『An unexpected excuse』

    〜忍編〜






「俺が、好きなのは…………」

恭也の言葉に、美由希たちは真剣に聞き入る。
恭也は名前をあげる前に、ちらりと忍へと視線を向ける。
忍は、恭也が何と答えるのか、期待と不安が混じりあった表情をしていた。
それを見て、恭也は決意を決める。

「忍だ」

その名前を告げた瞬間、忍以外の者はがっかりとした顔を見せ、当の忍は嬉しそうにはにかむ。

「うぅ〜、恭ちゃんの好きな人はやっぱり忍さんだったんだ」

「恭也さんの気持ちは分かりました。忍さんはどうなんですか?」

「那美さん、そんなの聞くだけ無駄じゃないかと」

「おサルの言う通りですよ」

「はあー、これで恭ちゃんと忍さんは恋人同士かー」

口々に言う美由希たちに、忍は笑って答える。

「これでも何も、私たち結構前から付き合ってたんだけど」

この発言に、美由希たちは更に驚き、FCたちは走り去って行った。
驚いて言葉の出ない美由希たちに代わり、赤星が二人、いや主に恭也に尋ねる。

「おい、高町。それは本当か」

「ああ、そうだが」

「だったら、何故教えてくれないんだ」

「いや、わざわざ言うほどの事でもないし、それに誰とは言わんが、知られたくない人が数名。
 そう、真雪さんとか、リスティさんとか、かーさんとか」

「あ、あはははは」

恭也の台詞に那美が乾いた笑みを浮かべる。

「で、でも……」

尚も言いかける赤星に、忍が口を挟む。

「ゴメンね。あまり噂されたくなかったから、私がもう少しだけ黙ってようって言ったのよ」

「いや、忍だけの所為じゃないだろ。俺もそれに賛成したんだし」

「あー、分かったから、そう見せつけるな」

「別にそんなつもりはないんだが」

「まあ、恭也ともこの間話をして、美由希ちゃんたちには今度の休みにでも話すつもりだったんだけどね」

「あ、そうだったんですか」

「ああ」

美由希の問い掛けに、恭也が短く答える。
それから、皆が遅まきながら二人を祝福する。
一通り祝福を受けた後、忍が恭也に声を掛ける。

「あ、そうだ。恭也に話があったんだ」

「話?」

「うん。本当は、今日の放課後にでもしようと思ったんだけどね」

そう言って笑う忍の顔に、微かだが翳りが差すのを見て恭也は少し心配顔になる。
また、それに気付かなかった美由希たちも、忍の雰囲気から結構重要な話だと悟り、席を外そうとする。

