『An unexpected excuse』

    〜忍 続編〜






恭也と忍が恋人だという関係は瞬く間に校内へと知れ渡ることとなった。
この報を本人たちから聞かされた恭也のFCたちは既に落ち着きを取り戻していたが、
寝耳に水状態だった忍の隠れFCたちはその日一日生気がなかったとか、
なんとか言われているが真偽の方は定かではない。
それは兎も角、よもや全校へと広まっているとは知らない恭也たちは普段通りに過ごしていた。
いや、美由希たちへの報告を済ましたせいか、多少の変化は見受けられたが。

「恭也、今度の休み大丈夫?」

「ああ。そう言えば、かーさんも付いて来ると言ってたぞ」

「桃子さんも?」

「ああ。どうやら、プレゼントするものを選ぶらしい」

「まだ先なんだけれどな」

「それだけ楽しみなんだろう」

生まれてくる初孫可愛さにはりきっている桃子の様子が簡単に浮かんできて、忍も嬉しそうに微笑む。
一応、学校という事で声を潜め、それだけでは分からないように言葉を選んで会話をする二人だったが、
逆にその様子が二人が恋人という噂を裏付けている事に、噂を知らない二人が気付くはずもなく、
また特に隠す気もなくなっているのかもしれないが、二人は顔を近づけて小声で会話をする。

「それじゃあ、詳しいことは今日にでも桃子さんと一緒に決めた方が良いかな」

「そうだな、仕事の都合もあるだろうし。
 しかし、本当に休む気なんだろうか」

「あははは」

そんな二人に対して、周りは特に騒ぐこともなく極々普通に時間は過ぎていくのだった。
四限目の授業が終わり、生徒たちが昼休みへと突入する。
弁当を広げる者、弁当を持って教室を出る者、食堂へと向かう者とそれぞれに動き出す教室内で、
恭也は隣で眠る忍へと声を掛ける。

「忍、昼はどうする?」

「うーん、食べる……」

伸びをして眠気を払い除けると立ち上がる。
同じように立ち上がった恭也の元へ、赤星と彩がやって来る。

「高町たちも食堂か。なら、一緒に行くか」

赤星の言葉に頷くと、四人は連れ立って教室を後にする。
階段へと差し掛かると、恭也は忍の手を取る。

「気を付けて」

「あはは、まだ大丈夫だって。心配のし過ぎだよ。
 でも、ありがとうね」

忍の言葉に照れくさそうに顔を背けながらも、しっかりと忍の手を取る。
そんな二人の様子を意味ありげに笑みを浮かべながら見守る赤星と彩に、恭也は一つ鼻を鳴らす。

「何か言いたそうだな、二人とも」

「いや、そんな事はないぞ。
 ただ、高町も変わったなと感心しただけだ」

「うんうん。これも愛よね。
 高町くんって、好きな人にはとことん甘いみたいだし、大して意外でもないけれど、
 そういう一面をこう間近で見られるとは、本当に貴重な一場面よ」

「忍が羨ましいのなら、藤代さんも赤星にやってもらえば?」

「うーん、私としてはやって欲しいんだけれどねー」

そう言って赤星の方へと彩が振り返ると同時に、赤星は背を向けてさっさと階段を降りる。
その背中を苦笑で見詰めて、彩は恭也と忍へと肩を竦めて見せる。

「ね。あの通り、極度の恥ずかしがり屋さんなのよ」

そんな事をぼやく彩に二人も苦笑で返しつつ、ゆっくりと食堂へと向かう。
恭也と赤星の二人は席取りを忍と彩に任せると、自分たちと二人の分の昼食を取りに行く。
その途中、赤星が周りを気にしながら小声で聞いてくる。

