『An unexpected excuse』
〜七瀬編〜
「俺が、好きなのは…………」
「やっほー。恭也、何してるの?」
突如聞こえた脳天気な声に、恭也は驚きながらその名前を呼ぶ。
「七瀬!な、何でここに?」
「何でと言われても。校内ならある程度移動できるし……。あ、忍も元気そうね」
「ええ、私は元気よ」
七瀬と忍が挨拶をする中、恭也は一人頭を抱える。
「そう言う意味で聞いたんじゃなくてだな。どうして、こんな時間にここに来たのか聞いたんだが」
「恭也に会いに決まってるじゃない♪」
「……素直に納得できないのは何故だろうか」
恭也の呟きに、七瀬が大げさに驚く。
「酷いわ、恭也。そんな事を言うなんて。私を恭也なしじゃ生きられない身体にしておいて」
「ちょっ、ま、待て七瀬」
慌てて何か言おうとした恭也よりも早く、那美たちが悲鳴じみた声を上げる。
「不潔です、恭也さん!」
「恭ちゃんにそんな趣味があったなんて」
「師匠……」
「お師匠、幾らなんでもそれは」
「お、お前ら何か勘違いをして……」
弁明しようとする恭也の台詞を遮るように、那美が不思議そうに尋ねる。
「忍さんは驚かないんですか?」
一人驚いていない忍に那美が問い掛ける。
それを受け、忍は頷く。
「まあね。私は知ってるし。それに、たまにお裾分けしてもらってるから」
「そ、それって七瀬さんと一緒に、って事ですか」
「うん、そうよ」
「し、師匠が三人でなんて……」
「ちょっと待て!完全に誤解して……」
忍の言葉に茫然となる美由希たちと、弁解しようと口を開く恭也。
そんな中、忍は続ける。
「まあ、ちょっとやりすぎて恭也がフラフラになる事もあるんだけど、恭也ってばすぐに元気になるから」
忍の言葉に、美由希たちは顔を赤くして俯く。
恭也はため息を一つ吐くと、軽く忍の頭を叩く。
「いい加減にしておけ。美由希たちが勘違いするだろう」
「へ〜。勘違いって、どんな?」
忍が意地の悪い笑みを浮かべて恭也を見返す。
それを受け、恭也は言葉に詰まりながら、助けを求めて七瀬へと視線を向ける。
しかし、七瀬も忍同様の笑みを浮かべ、詰め寄ってくる。
「私も聞きたいな。一体、何を勘違いしてるのかしら?」
二人に詰め寄られ、後退りながら恭也は疲れたように口を開く。
「お前ら、俺をからかっているだろう」
恭也の言葉に、二人は揃って頷く。
「「うん、勿論」」
その言葉に恭也は盛大なため息を吐き出す。
そんなやり取りを見ていた那美が、恭也たちに問い掛ける。
「えっと、それってつまり……」
「冗談よ、冗談。詳しい事は後で教えてあげるから」
忍の言葉に美由希たちは頷き、大人しくなる。
その横からFCの一人が声を出す。
「あの、それで一体誰なんでしょうか」
その言葉に、美由希たちも何をしていたのか思い出し、恭也をじっと見る。
「何、何?何の話?」
一人途中から来た為に知らない七瀬に、忍が掻い摘んで教える。
すると、七瀬も興味深そうに恭也を見詰め、楽しそうに尋ねる。
「誰なのかな〜」
「……七瀬、分かってて言ってるだろう」
「うふふ、どうかな?」
七瀬は意地悪っぽい笑みを浮かべて、恭也の問い掛けをはぐらかす。
そんな七瀬を見ながら、恭也は軽く肩を竦める。
「前にも言っただろうが、俺は七瀬とずっと一緒にいるって」
「うん、聞いたよ。でも、その理由までは聞いてないからね」
「……それは、その」
恭也は視線をあちこちに彷徨わせ、口篭もる。
そんな恭也の視線の先に顔を出しては、楽しそうに、そして何かを待つように恭也を見詰める。
「ほらほら」
七瀬は楽しそうに、何度目かになる恭也の視界の先に移動し、覗き込む。
