『An unexpected excuse』

    〜アルクェイド編〜






「俺が、好きなのは……」

「きょ〜やっ!」

「ぐっ」

木の上から突然、名前を呼びながら一人の美女が恭也に飛びつく。
その衝撃を喰らい、恭也は見もしないのにそれが誰だか分かる。
自分の知り合いで、こんな無茶で馬鹿なことをするのは一人だけしかいないからだ。
恭也は後ろを向きながら──最も後ろから抱き付かれているため顔だけだが──名前を叫ぶ。

「アルク!」

「何々?」

名前を呼ばれたアルクェイドは嬉しそうに笑みを浮かべ、無邪気な表情で恭也の言葉を待つ。
その顔に何故か罪悪感を覚えながらも、恭也はため息を吐きつつ言う。

「アルク、あれほど学校には来るなと言っただろう」

恭也の言葉を聞き、アルクェイドは拗ねたように頬を膨らませる。

「何よー、私が悪いって言うのー」

「悪いとかじゃなくてだな……」

恭也の言葉を最後まで聞かず、アルクェイドは癇癪を起こす。

「だって、恭也ってば毎日毎日学校、学校って全然かまってくれないんだもん」

「そんな事を言ってもだな」

「む〜〜」

恭也が何を言っても無駄のようで、アルクェイドは耳を塞ぎそっぽを向く。

「知らな〜い、聞こえませ〜ん、だ」

それを見ながら、恭也は再びため息を吐くと肩を竦める。

(この状態のアルクに何を言っても無駄だな。少し落ち着くまで待つか)

そう考え、何も言わずにいると、アルクェイドが口を開く。

「あ、そう。そういう態度を取る訳ね。私を滅茶苦茶にした上に、こんな女にしたくせに。
 ああ、あれね。前にみたテレビで言ってたけど、飽きたらポイッって訳ね」

この台詞に、恭也の周りの空気が凍る。

「ばっ!お前は何を言ってるんだ。いいから少し黙れ。誤解されるような事言うな!」

恭也は慌ててアルクェイドの口を塞ぐ。
そんな恭也を見ながら、美由希たちがぼそりと呟く。

「恭ちゃんって、鬼畜だったんだね」

「恭也、それは幾ら何でも酷いわよ」

「恭也さんが、そんな人だったなんて……」

「師匠が、師匠が……」

「お師匠、嘘やと言うて下さい」

「…………はぁ〜。何を勘違いしているのか知らんが、とりあえずお前らが思っていることとは違うからな」

恭也の説明に、半信半疑ながらも頷く美由希たち。
一方、口を塞がれているアルクェイドは、恭也の手を何とか引き離すと、何故かさっきよりも怒っていた。

「……もう、恭也なんて知らないんだから」

いつもと違う怒りを感じ、恭也はアルクェイドに話し掛ける。

「おい、アルクどうしたんだ。何をそんなに怒っているんだ」

「本当に分からないの?」

「……えっと」

「恭也の鈍感、馬鹿、このニブチン」

「物凄い言われ様なんだが……」

散々文句を言われても尚、何を怒っているのか分からない恭也はただ首を傾げる。
そんな恭也の様子に益々腹を立てるアルクェイド。
終いに、目の端に涙まで溜め出す。それを見て、恭也は余計に焦る。

「うぅ〜。良いわよ、もう。どうせ恭也にとって、私になんてそんな存在だったって事よね」

「は?何を言って……」

「だって、恭也がさっきそう言ったんじゃない。皆が思っているような関係じゃないって」

アルクェイドの言葉に恭也は暫し考え、ようやく思い当たる。

「ああ。いや、あれは皆が俺の事を……」

「うぅ〜、聞きたくないったら、聞きたくない」

アルクェイドの態度に恭也は困ったように天を仰ぐ。

(さて、どうしたもんか)

そのとき、FCの一人が恐る恐るといった感じで声を掛けてくる。

「あのー、高町先輩。その人とは、どんな関係なんですか」

「ん?ああ、そういえば質問の途中でもあったな。とりあえず、このアルクがその質問の答えだ。
 つまり、俺の恋人だ」

恭也はどうやってアルクェイドの機嫌を取るか考えるのに精一杯で、
いつもなら照れるような事をすんなりと口にすると、再び考え込む。
それを聞いてアルクェイドは嬉しそうな顔をすると、恭也に飛び付く。

「恭也〜」

「な、何だ」

理由は分からないが、どうやら機嫌の直ったらしいアルクェイドを受け止める。

「えへへへ」

機嫌が直ったのなら良いかと思い、恭也は大人しくしている。
そんな二人を見て、忍が疲れたように言い放つ。

「何かやってられない気分ね」

何故か美由希たちもその言葉に頷くと、立ち上がる。

「さてと、もうすぐ授業も始まるから戻りますか」

「もうそんな時間か。じゃあ、俺も……」

そう言ってアルクェイドを引き離そうとした恭也を忍が止める。

「恭也はそのままいなさい」

「しかし、そういう訳には」

「良いから、良いから。それとも、その状態を振り払ってまで戻れるの?」

忍の指差す先には、恭也の腕を取り笑顔で抱きついているアルクェイドがいた。

「……無理だな」

「でしょう。じゃあね」

忍はそう言うとその場を去る。
その後に、全員が続くように去って行くと、その場には恭也とアルクェイドだけが残される。
暫らくは無言のままだったが、恭也はまだ抱きついているアルクェイドに声を掛ける。

「アルク、いつまで引っ付いている気だ?」

「うーん、もうちょっとかな」

「はぁー。好きにしろ」

恭也はそう言うと、その場に横になる。
当然、抱きついているアルクェイドも同じ様に横になる。
アルクェイドは恭也の顔を見ながら、恐る恐る尋ねる。

「恭也、怒ってる?」

「……別に怒ってないさ。ただ、来るなら来るで、もう少し人目につかないようにな」

「うん、分かった。だから、恭也好き」

アルクェイドはそう言うと恭也の胸に擦り寄る。
素直すぎるアルクェイドの言葉に照れながら、恭也はアルクェイドの髪をそっと撫でる。

「さて、それじゃあ折角だし何処か行くか」

「本当!」

「ああ。何処が良い」

「えっとね……。うーん、とりあえず歩きながら考えよう」

アルクェイドはそう言うと立ち上がり、恭也の手を引いて起こす。
恭也が立ち上がると、その腕に自分の腕を絡ませ、腕を組むと歩き始める。
幸せそうなアルクェイドの顔を見て、恭也は笑みを零す。

「何処までもお供いたしますよ、純白のお姫様」

その恭也の言葉を聞き、アルクェイドは笑みを浮かべて答えるのだった。

「当たり前よ。一生かけて責任取ってもらうんだからね」





<おわり>




<あとがき>

熊さんの54万Hitのリクエスト、アルクェイドです。
美姫 「54万!」
オー、イエー!
美姫 「このシリーズも結構、長いわね」
うんうん。もうすぐで、とらハのキャラを出し終えるかな。
美姫 「でも、まだまだ道は長いわ」
ファイトだ、俺!
美姫 「その意気よ。さあ、気合も入った所で、さっさと次に取り掛かりましょうね」
……僕、3つ。
美姫 「はいはい、行こうね」
ぐわ〜、離せ〜〜。
美姫 「ではでは皆さん、ごきげんよう」





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