『An unexpected excuse』

    〜小鳥編〜






「俺が、好きなのは…………」

『好きなのは?』

詰め寄るFCたちの迫力に恭也は溜め息を吐くと、諦めたのか重い口を開く。

「好きなのは、……」

FCたちが身構えたその時、やけにのんびりとした声が辺りに響いた。

「み、翠屋デリバリーサービスです」

全員が声のした方を見る。
そこには、翠屋のエプロンを付けた女性が立っていた。

「小鳥さん!?どうして、ここに?」

驚く恭也を余所に、美由希が首を傾げる。

「でも、デリバリーサービスって?もうお昼は終ったし」

「デザートのデリバリーです。桃子さんが届けるようにって」

「それはすいませんでした。うちの母が迷惑を」

頭を下げる恭也に、少し慌てたように小鳥は言い繕う。

「あ、あややや、そ、そんな事ないから。そ、それに久しぶりの母校だし」

「そう言えば、小鳥さんも風校でしたね」

美由希が思い出したように言う。
それに頷いて答える小鳥。
小鳥は今年の夏頃から翠屋で働いており、他の面々とも面識があった。

「でも良いな〜。翠屋のデザートか」

忍が羨ましそうに言う。
それを聞いた小鳥は、微笑みながら、

「大丈夫だよ。皆の分もあるみたいだから。…………って、何かいっぱいいるんだけど」

この時になって小鳥は恭也たちだけでなく、FCたちがいる事に気付く。

「え、え?」

「落ち着いて、小鳥さん」

「あ、はい」

恭也に言われ、何とか落ち着く小鳥。
それを気の毒に思ったのか、FCの一人が小鳥に話し掛ける。

「私たちの事は気にしないで下さい」

「え、あ、はい。じゃあ……」

小鳥はデザートを取り出すと、美由希たちに手渡していく。
その途中で恭也は、

「俺は甘いものは……」

「えっと、恭也さんにはこれをって」

四角い箱を恭也に渡す。

「これは?」

「ごめんなさい。私も知らないの。桃子さんから渡すようにって言われただけで」

それを受け取った恭也は凄く嫌な予感を感じ、開けるかどうか悩む。
そんな恭也へと、FCの女子生徒が声を掛ける。

「すいません、高町先輩。先に質問に答えて欲しいんですけど」

その女子生徒の言葉に、美由希たちも思い出したのか、恭也を一斉に見る。
一人事情を知らない小鳥だけが首を傾げている。
そんな小鳥に忍が教えようと話す。

「実は、今から恭也が好きな人を発表するんですよ」

「はぁ、そうなんですか。………………って、ええ!」

「小鳥さん、そんなに驚かなくても」

那美が少し苦笑気味にそう言うと、その横で美由希は頷きながら、

「確かに、あの鈍感で朴念仁で、趣味が盆栽と釣りという若年寄りの恭ちゃんに好きな人がいたなんて驚きですけど。
 でも、そんな兄でも一応、人間ですから。
 どこかで何かを間違って、人を好きになってしまうという事もなきにしもあらずという訳です。
 ですから、そこまで驚くのは流石に恭ちゃんに悪いかと……イテッ」

