『An unexpected excuse』

    〜カレハ編〜






「俺が、好きなのは…………」

恭也の言葉を、FCたちはじっと声を殺して待つ。
水を打ったような静けさの中、この場にはあまりにも似つかわしくない明るい声が響く。

「まままあ! 何か面白そうな事をしてますね」

「カ、カレハさん!?」

「いえいえ、私の事は構わずに、さあさあ恭也さん」

「えっと、その……」

「そんなに恥ずかしがらずに。あ、もしかして、亜沙ちゃんですか。
 それとも、シア様とか。いえいえ、もしかしたら、私の知らない方という可能性もあるんですよね。
 そうなると、どうしましょう。想像も付きませんわ。
 ああー、恭也さんに慕われているというその女性を、一目でいいですから見てみたいですわ。
 きっと、きっと……」

「カレハさん、とりあえず、落ち着いてください。
 それと、現実にしっかりと戻って来てください」

「大丈夫ですわ。と、何のお話だったでしょうか」

「えっと、それはですね……」

「はい。……ああ、恭也さんの好きな方のお話でしたね。
 一体、どんな幸せな方なんでしょうね。とっても羨ましいですわ」

「本当に、そう思いますか」

「ええ。恭也さん程の方に思っていただけるなんて、私だったら、もう死んでも良いぐらい嬉しいですわ」

「いや、死なれるのは困るんですが。
 どうしましょう。死なれると困るので、言わない方が良いでしょうか」

「いえいえ。あくまでも今のは例えですから。それぐらい嬉しいという事ですわ。
 ですから、恭也さんも頑張って、その方に思いを伝えてくださいね」

「……分かりました」

「はい。応援してます。……少し悲しいですけど」

最後の言葉は、恭也には聞かれないようにと、そっと呟く。
そんなカレハの肩に両手を置き、恭也は正面からカレハと向き合う。
高鳴る鼓動を押さえつつ、カレハはそっと顔を背ける。

「恭也さん、そんなにじっと見られたら、流石に恥ずかしいですわ」

「カレハさん」

「はい? どうかしましたか?」

真剣に自分の名前を呼ぶ恭也へ、カレハも顔を戻して聞き返す。
そこへ、恭也はゆっくりと口を開くと、

「俺が好きなのは、カレハさんです」

「…………」

「…………」

暫らく、二人は無言で見詰め合った後、恭也は恐る恐るカレハに話し掛ける。

「カレハさん、その、返事と言いますか。
 カレハさんは、どうですか」

「…………」

「カレハさん?」

「わ、私も恭也さんの事、好きですよ。
 ですから、とても嬉しいです。それこそ、本当に死んでも良いぐらいに」

「ですから、死ぬのは勘弁してください。でも、そう言ってもらえて、俺も嬉しいです」

恭也はそう言うと、そっとカレハを抱きしめる。
恭也の腕の中で、カレハは嬉しそうな顔を見せると、おずおずとその腕を恭也の背中へと回して、自分も恭也を抱き締める。
お互いの瞳に相手を移しながら、ちょっとでも動けば唇が触れるぐらいまで顔が近づく。

「カレハさん……」

「恭也さん……」

カレハそっと目を閉じ、恭也は愛しそうにその名を口にする。

「カレハさん、カレハさん……」

その声に心地良さを感じつつ、カレハは閉じた瞼の裏に愛しい人の顔を思い浮かべる。

「……レハさん、カレハさん、カレハさん!」

「は、はい? あれ? あれれ?」

「はぁー、また妄想でもしてたんですか」

「あ、あははは。どうやら、そうみたいですね。
 恭也さんが大勢の女性に誰が好きなのか迫られて、それに答えてるという……。
 あら? そちらの方々は?」

「多分、途中から妄想に入ったんですね。
 最初の部分は、現実ですよ、きっと」

「まままあ♪ という事は……」

「お願いですから、旅立たないで下さい」

「あらあら、ごめんなさい」

「いえ。しかし、一体、何を想像したんですか」

「恥ずかしいですけど、恭也さんにならお教えしても良いですわね。
 実は、恭也さんに告白されるという、何とも嬉し恥ずかしい事を考えてしまいましたの。
 きゃぁ、思い出しただけで顔が熱くなってしまいますわ」

