『An unexpected excuse』

    〜リリィ編〜






「俺が、好きなのは…………」

恭也はそこで言葉を区切ると、何かを思い出すように遠い目をして少し空を見上げる。
何となく声を掛け辛い雰囲気が漂う中、何か事情を知っているのか、美由希も少しだけ顔を顰めて恭也を見る。
じっと佇む恭也を見ていた美由希が、小さく言葉を零す。

「あ……」

すると、それを合図としたかのように、誰もいなかったはずの恭也の後ろに一人の女性が現われる。
その女性はその場に姿を見せるなり、目の前に立つ人物を目に止めると、息を思い切り吸い込む。

「高町恭也!」

吐き出すのと同時に、その名を口に上らせる。
その声を聞き、恭也は弾かれた様に後ろを振り返ると、信じられないようなものを見る目付きで、目の前に立つ人物を見遣る。

「リ、リリィ……」

茫然と呟く恭也を睨みつけ、リリィと呼ばれた女性は恭也へと指を突きつける。

「アンタ、何一人で帰ってるのよ!」

「そんな事を言われても。あそこで、もう俺には出来る事なんか……」

「うるさい、うるさい、うるさい。そうやって、すぐに自分だけで決めて!」

「しかし、リリィには、まだあそこでしなければいけない事が……」

「うるさいって言ってんのよ!」

恭也の言葉をぴしゃりと遮ると、リリィは大きく息を吸い込み、一歩前へと足を出す。

「すぐに、そうやって自分一人で勝手に決めて、私に何の相談もしないで、本当に勝手すぎるわよ。
 おまけに、鈍感で鈍くて馬鹿でむっつりしてて無表情で感情を滅多に出さなくてすぐに自分一人で抱え込んで
 なんでもかんでも一人でやろうとして女の子の気持ちにとことん鈍いくせにすぐに優しい言葉を掛けて……」

一気に捲くし立てるリリィに対し、恭也は僅かにたじろぎながらも口を挟む。

「おい、ちょっと落ち着け」

「どうしようもない最低な男で鈍感で鈍くて」

「おい、またループしてる」

「そのくせ、たまにドキッとするような事を言って、私の事を好きって言ったのに、誰よりも愛してるって言ったのに……」

「ま、待て待て!」

「私の身体にあれだけ溺れたくせに」

「本気で待て、リリィ! お前、焦ってとんでもない事を口走っている事に気付け!
 というか、俺の言葉を聞け!」

「私を置いて、一人元の世界に戻るなんて……」

そこまで言うと、急に言葉を詰めらせ、涙ぐむ。
それを見て、恭也も口を噤むと困ったように立ち尽くす。

「わ、私がどれぐらい寂しかったか分かる。
 すぐにでも後を追いかけたかったけれど、色々とやらないといけない事があって、
 すぐに追いかけられなかった、この気持ちが!」

「う、すまん」

「すまんじゃないわよ。ようやく、少しとはいえ落ち着いたから、リコたちに無理を言って追いかけてきたのに。
 なのに、あんなに大勢の女の子に囲まれて。
 一体、何をしてたのよ! 返答次第じゃ……」

目に少し危険な色を灯すと、リリィは右手を添えた左手を恭也へと向ける。

「ばっ、落ち着け! というか、物騒な真似は止めろ」

「問答……無用!」

「こら、返答次第じゃないのか」

「うるさい!」

「うるさいって。お前、矛盾してるぞ!」

「うるさいったら、うるさいのよ! 三秒だけあげるから、さっさと弁明しなさい」

「短すぎるだろう、それ」

「……はい、三秒経った」

そう告げたリリィの腕に、何か力が収束するのを感じ、恭也は本気で冷や汗が背中を流れ落ちていくのを感じる。
幸いと言える事に、嫌な予感を感じていた美由希によって、この場にはFCたちも誰もいなくなっていた。
つまり、この場には恭也とリリィのみ。
即ち、リリィが関係のない人を巻き込むと言う事もない訳で……。
リリィが本気で放つ前に、恭也は必死で言葉を掛ける。

