『An unexpected excuse』

    〜バゼット編〜






「俺が、好きなのは……」

シンと静まりかえる中庭に、恭也の静かな声のみが響く。

「バゼットさんだ。バゼット・フラガ・マクレミッツ」

恭也がそう言いきった時、背後からやや戸惑うような気配が生じる。

「コホンッ。
 恭也君、その、はっきりとそう言ってくれるのは嬉しいんですが、流石に照れますね」

右手を口元に当て、僅かに頬を染めたスーツに身を包んだ長身の女性が立っていた。
恭也もそれに気付き、彼女の言葉から自分が言った事を聞かれていたと知って顔を紅くする。
言葉もなく立ち尽くす二人に、忍が呆れたように肩を竦めて見せる。

「何を今更照れてるのよ」

美由希たちはバゼットの事を知っているのか、忍の言葉に一様に同意するように頷いている。
それを恨めしげに見ながら、恭也は照れを誤魔化すように咳払いをする。

「それで、どうだったんですか」

「ああ、はい。とりあえず、英語の教師として雇ってもらえる事になりました。
 正確には教師ではなく、アシスタントのようなものですが」

「まあ何はともあれ、それは良かったです。おめでとうございます」

「ありがとう。それよりも、その口調に呼び方。
 いつも通りで構いませんよ」

「そうですか? 一応、学校内ではこちらの方がいいと思ったので、そうしたんですが」

そう答えている間にも、バゼットは睨むように恭也を見る。
それに苦笑を返しつつ、恭也は普段のように話し掛ける。

「それよりも、本当に大丈夫なのか。
 バゼットは結構、不器用だからな。幾ら、教師のサポートをするだけとはいえ」

恭也は少しだけ感じていた不安を口にするが、バゼットは笑み一つで返す。

「問題ありません。今回の仕事は、英語の正しい発音をするだけらしいですから。
 これなら、今までのような失敗は、ええ、しませんとも」

「だが、前に人にものを教えるのは苦手だと……」

「確かに。私は口よりも先に手が出ますから。
 ですが、先程も申したように、今回は教師の人に付いて行くだけ。
 教えるのはその教師です。
 私はただ、隅の方でじっとしていて、求められた時のみ発音するという事ですから」

そのじっとが耐えれるのかという不安を感じるのだが、それは口にしないでおく。
だが、同じように不安を感じたのか、美由希がそれを口にしてしまう。
怒るかと思ったが、冷静にバゼットは返す。

「勿論、その辺りも考えてます。まあ、多少は我慢もしましょう。
 恭也君の近くという、これ以上はない職場ですから」

バゼットの言葉に忍たちが囃し立てる中、バゼットは顔を紅くして早口で捲くし立てる。

「忍、勘違いをされては困ります。
 私はただ、何かあれば助けてもらえるであろうと……」

「はいはい。つまり、愛しいあの人の傍に、って訳ね」

「ちっとも分かってませんね!」

「それじゃあ、そんな気はなかったんですか?」

忍へと反撃する隙に、今度は那美が本人は無自覚のまま口にした言葉に、バゼットは言葉に詰まる。

「そ、それは……。ま、全くないとは言えませんが」

急にしどろもどろになるバゼットを背に庇いつつ、恭也が忍たちに向かって口を開く。

「お前らもその辺にしておけ。
 それと、もう良いかな?」

前半は忍たちへと向け、後半はまだここにいたFCたちへと投げる。
それを受けてFCたちも我に返ったかのように頷くと、この場を去って行く。
その背中を見遣りつつ、恭也はほっと一息入れるように息を吐き出す。

「お疲れさまでした、恭也君」

「ああ、何かよく分からないが、どっと疲れた」

首を回しながら答える恭也の背後に立つと、バゼットは恭也の肩に手を置く。

「では、私が肩でも揉んで上げましょう」

良いながら既に肩を揉み始めているバゼットに少しだけ苦笑しつつも、気持ちよさからされるがままになる。
そんな恭也たちの様子に肩を竦めつつ、忍たちも立ち去る。
残された二人はそんな事など気にせずに暫くはそうしていたが、
不意にバゼットが恭也の頭を掴んで後ろへと倒し、自身の太腿へと置く。

「バゼット?」

「たまには、こういうのも良いのではないかと」

照れて微妙に視線を逸らしながら告げるバゼットの顔を下から見上げながら、
恭也は何も言わずに静かに目を閉じる。
そんな恭也の髪に最初は遠慮がちに触れ、恭也が何も抵抗しないのを見ると、
今度ははっきりと、けれど乱雑ではなく優しく撫でる。
そんな二人を見咎めるものなど、ここには何もなかった。





<おわり>




<あとがき>

ってな訳で、今回はFateの……。
美姫 「hollowからバゼットね」
ようやく、だな。
美姫 「書く、書くと言ってて結構、遅かったわね」
確かに。
だが、まあこうして無事に書き終えた訳だ。
美姫 「今回はどっちかというと、恭也が甘えるような感じかしら」
のつもりだったんだが、少し足りないな。
美姫 「アンタの力不足ね」
そのとおりだ!
美姫 「って、開き直り?」
まあまあ。それじゃあ、また次回で。
美姫 「はぁ〜。もう何も言う気が起きないわ。
    それじゃあ、また次回でね〜」







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