『An unexpected excuse』

    〜ヴォルケンリッター編〜






「俺が、好きなのは…………」

「〜〜〜っ」

恭也が口を開き、その名を口にしようとするのとほぼ同時に、かなり遠くから声らしきものが聞こえる。
それは徐々にこちらへと近づいてきて、その内容が聞き取れるほどになる」

「恭也のぉぉ〜〜、恭也のぉぉぉ〜〜」

二つのみつあみを揺らしながら、こちらへと走ってくる可愛らしい少女。
しかし、その顔にはあどけない表情などなく、目元を吊り上げており、
その手には少女が握るにはあまり似つかわしくない柄の長いハンマーが。
少女は近づいてくると、それを大きく振りかぶり、地面を強く蹴って跳ぶと振り下ろす。

「恭也の、ばかっ!」

ブオンというもの凄い音を立てて振り下ろされたハンマーを、恭也は当然のように避ける。
ゴッと音を立てて地面へと打ちつけられたハンマーを足で押さえると、恭也はきつい口調で言う。

「ヴィータ、危ないだろう。前々から言っているように、こんなものを振り回すのは……」

「うっせぇ! 大体、今回のはお前が悪い」

「また、そんな口を」

恭也は困ったと言わんばかりに肩を竦めるが、そこへヴィータを弁護する者が現れる。

「今回ばかりは私もヴィータの味方だぞ、恭也」

髪をポニーテールにした美しい女性が現れる。
そちらへと視線を向けつつ、恭也は意味が分からないという顔をする。

「シグナム、言っている意味がよく分からないんだが?」

「本当に分からんのか。私たちは浮気を許した覚えはないと言っているんだがな」

「浮気? 誰が誰と」

「この期に及んで……。恭也、見損なったぞ」

「そうだ、そうだ! シグナム、もっと言ってやれ!」

自分の援護に現れたシグナムに気を大きくしたのか、ヴィータが囃し立てる。
しかし、恭也は本当に身に覚えがなくてただただ首を傾げるのみ。
その様子に痺れを切らしたヴィータが口を開く。

「あのな、あたしたちはさっきまで恭也の様子を見てたんだぞ!
 そしたら……」

言ってFCたちをじろりと見渡す。

「こんなにも沢山の女をはべらせやがって!」

「はべ……って、お前は何処でそんな言葉を覚えてく……」

「恭也、誤魔化すな」

恭也の言葉をシグナムが遮るように声を上げると、こちらも鋭い眼差しで恭也を睨む。
ヴィータとはまた違う、一点に集中するような鋭い眼差しに、見ていたFCたちが喉を鳴らす。
しかし、恭也は平然とそれを受け止めると、じっと見詰め返す。
暫しじっと視線を合わせたまま動かない二人に、ヴィータはいらいらと小さく足を鳴らす。
それでも、二人の視線は互いから外れることはない。
徐々に足音が大きくなっていき、しまいには地団太を踏む。
ようやく、二人の視線が自分へと向いた事に満足そうに頷く。

「ともかく、そういう事だから言い逃れはできないぞ」

「いや、だから……」

「仮に、それが誤解だというのなら、何をしていたのか教えてもらおうか。
 やましい事がないのなら可能であろう」

「そうだ、そうだ」

二人の言葉に溜め息を吐き出すと、恭也は二人に腕を伸ばして抱き寄せる。
あまりに自然な動作だったため、二人とも何の抵抗も見せないまま抱き寄せられる。

「ひ、卑怯だぞ、恭也。こんな手で誤魔化すなんて」

「っ、こ、こんな事で誤魔化されるか!」

「いや、別にそういうつもりじゃなくて」

言って恭也は二人の肩に手を置くと、FCたちの方へと向ける。
若干どころか、かなり顔を紅くさせつつ、それでもはっきりとした声で言う。

「俺が好きなのは、ここに居るヴィータとシグナムだ」

恭也の言葉にFCたちが大声を上げる中、ヴィータとシグナムは最初、何を言われたのか分からずに、
ぽかんとした表情を浮かべる。
やがて、すぐに恭也の言った意味を理解すると、シグナムは途端に顔を紅くして俯き、
ヴィータは、何を今更と言いつつ腕を組んで横を向く。
ただ、その顔は首から耳まで真っ赤だった。
ようやく落ち着いた、いや、大人しくなった、どっちにせよ話をする間を見つけた恭也は、
簡単にこの状況を説明してやる。
ようやく合点が言ったのか、二人は素直に恭也へと謝罪を口にする。
こういう素直な所は二人の美点でもあり、好ましくもあり、恭也もすぐに二人を許す。
三人は何となく気恥ずかしげに視線を合わせては逸らすというような事をやっていたが、
そこへ沈んだ声が届く。

