『An unexpected excuse』

    〜ゆうひ編〜






「俺が、好きなのは…………」

『好きなのは?』

その場にいる者たちの声が重なる。そして、一同が固唾を飲んで恭也の言葉を待つ。

「……何故、言わないといけないんだ」

恭也の当然といえば当然な台詞に言葉に詰まる美由希たち。だが、恋する乙女たちはその程度では引き下がらない。
逆に強気で言い返してくる。

「そんな事を言うってことは好きな人がいるんだよね」

美由希の言葉に、今度は恭也が言葉に詰まる。

「師匠、一体誰なんですか」

「ひょっとして、うちらの知ってる人ですか?」

「あ、もしかして私とか!」

「ちょっ、ちょっと忍さん!どさくさに紛れて何を言ってるんですか!」

ものすごい剣幕で恭也に迫る美由希たちに、その質問を投げかけたはずのFC会員達が引く。
だが、そんな事など全く気にせずに更に問い詰めていく。

「だ、だから何故、言わないといけな……」

「恭ちゃん!」 「恭也!」 「恭也さん!」 「師匠!」 「お師匠!」

先程よりは幾分弱々しく反論するが、その言葉も美由希たちに遮られる。
そして、そのまま詰め寄って来る美由希たちから距離を取ろうと、座ったまま器用に後退る。
しかし、1、2歩分ほど後退った所で何かにぶつかりその動きが止まる。

(なんだ?こんな所に壁なんかあったか?……壁にしては柔らかいな)

自分の背中から感じる感触を不思議に思い後ろを振り向く。すると、そこには笑みを浮かべる椎名ゆうひがいた。

「いややわ、恭也くんたら。そないに近づいてきて。うち恥ずかしいわ〜」

そんな事を言いながらも嬉しそうな顔をしていたりするゆうひ。突然のゆうひの登場に美由希たちはその名を叫ぶ。

『椎名さん!』

「ゆうひさん!」

『えっ!』

恭也がゆうひを名前で呼んだ事に驚きの声を上げる。そんな周りの反応に構わず恭也とゆうひは話をする。

「ゆうひさん、どうしたんですか?こんな所に来て。それに今はツアーの途中では……。
 !まさか、また襲撃でもあったんですか」

「ああ、ちゃうちゃう。だから、そんな怖い顔したらあかんでー。ツアーの方は丁度、今日が移動日でな。
 今日というか日本でいうと昨日?になるんかな。兎に角、今は次のツアー開催地に向けて移動中なんよ。
 だから、恭也くんに会うためにうちだけ一旦、日本に寄らしてもらってん。
 まあ、今日の夕方にはすぐにまた、出発せなあかんねんけどな」

「そうですか。忙しいのにわざわざすいません」

頭を下げる恭也に少し慌ててゆうひは言葉を続ける。

「気にせんかてええよー。うちが会いたかっただけやねんから。
 それにそろそろエネルギーが切れかかってるから、充填もしたいし。……恭也くん、いい?」

「ここで……ですか?」

「そうや。それともあかん?」

両手を胸の前で組み、瞳を潤ませながら下から恭也を見上げる。そんなゆうひの仕草に恭也は観念して両手を広げ、

「どうぞ」

と、一言だけ告げる。そんな恭也に満面の笑みを浮かべゆうひは、その胸に飛び込む。

『あーーー』

それを見た美由希たちが大声を上げるが、二人は気にもせずそのまま続ける。
笑みを浮かべながら恭也はゆうひを強く抱きしめ、ゆうひはその胸に甘えるかのように頬擦りをする。

「あ……あ、あの恭ちゃんがわ、笑ってる……」

「あのお師匠が人前であないな事を……」

「う、嘘だ……。師匠、嘘だと言って下さい」

「きょ、恭也とSEENAが……」

「きょ、恭也さん……」

それぞれがショックを受けている中で、二人は見つめ合う。そんな二人を取り囲むように数人の人影が現れる。
恭也は咄嗟にゆうひを背後に庇うと、その人影に向かい軽く構える。
そんな恭也を制するようにゆうひは大丈夫と笑いかけ、恭也と腕を組む。そして、その人の群れに向い、

「はーい。この人がうちの恋人でーす」

と宣言する。その途端にあちこちからフラッシュが瞬く。

「あ、あのゆうひさん。これは?」

「ごめんな恭也くん。こうでもせんと他の子に取られるかもしれへんやろ。ライバルが多そうやし」

そう言って、横目で美由希たちを見る。

「こんな事をしなくても前にも言いましたけど、俺はゆうひさんの事……」

「分かってるで、それは。でもな、それでもやっぱり会われへんと不安になるねん。こればっかりはどうしようもない。
 ツアーが終わるまでわな。でもな、こうして発表しとけば恭也くんも浮気でけへんやろ」

