『An unexpected excuse』

    〜キャスター編〜






「俺が、好きなのは…………」

誰かの喉がごくりと鳴ったような気もするが、誰もそんな事を気にせず、ただ息を飲んで恭也の言葉を待つ。
何かを言おうとするが、また口を噤み、また開く。
照れているのか、微かに赤くなった顔を本人も自覚しているのだろう。
そんな恭也の様子を、美由希たちは楽しそうに眺めている。
それらを恨めしそうに睨んだ後、恭也はやっと決意したようにその名を口に出す。

「……メディア」

「あ、は、はい!」

思いも寄らぬ事に返答され、恭也はその声のした方へと振り向くと、そこには美しい女性が所在無さげに立っていた。

「あ、あの、別に、恭也さまの背後を取って、何か悪戯しようとした訳ではなくてですね。
 その、後ろから目を塞いで、だーれだがやりたかった……じゃなくてですね。えっと、その……。
 そ、それにしましても、流石は恭也さまですね。背後から近づいた私に気付かれるなんて」

少し残念そうな顔を一瞬だけ見せた後、何やら必死になって弁解を始めるメディアを、恭也は落ち着かせる。

「とりあえず、落ち着け」

「あ、はい、そうです」

恭也に言われ、メディアは落ち着こうと深呼吸を繰り返す。
そうやって落ち着いたメディアへと、恭也は訊ねる。

「それで、一体どうしたんだ」

「あ、そうでした。恭也さまがこちらのノートをお忘れだったので。
 昨日、課題とやらをされていたノートです。午後からの授業だと仰っていたので、間に合うかと思いまして」

「ああ、それは助かった。折角、やったのに忘れては意味が無いからな。
 ありがとうな、メディア」

「いえ、私は大した事は……。それに、恭也さまのお役に立てるのでしたら」

嬉しそうにはにかみながら告げるメディアに、FCたちも我を忘れたように見惚れる。
それをどう捉えたのか、メディアは少し顔を曇らせると、少し恭也から離れる。

「どうしたんだ、メディア」

「いえ、別に何でもありません。それでは、私はこれで失礼します」

立ち去ろうとしたメディアの腕を掴み、恭也はその目を覗き込む。

「で、どうしたんだ。何でもない事はないだろう」

「あ、う」

真正面から覗き込まれ、メディアは恥ずかしそうに目を逸らしつつ、か細い声で仕方がなさそうに答える。

「その、皆さんが私を見て言葉を無くされてましたから……。
 私みたいな女性が恭也さまの傍に居ては、恭也さまの迷惑になるかと思って……」

「メディア!」

メディアの言葉を、恭也が強い口調で遮る。

「俺は、迷惑だなんて思ってない。
 その、傍に居てくれと言ったのは俺だし、それに、あの時も言ったが、傍に居てくれると嬉しい」

「あっ」

恭也の言葉に、メディアは照れつつも嬉しそうに相好を崩す。
そんなメディアの髪を愛しそうに手でそっと梳きながら、恭也は少し呆れたように呟く。

「それに、皆が言葉を無くしたのは、メディアが綺麗だからだぞ。皆、見惚れてるんだ」

「そ、そんなはず……」

「ある。いい加減、メディアは自分の事を自覚しないと」

遠くから、それは恭ちゃんにも言える事だけどね、と聞こえてきたのは、この際、綺麗に無視して、
勿論、今日の鍛練メニューをきつくする事を決めつつ、恭也はFCたちへと顔を向ける。

