『An unexpected excuse』

    〜レン編〜






「俺が、好きなのは…………」

恭也は一端言葉を区切り、全員を見渡す。

「どうしても、言わないといけないか?」

この質問に、揃って首を縦に振る。
それを眺めつつ、恭也は困ったように軽く頬を掻く。
それから仕方がないといった感じで、ゆっくりとその名前を告げるのだった。

「レンだ」

恭也の言葉に全員が一瞬動きを止め、その中から美由希がゆっくりと口を開く。

「本当に?」

「ああ」

美由希の言葉に恭也は短い返事を返し、それを聞いたレンが嬉しそうな笑みを浮かべる。

「お師匠、それやったらそうと早く言ってくれれば……」

照れ隠しなのか、レンは早口で捲くし立てる。
そんなレンに、恭也は軽く頭を下げる。

「む、そうか。それはすまなかったな。まあ、丁度いい機会だから、紹介しておくか」

「そんな紹介やなんて。美由希ちゃんたちは、うちの事を知ってますし……」

小さな声で照れながら呟くレンを、美由希たちが羨ましそうに眺める中、
恭也は近くにあった木の根元へと近づき、上を向く。

「レン。いるんだろう、おいで」

恭也の言葉に答えるように、木の枝がガサゴソと音を立て、一人の少女が飛び降りてくる。
恭也は両手でその少女を受け止めると、ゆっくりと地面へと降ろした。
恭也の横に立つ少女は、大きなリボンに全身を黒で統一しており、普段の恭也とよく似た服装だった。
その少女は全員に見詰められる中、おどおどした様子で恭也の後ろに隠れると、恭也の制服の裾を掴み、
半分だけ顔を除かせて恐々と様子を伺う。

「か、可愛い……」

レンのその様子に、誰かがぼそりと呟く。
それに全員が同意しつつも、蓮飛が恭也に話し掛ける。

「お師匠、レンっていうんは、うちやのうてそっちの子の事なんですか」

「ああ、そうだ。そうか、レンもレンだったな」

レンは自分の名前を呼ばれたのかと思い、恭也を見上げる。
そんなレンの頭に手を置き、そっと撫でる。

「ああ。あそこにいるのもレンって言うんだ」

恭也の指し示す先をじっと見た後、首を傾げ再び恭也を見る。

「ん?ああ、レンはレンだぞ。確かに少しややこしいな」

恭也の呟きを耳にした晶が蓮飛に言う。

「お前の呼び方を変えないといけないな」

「なんでうちが……」

「じゃあ、どうやって区別すれば良いんだよ」

「そ、それは……」

晶の言葉に蓮飛が珍しく言葉に詰まる。
そんな蓮飛に対し、恭也が話し掛ける。

「そうだな。レン、悪いがレンがいる時は、蓮飛で良いか」

恭也に言われ、蓮飛は仕方がなく頷く。
呼び方に付いて、一段落着いたところで、美由希が話を戻す。

「で、恭ちゃん。恭ちゃんの好きな人っていうのは、そのレンちゃんでいいの」

美由希の言葉に恭也ははっきりと頷き、それを聞いたレンは少しだけ頬を染めると、
恭也の制服の裾を握る手に少しだけ力を入れる。
そんなレンを愛しそうに恭也が撫でると、美由希たちが絶叫を上げる。