恭也も観念したのか、七瀬を見詰める。
「ずっと一緒にいたいのは、俺が七瀬の事を好きだから」
その言葉を聞き、七瀬は今までとは違う、全てを包み込むような柔らかい笑みを浮かべ、恭也の頭を抱き寄せる。
「やっと言ってくれたね。いっつも私にばっかり言わせて、恭也は言ってくれないんだもん」
「そ、それは……」
「そりゃあ、恭也の気持ちは分かってるけど、やっぱり一回ぐらいはちゃんと言って欲しいじゃない」
「すまなかった」
「言ってくれたから、許してあげよう。恭也だからこそ、特別なんだからね」
「ああ、分かった」
そんな二人を見ながら、FCたちはその場をそっと去って行く。
FCたちが去った後、忍が珍しく遠慮がちに二人へと声を掛ける。
「えっと、ごめん。ラブシーンは後にして、ちょっと良いかな」
その言葉に、恭也は顔を赤くし、七瀬はちょっと不満そうに離れる。
「じゃあ、改めて紹介するね。こちら、霊の春原七瀬」
「どうも、七瀬です!」
「え、ええっ!……ほ、本当だ」
忍に言われ、那美は初めて七瀬が霊だと分かり、酷く落ち込む。
「まあまあ、そんなに落ち込まないで」
「あ、あのー、霊って事は……」
「うん。私一度死んでるのよね」
明るく言う七瀬に、美由希たちは言葉も出ない。
そんな美由希たちに七瀬は笑いながら言う。
「いやーね。そんなに気にしなくても良いわよ。
そのお陰で恭也に会えたんだもん。私は満足よ。
それに、もうすぐ恭也とずっと一緒にいられるようになるし」
「それってどういう事ですか?」
晶が不思議そうに尋ねる。
「あ、それを説明しようと思ってたんだ。
さっき七瀬が恭也なしで生きられないって言ってたでしょう。
つまり、定期的に恭也から霊力を供給してもらってるのよ」
「恭也さん、霊力が使えるんですか?」
那美が驚いたような声を上げる。
それに対し、恭也は首を横に振る。
「いえ、使えるわけではないんです。
ただ、内側に膨大な霊力が眠っているらしいんで、七瀬が勝手に吸うんですよ」
「そんなに凄い量の霊力が……」
「はい。さくらさんや薫さんにも調べてもらいました」
「薫ちゃん!?薫ちゃんは知ってるんですか?」
「はい。七瀬と十六夜さんは仲が良かったみたいで」
恭也の言葉に七瀬は頷く。
「今も海鳴に来た時は、たまに会ってるのよ」
「その時に十六夜さんに言われまして。その、七瀬と一緒にいるのに生命力が消費されていないって」
恭也は何故か顔を赤くしながら話す。
「それで調べてみたら、霊力の量がかなりあったみたいで」
「ど、どれぐらいだったんですか?」
「よくは分かりませんけど、体の奥の方に眠っているみたいで、
薫さんたちみたいに自分で引き出して使うことは出来ないらしいんですけど、七瀬一人を実体化させるぐらいだそうで」
「まあ、流石に一日中ずっと実体化は無理みたいだけど、半日は可能よ。一回試したから。
それで、次の日には元に戻ってるのよ」
「そ、それて物凄い霊力じゃ」
「自分では実感ないんですけどね」
恭也は鼻の頭を掻き、困ったように言う。
その横で、レンが質問をする。
「それで、それとずっと一緒っていうんはどう?」
「ああ、それはね。つまり、私が恭也の守護霊になるって事よ」
『はい?』
あまりの台詞に、忍以外から素っ頓狂な声が上がる。
そんな美由希たちに、恭也は説明をする。
「俺も詳しくは分からないが、七瀬は自縛霊らしいんだ。で、それを引き離して、俺の守護霊として引っ付ける」
「恭也の霊力の多さなら、何の問題も起こらないからね」
「その為の準備も着々としてる所よ。さくらとエリザにも協力してもらってね」
「後、薫さんにも」
恭也たちの話を聞き、美由希たちはただ頷くだけだった。
