『An unexpected excuse』

    〜十六夜編〜






「俺が、好きなのは……」

「恭也様」

恭也が名前をあげるよりも先に、恭也を呼ぶ声がする。
恭也をこういう風に呼ぶのは、二人しかいない。
そして、この声は……。

「十六夜さん」

恭也は少し嬉しそうに、その名を呼びながら背後へと振り返る。
そこには、期待したとおりの人物が柔らかい笑みを浮かべて立っていた。
十六夜はその笑み同様、柔らかい物腰で恭也へと近づく。
恭也は見えない十六夜の為、近づき手を取る。

「お久し振りですね、恭也様」

「本当に久し振りです」

「那美もそこにいるんですか?」

「あ、はい。十六夜さん、久し振り」

那美も十六夜に話し掛ける。
他の面々とも挨拶を交わしていると、少し離れた所から十六夜を呼ぶ声がする。

「十六夜、どこねー」

「あの声は……」

「薫ちゃん?」

那美が薫の名を呼ぶのと、薫がこちらに気付くのが同じぐらいだった。
薫は那美の方を見て、探していた十六夜がいると分かると、すぐさまやって来る。

「十六夜!あれほど勝手に出歩くなと、いつも言ってるじゃろうが」

「すいません薫。でも、恭也様の気配がしたものですから……」

言い訳をする十六夜を、ぴしゃりと遮る。

「ここは恭也くんの通っている学校なんじゃから、いても可笑しくはないじゃろ。大体……」

まだ何か言おうとする薫を恭也が制する。

「まあまあ、薫さん落ち着いて。別に十六夜さんも悪気があった訳じゃないんですし」

「恭也くんはすぐにそうやって甘やかす」

薫の言葉を否定も肯定もせず、恭也は薫に尋ねる。

「薫さんはどうしてここに?」

「今日の放課後、少し剣道部の稽古を見てくれるように頼まれてて。
 その打ち合わせみたいなものじゃよ。まあ、海鳴に来るついでもあったんじゃが」

「それって……」

何かに気付いたような恭也の言葉に、薫は重々しく頷く。
しかし、すぐに表情を崩し、薫にしては珍しくからかうような目つきになる。
それに気付いたのか、十六夜が嗜めようと口を開く。

「薫、何か変な事を考えてませんよね」

「変とは失礼じゃね。うちは、別に変な事は考えておらんとよ。
 そんな事を言うと、このまま鹿児島に帰るよ」

「か、薫。それでは、ここに来た意味がないじゃないですか」

これまた珍しく、十六夜が慌てたような声を出す。
それを見て、薫は笑みを深めると、

「珍しかね。十六夜がそこまで取り乱すなんて」

「わ、私は別に」

「はいはい」

尚もからかおうとする薫に、恭也が助け舟を出す。

「薫さん、十六夜さんも困ってますし、それぐらいで」

「そうじゃね。これぐらいにしとこうかな。それにしても、やっぱり恭也くんは十六夜に甘かね。
 まあ、それも仕方がないと言えば、仕方がないのかもしれんが……。
 それに、今後それでうちが困る事もないじゃろうから、別に良いんじゃけどね」

「薫(さん)!」

二人して声を揃え叫ぶ。それを可笑しそうに見ながら、薫は尚も話し続ける。

「二人して、うちを悪者扱い……。やっぱり、うちとの絆なんてそげなもんじゃったとね」

「か、薫さん」

薫の言葉に、戸惑う恭也を余所に、十六夜は口元に手を当て微笑むと、恭也の肩に頭を乗せるように凭れ掛る。

「薫との絆は何者よりも確かですけど、今はそれ以上の方を見つけただけですわ」

十六夜の言葉に、恭也は照れたように鼻の頭を掻き、薫はあまりにもはっきりと言い返され、しばし茫然とする。

「そうはっきりと言い返されるとは思わなっかった……」

「私の正直な気持ちを言ったまでですよ。別段、隠すような事ではありません」

はっきりと言う十六夜に、薫は笑みを浮かべる。

「恭也くんも十六夜を大事に思ってるみたいじゃしね」

薫の言葉にも恭也は強く頷く。
それを感じつつも、十六夜は、

「恭也様、言葉にして頂きませんと、私には伝わらないんですが……」

少し悲しそうに言う十六夜。
それを見て、薫も同じ様に言う。

「そうじゃね。はっきりと恭也くんの口から聞かないと。
 もし、うちらの勘違いじゃったら、大変困るし」

「そ、それは前にお話したじゃないですか」

「でも、心変わりしたともあり得るじゃろ?」

薫の言葉に、恭也は十六夜の手を握り、十六夜を真っ直ぐに見る。

「俺も十六夜さんと同じ気持ちですよ。十六夜さんを愛してます」

それから薫を見ると、

「ですから……」

それを聞き、二人は笑みを浮かべる。
そして、薫は一つ頷くと、

「異例中の異例ではあったけど、今まで神咲に仕えてくれた十六夜の意志を尊重したいという事と、
 多少なりとも恭也くんが十六夜を扱えるという事で、十六夜を恭也くんに託す事が正式に決まったよ」

