『An unexpected excuse』

    〜フェイト編〜






「俺が、好きなのは…………」

恭也は目を細め、何処か遠くを見ながら回想に浸る。
FCたちは黙って待っていたが、中々口を開かない恭也に焦れ始める。
真っ先に焦れたのは美由希たちで、忍が遂に声を掛ける。

「恭也! さっさと言ってよね。
 待っているこっちの身にもなってよ」

「む、すまん。つい、懐かしくてな。あれから数ヶ月しか経っていないというのにな。
 まあ、それだけ忙しく駆け回っていたんだがな。しかし、改めて思い出しても……」

「だから、恭ちゃん。思い出はいいから」

再度美由希にそう言われ、恭也は渋々と頷く。

「嫌いではないが、好きというものかどうかは分からないんだが……」

「どういう事よ、それ」

「なんと言えば良いかな……。
 最初は妹みたいなもので、力になってやりたいと思ったんだ。
 色々あって、その子は心から笑うことがなくて……。
 だから、その子の笑顔を見てみたいと思ったんだ」

静かに語る恭也の言葉に、全員が耳を傾ける。

「それって、その子の事が好きなんじゃないの?」

「どうなんだろうな。自分でもまだ分からないな。
 なのはに対するのと同じような気持ちがあるのも確かだが、
 一人の女の子として気になっている部分があるのも確かだしな。
 正直、まだ分からないって所だな。
 分かっているのは、将来は間違いなく良い女性になるって事かな」

「将来って、その子、小さいの?」

「ああ。十さ……」

「恭ちゃん、それは犯罪だよ!
 そんな小さな子に手を出すなんて。うぅぅ……、身内から犯罪者が出るなんて……。
 悲しんでいいのやら、旅立っていいのやら」

恭也が言い終わるよりも早く、美由希が叫ぶようにして遮る。
それを半眼で睨み付けると、恭也は美由希の首に腕を回して締め付ける。

「なんなら、生きている間には行く事の出来ない所へと旅立たせてやろうか?」

「ぐ、ぐるじぃぃよ、恭ちゃん……」

「ったく、この馬鹿弟子が。
 誰も手などだしてない」

言いつつ、徐々に首を締めていく行為に、美由希の顔が赤く、次いで青くなっていく。
必死で恭也の腕をタップするものの、恭也は聞く気がないのか、どんどん力が篭もっていく。
失神まであと少しという所で、ようやく腕を離して解放する。
美由希は咳き込みながらも必死で空気を肺へと送り込む。
それを冷ややかに見下ろしつつ、

「まあ、今回はこれぐらいで許してやるが、今度、ふざけた時は……」

恭也の言葉に美由希は必死で首を縦へと振り、分かった事を何度も強調する。
そんな美由希の様子を見て、何かを言いかけていた忍たちは揃って口を閉ざす。
ふと見れば、FCたちの姿がなく、驚かせてしまったかなと反省をしつつも、
止めとばかりに美由希にデコピンを喰らわせる恭也だった。
額を押さえて恨めしそうに見詰める美由希を無視する恭也の耳に、懐かしい、
だけれど、普通なら聞くことの出来ない声が届く。

「恭也さん……」

その声を聞き、恭也は聞こえてきた方へと振り向く。
そこには、恥ずかしそうな、何を話せばいいのか迷っているような、そんな顔をした一人の少女が立っていた。
少女は落ち着きなく身体を小刻みに揺らし、恭也の方をチラチラと見ては視線を逸らす。
そんな少女の様子に笑みを浮かべると、それ以上は近づいてこない少女へと恭也から近づく。
小さく言葉を漏らして恭也の顔を見上げた少女は、しかし逃げる事無くその場に留まる。

「久しぶりだな、フェイト」

「あ、はい! お久しぶりです」

「元気そうで何よりだ」

「はい。リンディさんたちがよくしてくれてますから」

「そうか」

お互いにあまり話す事無く、ぽつぽつと静かな口調で挨拶を交わす二人を見て、
フェイトと呼ばれたその少女が、先程恭也の言っていた少女だと悟る。
恭也に聞いた年齢よりも大人びて見えるフェイトに対し、恭也が言った色々と言うのが深い意味だと理解し、
どうやら久しぶりの再会らしい事を察して、忍たちはこの場を引き払うことにする。
そんな友人の行動に感謝しつつ、恭也は目の前に立つフェイトへと話し掛ける。

