『An unexpected excuse』

    〜翼持つもの編〜






「俺が、好きなのは……」

突如、背後に気配が生じ、気が付くと恭也は後ろから抱きしめられていた。

「恭也く〜ん♪」

「ち、知佳さん!一体、いつ海鳴に」

顔だけを後ろへと向けながら尋ねる恭也の前方に、またしても突如気配が生まれ、今度は正面から抱きつかれる。

「恭也〜♪」

「シェ、シェリーさんまで。一体……」

驚いている恭也の両腕を、同じ様にいきなり現われたリスティとフィリスがそれぞれ抱きつくようにして掴む。
恭也が二人に何か言うよりも先に、リスティが口を開く。

「全く、知佳もシェリーもずるいぞ。先に行くなんて」

「そうよ。私たちだって、会いたいのに」

リスティの言葉に、フィリスも口を尖らせつつ同意する。

「ごめんね、二人とも。でも、二人はいつだって会えるじゃない」

「そうそう。それに引き換え、私や知佳はたまにしか会えないんだから、少しぐらい許してよ」

「何を言っているかな。僕も最近は仕事の所為で、会えなかったんだぞ」

「私なんて、恭也くんは病院嫌いだから、この間の診察日にすら、すっぽかされているのに」

フィリスの拗ねたような言葉に、知佳たちが口を開く。

「それは流石に……」

「駄目だよ、恭也。ちゃんと診察受けないと、治るものも治らないよ」

「ち、違います。あ、あれはたまたま日にちを勘違いしていただけで。
 治ると言われてからは、ちゃんと通院してますよ」

「本当に?」

知佳が恭也にではなく、フィリスへと尋ねる。
その言葉に、フィリスは頷く。

「そうですね。この間は通院日を勘違いしてたみたいですけど、ちゃんと通院してますね」

フィリスの言葉に恭也はどうだとばかりに頷く。
そんな恭也に釘を刺すように、フィリスが注意をする。

「ですけど、過度の鍛練は控えてくださいよ。ちゃんと通院する事と、これは別ですからね」

「分かっています」

フィリスの言葉に、恭也は苦りきったような表情を浮かべるが、フィリスはいいえ分かっていませんと言うと、
いかに恭也が悪い患者であるかを並べていく。

「そもそも、恭也くんの軽いと思っている運動量が既に、常人からすればオーバーワークに近いんですから」

「は、はあ、気を付けているつもりなんですが……」

まだ何か言おうとするフィリスに代わり、リスティが口を開く。

「恭也、口やかましい妹は放っておいて、どこかに行こうよ」

「誰が口やかましいですか!私はただ、恭也くんのためを……」

リスティに文句を言おうとするフィリスを遮り、知佳がリスティに言う。

「こら、リスティ。一人だけなんてずるいわよ」

「そうだよ。皆一緒って約束だろう」

「はいはい、分かってるって」

目の前のやり取りに、取り残されるように茫然となっていた美由希たちが我に返る。

「一体、何の話なんですか」

美由希の言葉に、リスティたちは揃って首を傾げる。

「恭也、言ってないのかい?」

「ええ、まあ」

「それよりも、私は後ろにいる子たちが気になるんだけど」

「あ、それは私も。一体、何?」

知佳の言葉にシェリーも同意するように頷き、説明を求めるように那美を見る。
それを受けて、那美がこの事態を説明すると、四人の顔が不機嫌になっていく。

「全く、これだからこの朴念仁は」

「恭也くん、まさか私たちがいない間に、他の誰かと……」

「そんな事あるはずないでしょう」

知佳の言葉を、はっきりと否定する。
それを聞いて、四人は安堵する。

「じゃあ、恭也は何て答えようとしてたのかな?」

「それは、言わなくても分かるかと……」

「でも、聞きたいな」

知佳はそう言うと、恭也の首へと手を回し、顔を近づける。
それを見て、他の三人も同じ様に恭也の顔へと近づく。
至近距離から四人に囲まれ、恭也は照れたように顔を赤くし、視線を逸らそうとするが、
どこを向いても四人のうちの誰かと目が合い、仕方なしに空を見上げる。

「「「「恭也〜(さん)(くん)」」」」

一斉に名前を呼ばれ、恭也は困ったような表情を浮かべた後、ぼそりと呟く。

「皆さんですよ」

その言葉に嬉しそうな顔を浮かべると、恭也を抱く腕に力を込める。
そんなやり取りを完全に蚊帳の外で見ていた美由希たちは、事態を少しでも把握しようと努める。
代表するような形で、忍が恭也に、恭也たちに疑問をぶつける。

「えーっと、どういう事なんでしょうか?」

「ん?つまり、こういう事だよ」

そう言うとリスティは恭也の頬にキスをする。
それを見て、知佳たちも次々と頬にキスをする。
それを赤い顔をして見ながら、那美が恐る恐るといった感じで尋ねる。

「えっと、つまり……」

その言葉の途中で、知佳が左手を那美に見せる。

「そういう事。ほら」

その薬指には、銀色に輝くものが填っており、他の三人の指にも同じ物が輝いていた。
四人は恭也の手を取り、そこに同じ物がないことに気付く。
途端、険しい表情で恭也を睨む。

