『An unexpected excuse』

    〜祐巳編〜






「俺が好きなのは……」

恭也が名前を上げる前に、恭也の携帯電話が着信を知らせる。
恭也はディスプレイに表示された名前を見て、微かに嬉しそうに表情を変化させると、電話に出る。

「もしもし、高町ですが。はい、お久しぶりです」

『すいません、突然電話して……』

「いえ、気にしないで下さい」

『で、でも……』

「本当に大丈夫ですから。それに、貴女からの電話だと分かって、嬉しいぐらいですから」

『は、ははは。そこまで言って貰えると、逆に照れてします」

恭也は電話の向こうで、照れた顔をしているであろう相手を思い、知らず口元を綻ばせる。

「照れてる顔を見れないのが残念ですが」

その言葉に、電話の相手が更に照れた顔をしている事を感じながらも、恭也は口を開く。
そんな恭也の言葉と表情を見て、美由希たちは電話相手の声を聞き取ろうと耳を澄ませる。
そんな事に気付かずに話を続ける恭也たち。

「所で、今日はどうしたんですか」

『そ、そうでした。じ、実は、修学旅行で近くまで来たんで、ついでにと思って海鳴まで来たんです』

「そうでしたか」

『で、でも……』

急にその声が不安げに揺れる。
それを感じ取った恭也が、若干優しい声音で先を促す。

「どうしたんですか?何か問題でも?」

『じ、実は……迷子になったみたいで。と言うよりも、ここは何処ですか?』

「いや、俺に聞かれましても……」

『由乃さんや志摩子さんたちとは、はぐれちゃうし……。全然、知らない場所ばかりだし』

「それはそうでしょう。と、兎に角、落ち着いてください」

パニックになっている相手を落ち着かせようと声を掛ける。

「何か、目印になるようなものはありませんか?」

『え、えーと……。あ、何か見えます。えっと……、学校の校舎かな?』

「校舎、ですか」

『は、はい。多分ですけど、ちょっと近づいてみます』

「ええ」

暫く黙っている恭也に、美由希たちが小声で声を掛ける。

「恭ちゃん、その電話の人は誰?」

「女性の方ですよね」

「恭也、説明してもらえるかしら?」

電話から漏れ聞こえてくる声で、相手が女性と分かった美由希たちが恭也に詰め寄る。
そんな美由希たちに、

「今は電話中だ。後にしろ」

「師匠、せめて相手の名前だけでも」

「そうです、お師匠。一応、うちらとの話の最中に電話に出られたんですから、せめてそれぐらいは」

恭也も自分の行動を考え、名前だけならと教える事にする。

「福沢祐巳さんと仰る方だ」

「その祐巳さんと恭ちゃんは、どういう知り合いなの?」

「それはまた、後でな。はい、祐巳さん。分かりましたか」

美由希たちの質問を切上げ、恭也は祐巳に問い掛ける。

『はい、今校門の所に来ました。えーっとですね……。風芽丘学園って書いてます』

「…………そうですか」

その時、その声を携帯から盗み聞きした忍の目が、怪しく光った事に恭也は気付かなかった。

「では、今からそこに行きますので、ちょっと待っててもらえますか」

『そ、そんな悪いです。駅までの道を教えてくれれば、自分で戻りますから』

「いえ、すぐに着きますから。では、切りますね」

そう言うと、恭也は電話を切る。

「すまんが、ちょっと用事が出来たので、これで失礼させてもらう」

そう言うと、恭也はその場から離れ、校門へと向う。
その後ろを当然のように、美由希たちが付いて行く。

「おまえ達、何故付いて来る」

「いいじゃない、恭也」

「そうそう、恭ちゃん。気にしたら駄目だよ」

「べ、別に電話相手のことがきになるとかじゃないですよ」

「那美さん、それって墓穴掘ってます」

「まあまあ、お師匠もそない怖い顔せんと」

『それとも、私たち(うちら)が一緒だと何か問題でも?』

声を揃えて言われ、恭也は憮然としながらも一言だけ呟く。

「勝手にしろ」

『はーい』

その声に、声を揃えてやけに元気な返事をすると、わき目も振らずに歩いて行く恭也の後を追った。
校門前、不安げな顔で佇んでいる一人の女性の後ろ姿があった。
誰かが来るのを待ている様で、きょろきょろと左右の道を見渡している。
その女性に恭也は近づくと、声を掛ける。

