『An unexpected excuse』

    〜白黒ネコ編〜






「俺が、好きなのは…………」

恭也の口からいよいよその名が明かされようとする。
が、まるでそれを邪魔するかのように、頭上の木々がざわざわと揺れる。
忌々しそうに全員が思わず見上げるも、
特に風が吹いた訳でもないのに未だに揺れている枝に怪訝な目を向ける。
と、不意に一陣の風が吹き、枝を大きく揺れさせる。
幾枚もの葉が舞い落ちる中、そこから二つの影が躍り出る。
二つの影はきっちりと正確に恭也の頭上へと落ちていき、
それを悟っていた恭也は既に受け止める態勢を整えていた。
真っ直ぐに降下してきた割には、恭也の伸ばした手を空中で取った影は、
まさにふわりと形容するのが相応しいほどにゆっくりと恭也の腕の中へと納まる。
そして、そのまま恭也に抱かれる形で腕に腰を乗せて、首へと腕を回す。
まるで鏡に映したかのように、全く同じ顔に背丈をした二人の少女は、まったく同じ格好で恭也を見上げる。
唯一の違いと言えば、その髪の色にそこに着けられた大き目のリボン。
そして、着ている服である。一人は白い服を、もう一人は対照的に黒い服を着ている。
突然の闖入者に驚く一同の中、恭也は顔見知りらしく左右の腕に乗せた少女へと笑い掛ける。

「二人とも、前にも言っただろう。
 危ないんだから、こういう事をしないようにって」

恭也の言葉に黒い服の少女はじっと恭也を見詰める。
それだけで言いたい事を悟ったのか、恭也は小さく頷く。

「そうか。レンが飛び降りようと言ったんだな」

「あー、私一人の所為にする気! 貴女だって飛び降りたんだから、同罪じゃない」

「こら、レン。レンに噛み付くな。
 少しは反省しろ」

「むー。また恭也ってば、その子を庇う。良いわよ。
 どうせ私なんて、誰からも必要とされないんだもん」

ポツリと呟いた白い少女、白レンの言葉に恭也が少し怒ったようにきつい口調で言う。

「レン。前にも言ったが、そんな事を言うんじゃない」

「ご、ごめんなさい」

「俺もレンもお前を必要としているだろう。それじゃあ、駄目なのか」

「ううん。それで充分よ」

恭也に怒られて素直に謝ると、その後の言葉に笑みを見せて応える。
そんな白レンの頭を撫でようとするも、二人を抱えていてそれが出来ない。
それに気付いた白レンだったが、頭を撫でられる事とこのまま抱かれる事を秤に掛け……。
白レンと黒レンは顔を見合わせて小さく頷き合うと、そのまま恭也の膝へと足を掛ける。
結果、恭也はその場に座り込む事になり、二人のレンは恭也の腕から腿へと乗り移る。
ようやく開いた腕で後ろに手を付いて倒れるまでは防いだ恭也の顔を、
二人のレンが期待の篭った眼差しでじっと見詰める。
その視線の意味するところを悟り、恭也は小さく嘆息すると、二人の頭を撫でてやる。
それに満足げな笑みを見せる二人を眺め、恭也もまた微笑を見せる。
事ここに至り、ようやく美由希たちも我に返ると恭也へと詰め寄る。

「恭ちゃん、その子たちは。
 それに、レンって」

「ん? ああ、蓮飛もレンだったな」

居候の一人である蓮飛へと視線を向けつつ、恭也は二人の頭を撫でたまま紹介する。

「こっちがレン。で、こっちがレンだ」

「えっと、恭也? 二人とも同じ名前って事」

「ああ、そうだぞ」

忍の問いかけにさも当然と答える恭也だったが、他の者はややこしいと言わんばかりに苗字を訪ねる。
だが、恭也はそれに首を傾げる。

「同じ名前かもしれんが、微妙に違うだろう。
 こっちがレンで、こっちがレンだ」

「えっと、恭ちゃんにしか分からないと思うんだけれど……」

「そんな事はないぞ。二人もちゃんと分かっている。
 なあ、レン、レン」

恭也の言葉に白黒二人は全く同じ感じで頷く。
実際、この三人でいる時にレンと呼ばれても、二人とも何となくだが、どっちが呼ばれているのか分かるのだ。
最も、恭也以外が呼んだ場合は区別が付かないようだが。
ともあれ、美由希たちは困惑した顔を見せる。
それに助け舟を出すため、というよりも、
このままでは万が一にも呼ばれた時に自分たちが分からない為、白レンが口を挟む。