「……そんなに俺は信用ありませんか?」

「怒らんといてーな。恭也くんのことは信用しとるよ。けど、周りにおる子らがな、どんな行動に出るか分からんから。
 これはその為の牽制やねん。おそらくこのニュースは世界中に流れるやろうから、ツアーに参加しててもあの子たちも見るやろうし」

「あの子たちって誰ですか?」

「あはははは、恭也は別に気にせんでもいいよ」

「はぁ」

そこまで話して急にゆうひはしおらしくなり、恭也に訊ねてくる。

「それとも、こんな事をするうちは嫌いになった?」

恭也はそんなゆうひの姿を可愛いと思いながら口を開く。

「そんな事はありませんよ。可愛いと思ってしまうのは惚れた弱みですかね」

そう言って微笑むとそっと口付けをする。

「まさか恭也くんがそんな事を言うなんて驚きやわ」

そんなゆうひの台詞に悪戯っぽい笑みを浮かべると、

「こんな俺は嫌いですか?」

と聞く。そんな恭也に笑顔で、

「ううん、好きやで」

言って、今度はゆうひから口付けをする。完全に二人だけの世界に入っている恭也をゆうひに記者の一人が遠慮がちに声をかける。

「あのー、すいません。まさかSEENAさん引退するって事はないですよね?」

「ないない。それはない」

記者の質問を即効で否定する。

「うちはまだまだ、多くの人に伝えたい事がたくさんある。
 楽しい事、嬉しい事、悲しい事そんなたくさんの思いを歌に込めて、その全てを伝えるまでは歌うのはやめへん。
 だから、まだまだ引退は考えてないよ」

言いたい事を言ったゆうひは恭也を見る。

「うちは恭也くんの事が一番好きや。けど、歌も好きなんや。こんな我がままで欲張りな事を言ううちは嫌?」

ゆうひの問いに首を横に振る恭也。

「そんな事はありませんよ。俺も同じですから。ゆうひさんの事が一番好きです。
 でも、身近にいる人たちを守りたいとも思いますから。それに、俺は歌を歌っているゆうひさんも含めて全部好きですから」

そう言って優しく見つめてくる恭也に頬を少し赤く染めながらも抱きつく。

「おーきにやで」

「礼を言われる事ではありませんよ」

記者たちはすでに必要な取材を終えたのか、それともこれ以上は無粋と感じたのか、その場を去っていく。
それに倣ったかの様に美由希たちもその場を離れ、恭也とゆうひの二人だけになる。
しばらく無言で抱き合っていた二人は名残惜しそうに離れる。

「ほな、もう行かんと間に合わんから」

「はい」

「日本に帰ってきたら真っ先に恭也くんに会いに行くから」

「楽しみに待っていますよ」

「恭也くん……。どんなに離れていてもこの広い空の下、声は届く。そして、この空はひとつや。
 うちの思いも恭也くんの思いもこの空の下で繋がってる。だから、しばらく会えんかっても大丈夫や!
 じゃあ、恭也くん……行ってきます!」

「はい、行ってらっしゃい」

二人は笑顔を交わすと、同時に踵を返す。そして、後ろを振り返る事なく歩き出す。
それは、これが別れなどではなく、再び会うためだと知っているから。

だから、二人は笑顔を浮かべたまま、別々の方向に向って歩いて行く。次に会うことを楽しみにしながら。





<おしまい>




<あとがき>

美姫 「と、言う訳でKOUさんのリクエスト、ゆうひ編でした」
おわー、俺の台詞がー。
美姫 「まあまあ、いいじゃない。で、今回はこんな感じなのね」
そのとおり。どうだったでしょうか?
美姫 「感想などがあれば掲示板かメールでお願いします」
お願いします。(ペコリ)
美姫 「で、これってこの後どうなったんだろうね。だって世界中に放送されたんでしょ。
    しかも一部始終」
うむ。まあ、流石に全部をそのまま流す事はないだろうが。
そうだな……。このニュースを見た桃子にあれこれ聞かれたり、フィアッセやアイリーンが電話してきたり、ゆうひを問い詰めたり。
と、いった所かな?
美姫 「ふーん。そうそう、前回に今回のヒロインについて浩が言った事、覚えてる」
当たり前だ。確か、『年上の女性でとらハ2のキャラ。3のキャラとも繋がりが深く、恭也とも顔見知り』だったよな。
美姫 「もう一つあったでしょ。『候補は二人』ってとこ。今回はそのうちの一人でしょ。もう一人は次にでてくるの?」
いや、どーしよう。ヒロインのリクが後、2人ぐらいいるから。先にそっちかも。
でもその前に、違うキャラが出てくるかも。
美姫 「残りの一人?」
いや。今度は年下で3のキャラ。
美姫 「他にヒントは?」
そうだな……。名前は○○○で、恭也を19歳として年下。
美姫 「!おおー。今回は分かったわ。ずばり……」
言うなよ。そして、いつも言ってるように予定は未定。ひょっとしたらリクヒロインが先になるかもしれないしな。
美姫 「またなのね……」
と、とにかく、また次回!




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