「月村さんはいつまで学校に来るんだ」

「本人は最後まで来るつもりみたいだぞ」

「大丈夫なのか?」

「まあ、時期的にそんなに無理をしなければ大丈夫みたいだがな」

「いや、そうじゃなくて、学校側が黙っているか?」

「その辺りも大丈夫だ」

「そうなのか」

「ああ。どうやら、心配してくれていたみたいだな。
 もっと早くに言っておけば良かったな」

「いや、勝手に心配してただけだからな。
 大丈夫なら、それで良いさ」

自分たちの番となり、食券を渡して食事を受け取る。
忍たちの姿を見つけてそちらへと歩きながら、赤星がまた口を開く。

「で、式はいつにするんだ」

「っ! ……いきなり何を言う」

危うく持っていたものを落しそうになり、何とかバランスを取ってから恭也が睨むように言う。
それを平然と受け止めると、赤星は不思議そうに聞き返す。

「しないのか?」

「いや、そういう訳じゃないが……」

そう言って周りを見る恭也に苦笑を一つ浮かべると、

「大丈夫だって。ちゃんと周りを確認してから聞いているんだから。
 誰も、俺たちの話なんて聞いてないって」

「そ、そうか。まあ、その辺りはまだ詳しい事は決めてないんだが、そう遠くない日にする予定だ。
 あまり派手にはしないがな。身内だけで済ませようかとも思っている」

「勿論、俺は呼んでくれるんだろうな」

「そうだな、考えておこう」

「おいおい」

「冗談だ」

そんな事を話している間に席へと着いた二人に、忍が話し掛ける。

「二人して、何の内緒話をしてたの?」

「別に大した事じゃない」

「なによ、それ〜。む〜、妻である忍ちゃんに内緒ごと?」

「あのな。それにまだ、妻じゃないだろう」

「まだ、でしょう。同じようなものじゃない」

「本当に大した事じゃないって」

「そこまで言うのなら、別に良いけれど、罰としてこれを食べなさい」

「……忍、嫌いなものを俺に押し付けるな」

「別に嫌いな訳じゃないわよ。単にこんなに食べれないだけだって」

恭也は溜め息を吐くと、忍が除けたそれを食べる。

「ありがとうね〜」

「良いから、さっさと食え」

喧嘩とも言えない、単にじゃれているだけの二人にまたしても苦笑を浮かべつつ、彩たちも食事を始めるのだった。



午後の授業も無事に終えた恭也と忍は揃って軽く伸びをする。

「時間というのは早いものだな」

「本当よね。気が付いたらもう放課後だもんね」

そんな二人の言葉に何か言いたそうにする赤星の肩に彩がそっと手を置く。
振り返った赤星が見たのは、言うだけ無駄よといった表情をした彩の顔だった。
それに無言で頷いて応える赤星を見て、恭也たちは憮然とした表情を見せる。

「言いたい事があるなら、はっきり言ってくれ」

「別に何もないよ、高町くん」

「彩〜、その顔が既に物語っているわよ」

「だったら、改めて聞く必要もないわよね」

簡単にやり込められて軽く拗ねた真似をすると、忍は鞄を手にする。

「さて、それじゃあ、帰りましょうか」

「だな。赤星たちはどうする?」

「俺たちは今日は部活だ」

「まだやってるのか?」

「ううん、もう引退はしたんだけれどね。
 たまに後輩の指導をしているのよ」

「つまり、後輩をいじめている訳か」

「高町、その言い方は勘弁してくれ」

恭也の言葉に赤星は苦笑しながらも否定はせずにいる。
勿論、実際にいじめている訳ではない事は分かっているので、恭也もそれ以上は何も言わない。
そこへ、忍が楽しそうな口調で彩に話し掛ける。

「でも、彩はいじめてそうよね」

「あのね。これでも優しい先輩なんだからね」

「自分でそう思っているだけだったりして」

「もう! 赤星くん、忍に言ってやってよ」

「そうだな。確かに藤代の稽古はきついからなー」

「赤星くんまで!」

拗ねたように文句を言う彩へ、恭也が助けの声を入れる。

「厳しい稽古なのは、それだけ藤代さんが一生懸命って事だろう。
 それは良いんじゃないか」

「だよね。あ〜、高町くんだけが私の味方よ〜」

恭也の手を取って握手をすると、大げさに手を上下へと振って感動してみせる彩。
その彩の手と恭也の手へと忍が手刀を落す。

「こら、人のものに手を出さない」

「誰がモノだ、誰が」

「別に忍の旦那に手を出そうとは思ってないわよ。
 単なる感謝の印じゃない。そんな事ばかり言ってると、愛想をつかされるわよ」

「そんな事はないわよ。恭也は私のことを愛してるもんね」

「……」

忍の言葉に恭也は無言のまま顔を背け、それを見た忍は大げさにショックを受けた風に仰け反る。

「きょ、恭也が無視した〜! ひ、酷いわ〜。
 私との事は遊びだったのね〜」

「ああ、可哀相な私の忍」

そんな忍の肩にそっと優しく手を置き、長い髪を撫で上げる彩。
忍は彩へと振り返ると、そのまま彩へと抱きつくように手を肩に置いて見上げる。
彩もまた、忍の腕へと手を伸ばし、忍を見る。