そう言うと、手に持っていた刀袋を前に差し出す。

「神咲一灯流が当代、神咲薫が今ここに高町恭也、汝に真道破魔、神咲一灯 霊剣十六夜を託す」

「高町恭也、これを謹んで承ります」

恭也は片膝を着くと、袋に入ったままの十六夜を恭しく受け取る。

「これで十六夜は君が存命中は君のものとなった訳だけど、一度鹿児島には来てもらわんとね」

「はい。後日、伺います」

「そんなに畏まらなくても良いよ。うちの家族たちは認めてるからね。
 簡単な霊力の使い方は十六夜本人や那美から教えてもらえば良いし」

薫はそこで一端言葉を切ると、またも悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「だから、恭也くんに鹿児島に来てもらうのは、別の理由からじゃよ。
 一応、形だけとは言え、十六夜に式を挙げてあげたいからね」

その言葉に、恭也と十六夜は顔を赤くする。
それを見て、薫は嬉しそうに笑う。

「十六夜が照れる所なんて初めて見た」

「か、薫!」

十六夜は照れ隠しなのか珍しく大声を上げる。

「まあまあ。ばあちゃんたち皆も十六夜には色々とお世話になったし、それに家族じゃから十六夜のために何かしたいんよ。
 それに、恭也くんも十六夜の花嫁姿を見たかろう?」

「はい、見たいですね。きっと綺麗だと思いますよ」

「きょ、恭也様……」

恭也にも言われ、益々照れる十六夜。
そんな十六夜を見ながら、恭也はそっと微笑む。
そこへ、置いてけぼりを喰らっていた那美たちが口を挟む。

「薫ちゃん、一体何の話をしてるの?」

「何って十六夜と恭也くんの……。あれ?那美には話してなかったと?」

「私、何も聞いてないけど……」

薫の言葉に、那美は記憶を辿りながら答える。
そこへ、忍が話し掛ける。

「えっと、今まで聞いた話を統合すると、恭也と十六夜さんが付き合ってるで良いんですよね……」

「ああ、そうじゃよ。って、それも知らんかったと?」

薫の言葉に全員が頷く。

「あれ?那美には言うたと思ったんじゃけど……」

「ええー!私、聞いてない……。って、ああー!」

突然、声を上げる那美に全員の視線が集まる。

「まさか、霊剣十六夜を恭也さんが所持する事になるかもっていうアレの事?」

「そうじゃよ」

「あれって、そう言う意味だったの……」

那美の言葉に薫は頷く。
そんなやり取りをしていると、FCの一人が声を掛けてくる。

「あのー、高町先輩。という事は、私たちの質問に言おうとした名前は、そちらの……」

その女子生徒は目を十六夜へと向ける。
それを見て、恭也は頷く。
その答えを聞き、FCたちはぞろぞろとこの場を後にした。
その事態が分からず、疑問を浮かべる薫と十六夜に、美由希が簡単に事の成り行きを説明するのだった。

「あらあら、恭也様はオモテになるんですね」

十六夜は笑いながら、そんな事を言うが、その表情はいつもと少し違っていた。
それを見て、忍たちは用を思い出したとその場を早足で去り、薫は本当に珍しそうに十六夜を見た後、本当に楽しそうに言う。

「十六夜が焼きもちまで焼くなんて。本当に、恭也くんが関わってくると、今までに見た事もない十六夜が見れるね」

それを聞いた十六夜は、どこか憮然とした感じで薫を嗜める。

「薫、先程から貴女の言動は、真雪さんみたいですよ。ひょっとして、真雪さんに似てきたのでしょうか?」

そう言って首を傾げてみせる。
それを聞き、薫は力なく地面に座り込む。

「う、うちが仁村さんみたい…………。よりにもよって、に、仁村さんに似てる…………」

茫然と焦点の合わない目をして、空中の何もない一点を見詰める薫だった。
それを横目に見ながら、恭也はそっと十六夜を抱き寄せる。

「恭也様、何を?」

「俺が好きなのは十六夜さんだけですから、安心してください。
 こうして、抱きしめたいのも、近くにいたいと思うのも十六夜さんだけだから」

十六夜は恭也の腕に抱きしめられながら、その胸に頬を寄せる。

「私もこうして抱きしめてほしいと思うのは、恭也様だけです」

そう言うと、そっと手を恭也の顔へと伸ばし、その顔を撫でる。
同じ様に、恭也も片腕を十六夜の腰に回し、残る手で十六夜の顔に触れる。
そして、そっと頤に手をやると、そっと上向かせる。
十六夜は恭也の指に顔を上げながら、そっと目を瞑る。
目を瞑った十六夜の唇に、柔らかく温かい感触が触れる。
やがて、長く触れ合っていた唇がそっと触れる。

「恭也様……」

十六夜は愛しそうにその名を呟き、その胸に身を任せる。
恭也は、腕の中で甘えてくる十六夜を抱きしめながら、その髪をそっと撫で上げる。
それを心地良く感じながら、十六夜は目を細め、しばしの時を堪能するのだった。







当然(?)の事ながら、午後の授業には教室に恭也の姿はなく、
中庭には、真雪みたいと言われ、酷く落ち込んだままの薫だけがいた。





<おわり>




<あとがき>

はい、万次郎さんの49万Hitリクエストで十六夜編です。
美姫 「キリ番おめでとう!」
十六夜さんが出た事で、2のヒロインは後、愛さんだけとなったな。
美姫 「理恵ちゃんは?」
えっと、とりあえず攻略可のヒロインの中では、って事で。
美姫 「はいはい。じゃあ、次行こうか」
はい……。
美姫 「じゃあね〜」





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