『An unexpected excuse』

    〜琥珀編〜






「俺が、好きなのは…………」

「あははは〜、何か楽しそうなお話をしてますね」

恭也の言葉を遮るように、朗らかな笑い声が響く。
その声の主は探すまでもなく、恭也の背後にある通路から現われる。
学校とはあまり合わない和服姿の彼女を見て、FCたちは少なからず驚く。
そんな事にはお構いなく、恭也はその女性の名を呼ぶのだった。

「琥珀さん!」

「はい、そうですよ〜。琥珀さんですよ〜」

何が楽しいのか、琥珀と呼ばれた女性は笑みを浮かべたまま、恭也の元へとやって来る。
そんな琥珀に、恭也は戸惑ったように答える。

「えっと、どうしてここに……」

「あら?もうすぐじゃなかったんですか?」

「えっと、何が」

「何って、アレに決まってるじゃないですか」

琥珀の言葉に、恭也は何も思いつかないのか、首を傾げる。
そんな恭也を見ても、琥珀は気にせずに続ける。

「恭也さんが教えてくれって仰ったから、わざわざこうして来たのに……。およよよよ。
 忘れているですね」

「ちょっと待って下さい。今、思い出しますから」

必死で思い出そうとする恭也に、琥珀は思い出してもらおうと、ヒントを口にする。

「ほら、恭也さんが私にお願いしたんじゃないんですか。
 上手く出来るかどうか分からないけど、教えて欲しいって。
 あ、あと精一杯頑張るとも言ってましたね。
 ですから、私がこうして手取り足取り教えるために来たんじゃないですか。
 大丈夫ですよ、恭也さん。
 分からないからといって、恥ずかしがる事はありません。
 誰だって最初は初心者なんですから」

そこまで言っても思い出さない恭也に、琥珀は笑みを浮かべたまま続ける。

「恭也さん、私精一杯ご奉仕しますから、安心して任せてください。
 最初は私に任せてください!その後は、恭也さん自身にも頑張ってもらいますけど……。きゃっ」

琥珀は頬を染めると、照れたように両手で覆い、軽く俯く。
その様子に、周りの視線が恭也へと突き刺さる。
嫌な汗を掻きつつ、恭也は必死で考えるが、琥珀の、

「大丈夫ですよ、恭也さん。最初は優しくしますから」

この一言で、益々混乱していくのだった。

「本当に分からないんですか?」

いつまで経っても答えを出さない恭也に、琥珀は下から覗き込みつつ尋ねる。

「ちょっと待って下さい」

「ほら、あの夜……」

琥珀が何かを言う度に、周りの視線がきつくなり、恭也は考えが纏まらなくなって行く。
それを分かってやっているのか、琥珀は一言一言区切るように話していく。

「私と部屋で二人っきりの時に……」

「え、えっと……」

「恭也さんから仰ったじゃないですか……」

「お、俺からですか……」

「恭也さんの〜〜を見せられて……」

「あ、ああ!」

やっと思い出したのか、恭也は手を一つ打つと、琥珀に詰め寄る。

「琥珀さん!誤解を招くような言い方はしないで下さいよ。
 俺が前にやったテストの問題用紙を見て、琥珀さんが簡単に解いたから、勉強を教えてくれって言った話でしょう」

「ええ、そうですよ?
 私は初めから、そう言ってるじゃないですか。
 誤解って、何ですか?」

琥珀はわざとらしく首を傾げ、恭也を見上げる。
この態度に恭也が弱い事を知り尽くした上での仕草である。
案の定、恭也はため息を吐くものの、それ以上は何も言わない。

「しかし、冗談半分で言ったことなのに、よく覚えてましたね。
 俺自身でさえ、さっきまで忘れていましたよ」

その恭也の言葉に、琥珀は満面の笑みを浮かべ、両手を胸の前でぽんと合わせる。

「それはもう、恭也さんとの約束ですから。
 これも偏に、恭也さんへの愛の賜物ですね」

「自分で言いますか……」

「はい。嘘ではありませんし、隠すような事でもありませんから」

花が綻ぶような笑みを見せ、琥珀ははっきりと言う。
その言葉に恭也が照れるのを、楽しそうに見遣る。
話に区切りがついたのを見計らい、美由希が恭也へと話し掛ける。

「恭ちゃん、そちらの方は?」

「ああ。こちらは琥珀さんと言って……」

改めて琥珀を紹介し、それぞれに自己紹介をする。
それが一段落したのを見て、恭也はゆっくりと言葉を発する。

「さっきも言いかけたが、俺の好きな人だ。
 それと、恋人でもある」

恭也の答えをある程度予測していたのか、FCたちにあまり驚きはなかった。
逆に、言われた琥珀は少し頬を染め、恭也から微かに視線を逸らす。
そんな琥珀に気付いたのか、恭也は覗き込むように屈むと、琥珀へと話し掛ける。

「琥珀さん、どうかしましたか?」

「あ、いえ、な、何でもないですよ。
 い、いやですね、恭也さんったら、どうもしませんよ〜」

攻めるのは得意でも、攻められるのは苦手な琥珀は、真顔で恭也に好きと言われ、顔を赤くして動揺する。
そんな琥珀を楽しそうに眺めつつ、恭也はついつい意地悪をしたくなる。

