『An unexpected excuse』

    〜フィリス編〜






「俺が、好きなのは…………」

美由希たちを含め、その場にいる者たちが一斉に息を呑む。
言いようのない雰囲気に、恭也は一息にその名前を言う。

「フィリス先生だ」

「はい?呼びましたか、恭也くん」

突然聞こえた声に慌てて声のした方を見る。
するとそこには、風に靡く美しい銀髪片手で押さえながら、笑顔を浮かべるフィリスがいた。

「な、何故、ここに?」

「あ、それはですね、ここの校医さんと養父が知り合いなんですよ。
 それで、その校医さん、用事があって明日は休むそうなんです。
 で、明日一日だけその代わりを私がする事になったんで、
 その簡単な引継ぎみたいなものと午前中だけですけど、感じをつかむ為に手伝いも兼ねて来ていたんです」

「はあ、そうだったんですか。でも、病院の方は良いんですか?」

「大丈夫ですよ。結構、前から決まっていた話ですから。それよりも、さっき私の名前を呼びませんでしたか?」

「気にしないで下さい」

忍たちが何かを言う前に恭也はそう答える。

「はあ、まあ恭也くんがそう言うんなら、気にしませんけど。
 でも、恭也くんの事だから、保健室に寝に来るかと思ったんですけど、来ませんでしたね」

「そんな事で行きませんよ」

憮然としながら答える恭也に、フィリスはにっこりと笑って、

「冗談ですよ。ちゃんと授業を受けているようなので、安心しました」

その言葉に、忍は笑いを堪えながら言う。

「っくくく。フィ、フィリスさん、それはないですって。
 だって、恭也は確かに保健室には行ってないけど、授業中に教室で堂々と寝てるし」

「お前も人の事は言えないだろうが」

「否定はしないんですね」

どこか呆れたように言うフィリスから視線を逸らす恭也。
その時、FCの一人が声を上げる。

「あっ!それで、今日は男子が休み時間の度に保健室へ行ったり、授業中に気分が悪くなる人が多かったんだ」

「え!?確かに気分が悪いと言ってくる生徒は多かったですけど、何がそれでなんですか?」

真剣に聞いてくるフィリスに忍が答えてあげる。

「多分、その男子生徒たちはフィリスさん目当てだったって事よ」

「え、え、えぇぇぇぇぇ!わ、私目当てって、そ、そんな、そんな事ある訳が……」

「そんな事ないですよ、フィリスさん可愛いし綺麗だし」

「そ、そんな事ないですよ」

慌てた様子で否定するフィリスを見て、忍は意地の悪い笑みを浮かべると恭也を見る。

「恭也もそう思うわよね」

「あ、ああ」

「きょ、恭也くんまで何言ってるんですか」

恭也にも同意され、赤い顔を更に赤くするフィリス。

「も、もう皆してからかわないで下さいよ」

「別にからかっている訳では……」

恭也の言葉にFCの生徒たちも頷き、同意する。
それを見て、照れるフィリスに聞かせるようにFCの一人が口を開く。

「そうですよ。やっぱり高町さんが選ぶだけあって、凄く素敵です。
 それに、うちの男子たちの間で噂になっていたみたいですし」

「え、ええ!選ぶって。恭也くん、私たちが付き合っていること話しちゃったんですか!」

「あっ!フィリ……」

『えっええええええええええええええ!!!!!!!!』

「な、何、皆さんどうしたんですか」

「きょ、恭ちゃんとフィリス先生って付き合ってたんですか!」

「一体、いつから?」

「全然気付きませんでした」

「お、俺も知らなかったです」

「何で言うてくれへんのです」

「え?え?皆さん知ってたんじゃ……」

尋ねるフィリスに美由希たちは首を横に振り否定する。

「え、え。だって、さっき選ぶって……」

疑問顔のフィリスに事情を話して聞かせる。
聞いていくうちに、フィリスの顔がしまったという感じに変わる。

「という事は、私が自分から話してしまったという事ですか……」

「フィリス、そんなに落ち込まないで」

ばれてしまった以上、恭也はいつも二人の時に呼ぶようにフィリスの名前を呼ぶ。

「で、でも」

「別に隠さないといけない事でもないし」

「そうなんですけど……」

「あ、あのー、すいません。何で私たちに話してくれなかったんですか?」

那美の最もな質問に美由希たちも事情を聞きたがる。

「そ、それは、別に皆に隠そうと思った訳ではない。ただ、約2名ばかり知られたくない人がいてな」

恭也の言葉に美由希たちは二人の女性の顔を浮かべ、その後どうなるかを想像する。

「は、はははは」

特にこの中で、最もその実体を知っている那美は引き攣ったような笑みを浮かべる。

「まあ、そう言う訳だ。で、出来ればあの二人には……」

美由希たちは恭也の言わんとしていること察し、頷こうつするが、それよりも早くフィリスが恭也に謝る。

「ごめんなさい、恭也くん。多分、もう手遅れだと思う」

恭也がどういう意味か聞くよりも早く、背後に急に気配を感じたかと思うと、首に腕が回されていた。

「リ、リスティさん!」

「yes.まさか、この僕が二人の事に気付かなかったなんてね。
 さ〜て、恭也。じっくりと聞かせてもらおうか。
 一体、いつからなのかとか、どっちから告白したのかとか、色々と聞きたい事があるからね。
 そう、色々とね」

