『An unexpected excuse』

    〜志摩子 続編〜






今日は12月24日、クリスマスイブである。
学生たちは冬休みへと入り、このイベントへと思いを寄せる。
高町家でも、同じ様に家人たちは浮かれていた。
そんな中、一人そういった事には無関心な人物、恭也はリビングで日本茶を啜りながらのんびりとしていた。

「はー、落ち着く」

そんな恭也の後ろでは、キッチンで晶とレンが腕を振るい今晩の料理の準備をしている。
同じリビングでは、美由希、なのはが鼻歌を歌いながらツリーに飾り付けをしていた。
美由希はふと手を止めると、恭也を見る。

「恭ちゃん、幾ら何でも枯れすぎだよ。もう少し覇気というものを持って……」

「放っておけ。これが一番落ち着くんだ」

そう言うと、恭也は再びお茶を啜る。
そんな恭也の様子に、美由希となのはは顔を見合わせて、何ともいえない笑みを交わすが、
特にそれ以上は何も言わずに、再び飾り付けへと戻るのだった。
と、その時、電話が鳴る。
特に何もしていない恭也は立ち上がると、目で美由希を制し自分が電話へと出る。

「もしもし、高ま……」

「恭也!恭也ね!」

「そうだが、ちょっと落ち着け」

確認もせずに、突然名前を呼ぶ桃子を落ち着けようとするが、効果はなく、桃子は続けざまに言う。

「落ち着いてる場合じゃないのよ。って、松っちゃん、それはそっちに。うん、そう。
 って、そうじゃなくて……。大変なのよ!それはもう本当に」

「いいからどうしたんだ」

「そ、それなんだけど、アンタ今、暇でしょ」

「決め付けるのはよくないぞ」

「暇なんでしょ」

有無を言わせぬ口調に恭也は頷きかけ、電話では分からないと言葉にする。

「ああ」

「じゃあ、至急、早く、そう、一秒でも早く来て!」

桃子の慌てようから、店のヘルプと察し、恭也は急いで家を出る旨を伝えると電話を切る。
そして、リビングにいる美由希たちに事情を説明して出掛けるのだった。



翠屋に着くなり、バイトの子が店長を呼びに行く。
その後ろ姿を見ながら、恭也は不思議そうな顔をする。

「そんなに忙しくないみたいだが……」

そんな事を思っていると、桃子が奥から姿を見せる。

「恭也!」

「かーさん、一体何の用だ?」

恭也の質問に答えず、桃子は恭也の傍に来ると、

「アンタ、一体何をやったのよ」

今にも掴みかからんばかりの勢いで、桃子が言う。

「何、とは?」

「アンタ、この期に及んでまで白を切る気!」

「良いから、いい加減に落ち着け。順を追って話してくれないと、全く分からん」

「良いわ。こっちに来なさい」

そう言って桃子は、店の一番奥の席へと行く。

カウンターよりも奥にあるその席は、入り口から丁度死角になっており、恭也はそこに人がいるのに気付かなかった。

「こっちよ」

桃子に促がされるまま、その席へと着き、恭也は驚いたような顔をする。
それを見て、桃子が思い出したかと言わんばかりに睨む。
そんな桃子を無視して、恭也は口を開く。

「一体、どうしたんだ志摩子?」

「来ちゃいました」

「いや、そんなに簡単に言われても……」

「ひょっとして迷惑でしたか?」

「そんな事あるはずないだろう」

「そうですか。良かった」

ほっと胸を撫で下ろす志摩子を見て、恭也は笑みを浮かべる。
そんな二人を見て、桃子は首を傾げる。

「あれ?どういう事?」

「それは俺の台詞だと思うが?」

「あ、あはははは」

誤魔化すように笑う桃子を見詰め、恭也はゆっくりと声を掛ける。

「で、何を勘違いしたんだ」

「うっ。じ、実は、彼女、志摩子さんがうちにやって来て、恭也はいるかって聞いたのよ」

恭也は志摩子へと視線を向ける。
志摩子は一つ頷き、

「ええ。恭也さんが、休みの時はここの手伝いをしていると言ってたので、ここなら会えるかと」

「なるほど。で」

志摩子の言葉に一つ頷き、桃子へと視線を戻す。
それを受け、桃子は観念したように話し始める。

「で、話を聞いてみたら、あのリリアンの生徒じゃない。
 かーさん、てっきりアンタが何かしでかしたのかと思っちゃった。てへ」

そう言って、舌を出して自分の頭を軽くコツンと叩く。
それを冷たい視線で見詰めると、桃子は誤魔化すように咳払いをする。

「だって、突然知らない子が来たんだもん。それぐらいは……」

「ほう。かーさんが普段、俺のことをどう思っているのかよーく分かったよ」

「や、やーね。ちょっとした冗談よ。そ、それよりも、こちらの方は?」

「美由希たちから何も聞いてないのか?」

不思議そうに尋ねる恭也に、桃子も不思議そうに首を傾げる。

「美由希に?何も聞いてないけど……」

そう言われ、恭也は少し改まる。
それを察し、志摩子も同様に改まった態度を取る。

「かーさん、彼女は藤堂志摩子さんといって、リリアンに通っているのは知っているんだな」

「ええ。初めに聞いたから。それで?」

「志摩子は俺の恋人なんだが」

「…………はい!?ごめん。かーさん、ちょっとよく聞こえなかったみたい。
 もう一回お願い」

「だから、俺の恋人だ」

恭也の言葉に、桃子は目を見開き、恭也と志摩子を交互に見る。

「えっと、今日は4月1日じゃなかったわよね……。
 …………本当に」

「ああ」

やっと本当と分かったのか、桃子は嬉しそうに笑う。

「もう、それならそうと早く言ってよ。こんなに綺麗な子を捕まえるなんて。
 やっぱり士郎さんの息子ね。で、いつからなの?最近よね。でも、恭也最近、東京なんて行ったかしら?」

