『An unexpected excuse』

    〜エルダー編〜






「俺が、好きなのは…………」

「あら、楽しそうな事をなさってますね、恭也さん」

「み、瑞穂。どうしてここに!?」

「あら、私がいると何か困ることでも」

「あ、いや、何でもないんだが」

「ふーん、何でもない、ですか」

瑞穂と呼ばれた女性は恭也の後ろにいるFCたちをぐるりと見渡すと、恭也へと微笑を見せる。
それに僅かばかりの焦りを滲ませ、恭也は口を開く。

「で、出来ればこの事は紫苑さんたちには黙っていて……」

「あら、それはもう遅いですわ」

ねえ、と言って後ろを振り向くと、そこには新たな二人の女性がいた。
一人は長身に長い黒髪をしたお嬢さま然とした態度を見せる。
もう一人は、まるでぬいぐるみのような愛らしさを見せる、髪にピンクのリボンをした少女。
黒髪の女性はその顔に笑みを浮かべて見せ、リボンをした少女はその目に涙を湛えて。

「し、紫苑さんに、奏っ! ち、違う、誤解だから」

「うぅぅ。恭也さん、酷すぎるのですよ〜」

「本当に、そんな人だったなんて……」

二人の女性にそう言われて慌てる恭也。
その様子をおかしげに眺めると、紫苑と呼ばれた髪の長い女性は小さく笑う。

「冗談ですよ。恭也さんがそんな人ではない事ぐらい、ちゃんと分かってますから」

「へっ!? 紫苑お姉さま、冗談なのですか」

「ええそうよ。ごめんなさいね奏ちゃん。
 だって、恭也さんが慌てるのが楽しくてつい。それによく考えてみて。
 恭也さんがそんな事をする人だと思う?」

「かなは思わないです。恭也さんはいつもかなを助けてくれました!」

「でしょう」

紫苑と奏(かな)のやり取りを聞いてほっと胸を撫で下ろす恭也と違い、
瑞穂は苦笑を見せる。

「どんな人かどうかは兎も角、恋人が二人という時点で普通ではないと思うんですけれどね」

「あら、そう言われてみればそうですわね」

「でも、それでも良いと言ったのはかなたちですし」

「誤解しないでね、奏ちゃん。私は別に責めている訳じゃないのよ。
 二人が幸せなら、それで良いの。そして、二人は今、本当に幸せそうに見えるわ」

瑞穂の言葉に紫苑と奏の二人は勿論です、と答えている。
一方、急に静かになった忍たちを不審に思い恭也が見れば、全員が言葉を無くしていた。
何故そんな事になっているのか考え、すぐに答えが見つかる。
さっきの瑞穂の言葉だろう。
まあ、自分で言うつもりだったから構わないと言えば構わないのだが。
だが、ここまで驚かなくても良いのではと思ってしまう。
興味本位で聞いておきながら、恋人が居ると知って驚くとは。
まあ、確かに自分なんかにそんな人が居るなんて誰も思わない上に、
その相手がこんなに綺麗な人たちでは驚くなという方が無理なのかもしれないが。
そんな事を考えている恭也を見て、紫苑と奏で顔を見合わせる。

「何となくだけれど、恭也さんの考えている事が分かるわ」

「かなにも分かるのですよ。きっと、また自分の事を過小評価されているのではないかと……」

「この場合、驚かれているのは恋人が二人って所に気付いてますか、恭也さん」

瑞穂に言われ、ようやく恭也が皆が驚いている理由に納得する。
確かに、それはおかしな事であり、自分も他人から聞かされたら驚くだろう。
ただ、その事に慣れてしまっていた所為で、そこに驚かれていると考えが及ばなかったが。

「それはそれで、とても恭也さんらしいと思うのですよ」

奏の慰めにもならない慰めに一応、礼を言っておく。
と、不意に思い出したように尋ねる。

「それはそうと、どうして二人ともここに?」

「あの、私も居るんですけれど」

恭也の言葉に苦笑しながら瑞穂が尋ね、恭也は短く謝ると紫苑と奏の二人に視線を戻す。
それを受けて、紫苑がそっと奏の背中を押す。

「じ、実は恭也さんにお願いがあって来たのです」

「お願い? 別に良いが、何を?」

「実は、かなの卒業式に来て欲しいのですよ」

「ああ、そういう事か。まあ別に構わないが。
 うちの方が卒業式は先だしな」

「私たちも式が終わる頃には行きますから」

「ん? 紫苑さんたちは式には出ないのですか」

「ええ。ほら、卒業式をする講堂は狭いですから」

「そうですか。それにしても、保護者ではない俺が参加しても良いのでしょうか」

「良いんじゃないですか。それにエルダーの彼氏として参加されれば、かなり話題になるかと」

「いや、話題にされたくはないんだが」

笑いながら言う瑞穂に、恭也は少し疲れたような顔をして返す。
だが、電話でも済みそうな事を言う為にわざわざ来てくれたという事は嬉しいのか、
恭也は奏と紫苑に礼を言って笑いかける。
その笑顔に頬を染めつつ、二人は恭也の手を取る。

「良いんですよ、恭也さんお礼なんて。それはただの口実なんですから」

「そうなのです。本当は会いたかっただけなんです」

取った手を頬に当てて恭也のごつごつした掌の感触を楽しんだ後、二人はそのまま恭也の腕を取る。
二人の女性に挟まれてて恭也は照れたように顔を赤くする。

「二人のエルダーを両隣になんて、正に両手に花ですね、恭也さん」

「いや、それは否定しないが。流石に照れるな」

「あっ、やっぱり否定はしないんだ」

「良いじゃありませんか。どうせ、誰も見ていらっしゃらないのですから」

呆れたように呟く瑞穂と、笑顔で言う紫苑。
その言葉通り、既に誰も居なくなっていた中庭で、恭也はエルダー二人に挟まれる。
いや、正確には紫苑は元エルダーになるのだが。
そんな三人から少し離れ、瑞穂は優しい眼差しで見詰める。
その視線の中、紫苑が何か思いついたような顔になるのを、瑞穂だけは見逃さなかった。
紫苑は恭也と腕を組んだまま、肩にそっと空いた手を置いて恭也を屈ませる。
背の低い奏に合わせるように恭也を屈ませて自分も屈むと、優しく微笑む。

「花には甘い蜜が付きものですわね」

言って目を細める紫苑を見て、奏もすぐにその意図を察する。
二人は同時に恭也の頬へと優しくキスをする。
恭也は目を白黒させるが、すぐに小さく笑みを零すと、二輪の可憐な花へとお返しをする。

「まあっ♪」

「えへへ♪」

唇を軽く押さえながら、嬉しそうな笑みを零す二人を愛しそうに、優しい眼差しで恭也は見詰める。
瑞穂は一人、完全に蚊帳の外に置かれて、声を掛ける事も出来ずに所在なげに立ち尽くす。
そんな瑞穂に気付きもせず、三人はその場で楽しそうに笑い合っていた。





<おわり>




<あとがき>

という訳で、今回はエルダー編
美姫 「さて、何人の人が瑞穂と紫苑だと思ったかしらね」
いや、いないだろう。だって、瑞穂は男だし。
美姫 「じゃあ、逆に奏ちゃんだと予想できた人はいるかしら」
うーん、そっちは居るんじゃないかな。
美姫 「面白くないわね」
いや、そんな事を言われましても……。
美姫 「まあ、良いわ。で、次は誰よ」
うーん、誰にしようかな〜。
美姫 「さっさと書きなさいよ」
分かってるよ……。
美姫 「それじゃあ、また次回でね〜」
ではでは。







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