『An unexpected excuse』

    〜凛 続編〜






「高町くん、お待たせ」

「いや、こっちも今終わったところだ。それよりも、何故そっちで呼ぶんだ?
 どうせ、もう知られたんだし」

「まあ、それはそうなんだけれどね」

教室へと入ってきながら親しげに話をする凛と恭也に、
事情を知らないクラスメイトたちから小さなざわめきが起こる。

「まあ、流石にあの時、あそこに居なかった人たちも居る訳で……」

「確かにな。まあ、俺は別にどちらでも構わないが……」

やや照れつつ言い訳めいた事を口にする凛に対し、平然と言う恭也を面白くなさそうに見遣ると、
凛は悪巧みを思いついたような笑みを浮かべて恭也へと近づく。

「まあ、高町くんがそんなに名前で呼んで欲しいのなら、私はそっちでも良いんだけれどね。
 恭也くん。ううん、恭也〜。二人きりの時だけ、そう呼ぶようにするようにって言ったのは恭也なのにね〜」

言って腕に絡み付いてくる凛に恭也は顔を真っ赤にする。

「そ、そんな事は言ってないだろう! というか、放してくれ」

「あら、乱暴ね。いつもはもう少し優しくしてくれるのに……」

「いつもって、何だ! いつもって! 昨日、再会したばかりだろうが」

「あら、今までって事よ」

必死になって何かを言うたびに、凛は楽しそうに切り返してくる。
なおも何か言おうとする恭也だったが、いつの間にか注目を浴びている事に気付き、
言葉を飲み込むと凛の手をやや強引に掴み、そのまま教室の外へと引っ張っていく。

「そんなに強引に引っ張らなくても、恭也と一緒なら何処へでも着いて行くのに」

「……で、どういうつもりだ?」

廊下を歩きながら、人が少なくなった所で恭也が尋ねる。
それに対し、凛は胸を反らせる。

「何か、私だけドキドキさせられたり、照れたりするのって対等じゃないと思うわけよ」

「はぁ?」

「なんか、やられたって気になるというか。
 確かに、私は恭也が好きよ。それはこの際、認めるわ」

「そ、そうか。って、この際ってのが気になるが……」

凛の言葉に照れつつも、恭也は引っ掛かる所を覚える。

「それは良いのよ。でも、恭也も私の事が好きなのよね」

「……ああ」

「でしょう。なのに、私ばっかり、恭也にしてやられているような気がするのよね」

「何を言って……」

恭也の言葉を遮り、凛はなおも続ける。

「やられっぱなしっていうのは、私の性にあわないのよね。
 だから、少しは恭也が照れたりする事を見つけたのなら、それをして仕返ししないと……」

「おいおい」

凛のあまりと言えばあまりの言葉に、恭也は思わず疲れながらも突っ込む。
それに苦笑を浮かべつつ、凛は頬を掻く。

「……とは言え、今回のは少しやり過ぎたかも……。
 次から恭也の教室へはちょっと入りにくいわね」

「やる前に後悔するより、やってから後悔するのは凛らしいが……」

「あら、何を言ってるのよ恭也。後からするから後悔って言うのよ」

「確かに」

凛の言葉に妙に納得して頷く恭也に、凛はやや低い声を出す。

「つまり、恭也は私が考えもなしで行動するって言いたいのね」

「い、いや、そんな事はないぞ」

何か危険なものを感じてすぐさま否定する恭也だったが、凛は目を細めて疑わしそうに見る。
思わず視線を逸らした恭也に対し、凛はやや拗ねたような声を出す。

「別に良いんだけれどね。
 自分でも、ここ一番って所でよく失敗するっていうのは分かってるし……」

分かっているとは言いながらも、やはり気にしているのだろう。
そんな凛の様子に恭也は小さな笑みを洩らす。
それが気に入らないのか、凛は睨むように恭也を見る。
その視線を正面から受け止めつつ、恭也は笑みを深める。

