『An unexpected excuse』

    〜知佳編〜






「俺が好きなのは、知佳さんだ」

「えーっと……知佳さんって、真雪さんの妹さんの仁村知佳さんの事……ですよね」

那美が恭也の言った意外な人物の名前に確認を取る。

「そうですけど……」

「あの〜、なんで知佳さんと知り合いなんです?」

「夏の時にちょっと色々ありまして……」

「はあ、いろいろ……ですか」

何故か遠い目をして語る恭也に曖昧な返事を返す那美。その時、今までのやり取りを聞いていた美由希が大声をあげる。

「ああ!分かった。少し前、さざなみ寮で行われた宴会の時に会ったのね」

「その通りだ」

「宴会?そんなのありましたっけ」

「那美さんはその時丁度、実家に帰られてましたから。知らないのは無理ないと思いますよ」

「ああ、あの時期ですか」

「はい」

そう言うと恭也は少し懐かしそうに遠くを見る。
その恭也の邪魔にならないように全員が美由希の周りに集まり、詰め寄る。

「美由希さん、一体何があったんですか」

那美の言葉に忍たちが頷く。それを見ながら美由希は冷や汗を垂らし口を開く。

「あ、あはははは。じ、実は……」

『実は?』

「私も行ってないんで、何も分からないんです。すいません」

美由希の言葉に全員が肩透かしをくらい、非難めいた目を向ける。

「う、そ、そんな目で見ないで下さいよ」

「まあ、確かに美由希ちゃんを責めても仕方がないんだけどね」

「那美さん、知佳さんっていうのはどんな人なんですか?」

「知佳さんですか。そうですねー、国際救助隊・特殊分室の室長代理人でとっても優しい人ですね。
 後、お料理も得意ですよ。そして、何よりもあの真雪さんとはとても同じ姉妹だとは思えないです」

「そうか、そうか。で、那美は真雪の事をどう思っているんだ」

「真雪さんの事ですか?そうですね……。
 お酒がとても好きで寝起きが悪くて、すぐに人をからかって、面白い事にはすぐに首を突っ込むような人ですね。
 美緒さんに言わせると『仕切屋のくせに責任を取りたがらない』という事らしいですけど。
 あ、後、すぐに人の胸を触ってくるのはやめて欲しいですね……って、なんで真雪さんの話に変わってるんでしょうか」

首を傾げる那美に美由希たちが後ろを指差すが、那美は全く気付かずに美由希たちの行動に更に疑問を浮かべる。
そんな那美の疑問を晴らすかのように那美の前に来た恭也が後ろに向って挨拶をする。