「そ、そうですか。それは、まあ、何と言いますか……。
 あながち、妄想とも言えないような……」

「ええ。あの時の再現みたいなものですね。
 あの時、周りにいたのは亜沙ちゃんたちでしたけれど」

「お、思い出させないで下さいよ。と言うか、何を妄想してたんですか
 思い出しただけで、恥ずかしくなります。」

「そうはいきませんよ。だって、あれは私にはとってもとっても大事な思い出ですから。
 絶対に忘れるなんて出来ません。はあー、それにしても、あの時の恭也さんったら、随分と積極的で……」

「それは言わないで下さい。……って、旅立つのも止めて下さい!」

「すいません、つい」

「はぁー」

そんな風に仲良さそうに話している二人に、FCたちが何か聞きたそうな顔を見せる。
そんなFCたちのためというよりも、自分が知りたかったのだろう、忍が思い切って訊ねる。

「所で、恭也。そちらの方は? 見た所、神族の方みたいだけど……」

「ほら、少し前にバーベナ学園に交換留学があっただろう」

「ああ。何でか恭也が選ばれたのよね。
 いやー、今でも不思議よね、それって」

「いや、まあ、それは今は置いておいてだな。
 兎も角、その時にクラスメイトとして知り合ったんだ」

「ああ、成る程ね。って、それじゃあ、どうしてここにいるの?」

忍に言われ、恭也も今初めて気が付いたという顔になる。
カレハの方を見れば、珍しく引き攣った笑みを見せている。

「何かあったんですか?」

「いえ、別に大した事では……」

じっと見つめてくる恭也に根負けして、カレハは事情を説明する。

「実はですね。えっと、恭也さんが居なくなって、私が元気がないのを心配した亜沙ちゃんが稟さんたちに相談しまして。
 それで、神王様たちの耳へと。で、結果として、超法的処置が適用されて、明日から私はこちらの学園に通うことに……」

「は、はぁ。あの人たちのやりそうな事ですね」

「ええ。で、今日は下見と簡単な手続きの為に来ていたんです。
 で、帰りに恭也さんをお見かけしたものですから」

「そういう事ですか。じゃあ、明日からカレハさんは」

「いえ、今日からですけれど、お世話になります」

「えっと、学園には明日からなんですよね」

「ええ。でも、恭也さんの家には今日からですから。
 もう、引越しの方も終っている頃かと」

「はい!?」

「もしかして、聞いてらっしゃらなかったんですか」

「はい、全然」

恭也は美由希たちの方を見るが、美由希も聞いていなかったらしく、首を横に振っている。

「となると、かーさんもぐるか」

疲れたように呟く恭也に、痺れを切らしたのか、忍が割って入る。

「それよりも、どういう関係なのよ」

この言葉に、FCたちもじっと恭也を見詰める。
恭也はカレハの方に手を回してそっと抱き寄せると、全員を一度見渡す。

「俺の恋人だ」

「そ、そんなにはっきりと仰っていただける何て……。まままあ♪」

「いや、だから旅立たないで……」

「ああ、申し訳ございません。ついつい」

カレハの言葉に苦笑を浮かべつつ、恭也はそっとカレハの頬に口付ける。

「妄想じゃなく、ちゃんと現実に居てくださいね。俺は、ちゃんと傍に居ますから」

「……勿論ですわ」

頬を朱に染めつつ、カレハは嬉しそうに微笑む。
そんな笑みを見て、恭也もまた笑みを見せる。
恭也の笑みを見たFCたちは、大人しくその場を去るのだった。

「あの子たちには悪い事をしてしまいましたね」

「ああ。でも、仕方がないさ。俺にはもうカレハさんがいるしな。
 それに、俺以上の奴なんて、他にもたくさん居るんだから」

「でも、神界は一夫多妻制ですから……」

「カレハさん。俺は、カレハさん一人で充分です。
 カレハさんは、嫌なんですか」

「……そんな事ありませんわ。私も恭也さんが私一人だけを愛してくれるという方が嬉しいですから」

そう言うと、今度はカレハから恭也の頬へと口付けるのだった。

「これ以上は、今夜のお楽しみですわ♪」

そう告げるカレハの笑顔に、恭也は暫し見惚れるのだった。





<おわり>




<あとがき>

SHUFFLE!で、今回はカレハ〜。
美姫 「SHUFFLE!からは、これで二人目ね」
うんうん。やっぱり、亜沙の次はその親友のカレハだろう。
美姫 「さて、それじゃあ、次は誰になるのかしら」
いや〜、誰になるだろう。
その前に、どのジャンルの誰になるかだな。
美姫 「まあ、それもあるわね」
とりあえず、また次回で!
美姫 「じゃ〜ね〜」







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