「それで、今日はどうして」

「その、裁判が始まって忙しいんですけれど、次の裁判までに少しだけ時間が出来たので……。
 本当は、こうして出掛けてはいけないんですけれど、リンディさんが色々と手を回してくれたらしくて……。
 それで、今日一日だけ、深夜の0時まではこっちに滞在を許可されたんです」

「そうか。リンディさんには感謝しないといけないな。
 ところで、この事をなのはは知っているのか」

「ううん、驚かせようと思って、伝えてないの。
 アルフにはちょっと悪いけれど、違う場所で待っていてもらっているし……」

「そうか。それじゃあ、俺に最初に会いに来てくれたんだな」

「はい。……何よりも先に、恭也さんに会いたかったから。
 その、駄目でしたか?」

不安そうに見詰めてくるフェイトに、恭也は優しく微笑むとそっと頭を撫でる。

「そんな事はないさ。嬉しかったよ」

「あっ……」

驚いて小さな声を出すが、すぐに目を細めてその手を心地良さそうに受け入れる。
そんなフェイトの様子を愛しく思いながら、これが一人の少女に対する思いなのかどうか恭也はふと思う。
しかし、すぐ目の前にいるフェイトを見て、すぐにそんな考えを打ち消す。

(今はまだ、はっきりと分からないままでも構わないだろう。
 時間はまだあるんだしな。そんな事よりも、久しぶりに会えたフェイトに笑顔を与えてやりたい……)

自分の手の下で心からの笑みを浮かべるフェイトに、恭也は胸が温かくなるのを感じながら撫で続ける。
ふと見上げてきたフェイトと目が合い、笑っている恭也を見て、フェイトは不思議そうに首を傾げ、
自分が可笑しな事をしたのだろうかと、少しだけ不安そうな顔になる。
そんなフェイトを安心させるように、恭也は優しく話し掛ける。

「別におかしな所なんてないよ。
 ただ、フェイトが本当に嬉しそうに笑ってくれるから、ちょっと嬉しくなっただけだ。
 それと、フェイトの笑顔があまりにも綺麗だったから、少し見惚れていた」

恭也の言葉に顔を真っ赤にして、はにかむとフェイトも口を開く。

「はい。恭也さんにこうやって貰うと、とても落ち着いて安心できるんです。
 この気持ちは何なんでしょうね」

「さあ、何なんだろうな。でも、俺もフェイトと居ると落ち着くよ。
 今はそれで良いんじゃないのか」

「そうですね」

恭也の言葉に頷きながら、フェイトはゆっくりと倒れ込むように恭也の腕の中へと身を置く。
恭也の胸に顔を埋めながら、フェイトはゆっくりと目を閉じる。

「もう少しだけ、このままで良いですか」

「ああ。フェイトの気が済むまで、こうしているよ」

恭也はフェイトの背中へとそっと腕を回し、大事な壊れ物を扱うかのように丁寧に、そっとその身体を抱きしめる。

「……やっぱり。こうして恭也さん触れ合っていると胸がドキドキするのに、でも凄く落ち着く。
 苦しいはずなのに、全然、そんな事もなくて。
 とても温かくてずっとこうしていたいような気になる」

胸に顔を埋めながら呟かれたその言葉は恭也の耳に届いてはいないが、それを分かっていてフェイトは呟いていた。
別に恭也へとた尋ねている訳ではなく、確認するように言っているだけだから。
静かに一つに重なる二人の間に、それ以上の言葉はなく、けれども心はしっかりと繋がっている。
お互いにそれを感じ合い、暫しの時、そのままでいた。





<おわり>




<あとがき>

で、フェイト編なんだが、少しリリカルとは違う個所があるんだな、これが。
美姫 「ずばり、フェイトの年齢よね」
その通り。
リリカルでは、なのはと同じ年齢なんだけれどね。
美姫 「とらハだとなのはの年齢が下がるからね」
ついでという訳ではないが、一才だけ上げました。
美姫 「そのぐらいかしらね」
おう! さて、次は誰にしようかな〜。
美姫 「誰かしらね〜。それじゃあ、また次回でね〜」
ではでは。







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