「お、俺が好きなのは本当に愛しているのは、リリィだけだ。信じてくれ」

その言葉に、先程まで左手へと集まっていた力が一気に消え、代わって、顔を真っ赤にして叫ぶように言う。

「ば、馬鹿、何、恥ずかしい事を言ってるのよ!」

リリィとの距離を縮めながら、恭也は至って真顔で続ける。

「確かに、言ってて恥ずかしいが、嘘は言ってない。
 一人で勝手に帰った事については謝る。しかし、リリィはまだあの世界に必要だったから」

「だから、一人で帰ったって言うの」

「ああ。俺は壊す事が専門だから。これから再建しようとする世界では、大して役に立たないし」

「だったら、どうして私には何も言わなかったのよ」

「それは……」

「私は恭也の何? 一時の気の迷いなの。
 そんな大事な事を相談もしてくれないなんて。恋人としてじゃなく、仲間としても信用されてないの」

「違う! そうじゃなくて、リリィと話をすると、決心が鈍りそうだったから。
 俺は、こっちの世界でまだしないといけない事があるんだ。
 でも、リリィと話をしてしまうと、それらも全部投げ捨てて、あのまま、あっちの世界に留まってしまいそうだったから」

「だったら、私も連れて行ってくれたら」

「だから、それは出来ないと言っただろう。
 学園長がいない今、その娘であるリリィまでもが居ないというのは」

「そうやって、すぐに一人で決めて……」

「本当にすまないと思ってる。しかし……」

「もう良い。つまり、恭也にとって、私はその程度の存在って事よね」

「それは違う!」

「だったら、何で連れて行ってくれなかったのよ。
 アヴァターの為とか、そんなもの関係なく」

「……もし、俺がこの話をしたとしても、リリィは絶対にアヴァターに残っただろう」

「だから、言わなかったっていうの」

「ああ。勝手に決めた事は本当にすまなかったと思ってる。
 でも、リリィなら、全てに区切りが着いたら来てくれると思ってたから」

「馬鹿じゃないの。私がそこまで貴方の事を想っていると思ってたの。
 私みたいな良い女は、男も選り取りみどりなのよ」

「正直、その可能性も考えたさ。でも、勝手に居なくなるのは俺の方だからな。
 それに、俺が勝手に待つと決めただけだから。俺にはリリィだけだから」

恭也の言葉に、リリィは更に顔を赤く染め上げると、顔を背ける。
リリィとの距離が手を伸ばせば届くまでに縮まった所で足を止め、恭也は微笑を浮かべる。

「それに、今こうして会いに来てくれた訳だし。思ったよりも、早く再会できて、嬉しいさ」

恭也の言葉を聞き、リリィは俯くと、小さく呟くように話す。

「そ、それは、わ、私だって、会いたかったし……。
 そ、それに!」

リリィは顔を上げると、囁くようだった声を大きくし、真っ直ぐに恭也に向って言い放つ。

「私にあんな事までして、私を貴方が居ないと何も出来ないようにした以上、絶対に逃がさないんだから」

そう言って泣き笑いを見せるリリィを、そっと抱き寄せると、その唇を奪う。
始めは啄ばむように優しく。次第に、貪りあうように激しく。
お互いを求め合い、相手を奪うように。
やがて、どちらともなく唇を引き離すと、リリィは恭也の胸へと飛び込むように抱き付く。
それを優しく抱きとめながら、その耳元で何度もリリィの名を呟き、リリィもまた答えるように何度も恭也の名を口にする。
呟きながら、再び唇を合わせ、もう一度口付けを交す二人を、昼下がりの柔らかな陽射しが包む込んでいた。





<おわり>




<あとがき>

またまたやってしまった新シリーズ。
美姫 「ば〜か」
反論できないのが悔しい。
だって、仕方がないじゃないか。
リリィがどうしても書きたかったんだから。
美姫 「はいはい。しかし、異世界までやってしまうなんて、本当に馬鹿ね」
あ、あはははは〜。
いや、本当にそろそろとらハに戻ろうとは思っているんだが……。
美姫 「はいはい。さっさと次を書いてくれれば、何も言わないわよ、私は♪」
その笑顔が怖い……。
美姫 「とりあえず、それじゃあ、また次回でね〜」
ではでは。



おまけ



再び口付けを始めた二人を、遠くで見詰める複数の影があった。

「何か、出て行き難いですね」

「仕方ないでござるよ。久し振りの再会ゆえ」

「暫らくは、そっとしておく方が良いかと」

「あ〜ん、ナナシも早く再会の挨拶をしたいですの〜」

「それにしても、皆さん、お久し振りですね」

「お久し振りです、美由希さん」

そんな会話がされていたとか、いないとか。







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