『An unexpected excuse』

    〜美緒編〜






「俺が、好きなのは……」

恭也が言おうとした瞬間、その背後に急に飛びついてくる影。

「恭也〜♪」

「っと、……陣内か」

突然飛び掛られながらも、慌てずに相手が誰か分かるとその名を呼ぶ。

「みゆきちに那美もいるのか」

「「美緒ちゃん」」

美緒の言葉に、美由希と那美が声を上げる。

「所で陣内、離れて欲しいのだが」

「ああ、ごめんごめん。しかし、恭也の背後を取れたのは初めてだから、もう少し味わいたいんだけどな。
 耕介ほど大きくはないが、それでも充分に大きいね」

「別にわざと避けている訳ではなく、習慣というか条件反射みたいなものなんだから、仕方がないだろう」

「だとしたら、腕が落ちた?こんなに簡単に背後を許すなんて」

「失礼な。今回はたまたまだ」

「ふーん。まあ、そういう事にしておいてあげよう」

そう言って美緒は、恭也から離れる。
そんな美緒に向って、那美が尋ねる。

「美緒ちゃん、どうしてここに?学校は?」

「あれ?那美には言ってなかった?私、明日から二週間、交換留学で風芽丘にくる事になったって」

「そう言えば、聞いてたような気もするけど。でも、明日からなんでしょ?」

不思議そうな顔で尋ねる那美に、美緒は笑いながら答える。

「うん。今日は簡単な説明と校舎内を案内してもらったんだ。で、明日からここに通うって訳。
 クラスは1年A組だったかな」

「あ、私と同じクラスだ。そう言えば、うちのクラスから一人、城西に行く人がいたっけ」

「そうなの。じゃあ、明日からみゆきちと同じクラスだね」

美由希の言葉に、美緒は嬉しそうに言う。
それに美由希も嬉しそうに頷く。

「さて、そろそろ昼休みも終る頃だし、戻るとするか」

美緒の登場で、あやふやになっているうちに恭也はさっさと立ち上がる。
何か言いたそうにしているFCたちに背を向け、美緒へと向き直る。

「美緒も、そろそろ戻らないといけないんじゃないのか?」

「私は全然、問題ないよ。今日はこれで終わりだから」

「そうなのか。では、俺たちは授業があるからこれでな」

「分かった。じゃあね」

全員に挨拶をすると、美緒は元気に駆けて行く。
その後ろ姿を見送りながら、恭也は安堵の息を洩らしていた。
そんな恭也へと、忍が話し掛ける。

「恭也、安心してる所悪いんだけど、多分あの子たち、明日も来ると思うよ」

忍が指差す先では、ぞろぞろと帰っていくFCたちの姿があった。

「はー。気が重いな」

「だったら、素直に言っておけば良かったんだよ」

「そんな事を言ってもな。特にそんな人はいないしな」

「そうなんだ。だったら、そう言えば良かったのに」

「そうだな。明日聞かれたら、そう答えるとしよう」

恭也の言葉を聞きながら、忍は頷くと、美由希たちを急かすようにしながら校舎へと戻っていった。







翌日、風校の男子の間で一つの噂が持ち上がる。
交換留学として来ている一年の女の子が、かなり可愛い子だとかそういった噂だった。
その噂は恭也や赤星の元にも届いてきていた。
休み時間、赤星は恭也の席へと近づく。

「よお、高町。噂、聞いたか?」

「ああ。陣内の事だろ」

「陣内?陣内というのか、その留学生は」

「ああ」

恭也の素っ気無い態度を特に気にするでもなく、赤星が話し掛ける。

「何だ、高町の知り合いなのか」

「まあな。正確には美由希の友達で、那美さんの下宿先の住人だ」

「なるほどね。所でお前、なんか機嫌悪くないか?」

「そんな事はないだろう。俺はいつもどおりだぞ」

恭也の言葉に、赤星は首を傾げる。

「そうか?まあ、お前がそう言うのなら、俺の勘違いなんだろうけど」

どこか釈然としないような感じで、赤星は頷く。
それを特に気に掛けず、恭也は言う。

「で、それだけか?」

「あ、ああ。なあ、高町。やっぱり、機嫌悪くないか?」

「そんな事はない」

赤星の言葉に、恭也ははっきりと言う。
赤星もそれ以上言わず、大人しく席へと戻る。
その背中を見送りながら、恭也は一人首を傾げる。

(俺は不機嫌そうに見えるのか?だが、別に何とも無いよな)