「なあ。君たちが言葉を無くしたのは、メディアに見惚れてだよな」

「あ、はい、そうです。とても綺麗な方だったんで、思わず見惚れてしまって」

真っ直ぐ恭也とメディアへと視線を向けて言ってくるFCの一人の言葉に、嘘がないと感じ、メディアは更に照れたように俯く。

「と、所で、一体、何があったんですか。やけに人が多いように思うのですけど」

話題を変えるように聞いてきたメディアに、美由希が笑いながら事情を説明する。
それを聞き終えたメディアは、俯いたまま小さく声を零す。

「つまり、ここにいる人たちは皆、恭也さまの恋人の座を狙って……」

「何で、そうなる」

勘違いしているメディアに、そう呟く恭也だったが、その声は届いていないらしく、
顔を上げたメディアは慌てたように、きょろきょろとしだす。

「と、とりあえず、ど、どうすれば良いのかしら……。
 えっと、えっと……」

そんな風にオロオロするキャスターが微笑ましく、それを眺めていた恭也だったが、それも長くは続かなかった。

「と、とりあえず、呪いを……」

「メディア、何を考えてる! 落ち着け!」

突如、その口から発せられた物騒な単語に、恭也はとりあえずメディアの肩を掴んで軽く揺さぶる。

「で、ですが、敵は早めに……」

「いや、敵じゃないから。と言うか、落ち着け」

「わ、私はとても落ち着いてますよ。ええ、落ち着いてますとも」

「どこがだ……」

呆れたように呟く恭也へと、FCの一人が遠慮がちに声を掛ける。

「あの、高町先輩の好きな人はそのメディアさんなんですよね」

そう言えば、さっきは名前を言ったけれど、中途半端な状態になったと思い出し、恭也は改めて頷くと、
隣でまだ落ち着いていると言っているメディアの背中に手を置き、そっと前へと押し出すようにする。
前へと押され、よく分からないまま足を進めたメディアは、言葉を止めて恭也を見上げる。

「俺が好きなのは、ここにいるメディアだ」

「え、え、えっ?」

よく分かっていないメディア一人だけが、恭也の言葉に一番驚いていた。

「きょ、恭也さまが私を好き……?」

茫然と呟きながら、恭也をじっと見る。
それを邪魔しないようにと気を利かせたFCたちは、そっとその場を後にする。
そんな中、メディアは未だに先程の恭也の言葉が信じられないのか、目をぱちくりさせつつ、恭也の顔ををじっと見詰める。
その意味がようやく分かったのか、メディアは微かに頬を赤らめつつ、柔らかな笑みを浮かべる。
と、同時にその目から、涙が一雫、頬を伝って零れ落ちる。

「う、うぅぅ」

「ど、どして泣くんだ。やっぱり、迷惑だったか」

恭也の言葉に、メディアは激しく首を振って否定すると、恭也へとそっと両手を伸ばす。

「違いますよ。恭也さまの言葉が、とても嬉しかったんです。
 迷惑だなんて事はありません」

笑みを見せながら、メディアはそっと恭也の頬に触れる。
その手をそっと上から包み込むように握ってくる恭也を見詰めたまま、メディアは続ける。

「ずっと傍に居て欲しいとは言われましたけれど、そんな事は言われなかったから。
 ただ、傍で仕えて欲しいという意味かと思って……」

言いながら、メディアは言葉に詰まる。
そんなメディアの手をそっと頬から引き離し、その手をしっかりと握ると、逆の手で今度は恭也がメディアの頬に触れる。
その瞳を上から覗き込みながら、

「すまなかった。まさか、そんな風に捉えているとは思わなかったんだ。許してくれ」

「いえ、もう良いんです。だって、今、ちゃんと仰って下さいましたから。
 それだけで、もう充分です」

「そうか。でも、あれは皆に言ったみたいなものだから、改めて言わせてくれ」

「は、はい」

恭也の言葉に、メディアは緊張気味に頷くと、背筋を伸ばし、その言葉を待つ。
何を言われるのか分かっているのに、鼓動が早く脈打ち、不安な気持ちが湧き出てくる。
じっと待っているメディアへと向かって、恭也は静かに言葉を紡ぐ。

「メディア、愛してる」

「私も愛してます」

そっと目を閉じたメディアへと、恭也はキスをする。
優しく甘いキスを終え、そっと離れようとした恭也の首へと腕を回し、下から恭也の瞳を覗き込む。

「もう一度、してください」

メディアの言葉に、恭也は目で返事をすると、その唇をまた塞ぐ。
先程よりも長いキスに、メディアの腕に力が入る。
それに応えるように、恭也はメディアの背中へと腕を回し、強く抱き締めながら、唇を離しては、またキスをする。
昼下がりの午後、誰も居ない中庭で、二人は飽きるまでキスを繰り返す。
それを咎める者は、誰もいなかった。





<おわり>




<あとがき>

Fateからの二人目はキャスター。
美姫 「ライダーかと思ったんだけどね」
ふふん。キャスターが先になったな。
美姫 「じゃあ、次辺りかしら」
ははは、それはどうかな?
美姫 「む〜。って、次はもう決まってるの」
さーて、それじゃあ、今回はこの辺で……。
美姫 「ちょっと待ちなさい」
あはははは〜。
美姫 「次は決まってるの?」
あはははは。
美姫 「次は……」
ああははは。
美姫 「もう良いわ。充分過ぎるぐらいに分かったから」
そうかそうか。分かってくれたか。
それじゃあ、また次回で。
美姫 「とりあえず、アンタは後でお仕置き決定ね」
のぉぉぉぉぉ!
美姫 「それじゃあ、まったね〜」







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