『An unexpected excuse』

    〜祥子編〜






「俺が、好きなのは…………」

「あら、何やら楽しそうなお話ですね。良ければ、私も加えて頂けないかしら?」

突如後ろから掛かった声に驚き、いや、その聞き覚えのある声に驚き、恭也は背後へと振り返る。

「祥子!?どうして、こんな所に」

「あら、私がいては何か都合が悪い事でもあるのかしら?」

そう言って祥子は笑みを浮かべるが、その笑みを見て恭也は引き攣ったような笑みで返す。

「別にそんな事はないが……」

「本当かしら?」

疑わしそうに言ってくる祥子に、恭也は真剣な顔で言い返す。

「信じてくれないのか?」

そう言われて、祥子は少し慌てたように言い直す。

「そんな事はないですけど……。ただ、ちょっと大勢の女性の片に囲まれて楽しそうだったから……」

「別にそんな事はなかったんだが……」

言う恭也に、忍が声を掛ける。

「恭也、悪いんだけど紹介してもらえるかな」

そう言われ、恭也は改めて祥子を全員に紹介する。

「こちらはリリアンに通っている小笠原祥子さんだ」

「小笠原祥子と申します。よろしくお願い致します」

優雅な仕草で一礼してみせる祥子に、全員が思わず目を見張り、ただ茫然と立ち尽くす。
それを見て、祥子は恭也の傍に近づくと、そっと小声で声を掛ける。

「あの、恭也さん。私、何かおかしい事でもしたのでしょうか。
 皆さん、何も仰らないんですけど」

そんな祥子の言葉に苦笑を浮かべつつ、恭也も小声で答える。

「別にそういう事じゃないから、安心して。
 ただ、祥子の仕草に皆、見惚れているだけだから」

恭也にそう言われ、何となく恥ずかしくなり、祥子は少しだけ俯く。
そんな祥子の仕草に、恭也は可愛いと思いつつも口には出さない。
この辺、自分でも祥子に接する事に成長したなと思いつつ、とりあえずは目の前の忍たちを正気に戻すべく声を掛ける。

「おい、忍。いつまで、ぼうっとしているつもりだ」

「……あ、そうだった。ごめん、ごめん」

忍の言葉を皮切りに、全員が正気に戻ると、順次自己紹介をしていく。
それが一段落するのを待って、恭也は祥子へと話し掛ける。

「で、どうしたんだ祥子?」

「どうしたとは?」

「いや、何で海鳴に来たのかなと……」

「そ、それは……」

祥子は一瞬言い淀むが、恭也の顔を正面から見遣り、言い放つ。

「そう簡単に会う事も出来ないですし、たまたま私の所は試験休みでしたので、それで……。そ、その……」

祥子は言葉を一端区切ると、恭也を見上げる。

「恭也さんが寂しいと思って……」

そんな意地を張る祥子の言葉に、恭也は笑みを浮かべると、

「ああ、寂しかった。だから、祥子が来てくれて本当に嬉しいよ」

そう告げる。
そんな恭也に祥子は頬を染め、思わず顔を逸らす。
恭也に背を向けつつ、何やら呟く。
時折聞こえてくる声に、「卑怯」だとか、「ずるい」とか聞こえてきて、恭也はどうしたもんかと頭を掻く。
暫らくは祥子の背中を見詰めていたが、一向にこちらを振り向かない祥子に、恭也はそっと近づく。
元々離れていなかったため、すぐに祥子の後ろへと立つ。
背後に立つ恭也の気配を感じたのか、祥子は振り返ろうとするが、
それよりも早く恭也の腕が伸び、背後から包み込むように抱き締められる。
早くなる鼓動を誤魔化すように、祥子は顔だけを恭也に向け、口を開く。