「こんにちわ、真雪さん」

「おー、恭也」

「所で今日はどうしたんですか?」

「いや、ちょっとな恭也に伝えといてやろうと思った事があったから。今なら、昼休みだから捉まえられるかと思ってな」

「そうですか。わざわざすいません。電話をくれたら、こちらから伺ったものを」

「気にするな。丁度、打ち合わせの都合でこの近くまで出てきてたからな。ついでだよ。
 それに、面白い事も聞けたしな」

そう言うと、うけけと笑う。その笑い声を聞き、体を強張らせる者が約一名ばかりいた。

「面白い事……ですか?」

「ああ。なぁー、神咲妹」

那美は視線だけで美由希たちの助けを求めるが、美由希たちはただ、乾いた笑みを浮かべ首を横に振る。

「あ、あうあううあうううーーー」

「どうしたんだ、神咲妹、いや那美ー。どこか体調でも悪いのか」

ニヤニヤ笑いながら優しく問い掛ける真雪に那美はますますうろたえる。
そんな那美を見て、更に笑みを増す真雪に事情の分かっていない恭也が真雪に話し掛ける。

「あの、真雪さん。俺に伝える事って言うのは何ですか?」

「ああ、そうそう、その事なんだけどな。実はな、」

真雪が恭也と話し出したのを機にその場から離れる那美。
できればこのまま今までの出来事を忘れて欲しいと願う那美に真雪が冷酷に言い放つ。

「那美、続きは帰ってからたっぷりとな」

この言葉に固まる那美を放っておいて真雪は話を続ける。恭也も疑問を顔に出しながらも、真雪の話を聞くことを優先にしたらしい。

「実は、知佳が今日帰ってくるんでな、それで恒例の宴会をしようっつーことになったから、参加するように」

「それだけですか?」

「それだけって、お前なー。愛しい人が久々に帰ってくるんだからもっと嬉しそうな顔をしろよなー」

「これでも喜んでいるんですが……」

「はぁー、知佳の奴もなんでこんな朴念仁なんかを……」

「すいません」

「だあー、冗談だよ冗談。いちいち真に受けるな」

「分かっていますよ。俺も冗談です」

「……ほほぉー。この私をおちょくるとは、なかなかやるようになったな少年」

「そんな事はありませんよ」

「「…………」」

真雪と恭也は無言のまま立ち尽くす。

「流石に寮生の前で知佳に告白しただけの事はあるな」

「!なっ、あ、あれは皆さんが勝手に覗いてたんでしょうが」

「何の事だ?それに、まさか告白の後すぐに私と十本勝負をするとは思わなかったぞ」

「ぐっ。し、しかし、十本中十本全てを取りましたから知佳さんとの事は認めてもらえるはずですよね」

「ぐっ。ま、まさか全部取られるとは思ってはいなかったがな。だが、その後でいきなりキスをするとは思わなかったぞ。
 そこまで許した覚えはないんだがな」

「うっ。あ、あれは……」

「そうだ。なんなら私のこと、お義姉さんと呼ぶか?義弟」

「…………」

「そうそう、あの時の一部始終を撮ったテープがあったな。今日はそのテープを皆で見るか」

「……勘弁してください」

「うけけけけ。どうしよかなー」

そこまで言って、真雪は何かを思い出したかのように手を打つ。

「そうだ。今から私に付き合え。そしたら勘弁してやるよ」

「いえ、俺はまだこの後、授業があるんで」

「何を言ってるんだ。一日や二日サボった位じゃあ問題にならんって。それに私についてきた方がお得だぞー。
 それとも上映会をして欲しいか?」

「……付いて行きます」

「ん、素直でよろしい。じゃあ、早速行くぞ」

恭也は何故こんな事になったのか疑問に思いながらも大人しく付いていく。

「忍、後は頼んだ。それと美由希、荷物を頼む」

「あ、分かったわ」

「え、あ、うん」

恭也はそれだけ言うと学校から出て行った。その後ろ姿を茫然と見つめる美由希たちを後に残して。





恭也は真雪の車に乗せられ、駅の方へと向う。

「で、真雪さん。俺はこれからどこに連れて行かれるんですか」

「ん、駅だよ」

「駅……ですか?そこに何が?」

「行けば分かるよ。行けばな」

それっきり真雪はその件については何も語ろうとしないので恭也も諦め、駅まで当り障りのない会話をする。
そして駅近くのパーキングに車を止め、駅前まで来るとそのまま駅の出入り口で立ち止まる。

「目的地はここですか、真雪さん」

「ああ、そうだ」

「で、ここで何を?」

「まあ待て。慌てなさんなって。そうだなー、後10分ぐらいかな」

「10分ですか」

そう言って恭也は自分の時計を取り出し時刻を確認すると、それ以上は何も聞かず真雪の横に立ち待つことにする。
そして10分後、駅の出入り口を何となしに見ていた恭也の目に一人の女性が飛び込んでくる。