少し胸の奥がむずむずするような感じを受けるが、特に変わった様子を感じられず、恭也はやっぱり勘違いと思うのだった。
そして、恭也は次の授業が始まるチャイムと共に、夢の世界へと旅立つのだった。
恭也は目覚し時計代わりの4時間目終了のチャイムと共に起きだす。
昼食を食べようと赤星の姿を探すと、赤星の方から近づいてきた。

「すまん、高町。俺、今日は弁当なんだ」

「珍しいな」

「ああ。昨日の一件のお陰で、こそこそとする必要もなくなったしな」

そう言って赤星の視線の先には、弁当箱を入れた包みを二つ持って、こちらを見ている藤代の姿があった。

「なるほどな」

「まあ、そういう訳だ。すまないな」

「ああ、気にするな。なら、俺は今日は弁当も無いし、食堂に行くか」

そんな二人に、いつの間に起き出したのか忍が声を掛ける。

「じゃあ、恭也は私とお昼にしようか」

「そうだな。じゃあ、行くか」

二人して席を立つと、廊下側が俄かに騒がしくなる。

「何だ?」

「さあ?」

恭也と忍は顔を見合わせ、廊下へと耳を澄ませる。
すると、微かに廊下から声が聞こえてくる。

「ちょっ、ま、待ってよ……ちゃん」

「早く早く!昼休みが終っちゃうでしょう」

徐々に大きくなっていく声を聞きながら、どこかで聞いた事のある声だなと思う。
その騒ぎが最も近づくと、教室の後ろの扉が勢いよく開けられる。

「恭也〜、昼ご飯の時間だよー!」

「ちょ、美緒ちゃん」

勢いよく教室に入ってくる美緒と、その後に何かの包みを持った美由希が入ってくる。
その二人を見ながら、恭也は頭を押さえる。

「分かったから、もう少し大人しく入って来い」

「気にしない、気にしない。それよりも、早く行こう。あ、忍も来るでしょう」

「う、うん」

流石の忍も、咄嗟にまともな返事を返す事が出来ず、頷く。
それを見て美緒は頷くと、恭也の手を取る。

「なら、早く行こう。時間が勿体無い」

「ま、待て。分かったから、そんなに引っ張るな」

「美緒ちゃん、待ってよ」

「みゆきち、早く来る。みゆきちが弁当を持ってるんだからね。ほら、忍も」

美緒の声に、忍も美由希と一緒に二人を追いかけるように走る。
恭也たちが去った教室では、男子たちが一斉に叫び声を上げた。

「何で高町ばっかりーー!」

そして、女子たちもまた新たに現われた美緒に対し、

「高町くんとあんなに親しく話した上に、手まで繋ぐなんて!何て羨ましいの!」

そんなちょっと熱い叫びを上げるクラスメイトたちの中、それよりも更に熱々の二人は完全に自分達の世界に入っていたとか。

「はい、勇吾。アーン」

「アーン。モグモグ……ング。うん、美味い!」

「本当?」

「ああ、これならいつでも嫁にいけるぞ」

「もう、勇吾ったら」

クラスメイトたちの殆どが、この二人の空気にやられ、昼休み中教室にいなかったとか。







美緒に連れられ中庭に着くと、そこには那美が来ていた。

「那美さん、こんにちは」

「こんにちは、恭也さん」

「ほらほら、座った座った」

美緒は恭也を座らせ、自分もその隣に座る。

「みゆきち、はやくそこに弁当を置いて」

「うん」

美緒に言われ、美由希が持っていた包みを降ろす。

「耕介作の弁当だよ。皆の分もあるからね」

「それはありがたい。では、遠慮なく頂こう」

美緒は恭也に箸を渡すと、早くも自分の分を重箱から小皿へと移し食べ始める。
同じ様に恭也たちも食べ始める。
全員が耕介の料理に舌鼓を打ちながら、食べる。
と、美緒が恭也へと話掛ける。