「私を白、あの子を黒と呼べば良いわ」

「そ、そんな区別の仕方って……」

「当人が良いって言っているんだから良いでしょう。
 ……うん。私の名前は白 レンっていうのよ。
 で、あの子が黒 レン。つまり、それが名前なの」

いかにも今付けたという感じだったが、当人が言っている以上、美由希たちは何も言えずに了承する。
と、ここでようやく忍が本題へと話を戻す。

「それは置いておくとして、さっきの質問の答えをまだ聞いてないんだけれど」

それに恭也が答えるよりも早く、白レンが先に口を開く。

「全く鈍いわね。それとも、わざと気付かない振りをしているのかしら?
 恭也が何の関係もない女の子にこんな事を許すと思うの?」

言って抱き付いている首へと回した腕に力を込め、自分の頬を恭也の頬に擦り合わせる。
その様子に言葉を無くす忍に代わり、美由希が反論する。

「でも、相手が子供なら……」

「あら、随分な言いようね。
 こう見えても、私もあの子も貴方たちよりも年上なのよ。
 でも、まあ、確かに恭也なら妹にはこれぐらいはするかもしれないわね。
 なら……」

細めた瞳を怪しく輝かせると、白レンは恭也の頬をぺろりと舐める。

「ふふ、これならどう? それとも、まだ分からないのかしら?」

言ってその姿とは裏腹に妖艶に笑う白レンに対し、黒レンが拗ねたように睨み付ける。

「そんなに羨ましいんだったら、貴方もすれば良いでしょう」

白レンにそう言われ、コクコクと頷くと黒レンも同じように逆の頬を舐める。
そのまま嬉しそうに首筋に鼻先を擦りつける黒レンに対抗するように、白レンも同じような事をする。
既に美由希たちへと説明するのは終わりと自分で決めたのか、そちらは一向に見向きもせずに。
恭也はくすぐったそうに身を軽く捻っただけで、二人を引き離そうともせず、されるがままになっている
そんな三人の仕草を呆然と見ていた美由希たちの視線は、自然と恭也へと向かう。

「えっと、まあそういう事だ。この二人が俺の好きな子だ」

改めて言われた恭也の言葉に、二人のレンは嬉しそうに目を細めて強く抱き付く。
そんな二人に苦笑しながらも、恭也は優しく、優しく二人の頭を撫でる。
そのまるで一枚の絵にも見える光景に、美由希たちは思わず見惚れ、
三人の絆の強さを見せられた気がして、邪魔しないようにと立ち去るのだった。
誰も居なくなった中庭で、白レンは一連の出来事を聞いていて、
すぐ自分の名前を出さなかった恭也に文句を言おうと思っていた事を言うが、
恭也が謝る前に許してあげると笑顔で告げる。
見れば、黒レンも同じだと頷いていた。
そんな二人の髪を撫でながら、恭也は二人の頬に軽く口付けると、
二人の頭をそっと抱き寄せて、その耳元へと小さく囁く。
愛しい人たちへと、自分の想いを伝える言葉を。





<おわり>




<あとがき>

320万Hitで、ヒストリーさんのリクエスト〜。
美姫 「久しぶりよね、月姫は」
うん。今回は、白レンと黒レンです。
美姫 「二人一緒ね」
仲の良い姉妹みたいな感じで。
こんな感じに仕上がりました〜。
美姫 「それじゃあ、また次でね」
ではでは。







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