そう言うとリスティは恭也の耳元に口を近づける。
それを見たフィリスが、

「リスティ!恭也くんから離れなさい」

「恭也〜、フィリスが怖〜い」

「リスティ!」

フィリスの声にリスティは恭也の首に回した手に力を込め、恭也にきつく抱きつく。

「リ、リスティさん離してください」

「恭也、一層の事フィリスから僕に乗り換えないかい?フィリスよりも僕の方がプロポーション良いよ」

「リス……」

本気で怒りそうになったフィリスよりも先に恭也がリスティに話し掛ける。

「それは出来ません。俺はフィリスが好きなんです。フィリスじゃなきゃ駄目です」

恭也の言葉にフィリスは嬉しそうに頬を緩め、リスティは真剣な顔つきで恭也の目を覗き込む。
恭也も目を逸らさずに真っ直ぐと見詰め返す。

「ふぅー。そこまで惚気られるとはね。仕方がない、恭也の事は諦めるか」

わざとらしい溜め息を吐きながら、恭也から離れる。
その時、リスティは恭也にだけ聞こえるよう小声で囁く。

「恭也、一応あんなんでも僕の妹だからね。泣かせたりしたら、承知しないよ」

「分かっていますよ」

それに対し、はっきりと恭也は口にする。

「OK。じゃあ、僕は先に帰るとするか。あ、そうそう。言わなくても分かってると思うけど、今日はさざなみに来なよ」

「やっぱりですか」

「当たり前だろ。じゃあ、また後でな」

そう言うとリスティはその場から消える。

「御免なさい恭也くん」

「別にフィリスが謝る事ではない」

「でも……」

「どうせ、いつかは言う事だったんだし」

「うん」

「でも、どうしてリスティさんまでここに?」

「あ、あははは。リスティは私にお金を借りに来てたんですよ」

フィリスの言葉に納得する恭也に、それまで黙って見ていた美由希たちが話し掛ける。

「とりあえず、おめでとう恭ちゃん」

「桃子ちゃんにも言わなあきませんな」

「今日はさざなみで騒ぐみたいですから、俺たちは明日ご馳走を作りますね」

「一緒にさざなみに行けば良いだろ」

この言葉に美由希、レン、晶は揃って首を横に振る。

「お、お邪魔したら悪いし」

「う、うちは今日の晩御飯を作る当番ですから」

「お、俺も今日は遠慮しときます」

「私は当然参加するわよ。色々と聞きたいしね」

「わ、私は強制的に参加させられると思います。み、美由希さ〜ん」

「あ、あはははは」

「とりあえず、もうすぐ授業が始まるから戻るか」

恭也の言葉に全員が頷く。

「じゃあ、フィリスまた後で」

「はい。眠らないように頑張って下さいね」

「善処はする」

「フフフ。じゃあ、皆さんも」

フィリスはお辞儀をすると、校門へと向って歩いて行った。
そして、恭也たちは自分達の教室へと向おうとして、恭也は足を止める。

「あー、あなたたちも急いで戻った方が良いですよ」

リスティが現われてから、ずっと茫然としていたFCたちが恭也の言葉に我に返り、
未だどこか唖然とした感じではあったが、それぞれの教室へと戻っていった。