「皆には、事が済んでから説明するつもりだったんだ」
「そういう事」
恭也の言葉に、忍も頷く。
これで納得がいったのか、美由希たちも頷く。
「って、美由希さん、時間!」
やっと正気に戻ったと思ったら、那美が時計を見て大声を上げる。
その声に時間を確認すると、後数分で午後の授業が始まる所だった。
「わっわ。えっと、詳しい事はまた今度聞くから。じゅ、授業に遅れる」
美由希の言葉に、全員も同じらしく校舎に向って走り出す。
それを眺めながら、忍はゆっくりと歩き出す。
「皆、忙しないわね〜。慌てずにのんびりした方が良いのにね」
「余裕だな、忍」
ゆっくりと歩く忍に恭也が声を掛ける。
「まあね。だって、次の授業、歴史だし。私、理系以外は興味ないもの」
「……それもどうかと思うぞ」
「まあまあ。あ、もうすぐで準備も整うみたいだから」
「そうか。世話を掛けるな」
「良いって、良いって。いつもお裾分け貰ってるからね」
「あまり吸い過ぎないでくれよ」
「分かってるって。でも、恭也の血って美味しいから、ついつい飲み過ぎちゃうのよね。
でも、飲みすぎた分は後でちゃんと返してるでしょ」
「返すなら、初めから飲みすぎるなよ」
「はいはい。じゃあ、後はお二人さんごゆっくり」
そう言うと忍は少し歩く速度を上げて、その場を去って行った。
その後ろ姿が見えなくなるまで見送り、恭也は七瀬に向かい合う。
「もうすぐだな」
「そうね。もうすぐでずっと恭也と一緒だね。
約束するのは嫌いだったけど、恭也との約束は何でかいつも楽しいのよね」
そう言って笑う七瀬を見ながら、恭也もその顔に笑みを浮かべる。
「そうか。俺も七瀬との約束は嫌いではないな」
「恭也らしい言い方だね」
「そうか?」
「うん。……でも、本当に良いの?」
「どういう意味だ?」
突然、真剣な顔をして尋ねてくる七瀬に、恭也は尋ね返す。
「本当に私が恭也の守護霊になっても良いの?
そうなったら、それこそ本当にずっと一緒だよ。離れられなくなるんだよ」
「別に構わない。まあ、喧嘩した時は少し気まずいかもしれないけどな」
笑って冗談っぽく言う恭也に、七瀬も笑みをつられて浮かべる。
「私と恭也が喧嘩することなんて、あまりないと思うけどね」
「まあ、長い付き合いになるんだ。絶対にないとは言えないだろう」
「その時は、恭也と少し離れるかな。どうやら、10メートルぐらいは離れられるみたいだし」
「そうか。じゃあ、七瀬を怒らせるような事はしないように努力するか。
いつでも一緒にいるためにな」
「うん、努力しなさい」
七瀬は偉そうに胸を張ってそう言う。
そして、お互いに顔を合わせると、笑い合う。
見詰め合っているうちに、笑みが徐々に消えていき、どちらともなく抱き合う。
そして、瞳を閉じるとそのまま唇を重ねていく。
別々の闇の中を歩いてきたもの同士が知り合い、共に手を取り合って歩いていく事への誓いのように。
<おわり>
<あとがき>
とらはから七瀬!
美姫 「祝!とらハキャラ、コンプリート!」
うおー、パフパフドンドンドン。
後は、2と3のキャラ。
美姫 「全てのキャラを書き終わるのはいつの事に?」
そればかりは分からない〜。
美姫 「妙にテンションを上げてお伝えしてます〜」
そして、次のキャラは……。
美姫 「キャラは?」
まだ未定♪オーイエー!
美姫 「……」
どったの?美姫。
美姫 「この馬鹿!いつもと一緒じゃない!」
だって、こればっかりは仕方がないだろう。
美姫 「ふふふ。そういう訳で、いつも通り……。離空紅流、紅皇朱」
ぐげ!ぐが!がっ!がはっ!ぷろぁ!ぐげろば!……む、無念。
美姫 「ふ〜。じゃあ、またね♪」