「きょ、恭也さん、何を……」

そこで、思った以上に近い距離に恭也の顔を見詰め、鼓動が更に早くなる。
抱きしめている恭也に聞こえやしないかと焦りながらも、抱き締められるその腕の温もりを離したくなくて、
恭也の腕にそっと自分の手を置く。
それを知り、恭也は抱き締める腕に少しだけ力を加え、さっきよりもきつく抱き締める。
背中に感じる恭也の温もりから、恭也の鼓動を感じ、祥子は意味もなく嬉しい気分になる。
このまま自分の鼓動と恭也の鼓動を合わせるかのように、そっと恭也へと身体を預ける。
そんな祥子の身体をしっかりと受け止めつつ、恭也は祥子の肩に軽く顎を乗せ、そっと囁く。

「本当に会えて嬉しい」

「……ええ。私もです」

無言でそうして抱き合っている二人が、あまりにも絵になっているため、
誰一人として声を出す事もなく、ただただ黙って見詰める。
そんな周りが目に入っていないのか、二人はそっと笑みを浮かべると、
それが自然で当たり前の事であるようにそっと唇を合わせる。
初めは優しく触れるだけだったソレは、段々と激しくなっていき、
今では、まるで会えなかった分を取り戻すかのように情熱的に交わされる。
祥子が恭也に背を預ける形となっているため、
時折、祥子の喉が何かを嚥下するように動くのが美由希たちからもはっきりと見えた。
顔を赤くしつつ見守る一同の中、恭也と祥子はゆっくりと離れる。
潤んだ瞳で見上げる祥子の髪を優しく手で掬い上げ、そっと撫で上げる。
そして、そのまま祥子の首筋に顔を埋め、啄ばむようなキスの雨を降らす。
始めはくすぐったそうにしていた祥子だったが、恭也の首に腕を回す。
その時、祥子とこちらを見ている面々との視線がぶつかり合う。
恭也は動きを止めた祥子を不思議そうに見遣り、次いでその視線の先を自らも見る。
それを見て、恭也も祥子と同じように動きを止める。
一瞬だけ、辺りに言いようのない雰囲気が流れる。
その空気を壊すように、恭也は咳払いを一つすると、口を開く。

「あー、コホン。そろそろ授業が始まるな。皆もそろそろ戻った方がいいのでは。
 ああ、そうそう。その前に、質問に答えてなかったか……」

珍しく慌てて言い募る恭也に、忍が手を振って答える。

「あー、恭也の言う通り、授業が始まるから私たちはこれで行くね。
 それと、今更質問の答えは聞く必要がないし」

忍の言葉に全員が頷くと、顔を赤くした二人をその場に残し、去って行く。
後に残された恭也と祥子は顔を見合わせると、ぎこちない笑みを浮かべる。

「皆さんがいたのを忘れていました」

「俺も忘れていた……」

「思い出しても恥ずかしいです」

「ああ。でも……」

祥子の言葉に頷いた後、恭也はそう言って少し間を置くと、意地の悪い笑みを浮かべる。

「照れる祥子を見られたから、これはこれで良かったかもな」

「もう、恭也さんったら」

恭也の言葉に祥子は拗ねたようにそっぽを向き、その仕草に笑いが洩れるのを堪えつつ、恭也は祥子の機嫌を取るのだった。

「ごめん、祥子。許してくれ」

「……翠屋のシュークリーム」

「は?」

突然出た単語に、恭也は思わず素っ頓狂な声を出す。
それは顔にも出ていたのか、祥子は笑みを浮かべるともう一度言う。

「翠屋のシュークリームで許してあげます。これは、恭也さんだから特別なんですよ。
 他の方だったら、こんなに簡単には許しませんからね」

その言葉に、恭也も笑みを浮かべる。

「ああ、分かった。じゃあ、早速行くか」

「はい」

恭也がそう言って差し出した手を、祥子は嬉しそうに返事をしながら取る。
しっかりと手を繋ぎ、二人はゆっくりと歩き出すのだった。





<おわり>




<あとがき>

ZEROさんの66万ヒットリクエストです〜。
美姫 「遂に登場、祥子さま〜」
その通りです!
中々出てきませんでしたが、遂に登場と相成りました。
美姫 「これで、50人まで後、二人?」
多分、それでいいと思う。FCたちを一人として数えた場合はね。
美姫 「今度こそ、本当の50人目指すわよ!」
おう!
美姫 「じゃあ、また次回でね」







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