「ふむ。やっぱり、人が突然現われる所を見ると、普通はああなるのか。
 俺の周りには普通じゃない事が多いという事だな」

美由希たちの背中を眺めながら、そんな事を呟く。
恭也のその考えは間違いではなかったのだが、それが全てではなかった。
それが分かるのは翌日、たまたま耳にした噂話での事だった。

『高町恭也二股疑惑』

という噂を聞くまでは。











おまけ



この噂がフィリスの耳にも入り、フィリスに恭也が呼び出されたのが一時間目の終了した直後だった。
これが昨日のリスティとのやり取りを見ていたFCの勘違いだと説得し、納得させている間に休み時間はとうに終っており、
現在は二時間目に入っていた。
何とか納得したフィリスだったが、どこか拗ねたようなフィリスに恭也は頭を悩ませていた。

「フィリス、いい加減に機嫌をなおして……」

「別にもう勘違いだって分かりましたから」

「しかし……」

「うぅ〜。別に恭也くんに怒っている訳じゃないんですよ」

「じゃあ……」

「だって、噂ではリスティが本命って事になってるんですよ!」

そう言って剥れるフィリスを後ろから包み込むようにそっと抱きしめる。

「噂なんか放っておけば良い。俺はフィリスだけなんだから」

「恭也くん……」

不安げに揺れる瞳を上から見詰めながら、恭也はそっとキスをする。
それに安心したのか、フィリスは瞳を閉じる。
長いキスを終え、恭也は微笑むと、

「もう大丈夫ですか?」

「まだちょっと不安かも。だから、もう一度……」

「ええ、何度でも。フィリスが安心するまで」

再びフィリスにキスをする恭也。
優しく温かい気持ちを感じながら、フィリスは安堵感に包まれていた。







その後、フィリス目当てに来る男子生徒を警戒するため、恭也は一日中保健室にいたとか。
そのお陰で、二股の噂はすっかり消えた。
代わりと言っては何だが、その後、新たな噂が流れ始める。
誰かは知らないが、保健室でいちゃつくカップルがいるという噂が囁かれるようになったらしい。





おわり




<あとがき>

やっとフィリス編が出来たよ〜。
美姫 「予告してからが長かったわ」
ははは。
兎に角、前回の美姫の予想を覆すこの結果!
美姫 「ただ、それだけの理由で書き上げたこの馬鹿は放っておいて」
流石にそんな訳ないだろ。
美姫 「本当に?」
いや、全くないとは言わないけどさ。
そりゃー、美姫の予想を外してやれ!なんて気持ちは90%ぐらいはあったけど。
美姫 「ほとんどじゃない」
イテ、イテイテテテテテ。
美姫 「この馬鹿!ぼけ!」
や、やめやめ、やめれ〜〜〜。
美姫 「はぁー、ひぃー、ふぅー」
へ〜
美姫 「ほー、まだそんな元気がっ!」
や、やめてーーーーーーー!
美姫 「ふ〜。気分すっきり爽快♪じゃあ、また次回でね♪」





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