」
「昼……ですか?」
「ああ」
(今日の昼は学校だったから、美沙斗さんに会っていないはずなんだが……)
恭也は美沙斗の言った昼の事について、何があったのかを思い出そうと記憶を振り返ってみる。
(それで、……FCとかいう人たちが来て、それで…………あっ!まさか)
何か思い当たる節があったのか、恭也は恐る恐る美沙斗に聞いてみる。
「美沙斗さん……もしかして、今日の昼うちの学校に来ましたか?」
「いや、学校にはいってないが……」
「そ、そうですか。すいません、変な事を聞いて」
「いや、構わないよ」
「あの……美沙斗さん。昼の事というのは……」
「あ、ああ。そ、その、なんだ。わ、私の知人がたまたま恭也たちを見つけたらしくてな。
それで、そこであった事に関して、連絡をくれてな……(////)」
「知人……ですか」
恭也の脳裏に羽を広げ、楽しそうに笑う銀髪の悪魔が見えた。
ため息を吐く恭也に、美沙斗が照れながら笑いかける。
「恭也、その、嬉しかったよ……」
「いえ……、美沙斗さんの事は本当に尊敬していますから」
「尊敬……?そ、そうだな。わ、私は何を勘違いしてたんだ。私みたいなおばさんなんかを相手にする訳ない……」
そう呟くと美沙斗は悲しげに顔を伏せるが、それを聞いた恭也は、彼にしては珍しく大声を上げる。
「そんな事ありません!美沙斗さんは今も昔も、俺にとっては優しくて綺麗なお姉さんですよ」
「……本当かい」
「はい」
「ありがとう」
「いえ……そ、その昼の件も、決して嘘ではないですから」
そう言って、恭也はあさっての方を向き、顔を背ける。それを美沙斗は、とても穏やかな顔をして見詰める
「そんな事を言われたら、本気にしてしまうよ」
「……俺は本気ですから」
美沙斗の目を真っ直ぐに見据えて、はっきりと言う。
「何だか、照れるね」
「……俺は、……美沙斗さんが好きです……」
「私も……恭也のことが好きだよ……」
お互いに顔を赤くしながら、優しく微笑み合う。そして、どちらともなく立ち上がると近づく。
「美沙斗さん……、俺はずっとあなたの傍にいて、あなたを守ります」
「私も、恭也を守るよ」
「はい。お互いに庇い合っていきましょう」
「きょ、恭也……」
美沙斗は顔を赤くしながら、恭也の名前を呼ぶ。
「何ですか?」
「その……お願いが、あるんだが……そ、その……恭也がずっと私と居てくれるという証が欲しい……」
「……判りました」
恭也はそう言うと、俯いていた美沙斗の顔に優しく触れ、そっと顔を持ち上げる。
「とりあえず、今はこれで我慢してください……」
恭也はそう呟くと、美沙斗に口付けをした。
「ふふ、今は、ってことは他にも何か証をくれるのかい?」
「そ、それは……」
「冗談だよ。でも、いつまでも待ているよ」
「はい」
そして、先程よりも長く、口付けを交わした。
数年後、香港国際警防隊の最前線で、お互いに庇い合いながら活躍する二人の剣士が裏の世界で囁かれようになる。
「恭也、行くよ」
「わかった、美沙斗」
<おしまい>
<あとがき>
浩 「An unexpected excuse第二弾、かんせーい!今回は美沙斗です」
美姫 「ちょっと待てぃ。今回はリクエストのあったみなみじゃないの」
浩 「違う違う、みなみはこの次。掲示板でちゃんと第二弾はって書いてるだろ?」
美姫 「いや、だから今回、第二弾……」
浩 「いや、ヒロイン別は第一弾」
美姫 「そんな数え方やったんか!紛らわしすぎる!」
浩 「……確かに。で、でも、みなみちゃんの方も今、書いてる途中だし……」
美姫 「言い訳無用!反省しなさい!」
浩 「ううぅぅぅーー。すいません、すいません」
美姫 「この通り、浩も反省しているので許してやってください」
浩 「しくしくしく。うぅぅー反省してるから、背中に刺さっている刀を抜いてくれーーーーー」
美姫 「チッ。はい、抜いたわよ。しかし、浩。あんた、本当に第二弾がこの話になるって気付いてなかったでしょ」
浩 「おう。書き終わって、式に言われるまで気付かなかったぞ。式も第二弾なのにみなみちゃんじゃないとか言ってた」
美姫 「ったく、この馬鹿は」
浩 「だから、悪かったってば……」
美姫 「とりあえず、紛らわしいから、第二弾は美沙斗、次の第三弾はみなみで良いわね」
浩 「判りました」
美姫 「で、第四弾は誰?」
浩 「はやっ。それは出来てからのお楽しみで」
美姫 「え〜〜。せっかくリクエストがきてるのにーー」
浩 「うーん、じゃあヒントを……。第四弾はとある女性で、その後の第五弾でリクエストがあったとある女性」
美姫 「ヒロインである以上、皆女性だろうがーー」
浩 「い、痛い……酷いよ、美姫ちゃん」(バタッ)
美姫 「自業自得!はぁー、今回は疲れたから、ここらへんで。じゃあね〜」