「本当に何でもないんですか?」

「ええ、勿論ですよ」

「それなら良いんですけど。琥珀さん」

「何ですか?」

大分落ち着いて来たのか、普段通りに答える琥珀に恭也は言う。

「好きですよ」

「……………………な、なな何を言ってるんですか。み、皆さんがいるのに」

「いえ、その皆さんに、好きな人はと聞かれたんで答えただけなんですけどね。
 やっぱり、ちゃんと本人にも言っておかないといけないかなと思いまして。駄目でしたか?」

「い、いえ、駄目ではないんですが。そ、その、えっとですね」

「琥珀さんはどうなんですか?」

「わ、私ですか。きょ、恭也さん、何を言ってるんですか」

慌てる琥珀を見て、恭也は楽しそうな笑みを浮かべる。
そんな恭也を横から眺めつつ、美由希はため息を吐く。

「はぁ〜、恭ちゃん意地悪だから……」

「あ、あははは。でも、本当に楽しそうですね」

「何か、見ている方が馬鹿らしいから、そろそろ教室に帰ろうっかな」

「忍さんの言う通りですね」

「確かに……」

他の面々も忍の意見に賛成なのか、その場を離れて行く。
やがて、誰もいなくなった事に気付いた恭也は、目の前でまだ慌てふためいている琥珀の肩に手を置く。

「琥珀さん。落ち着いて。もう誰もいませんよ」

「で、ですから、嫌いじゃなくてですね…………って、はい?」

言われて琥珀は、改めて周りを見回す。

「あれ、皆さんは?」

「どうやら、教室に戻ったらしいですね」

「……そうですか。て、恭也さん、からかいましたね」

冷静になり、やっとからかわれたと気付いたのか、琥珀が抗議の声を上げる。
そんな琥珀に、恭也は笑いながらも謝る。

「もう。恭也さんなんか知りません。勝手に赤点取って、休みの日に補習を受けてください」

怒ったように背中を見せて言う琥珀を見て、恭也はやり過ぎたかと反省する。
尤も、その反省が次回に活かされるかどうかは、押して知るべしであるが。
兎も角、今は琥珀の怒りを解くのが先とばかりに、恭也は琥珀を抱き締める。

「それは困ります。休みの日にまで、学校には来たくありませんから」

「自業自得です」

「駄目です。だって、次の休みには、琥珀さんとずっと一緒に過ごすつもりなんですから」

「……うぅ、恭也さん、それってずるくないでしょうか」

「そうですか?」

「そうですよ。私よりもずるいですよ、絶対」

「そんな事はないと思うんですが」

恭也の言葉に、琥珀は怒ったような顔をして見せる。

「あー、それじゃあ私が、物凄くずるいみたいじゃないですか」

「そうですね。やっぱり琥珀さんはずるいですよ。
 だって、琥珀さんの笑顔を見たら、何でも許してしまいそうになりますから。
 それに、その笑顔を見るためなら、何でもやろうと思ってしまいますし」

恭也の言葉に琥珀は顔を赤くし俯き、「やっぱり恭也さんの方がずるいです」と、小声で抗議した後、恭也に笑顔を見せる。

「だったら、私の笑顔を曇らせないためにも、今度のテスト頑張って下さいね」

「……善処しよう」

「大丈夫ですよ、私がちゃんと教えてあげますから」

「それは頼もしいですね」

「はい、それはもう。だって、愛情が一杯こもってますから!」

「それは料理では」

「料理もそうですけど、それ以外でもですよ。
 そういう訳ですから、頑張りましょうね」

「努力します」

琥珀の言葉に、恭也は苦笑しつつそう答える。

「それじゃあ、今日から頑張りましょう。
 その前に、お世話になるんですから、恭也さんのご家族に挨拶もしないといけませんね」

「まあ、正確には俺の方がお世話になるんですけどね」

「ですけど、泊めて頂く以上はきちんとご挨拶をしませんと」

「そうですね。じゃあ、後で翠屋に行きますか」

恭也の言葉に琥珀は頷く。
そんな琥珀に恭也が話し掛ける。

「琥珀さん」

「はい」

返事をするやいなや、恭也は琥珀の唇へとキスをする。
驚く琥珀をよそに、恭也は琥珀の唇の感触を楽しむと、ゆっくりと離れる。

「きょ、恭也さん、何を……」

「頑張りますから、ご褒美の前借りです」

「そ、それは頑張った後じゃないんですか」

「ですから、前借りですよ。じゃあ、行きましょうか」

そう言うと恭也は、返事も待たずに琥珀の手を引いて歩き出す。
赤くなった顔を、もう一方の手で撫で付けつつ、琥珀は恭也の顔を見上げる。
そして、その顔に笑みを浮かべると、恭也へと言葉を投げる。

「そうですね。もっと一杯頑張ってくれれば、もっと色々とご奉仕しますよ。
 丁度、勉強するのは夜中ですしね」

「こ、琥珀さん、何を」

「ですから、ご褒美の話ですよ」

琥珀の言葉に、今度は恭也が赤くなる番だった。

「やっぱり攻められっぱなしというのは、私の性に合いませんからね」

そう言って笑う琥珀を見て、恭也はお手上げとばかりに肩を竦めて見せるのだった。
その夜、二人の勉強がどうなったのかは、二人以外は誰も知らない。





<おわり>




<あとがき>

ライジングさんの67万ヒットリクエスト〜。
美姫 「そして、FCを含めて50人目!」
パフパフドンドンドン!
美姫 「でも、FCを除くと49人目〜」
ヒロインとしてみると、49人目か。
美姫 「そういう事。つまり、真の50人目は次って事よ」
え〜。FCも入れようよ〜。
美姫 「駄目よ!さあ、後一人なんだから、さっさと書きなさい」
へいへい。
次のヒロインは、あの子だから……。
おお、あの子が50人目か。
美姫 「えっ、誰、誰?」
教えな〜い。おお!とらハキャラがめでたく50人目か。
美姫 「誰よ、誰!」
では、また次回会いましょう!
美姫 「あ、こら!えっと、じゃあ次回でね。浩、待ちなさいよ〜」







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