「恭也、そっちにあるアレ取って」

「ん、これか」

恭也は美緒に言われたオカズを取り、美緒の皿へと運ぶ。
恭也が皿に置く前に、美緒はそのままオカズを食べる。
この行為に、美緒と恭也を除く全員が声を上げる。

『ああー!』

「ん?どうしたの、皆?」

無邪気に尋ね返す美緒に、美由希たちも言葉を無くす。
そんな中、恭也が嗜めるように言う。

「陣内、行儀が悪いぞ」

「ああ、そういう事ね。ごめんごめん」

「今度からは気をつけろ」

「分かってるって」

美緒と恭也はそれだけを言うと、食べる事を再開する。
それを見ながら、美由希たちは『そういう意味じゃない〜』と煩悶するのだった。
放課後になると、美緒は恭也のクラスへと顔を出し、恭也を連れて遊びまわるのだった。







そんな感じでFCたちの再来もなく、一週間程が過ぎた頃、その日も恭也を連れまわした美緒はご機嫌でさざなみ寮へと帰宅する。

「ただいま〜」

一言言ってから、自分の部屋へと向う途中、美緒の耳にリビングでの会話が聞こえてきた。

「はー。あの青年はそんなにもてるのか」

真雪の声に、那美が答える声がする。

「はい、そうなんですよ。最近は、FCの人たちが来ないんですけど、この間もこんな事があって……」

那美は、一週間程前の昼休みの件を話し出す。
FCたちに詰め寄られた恭也が好きな人の名前を言おうとした。
それを聞いた真雪が、興味津々と言った感じで尋ねる。

「ほうほう。で、青年は誰の名前を言ったんだ。おい、隠さずに言えよ」

「い、言いますから、胸を揉まないで下さい」

「那美、いい事を教えてやろう。胸を揉まれると大きくなるぞ」

「ほ、本当ですか。って、それでも止めてください。い、言いますから」

真雪の舌打ちした声と、那美の荒い息遣いだけが聞こえる。
そして、那美は呼吸を整えると、ゆっくりと話し出す。

「実は……」

美緒はその先を聞きたくなくて、足音も立てずに部屋へと駆け出す。
そして部屋に入るなり、ベッドに突っ伏す。
何故だかは分からないが、頭の中がごちゃごちゃして、胸がずきずきと痛む。
何も考えたくなくて、美緒はきつく目を閉じる。
どれぐらいそうしていたのだろうか。
耕介の晩御飯に呼ぶ声が聞こえる。
しかし、美緒は何も食べる気がせず、そのままベッドに突っ伏したままでいた。
やがて、耕介が美緒の部屋をノックする。

「美緒、ご飯だぞ」

「いい、いらない。食べたくない」

「な、どうしたんだ美緒。具合でも悪いのか?」

「違うけど、いい。いらないから」

心配そうに尋ねてくる耕介には悪いが、今は誰とも話す気分ではなかった。
さっさとどこかに行って欲しいと思うのに、耕介は中々離れず、何度も部屋をノックする。

「耕介、しつこい!本当に大丈夫だって。今日はお腹がいっぱいで食べたくないだけだから!」

つい、耕介にあたるようにきつく言ってしまう。
言ってから少し後悔したが、それでも美緒はそれ以上言葉を発しなかった。
それで全てを分かった訳ではないだろうが、耕介はいつものように優しい声で、

「分かった。でも、一応美緒の分は冷蔵庫に入れておくから、食べたくなったら食べて良いからな」

それだけを言うと、耕介はその場を立ち去る。
静かになった部屋で、美緒は億劫そうに上半身を起こすと膝を抱え込み、そこに頭を乗せる。
大声で喚きたいような、暴れ出したいような、自分で自分が押さえられないような、
そんな訳の分からない衝動に駆られながら、美緒は抱える腕に力を込める。
頭を乗せた膝に、冷たいものを感じる。
あれ、雨漏りかな?でも、雨なんか降ってないし。
美緒は不思議に思いつつ、顔を上げる。
そこで、その水滴が雨ではなく自分の目から出ている事に気付く。

