『An unexpected excuse』
〜瑞穂編〜
「俺が、好きなのは…………」
「随分と楽しそうですね」
突然聞こえた声に振り向けば、そこには一人の女性が佇んでいた。
知らず誰ともなく感嘆の吐息が零れる程に美しく、たおやかな女性が。
その顔を見て、恭也は驚いた顔を見せる。
「瑞穂、これは……」
何か言おうとする恭也の唇を人差し指を立てて塞ぐ。
「やましい事がないのでしたら、あまり喋る必要はないですよ。
多くの言葉を紡げば、逆に言い訳に聞こえてしまいます。
それで、これはどういう事態なのですか」
ゆっくりと恭也が落ち着くだけの時間を与えてから静かに尋ねる瑞穂に、
恭也はここでの出来事を簡潔に答える。
それを静かに聞いていた瑞穂は、小さく笑みを零す。
「そういう事だったんですね。納得しました。
それにしても、本当に人気があるようですね」
「いや、単にからかわれているだけだと思うがな。
それに、人気と言うのならエルダーである瑞穂の方があるだろう」
「それだけは、今もって不思議なんですけれどね。
でも、選んでいただいた以上、期待に応えるように頑張らないと」
「そうか。で、今日はどうしたんだ」
「ああ、そうでした。例の件をお伝えしようと。
流石に電話で済ますわけにもいきませんし。それで、昼休みなら大丈夫かと思って来たんですが」
「来たって、学院の方は」
「今日は家の用事でお休みを貰ってますから。
でなければ、例の件は解決してませんよ」
言って微笑む瑞穂に、恭也は納得したように頷く。
「しかし、それにしては早いような気もするが」
「あら、昨日は日曜日ですよ。週末から実家に帰ってたんですよ」
そういう事かと頷く恭也に、込み入った話だと理解しつつも忍が口を挟んでくる。
「あのー、恭也? そちらは……」
「ああ、こちらは……」
言って恭也が瑞穂を見ると、瑞穂は小さく頷いて応える。
それで伝えたい事を理解し、恭也は瑞穂を紹介する。
「宮小路瑞穂と申します。恭也さんとは……」
ちらりと恭也を見て頬を染める。
それを受けて、恭也が続く言葉を口にする。
「付き合っている」
その言葉が全員に届くと、恭也は続けて言う。
「悪いが、ちょっと込み入った話があるんで悪いが……」
恭也の言いたい事を察した忍たちは揃ってこの場を後にする。
全員が立ち去ったのを確認すると、恭也と瑞穂の二人は念のためと奥まった場所まで移動する。
辺りに人が居ない事を再度確認し、恭也が口を開く。
「それで、どうだった」
「うん。最初、お父様も驚いてたけれど、
楓さんに僕の身体を確認してもらってそれを伝えたら信じてくれた」
「そうか。だが、まあ普通は信じられんような事だしな」
「だよね。まさか、一子ちゃんが成仏する際に、僕に取り付いてから成仏するなんて。
しかも、その影響で僕……、私が女性になったまま戻らなくなるなんて」
「まあ、結果として良かったと言うべきか」
「ええ、それはそうなんですけれど。まさか、恭也さんとこういう関係になるとは思ってませんでしたし。
そういう意味では、一子ちゃんには感謝してます」
言って柔らかく笑う瑞穂に、恭也も小さく笑みを返す。
しかし、瑞穂は顔を曇らせると不安げな声を出す。
「でも、本当に良いんですか。私……いえ、僕は男ですよ」
「元でしょう。今はちゃんと女性じゃないですか。
それに、男だから女だから好きになったんじゃなくて、瑞穂だったから好きになったんです。
そういう瑞穂こそ、良いのか」
「私の方も同じですよ。恭也さんだから……。
一子ちゃんのお陰で女の子になった所為か、考え方や感覚まで女の子になってしまったみたいで。
今では全く抵抗がないわ」
「それは、最初の頃はあったという事か」
「もう、意地悪ですね」
ようやく瑞穂らしい笑みが零れ、恭也も小さく笑う。
「でも、何かすっきりしました。これからも宜しくお願いしますね、恭也さん」
そう言ってまたしても笑う瑞穂の笑みに照れながら、恭也はしっかりと頷くのだった。
<おわり>
<あとがき>
という訳で、短いけれど要望の多かった瑞穂編〜
美姫 「あーあ、やっちゃったわね」
ああ、やったとも。
やはり、要望が多かったからな。
でも、ちゃんと完全な女性になってるし。
美姫 「かなり、無茶苦茶な設定だけれどね」
まあ、そこは笑って見逃してくれ。
美姫 「私に言われてもね」
まあ、そうなんだがな。
兎にも角にも、やり遂げたぞ俺!
素晴らしいぞ、俺!
美姫 「いや、自分で自分を褒めないでよね」
いや、反応が怖いからな。
とりあえず、自分だけでも褒めておこうと。
美姫 「む、虚しい奴ね」
ほっとけ。
美姫 「まあ、私には関係ないから良いわ」
だろうな。まあ、これはこれで良いとして、次はどうしようかな。
美姫 「次が決まるまで、どれぐらいかかるかしらね」
まあ、出来るだけ頑張ります。
美姫 「それじゃ〜ね〜」
ではでは。
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