『An unexpected excuse』

    〜ざから編〜






「俺が、好きなのは……」

「ほう、それは一体誰かな」

恭也の背後に突然一人の女性が現われ、興味深そうに尋ねる。
突然現われたその女性に驚くFCたちを尻目に、恭也は驚く事もなく、ただ溜め息を吐く。

「で、何しに来た、ざから」

ざからと呼ばれた女性は恭也の言葉に肩を竦めて見せる。

「酷い言われ方じゃな。我を組み伏したお主は、我の主人なんじゃぞ。
 主人ある所に我がいてもおかしくはあるまい」

頭を抱え、何か言おうとする恭也よりも先に、ざからが口を開く。

「何を怒っておる。おお、いつもの様にご主人様と呼ばなかった事に腹を立てたのか?」

この言葉に、ざからを知っている美由希たちも初耳だったのか驚いた眼差しで恭也を見詰める。
一方の恭也は言われのない事を言われ、ざからの名前を強く呼ぶ。
その声に、ざからはわざとらしく肩を竦めて怯えると、その場に腰を落とす。

「す、すいません、ご主人様。我が悪かったです。
 どうかぶたないで下さい。何でも致しますから。今夜はいつも以上に精一杯ご奉仕しますから、どうぞご慈悲を」

目元を押さえながら言うざからに、全員から冷たい視線が恭也に突き刺さる。

「待て、誤解だ。って、ざから俺に何の恨みが」

「うん?気に入らなかったか?」

恭也の言葉にざからは顔を上げると不思議そうな顔をする。

「おかしいぞよ。真雪がこう言えば、恭也が喜ぶと申しておったのに」

「…………あの人か」

恭也は頭を抱えつつ、何とか気を取り直すとざからの肩に手を置く。

「良いか、ざから。あの人の言葉を全てそのまま信用するな。良いな」

「そうなのか?それは困ったな。他にも色々と聞いたんだが、それはどうしたら良い?」

「他に何を聞いたんだ?」

恭也は嫌な予感を感じつつ、ざからへと尋ねる。
そんな恭也に、ざからは真雪から聞いた事を伝える。

「うむ。恭也は”まにあ”と言うものらしいから、裸の上にワイシャツやエプロンを着けると良いと。
 他にもメイド服なるものや、ブル……むぐむぐ」

「分かった。よーく分かったから、少し黙れ。それとそこ、胡散臭気な目でみるな。
 事実無根だ」

「あ、あははは、冗談だよ、うん」

恭也の声に、固まって何やら囁き合っていた美由希たちは乾いた笑みを浮かべる。
それに疲れを感じつつ、恭也は口を押さえられて暴れるざからを見る。
ざからは恭也の手から何とか抜け出すと、抗議の声を上げる。

「ぷはぁー。何をする。全く、お主はもう少し女性の扱い方を覚えるべきだぞ。
 前にも申したが、そんな乱雑にするもんじゃない。もっと、こう包み込むように優しくだな。
 まあ、多少乱暴なのは良いんじゃが、それにしてももう少し優しく致せ。
 その、女性の胸というものはだな、お主が思っている以上に繊細なものでな、急に強く握られるとやはり痛いものなんじゃ。
 それと、お主の……むぐむぐ」

「良いから、本当に黙れ」

恭也は再びざからの口を押さえ込むと、その目を覗き込む。
それに対し、ざからはコクコクと頷くが、恭也は用心の為か口から手を離さなかった。
そのまま、顔だけをFCたちに向けると、早口で捲くし立てる。

「で、質問の答えだが、まあ、その、こいつだ」

少し照れながら言う恭也を、FCたちは茫然と見詰める。
先程のざからとのやり取りの所為であろう。
兎も角、恭也の答えを聞いたFCたちは、未だ茫然としつつもその場を後にする。
その背中を見送りつつ、恭也は本気で頭を抱えたくなる。
ざからが先程よりも大きく暴れるが、それを押さえつけると深呼吸をする。
そんな恭也に美由希が声を掛ける。

「恭ちゃん、ひょっとして呼吸出来てないんじゃ……」

美由希の指摘に、恭也は自分が口だけでなく鼻も塞いでいる事に気付き、急いで開放する。

「ぷはぁ〜。お、お主は我を殺す気か!」

「すまない、そんなつもりではなかったんだが」

素直に謝る恭也を見て、ざからはもう良いと言うと、顔を赤くしてそっぽを向く。

「ま、まあ、我を好きと申した事に免じて、特別に許してやろう」

「そ、そうか。それは助かる」

「よ、良いか。ソナタだからこそ、特別なんじゃからな。他の者なら、許しはせんぞ」

「ああ、分かっている。感謝してるよ」

ざからの言葉に答えながらも、恭也は照れるざからの横顔をじっと見詰めていた。
その視線を感じたのか、ざからは横目で恭也を見ると、何かあるのかと問い掛ける。
それに対し、恭也は別にと答えると、またざからの横顔を注視する。
恭也の視線を感じ、ざからは落ち着かなくなり、ソワソワとし始める。
無言で見詰めてくる恭也の視線に耐え切れなくなったのか、ざからは恭也の方へと向く。