「恭ちゃん、私たちはこれで」

「ああ」

美由希たちがその場から離れたのを確認し、恭也はそっと忍の方を抱き寄せる。

「どうしたんだ」

「うん」

忍は目を瞑り、恭也の体温を感じる。
それに勇気付けられるように、目を開けると、恭也の顔を見詰める。

「実はね……出来ちゃった♪」

「はい!?」

「だから、私と恭也の……」

「つまり、赤ちゃんか?」

「うん」

冗談っぽく言った忍だったが、その肩は震えていた。
忍を抱く手から、それを感じ取った恭也は、忍の肩を強くだきながら、そっと囁く。

「そうか。それは良い事だな」

恭也の言葉に、忍は驚いたような顔をする。

「う、生んでも良いの?」

「当たり前だろう。忍はどうするつもりだったんだ?」

「きょ、恭也に迷惑掛けたくなかったから、私一人で、ううんノエルと二人で育てようと思ってたの」

「そんな事言うな。俺とお前の子供なんだから、俺たち二人で育てれば良いだろう」

「で、でも、私たちまだ学生だし」

「そうだな。でも、その子が生まれる頃には、俺もお前も卒業してるだろ」

「う、うん」

恭也の言葉に頷く。

「まあ、色々と分からない事だらけだろうが、それはかーさんに聞けば良いしな。
 あれでも一応母親だし」

「そんな事言ったら、桃子さん怒るわよ」

「そうか?」

「うん」

「……忍、一人で抱え込もうとするなよ。俺は頼りにならないかもしれないけど、それでもお前の恋人なんだから。
 もっと、頼ってくれて構わないんだぞ」

「うん。ありがとう。
 でも、そんな事言ったら、私甘えちゃうよ」

「ああ、構わないさ」

「恭也が呆れる位甘えるよ」

そう言いながら、忍は恭也の首に抱き付くと、その首筋に頬や鼻を擦り付ける。
そんな忍の髪を優しく撫でながら、恭也も答える。

「忍に甘えられるのは、別に嫌いじゃないから」

「人前でも甘えるかも」

「まあ、それは程々にな」

「くすくす」

笑う忍の目の端に浮んだ涙を、恭也はそっと拭う。

「忍。順番が逆になったけど、俺と結婚してくれ」

「喜んで」

笑顔で答える忍の頬に、そっと手を差し伸ばし、その滑らかな肌を数度撫でると、そっと口付ける。

「さて、放課後、皆にも言わないとな」

「そうだね」

どこか不安そうな忍に笑いかけながら、

「大丈夫だ。かーさんなんかはきっと、早くに孫が抱けると喜ぶと思う」

「そうかな?」

「ああ。かーさんの夢は30代でお婆ちゃんになる事らしいからな。
 それに、皆もきっと、さっきみたいに祝福してくれるさ。まあ、その前に驚くだろが」

「そうだよね」

忍もやっと安心したのか、どこか落ち着いた顔つきになる。

「さて、その前に午後の授業を受けないとな」

「だね」

恭也は忍の手を引き立たせる。
忍はそのまま恭也の手に引かれて立ち上がると、腕を取り、絡める。

「お、おい忍」

「良いじゃない♪甘えさせてくれんでしょ」

「し、しかし」

「ほら、しっかりしてよ、お父さん」

「はー。分かった、分かった。だから、その呼び方は止めろ」

「えー、良いじゃない。近いうちにそうなるんだから」

「それでもだ」

「ぶ〜。って、まあ良いか。私も名前で呼ぶ方が良いし。ねえ、恭也♪」

「何だ、忍」

「べっつに〜。ただ呼んだだけよ」

忍はネコなら喉を鳴らさんばかりに、恭也に纏わり付いたまま教室へと戻るのだった。
当然、事情をしらない者たちが驚いた事は言うまでもない事である。
そして、放課後、恭也と忍から話を聞いた美由希たちは大いに驚いたものの、口々に祝福をした。
仕事を終え、帰宅した桃子にも話をした所、恭也の言った通り、喜んでいた。
その日、高町家で宴会となり、遅くまで灯りが消える事はなかった。











数ヵ月後。
ベッドに横たわる赤ん坊を眺めながら、恭也と忍は笑みを浮かべる。

「雫の寝顔、可愛いね♪」

「ああ、そうだな」

「この子も、私みたいに幸せになれるかな」

「なれるさ。いや、俺たちでしてあげるんだ」

「そうだね。きっと恭也に似て、優しい子になるよ」

「忍に似て、綺麗な子になるだろうな」

「くすくす。恭也、私幸せだよ」

「ああ、俺もだ」

二人は微笑み合うと、そっと口付けを交わす。
その様子を、空に上った月といつの間にか目を覚ました雫がそっと見ていた。





おわり




<あとがき>

たいがさんの38万Hitリクエストで、忍編です。
美姫 「リクエストありがとうございました♪」
さてさて、次は誰かな?
美姫 「珍しいわね。浩が自分から次だなんて」
ははは。まあ、正確には次は決まってるから、その次になるんだが。
美姫 「それにしても珍しいわよ。天気、大丈夫かしら」
おい、失礼な奴だな。
美姫 「冗談よ、冗談。さて、じゃあ次回に向けて」
よし、頑張るぞ!
美姫 「ではでは〜」





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