「何よ!」

「いや。ただ、拗ねている凛も可愛いなと」

「っ! っ〜〜。
 うぅ、恭也ってば、本当に無自覚なのよね。だからこそ、たちが悪いわ」

「どうかしたのか?」

「別に! ただ、この件に関しては、私の方がやられっ放しになりそうだって思っただけよ。
 しかも、それも別に悪くないとか思っている部分があったりして、ちょっと複雑なだけよ」

「さっきから、やったやらないって……。別に勝負じゃないんだから」

「そんな事は分かってるわよ。でも、私は優位に立ちたいもの」

「難儀な。でも、それだったら、別に凛はやられっ放しでもないだろう。
 俺だって、凛にはかなりドキドキさせられているんだから」

「そうは見えないけど?」

「見えないだけで、実際はそうなんだがな」

「ふっふ〜ん、そうなんだ〜」

やや照れつつも嬉しそうな笑みを見せる凛。

「ああ。今も結構、そうなんだがな。逆に凛は平気そうだが」

言いながら恭也は繋いだ手を持ち上げてみせる。
それを見て、まだ手を繋いでいたままだったことを思い出し、凛も照れ出す。

「うっ。えっと、あははは〜。
 何て言うか。この件に関しては、お互いさまという事で」

「だな。所で、手はこのままで良いのか」

「えっと。……うん」

少し、ほんの少しだけ考える素振りを見せるも、すぐに頷いた凛の手を恭也はそっと握り締める。
凛も、恭也の手を握り返すと、恭也へと向けて満面の笑みを見せる。

「やっぱり、あれこれ考えるよりも、この気持ちを大事にしながら楽しむ方が良いわね」

「そうだな」

「でも、やっぱり恭也の照れている顔も見たいから、今こういう事も止めないけれどね」

言って凛は周りに誰も居ないことを予め確認してから、恭也の頬へと不意打ちのように唇を付ける。
恭也は困ったような顔を見せつつも、諦めにも似た苦笑を浮かべると、凛の額へと口付ける。
驚いて目を白黒させ、真っ赤になりながら額を押さえる凛を見下ろし、

「俺も凛の照れている顔を見たいからな」

口元に笑みを浮かべて告げる。
凛は口元を嬉しそうに緩めつつも、それを隠すように手を口元に当てる。

「やっぱり、私の方がやられっぱなしのような気が……。
 でも、まあ良いわ」

少し前までなら、こんな事を考えなかったかもしれない自分を思い返し、自分は変わったのだろうと思う。
それでも、今、隣に居る人物の影響で変わり、これからもその人物が隣に居る事を思うと、
それもまあ良いかと思う凛だった。
そんな凛の様子をじっと見詰める恭也の手を振り解くと、その腕に自分の腕を絡ませ、より密着する。

「ほら、恭也。時間は有限なのよ。もたもたしているのは勿体無いわ。
 さっさと行くわよ」

「わ、分かったから、そんなに引っ張るなって」

少し慌てたように言ってくる言葉を聞きながら、凛は楽しそうに絡めた腕に力を込める。
自分を少なからず変えたであろう、大切な人を離さないように。





<おわり>




<あとがき>

時流さんから275万ヒットのリクエスト〜。
美姫 「凛の続編ね」
イエス、イエス、イエス〜〜!
美姫 「で、今回は時間もそれ程経っていないのね」
おう。凛編が昼で、この続編はその日の放課後だ。
美姫 「たったの半日後。これは初めてじゃない?」
えっと、多分。最早、覚えてません!
美姫 「あ、アンタね〜」
あ、あははは。冗談だって。
美姫 「怪しいわね〜」
いや、本当に。
美姫 「まあ、良いわ。で、次は誰かしら?」
誰にしようか……。
美姫 「そこは、いつもと同じね」
あ、あははは〜。
美姫 「ともあれ、また次でね〜」
ではでは。






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