『An unexpected excuse』

    〜奏編〜






「俺が、好きなのは……」

『好きなのは?』

恭也の言葉をなぞるように、全員が同時に尋ね返す。
それに僅かに身を引きつつも、恭也はしっかりと答える。

「神宮司奏だ」

誰それという顔を見せる中、不意に声が聞こえてくる。

「まあ、それは嬉しいけれど照れるわね」

その言葉の主へと一斉に視線が飛ぶ。
それらの視線に気付いていないのか、その声の主は微笑みながらも頬を朱に染めてやや俯いていた。
一同が呆然と突然の乱入者を見る中、恭也は奏の傍まで近づく。

「どうして、奏がここに?」

「恭也に転校の件を伝えに来たのよ」

「転校? まさか、うちに来るのか?」

「何を言っているの? 恭也がうちに来るんでしょう?」

心底不思議そうに首を傾げて尋ね返してくる奏に、恭也は眩暈にも似たものを覚える。

「何がどうなって、そうなるんだ。
 第一、宮神学園は女子校だろう」

「言われてみればそうだったわね。でも、奈々穂と久遠さんが……」

「あの二人の仕業か」

奏から出た二人の名前に、恭也は額を押さえる。
それを心配する奏に小さく微笑み返しながら、恭也は慎重に言葉を発する。

「そうなった経緯……いや、それが決まる数日前の出来事で俺に関する話は何かなかったか」

尋ねる恭也に奏は少しだけ考え込むと、すぐに思い出したのか簡単に話し始める。
いつものように放課後にりのたちが話しているうちに、話が彼氏どうこうという話へと移ったのだとか。
れいん曰く、女子高の上、勉学に生徒会と忙しくてそんなの作る暇はないとか。
実際、生徒会メンバーに彼氏持ちは居ないという話に飛び、好きな人が居るのかという話に飛びそうになった時、
ぽつりと奏が恭也の存在を洩らしたらしい。
既に知っていた奈々穂や久遠、聖奈は兎も角、他の者たちがこれに食い付かないはずもなく、
気が付けば奏は恭也の事を色々と話す事になったらしい。
尤も、奈々穂辺りに言わせれば、楽しそうに話していたと言うだろうが。

「まあ、その辺りは良いとして、それがどうして転校に繋がるんだ」

「んー、多分だけれど……」

人差し指を立てて口元に当てる仕草をする奏を可愛いと思いつつ、恭也は続く言葉を待つ。

「りのが会えなくて寂しいですかって聞いてきたから、素直に答えたの。
 そしたら、角元さんが会えない間に恭也が浮気してたり、気持ちが冷めてるかもって言い出して……」

「そんな事はない!」

すぐさま力いっぱい否定する恭也に微笑み返しながら、奏は小さく頷く。

「勿論、信じているわ。だから、私もそう言ったのよ。
 そうしたら、今度は和泉さんが頻繁に会えなくても良いんですか、って。
 だから、長い間会えないのは困るわねって答えたのよ。そしたら、奈々穂が行き成り立ち上がって。
 皆を連れて何処かに行ってしまって。それでお終いよ」

そこまで話して、自分でもどうして転校という話になったのか分からずに首を傾げる奏に対し、
恭也は今ので完全に納得していた。

「どうせ、奈々穂が会長が困っているといって何かしたんだろうな」

その様子を容易く想像しながら苦笑する。
奏は一人分からずに未だに首を傾げたままだったが、不意に事の次第を理解する。

「恭也は何も聞いてなかったのね」

「ああ」

「そう。ごめんなさい。久遠さんたちが何かしたのね、きっと。
 私も嬉しくてつい、深く考えなかったわ。宮神学園は女子校だったわね。
 なのに、恭也が転校してくるという時点で気付くべきなのに」

寂しげに俯く奏の肩にそっと手を置き、恭也は元気付けるように声を掛ける。

「そう落ち込むな。俺が逆の立場だったら、同じ事になっていたと思うし……。
 それに、折角、奈々穂たちが気遣ってくれたんだ。その言葉に甘えてみるのも悪くないかもな」

「えっ?」

その言葉に奏が驚いて顔を上げると、そこには小さく笑う恭也の顔があった。
思ったよりも近くで恭也の顔を見上げている事にやや照れつつ、奏は遠慮がちに小さく呟く。

「本当に?」

「ああ。俺だって、毎日でも会いたかったし」

照れて徐々に小さくなるが、奏ははっきりとその言葉を耳にして嬉しそうな顔を見せる。
遠慮がちに肩に置かれた恭也の腕、その服の袖を指先で摘みながらはにかむ。

「嬉しい……」

思わず抱きしめそうになるも、何とかそれを堪えつつ背後を振り返る。
改めて奏を紹介しようとした恭也だったが、既に悪友の気遣いによりそこには誰もいなかった。
その気遣いに感謝しつつ、恭也は遠慮がちに奏へと腕を伸ばして抱き寄せる。
奏もおずおずと腕を恭也へと回すと胸に顔を埋めて瞳を閉じる。
恭也の温もりを逃がさないように、ぎゅっと抱きしめた腕に力が篭る。
同じく、恭也の腕にも力が入る。
遠くに学生たちの喧騒を聞きながら、二人は暫くそうしていた。





<おわり>




<あとがき>

長らくお待たせしました。
真下 烈さんからの310万Hitリクエスト〜!
美姫 「本当に待たせたわね」
すいません〜。
美姫 「しかも、短いし」
ぐっ!
美姫 「甘さは控えめね」
まあ、奏ならこれぐらいかなと。
美姫 「ともあれ、リクエストありがと〜」
ございました。
美姫 「それでは、また次で」
次は誰にしようかな〜。







ご意見、ご感想は掲示板かメールでお願いします。



二次創作の部屋へ戻る

SSのトップへ