「祐巳さん」

「わっぎゃ〜」

突然呼びかけられた祐巳は、よく分からない悲鳴を上げ、胸を押さえながら後ろを振り向く。

「きょ、恭也さん〜、驚かさないで下さいよ」

「す、すいません。別に驚かせるつもりはなかったんですが」

「いえ、大丈夫ですから」

恭也の態度に、今度は祐巳が慌てる。

「そ、それよりも、本当に早かったですね」

「ええ。それは、俺がここに通っていますから」

「そ、そうだったんですか!」

「はい。言ってませんでしたか?」

「すいません。覚えてないです」

「いえ、言ってなかったかもしれません」

そんな会話に、割って入るように忍が話し掛ける。

「恭也、いい加減に紹介して欲しいんだけど」

「紹介も何も、勝手に付いて来たくせに」

そう言いながらも、忍たちを紹介する。
そして、今度は忍たちに祐巳を紹介する。

「こちらはリリアン女学園に通う福沢祐巳さんだ」

「よ、よろしく」

祐巳は忍たちに頭を下げる。

「で、恭ちゃんとはどういった知り合いなの?」

「それは……」

言い淀む恭也に、忍が笑みを浮かべて近づく。

「私たちには言えないような関係なのね」

「ま、まさか恋人ですか!」

「那美さん、幾らなんでもそれは」

「そうですよ。晶の言う通りです。こんな素敵な人が恭ちゃんの恋人だなんて」

「……悪かったな美由希」

「ほら、やっぱりちが……って、えぇぇーーー!!ほ、本当に」

驚いて二人を見る美由希たちに、恭也と祐巳は照れながらも二人して頷く。

「そ、そんな。あの、国宝級の鈍感さを持つ恭ちゃんに……」

「朴念仁の師匠に」

「無愛想なお師匠に」

「人の好意にとことん鈍い恭也に」

「み、皆さん、幾ら何でもそこまでは……」

「じゃあ、那美はそう思わないの?」

「いえ、私も否定はしませんけど……。本人の前では、ちょっと」

「……お前らの考えている事はよく分かった」

『は、ははははは』

恭也の声に、引き攣った笑みを浮かべながら誤魔化す美由希たち。
それを呆れたように見てから、恭也は祐巳に話し掛ける。

「じゃあ、祐巳さん行きましょうか」

「ふぇっ?い、行くってどこに?」

「迷子になったんですよね。とりあえず、駅まで案内しますから」

「で、でも」

「ほら、遠慮しないで」

そう言うと、恭也は強引に祐巳の手を握る。
突然の事に、頬を朱に染めながら、どうすればいいのかオロオロとし出す。
それに助け舟を出す形で忍が、

「ひゅーひゅー、熱いね〜恭也」

「忍さん……」

「その表現はちょっと」

「そうかな?まあ、そんな事は良いから。じゃあ、後の事は任せて、行ってらっしゃい、恭也」

「ああ、頼んだ」

恭也は一つ頷くと、未だにパニックに陥っている祐巳を連れて歩き出す。
そんな二人を手を振って見送ると、忍は校舎へと戻って行く。
その後ろに続くように、美由希たちも戻っていった。





手を繋いで歩いているうちに、祐巳は何とか落ち着いたらしく、

「す、すいません。ありがとうございます」

「いえ、気にしないで下さい」

それっきり黙り込む祐巳を、不審に思い恭也は尋ねる。

「どうかしましたか?」

「え!あ、いえ。何でも」

「本当ですか?どこか具合が悪いとかじゃ」

「い、いえ。それは全然ないです。た、ただ、手が……」

祐巳は繋がれた手を見て、顔を赤くする。
言われて恭也も気付いたのか、顔を赤くすると急ぎ手を離す。
それに残念そうな声を一つ残す祐巳に、恭也は謝る。

「す、すいません。咄嗟の事でしたので、つい」

「あ、謝らないで下さい。別に嫌じゃなかったですから。
 あ、でも、良かったとかじゃなくて、いえ、良かったのは良かったんですけど。
 急に繋いだから、ちょっと驚いたというか。離されて、ちょっと残念というか。あ、あわわわ。
 えっと、えっと」