「え、知佳さん……」

知佳の方も恭也に気付いたのか、驚いた顔をしてその場に立ち止まってしまう。
そんな二人の反応を見て、真雪はニヤニヤした笑みを浮かべる。
そして、傍らにいる恭也に、

「どうだ、私についてきて正解だろ?」

と、恭也の方を向くが、そこには既に恭也はおらず視線を知佳の方に移す。
すると、知佳に駆け寄っていく恭也の後ろ姿が真雪の目に映る。

「ったく、人の話は最後まで聞けってーの」

苦笑しながら真雪も知佳の元へと向う。こちらはゆっくりと歩いてだが。

「知佳さん、おかえりなさい」

「ただいま恭也くん。でも、どうしたの?今日、学校は?」

「えーと、真雪さんに連れてこられました」

「もう、お姉ちゃんったら。ごめんね恭也くん」

「いえ、気にしないで下さい。俺も知佳さんに真っ先に会えて嬉しいですから。むしろ真雪さんには感謝していますよ」

そう言って笑う恭也に知佳も微笑返し、その胸に飛び込む。

「会いたかったよー」

「俺もですよ」

二人は周りの視線も気にせず駅の出入り口の中央で抱き合う。
そんな二人に真雪が近づき、声をかける。

「おーい、そこのお二人さん。そこらへんにしとけよ。ちょっとは周りの目ってもんを気にしろ。
 それと、それ以上はここでするな後にしろよー」

言われて二人はようやくここが何処だか思い出し、顔を真っ赤にして慌てて離れる。
周りの人たちも真雪の大声の注意内容に苦笑しながら、そのまま通り過ぎていく。

「お、お姉ちゃん!声が大きすぎるよ!恥ずかしいじゃない!」

「んだとー、恥ずかしいのはお前ら二人の行動だろうが」

「うぅぅ、そ、それはそうなんだけど……。で、でも、もうちょっと注意の仕方がある……と思うんだけど……。
 そ、それに、それ以上って何よ、それ以上って!」

「はぁー、あれ以上っていったらお前、決まってるだろ。第一、顔を赤くしてるってことはお前だって分かってるんだろう。
 熱い抱擁の次は熱〜いキ……」

「わっわわわーーーー!な、何を言ってるの!」

「何をいまさら言葉ぐらいで慌ててるんだ。あんな事までしといて」

その真雪の一言で赤かった顔がさらに赤くなる。横で聞いていた恭也も同じ様に顔を赤くする。

「大体だな、……」

まだ言葉を続けようとする真雪を恭也が制する。

「真雪さん。何かさっきよりも注目されてるみたいなんで、そろそろ行きませんか」

恭也の言葉に周りを見ると、こちらを見てこそいないがこちらの会話に耳を立てている者が多くいた。

「そ、そうだな。そろそろ行くか」

そう言って真雪は真っ先にその場から立ち去る。その後を荷物を持った恭也と知佳も追う。
もちろん二人は手を繋いでいた。
それを見た真雪が恭也たちに並び、

「仲の良い事で」

と、からかう。それに対し、知佳は笑顔で

「えへへへー。いいでしょ」

と答え、恭也も笑みを浮かべ答える。

「それよりも早くさざなみ寮へ帰りましょう。お義姉さん」

「なっ!」

その言葉に固まり、立ち尽くす真雪を置いて、恭也と知佳は先に歩いて行く。
言った恭也もそれを聞いていた知佳も耳まで赤くなっていたが。
しばらく茫然としていた真雪は笑みを浮かべると、二人を追いかける。

「恭也!今、言った言葉の責任はちゃんと取れよ。後、知佳を悲しませたりしたら……覚悟しておけよ」

「はい、分かっています」

はっきりとそう答える恭也とそれを見て、とっても嬉しそうな顔をする知佳。
そんな二人を見て真雪もまた笑顔を浮かべると三人は帰るべき場所へと向って歩き出す。
その先に待っている確かな幸せを感じながら……。





おわり



<あとがき>

と、言う訳で今回は知佳編でした。
美姫 「次は誰?」
もう次の話か!まあ、いいけど。
次は……っと、その前に今回の知佳編の恭也と知佳の出会いみたいな物を書こうかな〜、なんて考えていたりして。
美姫 「何、なんで?だったら、今回の話で書いとけば良かったじゃない」
まあ、そうなんだけど。そうすると、ちょっと長くなりそうだったし、完全に考えきれてないし。
美姫 「ふーん。じゃあ、次回は知佳番外編ってこと?」
多分、そうなると。まあ、例によって断言は出来ないけどね。
美姫 「いつもの事ね」
そう言うな。まあ、とりあえず、また次回で!という事で。
美姫 「ばいばーい♪」



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