『An unexpected excuse』

    〜秋葉編〜






「俺が、好きなのは…………」

『好きなのは?』

「あー、言っても誰も知らないと思うんだが……」

『それでも知りたいんです!』

「そ、そうか。遠野秋葉と言うんだが……」

『とおのあきは……さん?』

FCの女子生徒たちの殆どがは揃って首を傾げる。

「だから、知らないと言っただろう」

恭也の言葉に、美由希たちが尋ねる。

「恭ちゃん、一体誰?」

「私たちの知らない間に、女の人と出会っているなんて」

「あ、あのー」

恭也たちの会話へと遠慮がちな声が掛かり、一斉にそちらを見る。
その女子生徒は少し尻込みしながらも、恭也に話し掛ける。
心なしかその顔は少し赤くなっていた。

「何か?」

「あ、はい。遠野秋葉さんって、綺麗な黒髪でロングヘアーの方ですか?」

「ええ、そうですが。何故、あなたがそれを?」

「実は……」

その彼女が口を開こうとした時、校舎から大勢の生徒が中庭へとやって来る。

「何あれ?」

「さあ、何でしょうか?」

「おい、おサルちょっと、見て来い」

「お前が行け!」

晶とレンの喧嘩を止めながら、恭也もその人だかりを眺める。

「食後の運動でもするんじゃないのか?」

「そうかも。全員男子みたいだし」

恭也がそんな事を話している間にも、その群れは恭也たちの方へと向って来る。
そして、茫然と眺める恭也たちの前まで来ると、ぴたりと止まる。
すると、そのうちの一人が口を開く。

「こちらになりますです」

どこか緊張した声でおかしな言葉を使う。
すると、その声に合わせたかのように、男子生徒の人並が綺麗に二つに分かれていく。
そして、その中心から一人の女子生徒の小さい声が響く。
その声は人に命じる事に慣れている事を感じさせるのに、不快感といったものを感じさせないものだった。
その声の主は割れた人並みの中を優雅に歩きながら恭也の元へとやって来ると、これまた優雅な仕草で挨拶をする。

「お久しぶりですね、恭也さん」

「あ、ああ。………………って、何で秋葉がここに!?」

少し慌てたように言う恭也に対し、秋葉はまるで天気の話をするかのように、何でもないといった感じで答える。

「私、転校してきたんです」

「ああ、転校してきたのか……って、転校!?」

「はい」

驚きの表情を浮かべる恭也に対し、那美は何か思い当たったのか声を上げる。

「ああ、そう言えば、今日2年生に美人の転校生が来たって噂になってたような……。
 そうか、彼女がその転校生だったんですね」

「そう言えば、男子がそんな事を言ってた様な気が……」

美由希も那美の言葉に、思い当たる節があるのか頷く。
噂に疎く、午前中を殆ど寝て過ごしていた恭也はそうだったのかと納得顔になる。
そこへ、忍が声を掛ける。

「という事は、恭也が言ってた好きな人って……、彼女?」

忍の言葉に、女子からは諦めにも似た溜め息が漏れ、男子からは殺気が迸る。

「あぁ〜、恭也さんの好きな人がこんなに綺麗な人だったら、私たちはもう諦めるしか……」

「こいつ、秋葉様と知り合いというだけでなく、好意を持っているだと!恐れ多い奴め」

「…………美由希、忍、二人とも何を言ってるんだ?」

「え、あ、あはははは」

「何って、ここにいる女子生徒の心の声と、」

笑って誤魔化そうとする美由希を指差しながら、忍はそう言って言葉を切ると、今度は自分を指差す。

「恭也に向けられている男子生徒の視線の意味を通訳」

「何を訳の分からん事を」

「何を言うかなー。鈍感な恭也のためにしてあげたのに」

「分かった。分かったから少し黙ってろ」

「ぶ〜。折角の人の親切を。……それよりも、秋葉さんの方は良いの?」

忍の言葉に秋葉の方を見る恭也。
すると、秋葉は頬を染め俯いている。

「秋葉、どうかしたのか?」

「い、いえ、何でもありません」

何でもなくはない様子でそう言う秋葉に首を傾げるが、とりあえず何も言わずに頷く。

「そ、それよりさっきそちらの方が言っていた事はどういう事ですか?」

そう言って忍を見る秋葉。

「さっき言ってた事?」

「ええ、きょ、恭也さんがわ、私を…………そ、その、す、好きだとかなんとか…………

「あ、ああ。まあ、なんだ」

妙に歯切れの悪い恭也に代わり、忍が口を挟む。

「お、おい」

「良いから、恭也は黙ってなさいって。あ、私は月村忍。忍で良いわよ」

「それはどうも。私は遠野秋葉です。秋葉で構いません」

「OK、OK.じゃあ、私が説明をしてあげるわ、秋葉さん」

恭也に代わって忍が説明をしていく。
それが進むに連れ、恭也と秋葉の顔が赤くなっていく。

「……と、言う訳なのよ」

ひとしきり忍の説明が済むと、秋葉は恥ずかしそうにもじもじとする。
恭也も居心地が悪そうにソワソワとする。
そんな二人を面白そうに眺めていた忍の視線に耐えれなくなったのか、
誤魔化すように恭也は、ふと気になったことを秋葉へと尋ねる。