一人慌てる祐巳を見て、恭也は落ち着いたのか、そっと祐巳の手を握る。

「落ち着いてください。それと、嫌じゃないのならこのままで」

そう言って笑う恭也にしばし見惚れ、慌てて祐巳は大きく頷く。

「い、嫌じゃないです!」

力一杯叫んだ所で、周りの視線に気付き、別の意味で顔を赤くする。
それを可愛いと思いながら見ていた恭也は、祐巳に尋ねる。

「そう言えば、駅まで行けば良いんですか?」

「はい。駅前で待っていれば、帰る時に皆も戻って来るので」

「それまで待っているつもりですか?」

「はい」

「連れの方は携帯電話を持っていないんですか?」

「あっ!」

どうやら忘れていたらしい祐巳は、恭也の言葉にそれを思い出すと、
父親が何かあったらすぐに連絡をするようにと、半ば無理やり持たされていた父の携帯電話を取り出す。
と、同時に着信音が鳴る。

「あ、由乃さんからメールが」

祐巳はその受信したばかりのメールを開く。

『 迷子の迷子の祐巳さんへ
  
  まさか、はぐれるとは思わなかったわ。
  私たちは適当に時間を潰すから、例の彼氏とゆっくり会っておいでね。
  本当は、その恭也さんとかに会ってみたかったんだけど、今回は諦めるわ。
  じゃあ、6時頃に駅前で 』

「は、はははは。恭也さん、6時に駅前集合という事になっちゃいました」

「そうですか。では、これから何処かに行きますか?」

「良いんですか」

「はい」

そう言うと、二人は手を繋ぎ、駅へと向う方向から逸れる。

「それにしても、恭也さんの周りには綺麗な人が、いっぱいいるんですね」

「確かにそうですね。皆も俺に構ってないで、早くいい人を見つければ良いのに」

「……でも、恭也さんは本当に私でよかったんですか?」

「どうしたんですか、祐巳さん」

「だって、私は恭也さんのいつも傍にいれる訳じゃないし。そんなに綺麗でもないし。
 それに、おっちょこちょいのドジだし……。そ、それに」

尚も言いかける祐巳を力強く抱きしめると、

「そんな事はない。祐巳さんは、俺にはもったいないぐらい充分、魅力的な女性だ。
 それに、充分可愛いし、綺麗だと思う。傍にいれないのは少し寂しいけど、そんな事は関係ない。
 逆に俺の方が不安だよ。俺よりも素敵な男性は大勢いるから……。
 いつか祐巳の前にそんな奴が現われて、祐巳が心変わりするんじゃないかって」

「そ、そんな事ないよ。わ、私は恭也さんだけだから」

「祥子さんより?」

「うっ」

「悪かった。ちょっと意地悪が過ぎたか」

「ううん。……お姉さまの事も好き。多分、お姉さまの事が一番好き。
 でも、恭也さんは世界で一番で、唯一愛してる人だから。それじゃ、駄目?」

「そんな事はない。そういった所も含めて、俺は祐巳さん……、祐巳を愛してるから」

そう言うと恭也は祐巳の頤に指を添え、そっと上を向かせる。
祐巳もその恭也の行動に自然と目を閉じる。
やがて、二人の唇が重なった。

「祐巳さん」

「恭也さん。……って、恭也さん、呼び方が戻ってるよ」

「あ、いや、これは。何か癖みたいになってますし」

「話し方も戻ってるし」

「……勘弁してください」

「ふふふ。とりあえず、今はさっきので我慢しますね。でも、いつか名前も話し方も……ね」

そう言うと、祐巳は笑顔を向ける。
そんな祐巳に、恭也は少し驚きながらも、

「何か、少し強くなりましたね」

「当たり前ですよ。由乃さんに聞いたんですけど、恋する乙女は無敵、なんだそうです」

「無敵……ですか」

「はい!だから、私もう迷いません。恭也さんを信じて、待ってますから」

「そんなに待たせませんよ」

「楽しみにしてます」

「はい」

二人は笑みを浮かべると、どちらともなく身体を寄せ合い、腕を絡める。
そして、歩き出そうとして、周りの視線に気付く。

「「あっ」」

昼過ぎという事もあって、そんなに人はいなかったが、それでも街中、しかも駅前と商店街を結ぶ道筋だった事もあり、
全く人がいないわけでもなかった。
中には、目をそらす者、あからさまに恭也たちを見ている者、様々だったが、二人にはそんな事関係なく、
顔を真っ赤にすると、慌ててその場から立ち去るのだった。