「あれ。私、何で泣いてるんだろう」

一度認識すると、まるで壊れたかのように次々と涙が溢れ出してくる。
それを不思議に思いながらも、美緒はただ流れるままに任せる。
そして、ゆっくりと今日一日を振り返るように思い出す。
朝起きて、学校に行って、昼食を食べて、そして恭也と一緒に放課後は遊んで。
恭也の顔を思い出すたびに、胸が痛むような気がしたが、美緒は今日の出来事を順に思い出していく。
そして、さざなみに帰ってきて……。
そこで、那美と真雪の話を聞いて……。聞いて……。
ああ、そうか。私は恭也の事が好きだったんだ。
だから、那美の口から、恭也の好きな人の名前を聞くのが辛かったんだ。
聞いてしまったら、もう恭也とは今までみたいに接する事ができないような気がして。
そして、何よりも、自分以外の女性と仲良くしている恭也を想像するのが嫌で。
美緒はそれに気付くと、涙を拭う。
そして、立ち上がる。
大丈夫、きっと何も変わらない。
恭也が誰を好きになっても、恭也の私に対する態度は絶対に変わらない。
そんな恭也だからこそ、自分は好きになったのだから。
美緒は一つ頷くと、そっと寮を出る。
明日からはいつもの私に戻る。そう、もう大丈夫。
美緒は自分を納得させると、夜空に浮かぶ月を見上げる。
久々に夜の散歩も悪くないかも。
そう思い、美緒は目的もなく夜の中を歩き出す。
そこへ向ったのは、たまたまだったのだろうか。
美緒は人の気配を感じ、そちらへと向う。
茂みを掻き分け、顔を出した美緒とそこにいた人物の目が合う。

「陣内か。どうしたんだ、こんな夜中にこんな場所で」

「それを言うなら、恭也だって同じだよ」

恭也の顔を見た瞬間、跳ね上がった動悸を無理矢理押さえ込み口を開くと、不思議な事にいつも通りに言葉が飛び出してくる。
そんな美緒の内心を知らず、恭也は笑みを浮かべる。

「そう言えば、そうだったな。まあ、俺はいつもの鍛練だ」

「鍛練?ああ。あれ、それじゃあ、みゆきちは?」

恭也と美由希がやっている事を知っている美緒は、その言葉に納得すると美由希がいないのを不思議に思い尋ねる。
すると、恭也は苦笑しながら、

「ああ、美由希は先に帰した。少し一人で鍛練したかったし、少し考えたい事があったからな」

「そう」

恭也と美緒は何となく近くの木に凭れるように並んで座る。

「考え事って?」

「ん。まあな」

美緒の問い掛けに、恭也は曖昧な返事で言葉を濁す。
しばし無言の時が流れる。
その間、美緒は何度か口を開こうとしては、また閉じるといった事を繰り返す。
やがて、意を決し口を開く。

「ねえ、恭也」

美緒の呼びかけに、恭也は顔だけを向ける。
そんな恭也の顔を、美緒は顔は正面にしたまま、横目だけで見る。

「FCの人に好きな人を聞かれたって本当?」

「な、何でそれを?」

「那美から聞いた」

「そうか」

また沈黙が辺りを包む。
しかし、今度はすぐに美緒によって破られる事になる。

「で、誰って答えたの?」

「……」

美緒の問い掛けに、恭也は無言でいる。
美緒にはその沈黙が苦しかったが、黙って恭也が話すのを待つ。
それでも黙ったまま、何かを考えているような恭也に対し、いい加減、焦れて再び尋ねようとした時、恭也が口を開く。
しかし、そこから言葉は発せられず、再び口を閉じようとする。
美緒は恭也が何か言おうとしているのを感じ、それを待つ。
時間にして、2、3秒程の事だっただろうが、美緒にはとても長く感じられた時間が流れ、やがて語り出す。

「答える前に終ったからな」

恭也の言葉に首を傾げる美緒に対し、恭也が詳しく教える。
それを聞き、美緒は自分の悩んでいた事は何だったんだろうかと大きな溜め息を吐く。

「で、今度その子たちが来たら、いないって答えるんだね」

安堵しつつ、まだ自分にもチャンスはあるという喜びを感じながら美緒は言う。
しかし、恭也から帰って来た答えは、美緒の予期せぬものだった。

「いや」

驚いて恭也の方へと振り向くが、今度は恭也が正面を向いており、顔を見合わせる事はなかった。
ただ、横目でこちらを窺う恭也と目があったので、自分が何かを言いたそうにしているのは伝わったみたいだった。