「恭也、これはどういう事かな?」

「どうして、恭也くんの指には、私たちがしている物がないのかしら?」

「恭也、説明してくれるよね?」

「勿論、私たちが納得するような答えですよね?」

険しい表情から一転、笑みを浮かべつつ尋ねてくるが、その笑みは物凄いプレッシャーを持って恭也を襲う。
疑問形で聞いてきているはずなのに、どんな答えを出しても酷い目に合う予感しか受けない。
恭也は引き攣りつつも、その口を懸命に開ける。

「そ、その、別に深い意味はないんですが。ただ、学校にそういう物をしていくのはどうかと思いまして。
 で、ですがそれ以外ではちゃんと付けてますし、今もこうして持っていますよ」

恭也はそう言って、ポケットから同じ様な銀色の指輪を取り出して見せる。
その説明と指輪を見せられて、知佳たちも落ち着いたのかとりあえず緊迫した空気は消える。
そこから離れたところでは、忍が美由希に尋ねていた。

「美由希ちゃん、恭也、あんなのしてたの?」

「えっと……。そう言えば、していたような……」

美由希は記憶を辿り、どこかで見たような気がする事を告げる。

「どうして、そこで恭也に聞かないの」

「だ、だって〜」

そんなやり取りを余所に、知佳たちは揃って溜め息を吐いていた。

「何のために、これを用意したと思ってるんだろうね」

「私たちの努力って」

「恭也にそこまで期待する方が無理だって、分かっていたはずなのに」

「僕とした事が、すっかり忘れていたよ」

「あの、一体何の事……」

知佳たちの会話に首を傾げつつ、尋ねる恭也に、声を揃えて言い放つ。

「「「「悪い虫除けに決まってるでしょう」」」」

「は、はあ」

意味が分からずに、曖昧な返事を返す恭也を眺めつつ、知佳たちは肩を落とす。

「折角、悪い虫が近づかないようにってやったのに……」

「肝心の恭也が付けてないんだもんね」

「おまけに、私たちの心配したような事になっていますし」

「ここまで来ると、腹が立つよりも先に感心するね」

口々に言われながらも、恭也は未だに意味を性格には把握していなかった。
そんな恭也へ、知佳が話し掛ける。

「あのね、恭也くん。あまり言いたくないんだけど、向こうでしつこいぐらい言い寄ってくる男性がいたの」

同じ様な事を他の三人も口にする。
その言葉を聞いて、恭也は面白くなさそうな顔をする。
尤も、本人はそれを出さないようにしているため、表情に殆ど変化は見られず、殆どの者は気付かないだろう。
その数少ない例外である知佳たちは、恭也の表情の変化に気付き、少し嬉しい気持ちになる。
それを見て笑われた恭也は憮然となる。

「あははは、拗ねない、拗ねない」

「別に拗ねてなんかいませんよ」

笑いながら言うリスティに、恭也は言い返すが、知佳たちは全てお見通しといわんばかりに笑みを浮かべている。

「安心して、恭也くん。これをしてからは、そんな人たちも諦めたみたいだから」

知佳の言葉に三人も頷き、それを聞いた恭也は安堵する。
そんな恭也を見て、知佳たちは笑みを浮かべる。

「だからね、恭也くんにもしてて欲しいの。私たちの言いたい事、分かるでしょう」

知佳の言葉に恭也は納得し頷きながら言う。

「分かりました。でも、俺に言い寄ってくるような女性なんていませんよ」

この言葉に、知佳たちは顔を見合わせ苦笑を浮かべると、肩を竦めるのだった。
その後、FCたちに向って、

「そういう訳だから……」

「恭也は僕たちのものなんだ」

「だから、ごめんね」

「そういう訳ですので」

この言葉を聞いて、FCたちは頷くとその場を去って行く。
後には、美由希たちだけが残り、何か聞きたそうにしていたが、時間がなかった為、後日という事で諦めさせる。
そして、恭也は知佳たちに引き止められ、見事に午後の授業をすっぽかす事となった。
更に後日、高町恭也四つ股疑惑が発生するが、これに関して、当の本人は、否定する事も肯定する事もなかったとか。





おわり




<あとがき>

今回は、ちょっと変わったパターン。
美姫 「過去に個別で出てきたキャラの共同出演ね」
その通りです。その為、甘々ではないけどね。
こんなのもありかなと……。
美姫 「って事は、歌姫編とかも」
ま、まあ、今回はたまたまという事で。
このパターンでリクが来ると、ちょっと辛いし。
基本は個人で。
美姫 「自分で自分の首を絞めるような真似をしなければ良いのに」
それを言うなよ。とりあえず、また次回という事で。
美姫 「ではでは〜」





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