「あー、恥ずかしかったです」

「俺もですよ」

そう言って笑い合う。

「所で、これからどうします?」

「あ、私行ってみたい所があるんですけど……」

「構いませんよ。何処ですか?」

「翠屋っていう喫茶店なんです」

「翠屋ですか」

「はい!雑誌に載ってたんで、海鳴に行ったら行ってみたいと」

祐巳は恭也の顔が少し優れない事に気付き、

「やっぱり駄目ですか」

「いえ、そう言う訳ではないんですが」

「無理なら、構いませんよ」

少し哀しそうな祐巳を見て、恭也は覚悟を決める。

「いえ、いい機会ですから、俺の母にも紹介しましょう」

「恭也さんのお母さんですか?」

「はい」

「え、えっと、それは翠屋に行くのをやめて、きょ、恭也さんの家に行くという……」

「いえ、行くのは翠屋ですけど」

「へ?でも、今、お母さんって」

「あー、話してませんでしたか?うちの母がやっている喫茶店なんですが」

「あ、そうだったんですか。って、えぇぇぇ!」

「そ、そんなに驚かなくても」

「だ、だって、恭也さん甘いものが苦手って」

「ええ、苦手ですね」

「で、でも、翠屋ってデザートが評判なんじゃ」

「色々とありまして。それよりも、翠屋へ行くなら、こっちですから」

「あ、はい。色々って、一体何が」

「聞きたいんですか?」

「出来れば。あ、でも無理には話さなくても良いです。ただ、私が恭也さんの事を少しで知りたいというだけだから」

祐巳の言葉に苦笑すると、恭也は過去の出来事を話して聞かせた。
で、その反応は。

「くすくすくす」

「そんなに笑わないで下さい」

「だ、だって、ははは。ぎ、ごめんなさい」

「いえ。それよりも、着きましたよ」

「ここですか」

「はい、ここです」

祐巳は少し緊張しながら、店のドアに手を掛ける。

「そんなに緊張しなくても」

「そ、そうなんですけど。やっぱり、恭也さんのお母さんに会うわけですから」

「大丈夫ですよ。母はきっと気に入りますから」

「そ、そうでしょうか」

「ええ」

恭也の言葉に幾分リラックスすると、祐巳はドアを開け中へと入る。

「いらっしゃいませー」

「ああ、すまないが、かーさんを呼んできてもらえないか」

「はい、分かりました」

恭也の言葉に頷くと、バイトの女の子は奥へと向って行く。
それを見て、恭也は空いている席を探す。
と、そこへ声が掛けられる。

「祐巳さん」

「えっ、あ、由乃さん、志摩子さんも」

声の出所を見ると、そこには由乃、志摩子、そして蔦子が座っていた。

「何で、ここに?」

「それはこっちも聞きたいんだけど。まあ、私たちは噂の喫茶店で時間を潰そうと思ってね。で、祐巳さんは……。
 聞かなくても良いか。その後ろの方が祐巳さんの彼氏なんでしょ」