「数日前までなら、そう答えたんだろうけどな。今は……」

「そ、そう。今は好きな人がいるんだ」

先程の喜んだのも束の間、いや、勘違いと分かり嬉しかった分、今度の方がもっと悲しくなる。
それでも美緒は、それをおくびにも出さず、恭也に尋ねる。

「い、一体、誰なのかな?私の知っている人とか?」

「……ああ、そうだな」

「!ひょ、ひょっとして、那美とか?」

「いや、違う」

美緒は、他に自分の知っている者の名前を考えるが、結局、

「誰?」

と、尋ねた。
ここに来て、恭也は美緒へと向き直ると真剣な顔をする。
美緒は恭也のその顔に、速くなる鼓動を感じつつも平静を装う。

「陣内」

「な、何」

「……俺が好きなのは陣内だ」

美緒は最初何を言われたのか分からず、目をぱちくりさせる。
恭也はそれで何を思ったのか、頭を下げる。

「すまない。突然、こんな事を言ってしまって。嫌だったら、はっきり言ってくれ」

そう言って顔を上げると、美緒の顔をじっと見詰める。
その真剣な表情に頬が熱くなるのを感じつつ、美緒の頭の中は混乱していた。

(えっと、恭也が好きなのは陣内って事で。つ、つまり私って事で……。えっと、えっと)

「にゃ、にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ」

「陣内?」

「きょ、恭也、それは本当なのか。そ、その恭也が私の事を、す、好きというのは……」

「ああ」

美緒の言葉に、恭也ははっきりと頷く。
それを見て、美緒は嬉しそうに笑みを浮かべるが、恭也は訳が分からずに首を傾げる。

「所で、返事は……」

恭也は少し戸惑いつつも、美緒へと話し掛ける。
そんな恭也へと向け、美緒は満面の笑みで答えるのだった。

「勿論、私も恭也の事、好きだよ」

「そ、そうか」

美緒の答えを聞き、恭也は体の力を抜くと、そっと息を吐く。

「恭也、ひょっとして緊張してた?」

「まあな。それに、陣内に断わられるかもと思ってたしな」

恭也の言葉に苦笑を浮かべると、美緒は頭を恭也の肩に倒す。

「じ、陣内!」

突然の事に驚く恭也を、陣内は睨むように見る。

「美緒」

「何を言ってるんだ、陣内。それよりも……」

「だから、美緒!私達は恋人同士になったんだよね」

美緒の言葉に恭也は照れながらも頷く。

「だったら、名前で。……ね」

「……美緒」

「うん」

恭也の言葉に満足そうな笑みを浮かべる。
そんな美緒に、恭也が困ったように言う。

「それよりも、その、少し離れてくれないか」

「何で?恭也は私にくっ付かれるの嫌?」

「そんな事はないが」

「だったら、ね」

そう言うと美緒は、恭也の温もりを感じるようにそっとそのまま目を閉じる。
それを見て、恭也は何も言わずその手で美緒の髪を弄ぶ。

「恭也、くすぐったい」

「そうか。俺は気持ち良いんだがな」

「……恭也がそう言うなら、もう少し弄ってても良いよ」

美緒の許しを得て、恭也は髪を梳くように手を動かす。
そんな恭也の顔を美緒は覗き込むように見る。
その視線に気付き、恭也も美緒の方へと目を向け、二人の視線が交差する。
そして、どちらともなく目を瞑り、顔を近づけていく。
恭也の髪を梳いていた手が美緒の頬に添えられ、やがて月の照らす中、二つの影が一つに重なった。























おまけ



翌日、前日の美緒の態度を心配していた耕介は、朝早く美緒の部屋へと向う。
そこで、美緒の部屋から出てくる恭也と会う事となる。
とりあえず、黙っていてもらう約束をするが、それも時間の問題だろうと恭也は思っていた。
そして、それはその通りになるのだった。
だが、耕介の名誉のために言っておくが、耕介は約束したとおり何も話さなかった。
それがばれたのは、恭也本人からだったのである。それもそうであろう。
まず、美由希は朝の鍛練の時間になっても恭也が来ない事を不思議に思い、恭也の部屋へと行った。
そこに恭也の姿を見なかったのだから。
そして、風校に通う者たちは、恭也が美緒を名前で呼んでいることで不思議に思っていた。
それでも、決定的な決め手は別の事で、それまで大人しかったFCたちが昼休みに遂に動いたからである。
その場で、恭也は正直に美緒と恋人である事を言ったのだった。
その後、さざなみで宴会が行われた事は言うまでもない。





<おわり>




<あとがき>

Mr.K さんの46万Hitのリクエスト、美緒編でした。
美姫 「ちょっと完成に時間が掛かってしまいました」
すいません、すいません。
美姫 「2のキャラは久し振りよね」
……確かにな。とりあえず、美緒完成!
美姫 「で、次は誰かな?次は誰かな?フフフフーン」
誰でしょうね。
美姫 「うわっ!あっさりと流した」
ははははは。とりあえず、また次回。
美姫 「じゃあね」





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