「いやー!恭ちゃんが、恭ちゃんが」

「そんな、小さいのが良いのなら私でも……」

「小さいのじゃなくて、年下が良いのかもしれないわよ、那美」

「だったら、俺は……」

「うちかて」

訳の分からない叫びを上げる美由希たちに溜め息を吐きつつ、恭也が言う。

「何を言ってるのかよく分からんが、これだけは言っておくぞ。
 レンはお前たちよりも年上だからな」

この言葉に、美由希たちは押し黙り、また騒ぎをいつの間にか傍観していたFCたちもレンを凝視する。
そして、ゆっくりと時が動き出す……。

『えぇぇ〜〜〜!!嘘〜〜〜〜〜!!』

その大声に恭也は顔を顰め、レンは驚きのあまり恭也にきつく抱き付く。
恭也は座り込むと、レンを落ち着かせるように体の前に持って来て膝の上に乗せ、その頭をゆっくりと撫でる。
レンは目をトロンと細めると、まるで猫が喉を鳴らすような感じで、息を洩らす。
そして、恭也の胸に頬擦りをし始めるのだった。
そんな光景を見て、FCたちは黙ってその場を去って行く。
美由希たちは羨ましそうな視線をレンに送りつつも、その可愛らしさに相好を崩してその仕草を見詰める。

「うぅ〜、いいな〜」

「どっちが?恭也が?それともレンちゃんが?」

美由希の零した言葉に、忍が尋ねる。それにどっちもと答えつつ、美由希はなんとなしに時間を見る。

「……わっ!もうこんな時間」

美由希の言葉に、全員が立ち上がり戻ろうとする。
恭也もそれに気付き、立ち上がろうとするがレンが未だに座っているため、声を掛ける。

「レン、すまないがどいてくれるか」

この恭也の言葉に対し、レンはふるふると首を横に振って嫌がる。

「しかし、このままだと……」

困った顔を見せる恭也に、レンは悲しそうに俯くと、恭也から退こうと身体を起こす。
それを忍が制する。

「恭也、こんな小さな子を苛めて」

「苛めてる訳では……。それに、さっきも言ったがレンはお前たちよりも……」

「黙る!何?恭也はレンちゃんよりも、授業が大事なの」

「何故そうなる」

「だったら、大人しく座ってなさい」

忍の言葉に恭也は渋々と腰を降ろす。

「それで良いのよ。じゃあ、私たちは戻るから、ゆっくりしてきなさいよ」

そういう忍に、恭也は分かったと短く答え、レンは感謝するようにコクコクと何度も頷くのだった。
やがて、忍たちが見えなくなった頃、恭也はレンの頭を撫でる手を休め、そのまま後ろへと倒れこむ。
恭也にもたれるようにしていたレンも、一緒に倒れる。
レンは恭也の胸に頬を寄せつつ、眠そうに目を擦ると、うとうととしだす。
そんなレンを眺めつつ、恭也も小さな欠伸を一つする。

「レン、少し眠るか」

恭也の言葉を聞いているのかいないのか、レンは舟をこぎつつ頷くとそのまま眠ってしまう。
そんなレンに苦笑しつつ、恭也も目を閉じると夢の中へと旅立つのだった。
お互いにお互いの体温を感じつつ、幸せな夢にしばし身を委ねるのだった。





<おわり>




<あとがき>

masayaさん、59万Hitリクエストで、月姫のレン編でした〜。
美姫 「タイトルだけで、とらハ3のレンと思った人は何人いるかしら?」
何人いるだろうね。
美姫 「とりあえず、今回はラブラブよりはほのぼの〜よね」
だな。ほのぼの風味のお昼寝添え。
美姫 「このシリーズも結構書いたわね」
そうだな。なのに、まだとらハキャラが全員書き終わっていないという。
美姫 「浩のサボり具合がよく分かるわね」
ははははは。
さて、次、次。
美姫 「次は誰?」
ふふふ。次は……、まだ言えないの。
美姫 「はいはい、そんな事だと思ったわ。さて、じゃあ次回……って、すんなり終ると思わない!」
ぐえっ!な、何故?
美姫 「言えないじゃないの!私が聞きたいの!ここ重要!わ・た・しが、き・き・た・い・の!」
そ、そんな我が侭な。
美姫 「ふぅ〜ん、そういう事言うんだ。覚悟は良いかしら?」
あ、ま、まさか……。ご、ごめっ……。
美姫 「ぶっ飛んじゃえーーー!飛翔天結!!」
ぶろばぁびょ〜〜〜ん!!
やっぱり月は丸かったーーーーー!
美姫 「ふぅ〜。今度こそ、本当に次回!」







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