「かーさん、本当に美由希たちから何も聞いてなかったんだな」

「そう言ってるじゃない。って、あ!美由希たちは知ってるの?」

「ああ。二ヶ月ほど前に……」

「そ、そんな……。かーさんだけ除け者……」

崩れ落ち、泣き真似を始める桃子を呆れた目で見ながら、

「かーさん、その件は後で本人達に追求してくれ」

「ええ、そうね。って、アンタが張本人でしょうが。どうして何も教えてくれなかったのよ」

「だから、俺は美由希たちから聞いてるものと」

「うぅ〜。悔しいぃぃ」

悔しがる桃子を置いて、恭也は席を立つ。

「志摩子、行こうか」

「え、でも」

「気にするな」

桃子の方を見る志摩子に、恭也はそう告げる。
それでも迷っている志摩子を見て、

「志摩子は優しいな」

「え、そ、そんな事は……」

恭也の言葉に照れる志摩子。
そんな二人をいつの間にか顔を上げた桃子が笑みを浮かべて見ていた。

「あー、私のことは気にしないで、さあ続けて」

「あのな……」

「ほらほら。私の事は、木とか壁とかと思って。さあ、さあ。
 恭也ももっと積極的に抱きしめるぐらいしなさい」

「も、桃子さん」

志摩子の照れた抗議に、桃子は笑みを浮かべる。

「桃子さんなんて他人行儀な。お義母さんって呼んで。後、最初の孫は女の子が良いな。
 あ、でも、男の子でも良いわよ。二人の子供だったら、桃子さんもう可愛がっちゃうから」

「かーさん!話が飛躍しすぎだ!」

「えー、何で。良いじゃない夢を見るぐらい」

「…………」

「分かったわよ。もう言わないから、睨まないで。アンタが本気で睨むと、怖いんだから。
 あ、でも、お義母さんとは呼んでね」

本当に、恭也が怖いのか怪しい事を言う。
それに対し、志摩子は恥ずかしそうに俯く。

「えっと、でも」

「ほらほら。遠慮しないで」

「何を遠慮するんだ」

恭也の呟きを綺麗に無視し、桃子は志摩子を急かす。
やがて、

「お、お義母さん」

「はい!はいはいはいはーい!やーん、可愛い!」

桃子は嬉しそうに志摩子に抱き付くと、頬擦りをする。
それを見て、恭也は桃子を引き離す。

「いい加減にしておけ」

「何よ!母親にまで焼きもち?」

「なっ!ち、違う!そうじゃなくて、志摩子が困っているだろう」

慌てて言う恭也を楽しそうに眺めながら、

「はいはい。落ち着きましょうねー」

「くっ!」

桃子の言葉に、恭也は悔しそうな顔をする。
それを愉快そうに眺めながら、桃子は見せつけるように志摩子に頬擦りをする。
志摩子もどうすれば良いのか分からず、困った顔をして恭也を見詰める。

「ほらほら〜」

あまりにもしつこい桃子の首の後ろを、ネコを掴むみたいに摘み、志摩子から引き離す。
そして、志摩子を抱き寄せると桃子に言う。

「無闇に志摩子に抱きつくな」

無意識での言葉だったのだろうが、それを聞き桃子はニンマリと笑みを浮かべる。

「ふふふ。恭也も言うわね〜」

その台詞に、改めて自分の口にしたことを思い出し紅くなる。
そんな恭也に抱かれたまま、志摩子も同じ様に紅くなるのだった。

「えっと、恭也さん」

志摩子が縋り付くような目つきで見上げる。

「今の言葉は……」

この攻撃に、恭也は見事に落ちた。
志摩子の顎に指を当て、上を向かせる。

「志摩子に抱きついても良いのは俺だけだ」

「……はい。私に抱きついて良いのは恭也さんだけです」

そう言った志摩子の唇を塞ぐ。
横で、桃子が小さな声を上げたようだったが、二人には完全に聞こえていなかった。
激しく深い口付けを交わす音と、時々志摩子のくぐもったような声が聞こえる横で、桃子は紅くなっていた。

「焚き付けといて何だけど、二人とも結構大胆っていうか、ここ、店の中なんだけど……」

そう言って桃子は店内を見回す。
まだ、そんなに人で埋まってはいないが、それでもそれなりに入っている。
そして、入り口からは死角だが、他のテーブルからは見える位置なのである。

「あ、あはははは。私しらな〜い」

桃子は複数の視線を感じ、乾いた笑みを洩らすとこっそりとその場を後にする。
そんな事に気付かず、恭也と志摩子はお互いの背中に手を回し、いつまでも口付けを交わすのだった。





<おわり>




<あとがき>

アルさんの42万Hitリクエストの第2候補です。
すいません、笙子ではありませんでした。
美姫 「謝ってすむかー!」
ごめんなさい、ごめんなさい。
その代わり(?)志摩子続編はもう一本あげますから……。
美姫 「仕方がないわね。私はそれで許してあげるわ。でも、アルさんはどうかしら?」
Noooo!許してー!
美姫 「さあ?どうなる事かしら」
……うぅ。
と、志摩子続編2はちょっと時間が掛かるかもしれませんが、書き上げますので。
ではでは。





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