でこピンを喰らったおでこを押さえる美由希を冷ややかに見ながら、恭也は低い声で言う。

「お前の方が失礼だ。一体、人を何だと思っているんだ」

「うぅぅ。ちょっとした冗談だったのに……」

恭也は涙目になる美由希を無視するとFCたちに向き直る。

「今、言わないといけないのか?」

恭也の言葉に一斉に頷く。

「さっき言いそうになったんだから、別に良いじゃない」

「そ、それはそうなんだが……」

「わ、私も聞きたいです!」

いつになく強い口調ではっきりと言う小鳥に、少し驚きながらも言い淀む。
そこへ、忍が軽い感じで話し掛ける。

「さっき言えて、今言えないって事は、まさか恭也の好きな人って小鳥さんだったりして」

なぁ〜んてと言って笑おうとした忍の動きが止まる。

「嘘!本当に!?」

「…………ああ。俺が好きなのは小鳥さんだ」

「………………」

恭也に好きな人がいると分かり、FCたちは諦めたのか一人、また一人とその場を去って行く。
一方、恭也たちは……。

「小鳥さん、小鳥さん?」

「………………」

驚きの表情のまま固まってしまった小鳥をどうしたもんかと頭を悩ませる。

「えーと。すいません、小鳥さん。俺みたいな奴から急にあんな事を言われて、不快な気分にさせてしまいました。
 この事はそんなに気にせず……」

「ち、違います!あ、御免なさい」

恭也の言葉を大声で否定し、自分でも驚くほどの大きさに頭を下げる。

「頭を下げないで下さい。寧ろ、謝るのは俺の方で」

「だ、だから、違うの。た、確かに驚いたけど、それは別に嫌だったからじゃなくて……。そ、その、だから」

小鳥は顔を赤くしながら、恭也を見詰めるが、恭也は意味が分からずに不思議そうな顔をする。

「どうかしたんですか?」

「だ、だから、……。うぅ〜。恭也くんって、意外といじめっ子?」

恭也以外は既に小鳥が言いたいことを理解しているのだが、肝心の恭也は全く分からない様子である。
そして、小鳥の言葉に頷く美由希を視線で黙らせると、恭也は怖がらせないように、優しい口調で話す。

「えっと、すいません。別に虐めてるつもりはないんですが……」

「だ、だから、恭也くんの言葉に驚いたけど、それは嫌だったからじゃなくて嬉しかったからなの。
 つ、つまり、わ、私も恭也くんの事が、す、好きだから……

本当に小さな呟きだったが、顔を近づけていた恭也にははっきりと聞こえ、少し顔を赤くする。
そんな照れた表情を見ながら、

(はぁ〜、照れている顔も良いな〜)

小鳥は完全に見惚れていた。
何となく沈黙する二人に、外野からわざとらしい声が聞こえてくる。

「あーあー。折角のデザートなのに、味がはっきりと分かんないわー」

「本当ですね。このデザートよりもお二人の空気の方が甘すぎて……」

「うぅぅぅー。存在を忘れられている私たちは大人しく、このデザートを食べてるしか……」

「師匠は甘いものは苦手なくせに、自分が甘いものをつくるのは平気なんですよ、きっと」

「オサルの言う通りや。しかも、甘すぎて誰も手ぇ出されへんけどな」

などと口々に聞こえるように言う。

「邪魔者っぽいし、どうしようかー?」

「ここはこそりと退散しますか?」

「そうしましょうか」

「じゃあ、俺は行きます」

「あ、うちも行くわ」

これまたわざとらしく言うと、美由希たちはその場を去って行った。

「えーと……。改めて、小鳥さん、好きですよ」

「はい、私もです」

「俺と付き合ってくれますか?」

「本当に私で良いんですか?」

「いいえ、小鳥さんが良いんです」

そう言うと恭也は小鳥をそっと抱き寄せた。
小鳥も力を抜き恭也に身を任せる。
そして、小鳥はそっと目を瞑ると恭也へと顔を向ける。
流石の恭也もこの行為の意味する所を知り、学校内という事もあって躊躇うが、目の前で自分の好きな女性がここまでしていて、
無視できるほど恭也も鈍くはなく、その唇を奪う。
やがて、どちらともなく離れると少し恥ずかしそうにお互いに黙り込む。
その空気を破ろうと、恭也はデザートと言って渡された箱を取り出し、

「じゃ、じゃあ、これ頂きますね」

「あ、はい」

「よかったら、小鳥さんも一緒にどうぞ」

「良いんですか?」

「はい、構いませんよ」

恭也と小鳥は並んで腰を降ろすと、その箱の蓋を開ける。
そして、中身を見て恭也は目を点にする。
そんな恭也の様子を不思議に思った小鳥が横から覗き込むと、そこには……。

『恭也へ
 小鳥ちゃんを誘って行きなさい。
 かーさんは応援してあげるから、頑張りなさいよ。
                      桃子』

という紙切れと、ホテルのペアディナー券が入っていた。
恭也はそれを取り出すと、

「かーさんには俺の気持ちがばれていたみたいですね」

「ははは。ひょっとして、私の方もばれてたのかな?」

「それはどうでしょうか?」

二人して首を捻り、微笑み合う。
恭也はその券を小鳥に見せると、

「一緒に行ってくれますか?」

「はい!」

恭也の問い掛けにに満面の笑みで小鳥は答えるのだった。





おわり




<あとがき>

いや〜、女医さんよりも先に小鳥編が出来てしまった。
美姫 「まあ、アンタの事だから、そうなるんじゃないかとは思ってたけどね」
はっはっは。
次こそは!
美姫 「下手な予告は止めておいて方が良いと思うけど。
    私の予想では、女医さんよりも先に、某お嬢様学園に通う実家が寺の敬虔なクリスチャンが先になるかと」
はっはっは。
では、また次回!
美姫 「否定はしないのね」




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