「一体、何なのだ。言いたい事があるのなら、はっきりと申せ!」

「別に何もないって言ってるだろう」

「だったら、何故、ずっとこっちを見てるのじゃ」

「いや、照れる姿があまりにも可愛いから。
 その気になれば、人なんかを凌ぐ力を発揮できるくせに、そういった事には免疫がなく、本当に普通の女の子なんだなって」

恭也の言葉にざからは益々顔を赤くさせる。
照れて慌てるざからを見て、恭也は逆に冷静になっていく。
いつもなら照れるような事をさらりと言って、ざからの反応を楽しんでいた。
それに気付いたのか、ざからは面白くなさそうな顔をすると、拗ねたように言う。

「お、お主はずるいぞ」

「何が?」

「ぐっ!そ、そういった所がじゃ。そもそも、お主は……」

「とりあえず落ち着けって」

恭也に言われ、ざからは落ち着くようにそっと深呼吸をする。

「どうだ、落ち着いたか」

「う、うむ」

頷くざからを見ながら、恭也は再び笑みを浮かべる。
それをばつが悪そうに眺めつつ、ざからもぎこちない笑みを見せる。
そんな二人に、忍がこれみよがしに声を上げる。

「は〜、アツイアツイ。さっさと涼しい校舎内に戻りますか」

その忍の言葉に、美由希たちは苦笑しつつ頷くと、その場を去って行く。
後に残った二人は、顔を赤くしつつお互いに微笑み合う。
暫らく無言で隣合って座っていると、ざからが急にぼそりと呟く。

「我は弱くなったのかもしれん」

ざからの言葉に、恭也はただ黙って耳を傾ける。
恭也が聞いている事を確認し、ざからは静かに続ける。

「昔の我は、ただ力の限り暴れるだけじゃった。
 しかし、今の我は失う怖さを知ってしまった。お主を失う事が何よりも怖い……」

恭也はざからの肩に手を回し、そっと自らの方へと引き寄せる。
そして、その耳元に口をあて、言葉を紡ぐ。

「別にそういう理由なら、弱くなっても良いんじゃないか。
 お前が弱くなったのなら、その分俺が強くなって、お前を守ってやるから」

「守る……。恭也が我をか?」

「ああ」

ざからの問い掛けに、恭也は短く、しかし力強く答える。
その答えを聞き、ざからは笑みを浮かべると、そのまま頭を恭也の肩へと倒す。

「それも悪くはないな。我を守る……」

ざからは嬉しそうに繰り返し呟く。
そんなざからの唇に、恭也はそっと顔を近づける。
視界一杯に恭也の顔が飛び込み、その真摯な黒瞳にざからは吸い込まれるように視線を合わせる。
そして、ゆっくりと瞳を閉じる。
それほど間を置かず、唇に柔らかい感触が伝わり、そこから優しい感情が溢れ出してくるような錯覚に陥る。
離れそうになる恭也の頭を押さえつけ、ざからはねだるようにもっと恭也の唇を求める。
それに答えつつ、恭也もざからの唇を求める。
しばらく一つになっていた影が、やがてゆっくりと元の二つへと戻る。
再び恭也の肩に頭を乗せ、ざからは静かに目を閉じる。
穏やかな陽射しと、静かに流れる風の音に耳を傾けて。
そのまま二人は暫し、静かな時を楽しみのだった。





おわり




<あとがき>

Mr.Kさんからの60万Hitリクエストで、ざから編です。
美姫 「ありがとうございました」
ざからを女性として扱うのは初めてだったので、ちょっと言葉遣いが……。
美姫 「まあ、そこは許してもらうしかないわね」
許して〜。
美姫 「い・や♪」
…………。
分かっていたさ、こう言うだろうとは。
でも、何だろう。目が霞んで前が見えないよ……。
泣いてなんかないやい!
美姫 「はいはい。馬鹿はおいておいて」
こらこら。
美姫 「何よ〜。じゃあ、次のキャラを教えてくれるの?」
……ではでは〜。
美姫 「はぁー。毎回、毎回」







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