「か、彼氏って」

「あれ、違うの?」

「ち、違わくはないけど」

「あははは。祐巳さんったら可愛い!」

「ちょ、由乃さん」

抱きついてくる由乃に困った顔をする祐巳。
そんな祐巳の耳元で、

「そうか。祐巳さんも彼氏とデートだった訳ね」

その言葉に蔦子まで笑みを浮かべ、

「ああ、私たち友人を放っておいて、旅行先で彼氏とデートとは」

「蔦子さんまで〜。志摩子さん、何とか言ってよ〜」

「くすくす。友情よりも愛情ね」

「し、志摩子さんまで〜」

「それよりも、祐巳さんの彼も困ってるみたいだし、そろそろ紹介してくれる」

由乃の言葉に頷くと、それぞれに自己紹介を済ませる。

「じゃあ、私たちは馬に蹴られたくないから」

「そうね、席は別々で」

「ちょっ」

慌てた祐巳が何かを言う前に、二人の後ろから声が掛けられる。

「恭也〜、何か用?」

「あ、かーさん」

『お母さん!!』

恭也の言葉に、祐巳たちから驚きの声が上がる。
それに一瞬だけたじろぎながらも、すぐに笑みを浮かべると、

「はいはーい♪私がこの子の母親です。いつも息子がお世話になってるみたいで。
 所で、恭也、この綺麗な方たちは。と、その前に、あなた学校は」

「とりあえず、落ち着いてくれ」

「ええ」

恭也と桃子、祐巳は由乃たちの横のテーブルに座る。
そして、改めて紹介を済ませ、最後に祐巳の事を紹介する。

「そして、こちらが福沢祐巳さん」

「は、初めまして」

「はい、こんにんちわ」

「それで、だな。祐巳さんは、俺の恋人というか、付き合っているんだが」

「恭也、どっちも同じ意味よ」

「むっ。そ、そうか」

「そうそう。って、え、え、え」

桃子は驚きの顔のまま、恭也と祐巳を何度も交互に指差す。

「母よ。人様に向けて指を指すのはどうかと」

「え、え、えええええ!」

「かーさん、声がでかすぎる」

「だ、だって、あの朴念仁で、鈍感で、無表情の上にこういった事には興味がないみたいな恭也が……。
 うぅぅー、士郎さん、見てますか。やっぱり、何だかんだ言ってもあなたの子供でしたよ。
 てっきり、美由希かなのはが先だとばっかり思ってたのに。これで、若くして孫を抱くという夢が現実に……」

「かーさん、少しは落ち着け、第一、孫とは何だ。気が早すぎるぞ」

「だ、だって、こんな日が来るなんて思ってもなかったから、ついね」

「俺は一体、今までどんな目で見られていたんだ」

「はははは。まあまあ。それよりも祐巳ちゃん、この子の事を宜しくね」

「は、はい」

「この子は朴念仁で、鈍感で、無表情の上に……」

「かーさん、それはさっきも言った」

「うん、知ってる♪」

「……喧嘩を売っているのか」

「や、やーね、冗談よ冗談。それよりも、ゆっくりとしていってね」

「はい」

桃子は鼻歌を歌いながら、スキップしつつ奥へと帰って行く。
それを呆れながら見ていた恭也は、

「すいません、騒がしい母で」

「そんな事ないですよ。楽しいお母さんだと思います」

「そう言っていただければ」

「でも、祐巳さん良かったわね」

「何が?由乃さん」

「だって、これで親公認の仲よ」

由乃の言葉に祐巳は顔を赤くする。
そこへ、ご機嫌な桃子が手に何かを持って現われる。

「これは桃子さんからよ」

そう言って、祐巳の前にフルーツのたくさん乗ったパフェを置く。

「ありがとうございます」

礼を言って、一口食べると、

「美味しい〜」

「あははは。ありがとう。それと、これには食べ方があってね」

そう言うと桃子は祐巳にそっと耳打ちする。
途端、顔を赤くする祐巳。
それを見て、恭也は背筋に嫌な悪寒を感じ、席を立とうとするが、桃子によって止められる。

「駄目よ恭也。恋人を置いて、どこに行く気だったのかしら。ほら、祐巳ちゃん」

「は、はい。きょ、恭也さん、あ〜ん」

「…………母よ」

「私は何もしらな〜い。それよりも、いつまで祐巳ちゃんをそうさせておく気?」

桃子の言葉に恭也は観念すると、それに口をつける。
その後は、お互いに食べさせあいをして、全てのパフェを食べ終えると、由乃たちを交え、他愛もない話をする。
やがて、時間になり恭也は駅まで由乃たちを送っていく。
駅前で、由乃たちは気を利かせ、先にホームへと入って行く。

「いい友達ですね」

「うん。自慢の友達だもん」

「…………」

「…………」

お互いに暫し無言で見詰め合う。

「では、また」

「うん」

「今度は俺が会いに行きますから」

「楽しみに待ってるね」

「じゃあ」

「また今度ね」

また、すぐに会えると信じているから、お互いに笑みを浮かべ、別れる。
恭也は祐巳の姿が見えなくなるまで、その場で見送る。
やがて、その姿が見えなくなると、恭也もそっとその場を後にするのだった。

(また、すぐに会えますから。その時は、約束通り貴女の名前をちゃんと……)









後日、風芽丘の制服を来た男子と、この付近では見られない制服を着た女子が抱き合っていたという噂が流れるが、
誰とまでは分かっていないらしく、恭也はほっと胸を撫で下ろすのだった。
しかし、忍たちは気付いたようで、後日、翠屋でデザートを前に笑顔の忍たちと、どこか憮然とした顔の恭也が目撃されたとか。



祐巳の部屋の奥にしまわれたアルバムには、あの時の翠屋の出来事を収めた写真が大切に保管されているとか。





おわり




<あとがき>

って、事で今回は祐巳編です。
美姫 「不思議よね。初めはあのキャラを書いてたはずなのに。いつの間にか」
はははは。
まあ、あのキャラは次回に。
美姫 「本当かしら?」
おう。今回は間違いないぞ!
美姫 「じゃあ、信用して、次回を待ちましょうか」
ははは。ま〜かせて。では、次回。
美姫 「ばいばい」





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