「そうなんですか。私だけ、私だけが除け者なんですね」

「「「シャ、シャマル!?」」」

おっとりとした感じの、これまた綺麗な金髪の女性、シャマルがその顔を悲しみに染めて三人を見る。

「い、いつから」

「いいんですよ、恭也。どうせ、私だけ除け者なんですから」

「誰も一言もそんな事を言ってないだろう。というか、分かっててやってるだろう、絶対。
 良いから、嘘泣きはやめろ。嘘と分かっていても、かなり堪えるんだから」

「嘘だなんて酷い。あなたまで、そんな事を」

人差し指で目元を拭いつつ、恨めしげに恭也を見上げる。
言葉に詰まり、恭也はシグナムやヴィータへと助けを求めるが、二人は視線を合わせようとしない。
仕方なく、恭也はシャマルへと向き直る。

「何を怒っているのか分からないけれど、本当にそれは止めてくれ」

「分からないんですか? 良いんです。どうせ、私だけ好かれていないんですから」

ようやく、シャマルが拗ねている理由に気付き、恭也はシャマルも抱き寄せる。

「その、悪かった。
 シャマルが居なかったから、言わなかっただけで、ちゃんとシャマルの事も好きだから」

「本当ですか?」

「ああ」

顔を紅くしつつも断言する恭也に、シャマルは柔らかな笑みを見せる。

「やっぱり、シャマルはその方が良い」

「それは、恭也次第ですよ。勿論、私だけじゃなくヴィータちゃんにとっても、シグナムにとっても」

「肝に命じておく」

「でしたら、もう少し言動に気を付けてくださいね」

「別に何も変な事はしていないんだが……」

「シャマル、恭也に言うだけ無駄だって事に、いい加減気付けって」

「そうだな。ヴィータの言う通りだ」

「やっぱり、そうなんでしょうね」

三人ともが納得する中、恭也は意味は分からないながらも馬鹿にされているような気がして憮然とした顔になる。
尤も、それに気付いたのは彼に親しい者だけだが。
当然、三人はその事に気付いており、その顔に笑みを浮かべる。
それを見て、益々憮然となる恭也だったが、幸せそうに笑う三人を見ていると、
それもまた小さな事と思えてきて、その顔にいつしか小さな笑みが浮かぶ。
腕の中に感じる三人の温もりに安堵を覚えつつ、少しだけ抱きしめる腕に力を込める。
それを自然に受け止めつつ、三人もやや遠慮がちに恭也へと腕を伸ばす。
言葉にされなくとも、この四人が互いを想い合っているという事が伝わってくるほど、
四人の顔は満ち足りており、それを包み込む空気もまた穏やかなものだった。
決して、間に入り込むことが出来ない、切ることの出来ない絆を感じさせるほど。
無言のまま立ち去る生徒たちに気付かず、四人はその絆を確認するかのように、
暫し柔らかな陽光を浴びながら、その場に佇むのだった。





<おわり>




<あとがき>

285万Hitリクエストです〜。
美姫 「くろねこさん、ありがとうございます」
今回も甘さは控えめ。
美姫 「かなり控えめね。ビター以上だわ」
だな。まあ、三人一緒という事で。
美姫 「一人ずつなら甘くなるの?」
それはその時にならんと分からんのだよ。
美姫 「やっぱりね〜」
しかし、そろそろ甘味分が不足しているかも……。
美姫 「次回辺り、久々に甘々?」
どうだろう。次は誰にするかもまだなのにな。
美姫 「っっ、アンタって、本当に馬鹿ね」
んな力いっぱい言わんでも。
美姫 「はいはい。リクエストありがとうございました〜」
って、さっきと別人みたいな対応。
美姫 「当たり前よ。それじゃあ、また次でね〜」
その優しさを一欠けらでも……。
美姫 「まったね〜」
やっぱり、無視なんですね……(泣







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