「そう言えば、何故秋葉は転校してきたんだ?」

「そ、それは……、そ、その、恭也さんに会いたくて……」

秋葉の言葉に恭也は顔を赤くし、嬉しさと困惑が混ざったような複雑な表情をする。

「そ、そんな理由で転校するとは……」

恭也は単純に驚き、そう呟く。
だが、この恭也の何気ない一言に秋葉は過剰なまでに反応する。

「そんな理由って何ですか!私にとってはとても大事な事なんですから。
 そりゃあ、毎日こんなに綺麗な人たちに囲まれて、鼻の下を伸ばしている恭也さんには分からないでしょうけど。
 あれから、連絡すると言っておいて、全然連絡をくれないし……。
 ひょっとして、もう私の事なんか忘れてるんじゃないかって……。不安だったんですからっ!」

そう叫ぶ秋葉の目尻に一粒の雫が零れる。
秋葉はそれを見られまいと手を目元へと持っていくが、その手を恭也に掴まれる。

「な、何するんです……んんっ」

腕を引っ張られ、そのまま唇を塞がれる。
最初は驚きで目を見開き、振りほどこうとした秋葉だったが、徐々に目を閉じると、恭也に身を任せる。
やがて、ゆっくりと唇を離すと恭也は秋葉を抱きしめる。

「すまない。別にそういう意味で言ったつもりじゃなかったんだ。
 その、連絡をしなかった事は謝る。それと、鼻の下なんか伸ばしてはいない。
 俺には、秋葉だけだから」

恭也の台詞に秋葉は何も言わず、ただ強く抱きしめる。
それで恭也も分かったのか、秋葉を優しく包み込むように抱き込む。
そこへ、わざとらしい声が聞こえてくる。

「ちょっと美由希ちゃん、聞きましたか?」

「ええ、聞きましたとも。さらに、見てしまいましたわ。ねえ、那美さん」

「ええ。完全にお二人の世界って感じですね」

「師匠たち、完全に俺たちの事を忘れてましたね」

「いや〜、お師匠がまさかここまでするとは……」

美由希たちの言葉に、恭也は秋葉にキスした時、甲高い悲鳴と低く響くどよめきがしたような気がした事を思い出す。
そして、慌てて離れようとするが、秋葉が背に回した腕に力を込めて離さない。

「あ、秋葉。ちょっと離してくれ」

「嫌です」

「な、何故」

「だ、だって、こ、こんな顔を他の方にお見せするのは……。
 そ、それにもう少しこうしていたいんです。久々に感じる恭也さんの温もりを……」

後半は恭也にだけ聞こえる程度の声でそう言うと、秋葉は恭也の胸に顔を埋める。
恭也はその顔をちらりと見る。
秋葉は恥ずかしさのため、かなり真っ赤になっており、その照れている姿がとても可愛らしかった。
恭也は片手秋葉の頭に手を置き、自らの胸に押し付けるようにし、残る手で背中を抱き、引き寄せると、
自分の背中を美由希たちに向ける。

「恭也さん……?」

恭也の行動を不思議に思い、胸の中で首を傾げてみせる秋葉。
そんな仕草一つを取っても、恭也には愛しく感じられ、抱く手に知らず力が入る。
それを心地良く感じながら、秋葉は目をそっと閉じる。
そんな秋葉の耳元に口を寄せ、恭也は小声で話す。

「俺も秋葉のそんな可愛い顔を他の奴には見せたくない」

照れながらもはっきりと言う恭也に秋葉は少し涙ぐむ。
それを勘違いした恭也は少し慌てたように、

「すまない。少し力が強過ぎたか?」

そう尋ねてくる恭也に首を横に振ると、

「違います。でも、恭也さんの所為なのは確かですね」

「すまない。何か悪かったのか。許してくれ。何でもするから」

「いいえ。さっきの言葉が嬉しかっただけです」

秋葉の言葉にほっと胸を撫で下ろす恭也だったが、続く秋葉の言葉に身構える。

「でも、何でもすると言われるのでしたら、折角ですから一つだけお願いします」

「…………お手柔らかに頼む」

「そうですね。では、これからはずっと一緒にいて下さい」

「……そんな事なら、お安い御用さ」

恭也は秋葉の頭に置いていた手で、そっと髪を梳くように撫で上げる。
既に恭也の背後からは人の気配がなくなっていた。
気を利かした忍たちのおかげだろう。
恭也は心の中で忍たちに礼を言うと、秋葉の頤に手を当て、顔を上げさせると、その小さな蕾にそっと口付けた。





おわり




<あとがき>

って、事で秋葉編です〜。
美姫 「初のとらハ以外のヒロイン。果たして、こんな事をして大丈夫なのか?」
大丈夫でしょ。
美姫 「いや、私が言ってるのは、他のヒロインで書かないといけなくなるって事よ?」
はははは。多分、大丈夫だと思うぞ。まあ、基本はとらハのヒロインで今までと同じだから。
美姫 「そうよね。今回はたまたま思いついたって所だしね」
うんうん。そういう事ですよ。
さて、そろそろ歌姫か女医さんを出したい所だけど……。
美姫 「他にも出したいのがいるのね」
うん、そうなんだよ。まあ、次は誰が出るかはお楽しみに……って事で。
美姫 「今回は、はい、ここま〜で〜よ〜♪」





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