『An unexpected excuse』

    〜青子編〜






「俺が、好きなのは……」

そう言って恭也は少し上を向き、ここではないどこか遠くを見詰める。
そんな恭也の様子に、他の者たちも声を掛けられずに、ただ黙って恭也を見ている。
しかし恭也は、それに気付いていないのか、遠くを見たままそれっきり口を噤んでしまうと、
何かを思い出しているのか、懐かしそうな目でただ空を見上げる。
何となく声を掛け辛い雰囲気を恭也が纏っていたので、FCたちは顔を見合わせると、
物音を立てないように注意しつつ、その場を去って行く。
そのFCたちの行動と、目の前の恭也の様子を見て、忍たちもまたその場を立ち去る。
その場に一人残される形となった恭也はしかし、その事にも気付かず、ここでない何処かを未だに見ていた。
どのぐらいそうしていたのだろうか、授業はとっくに始まり、学校内が独特の静けさに包まれる。
ふと、それまで空を見上げていた恭也は、背後に気配を感じて振り返る。
背後には、荷物であろうトランクを地面へと置き、傍の木に片手を付きながら一人の女性が佇んでいた。
恭也はその光景を見て、既視感を感じ、思わず目の前の人物を注視する。
そんな恭也に向い、その女性は軽く微笑むと、一歩だけ恭也へと近づく。

「久し振りね、恭也。また、会えたわね」

「……先生?」

「どうしたのよ。呆けた顔して。もしかして、私の顔なんてもう忘れちゃった?」

冗談めかして言った女性の言葉に、恭也は力一杯首を振り、否定の意を示す。

「覚えてますよ、勿論。忘れる訳がないじゃないですか」

「そう?」

「ええ。久し振りです」

恭也はそう言うと、懐かしそうにその女性を見上げる。

「ところで、突然どうしたんですか?」

「うん?別にただ通り掛かっただけよ。そしたら、たまたま君がいたって訳」

「通り掛かったって、こんな所をですか」

「そうよ」

恭也の問いにあっさりと答えると、言葉を続ける。

「まあ、細かい事は気にしないの。お陰でこうしてまた会えたんだしね。
 どう、元気してた?」

「ええ、それなりに」

「相変わらずみたいね」

恭也の言葉に、何が可笑しいのか女性は笑ってみせる。
そんな女性を暫し恭也は見詰め、女性も同じように恭也を見詰める。
どれぐらいそうしていたのか、恐らく時間にして、5秒と経っていないだろう。
女性は傍に置いたトランクを掴むと、恭也へと声を掛ける。

「じゃあ、私はそろそろ行くわ」

「…………そうですか」

一瞬だけ呼び止めようとした恭也だったが、その言葉を奥へと飲み込む。
そんな恭也に気付いたのか、女性はもう一度だけ微笑むと、恭也に背を向ける。
その背中に向い、恭也は軽く頭を下げ、声を掛ける。

「先生……。いえ、蒼崎さん、色々とありがとうござました。
 貴女が教えてくれた様々な事のお陰で、今、俺はここにこうしていられます」

蒼崎と呼ばれた女性は歩みを止め、しかし、決して振り返る事無く恭也に告げる。

「別に私は何もしてないわよ。
 アドバイスはしたかもしれないけど、それをどう受け取り、どう考え、どう実行したか。
 ソレは、全部君が判断し、決めた事よ。だから、別に礼を言われるようなことではないわ」

「ええ、分かってます。だから、俺の考えでお礼をしただけですから。
 まあ、自己満足みたいなものでしょうね」

「……フフ。本当にいい男に育っちゃって。
 それじゃあ、今度こそ本当に行くわ。ひょっとしたら、もう会えないかもしれないけどね」

「ええ」

蒼崎の言葉に、恭也は分かっているとばかりに静かに頷く。
それを背中越しに感じたのか、もう一度だけ笑うと、蒼崎は歩き出す。
その背中を押すように、そっと風が吹く。
蒼崎の背中を見送る恭也に向い、突如激しく風が吹きつけ、恭也は片腕で顔を覆う。
そんな恭也に、蒼崎から言葉が掛かる。

「もしかしたら、……そう、何かの気紛れで、また会えるかもね。
 それまで、君が私の事を覚えているかも分からないし、それがいつになるのか、
 また、絶対に会えるとは言えないけどね」

その台詞と共に、吹き付けていた風が止む。
恭也はそれを感じ、腕をそっと除け、目の前へと視線を向ける。
だが、そこには既に蒼崎の姿はなかった。
暫らく蒼崎の消えた方向を見ていたが、やがてそちらに背を向けると、恭也も歩き出す。
ひょっとしたら、今の出来事は夢ではないかと感じさせるほど、既にあやふやになりつつある中で、
恭也はしっかりと頷き、胸中に呟く。

「絶対に忘れたりはしませんよ。
 俺の恩人にして、憧れの人なんですから」

恭也の呟きは誰にも聞かれることなく、ただ風だけがその言葉を乗せて、空高く吹き抜けていくのだった。





<おわり>




<あとがき>

熊さんからの65万Hitリクエストで、蒼崎青子編〜。
美姫 「今回は、今までとちょっと変わった展開ね」
まあね。
ふらっと現われて、ニ言三言残してまた去って行く、みたいな。
美姫 「成る程ね〜。それにしても、今回は長かったわね〜」
すいません、すいません(汗)
美姫 「フフフ。それとも、そんなにお仕置きが欲しいのかしら?」
勘弁してくれ〜!
美姫 「クスクス。いつもより、飛ばしてあげるわ!いっけー!」
ぬぎょろぉぉぉぉぱみょりょ〜〜〜〜〜〜〜〜!!
そ、空には翼持つ少女がぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーー!
美姫 「ウフフフフ。お仕置き完了♪それじゃあ、また次回でね」







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