「彩〜。やっぱり私には彩だけよ」

「忍、私もあなただけよ」

「彩……」

「忍……」

「で、後輩の出来はどうなんだ、赤星」

「二年生はしっかりしているよ。一年も大分身体が出来上がっているし。
 後は、来年の新入生がどうなるかだな」

「気が早いな。そもそも、来年はお前には関係ないだろう」

「まあ、それはそうなんだがな。やはり、気になるじゃないか」

「お前らしいな」

そんな会話をしながら教室を出て行こうとする二人に、忍と彩は声を揃える。

「「放置プレイ!」」

その言葉に恭也と赤星は揃ってつんのめり、勢いよく振り返る。

「変な言い方するな!」

「藤代、せめてもう少し小さな声で言え」

「いや、言うのも止めて欲しいんだが、俺は」

「高町、あの二人にそれが出来ると思うか」

赤星の言葉に二人をじっと見る恭也。
恭也の視線がこちらへと来るのを感じつつ、二人は両手を口元に当てて可愛っ娘ぶる。

「……無理だろうな」

「そういう事だ」

そんな二人の様子をさらりと流し、恭也は重々しく呟く。
その横で赤星も何も見てないとばかりに恭也の言葉のみに反応をする。

「二回連続で……」

「放置プレイだなんて……」

「恭也も成長したわね〜」

「赤星くんも成長したわね〜」

「どんな成長だ!」

「頼むから、勘弁してくれ藤代」

忍と彩の言葉にまたしても反応する二人を楽しそうに見遣りながら、
忍と彩はこの辺にしようかと呟き、教室を出て行く。
その後に付いて教室を出ながら、恭也と赤星は僅かばかり顔をお互いに向け合うのだった。



高町家へと向かう道を歩きながら、人気がなくなった頃、忍は恭也と腕を組む。

「今日の晩御飯は何かな〜?」

「今日は晶だったな」

「うん。でも、ノエルも手伝うって言ってたから」

「それは楽しみだな」

「うん♪ で、夕飯の後は色々と決めないといけない事もあるしね」

「……それは大変そうだな」

「まあね。でも、楽しい事もあると思うよ」

「例えば?」

「うーん、そうね〜。
 例えば、私が着る事になるドレスを一緒に選んだりとか」

「確かにそれは楽しみだな」

「あ、でも、それは当日のお楽しみにして、恭也には内緒にした方が良いかな」

「それは面白くないな」

やや憮然と答える恭也に笑みを見せつつ、忍は言い聞かせるように言う。

「でも、今から知っておくよりも、当日まで分からないほうが楽しみも増すでしょう」

「それはそうかもしれんが……」

「その代わり、違うものを選ばせてあげるわよ♪」

「一体、何をだ」

「下着♪」

「ぶっ。お、おまえな」

「こっちは、すぐにお披露目になるから、幾つかは恭也の好きなのを選んで良いよ」

「……遠慮する」

「え〜。良いじゃない。恭也がどんなのが好みか分かるんだし。
 恭也も自分が選んだのを私が着ている方が、楽しみも増すでしょう」

「何の楽しみだ、それは」

「何って勿論、脱がす楽しみに決まってるじゃない♪」

恭也は軽く忍の頭を叩くと、僅かに頬を赤くしてそっぽを向く。
組んだ腕に胸を少しだけ押し付けつつ、忍は恭也を覗き込むと、悪戯っ子のように聞いてくる。

「本当に良いの?」

「……考えておく」

「くすくす。恭也のえっち〜」

「なっ! おまえな〜」

「あはははー。怒らない、怒らない」

「……ったく」

呆れたように呟く恭也だったが、その顔は言葉とは裏腹に穏やかなものだった。
忍もそれを分かっているのか、恭也の肩にそっと頭を乗せるように寄り添う。
夕日が辺りを赤く染め上げる中、恭也と忍は一時の二人きりを楽しむようにゆっくりと歩を進めるのだった。





<おわり>




<あとがき>

という訳で、今回は鬼神さんからの240万Hitリクエスト〜。
美姫 「子供が生まれる前の話なのね」
そうです。今回は日常のひとこまって所かな
美姫 「ほのぼの?」
多分。恭也と忍のその後の日常って事で。
美姫 「うんうん。こんな感じになりました〜」
それでは、また次回で。
美姫 「またね〜」







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