『An unexpected excuse』

    〜智代編〜






「俺が、好きなのは…………」

恭也が意を決したように名を告げようとした時、女性の声が割って入ってくる。

「恭也、ここにいたのか。探したぞ」

「智代か。どうしたんだ? 今日は生徒会の用事で、昼は来れないんじゃなかったのか」

「いや、まあ、そうなんだが……。弁当はちゃんと作って来ていたんでな。
 とは言え、既に昼食を取った後だったか」

しょんぼりとする智代の手から、恭也は弁当を取ると、元気付けるように言う。

「気にするな。まだ、余裕があるからな。
 それに、智代の弁当だしな」

「関係ないだろう、それは」

嬉しさと恥ずかしさがない混ぜになった顔をして、智代は早口でそう捲くし立てる。

「いや、関係あるだろう。智代の弁当だから、食べたいんだから」

「うっ、そ、そうか。まあ、そう言われるのは、悪い気はしないな。
 だったら、食べると良い」

「ああ、ありがたく頂こう。所で、生徒会の方は良いのか」

「ああ。もう済んだからな」

「そうか」

恭也は短くそう答えると、弁当の蓋を開ける。

「どうだ。今日のは、中々上手く出来ていると思うんだが」

暫らく、弁当の蓋を開けた状態で動きを止めていた恭也は、やがて動き出すと、急いで弁当箱に蓋をする。

「恭也、何をしている。それでは、食べれないだろう」

「……わざとか? わざとなんだな」

「心外な言われようだな。どうした? 何か嫌いなものでも入っていたのか。
 好き嫌いは良くないぞ。大きくなれないからな」

「これ以上、大きくなれなくても構わん。と、その前に、別に嫌いなものが入っていたとかではない」

「そうか、なら、早く食べてくれ」

「いや、まあ、ありがたく頂くが……。その、放課後でも構わないか」

「やはり、お腹がいっぱいなのか。だったら、仕方がない。無理はしなくても良いぞ」

言いながらも、少し悲しそうな顔をする智代を見て、恭也は首を横に振る。

「いや、食べれない事はない。ただ、な」

「ただ、何だ? やはり、何か苦手なものでも……。
 恭也は甘いものは苦手だとは聞いていたが、他のものは聞いてなかったからな」

「いや、だから、そうじゃない。というか、本当にわざとじゃないんだな」

「さっきから、何を言ってるんだ」

「……」

じっと見つめてくる智代に、恭也は諦めたのか、弁当箱をもう一度開ける。
そこには、ご飯の上にそぼろで文字とハートが描かれていた。

「うわー、これは凄いわね。『Kyouya LOVE』って」

忍が後ろから覗き込んできて、そう口に出す。

「月村、口に出さないでくれ。流石に、少し恥ずかしい」

照れながらそう言う智代以上に、恭也も恥ずかしそうにしていた。
それを見て、智代は顔を曇らせる。

「どうした。やはり、お腹がいっぱいなのか」

「いや、違う。今から食べ……」

恭也の言葉を遮り、忍が楽しそうに智代へと言う。

「智代、恭也は智代に食べさせて欲しいのよ」

「何だ、私に食べさせて欲しかったのか。仕方がないな。恭也だからこそ、特別だぞ」

そう言うと、恭也が否定の言葉を口にするよりも早く、箸を奪い取り、おかずを摘むと、恭也の口元へと運ぶ。

「ほら、口を開けないか」

「智代、そこは決り文句があるでしょう」

「うっ。そ、そんな事までして欲しいと言うのか」

「いや、誰も言ってな……」

「し、仕方がない。きょ、恭也が相手だからだぞ。ほら、あ、アーン」

「ほら、恭也。智代がここまでやってくれてるのよ。
 まさか、それを無下にはしないわよね〜」

明らかに確信犯の笑みを浮かべつつ、忍はそんな事を言う。
しかし、忍の言う通り、智代は照れながらも、じっと恭也の事を見ており、
これを見て、断わるのも気が引けた恭也は、大人しく口を開くのだった。

「ど、どうだ」

「……あ、ああ。美味いぞ」

「そうか、良かった。では、次はこれだ。これも、かなり自信作なんだぞ」

「それは楽しみだな」

智代は恭也へと、次々に食べさせて行く。
これには、言い出した忍も二人の雰囲気に押されるように、後退る。
一方、完全に吹っ切れたのか、二人は完全に周りを気にせずに続ける。
やがて、全てを食べ終えると、

「ごちそうさま」

「ああ、おそまつさま。所で、本当にお腹の方は大丈夫か」

「ああ。問題ない」

「そうか。ありがとうな、恭也」

「……? 礼を言うのは、俺の方だろう?」

「いや、私が言いたかったんだ。恭也はそのまま、受け取ってくれ」

「そうか」

「ああ」

そう返事をすると、今度は恭也の方をちらちらと窺ってくる。

「どうかしたのか」

「い、いや、何でもない」

「そうか」

「あ、ああ」

そう口では言うものの、智代は何か言いたそうにしている。
それに気付いた恭也は、智代へと訊ねる。

「どうしたんだ?」

「その、だな。まだ、時間があるな」

「ああ、予鈴までには、まだ少しあるな」

「うん。で、だ。恭也は、疲れているな」

「はっ?」

「良いから、疲れているだろう。顔を見れば、分かる」

「いや、別に……」

「疲れているな」

「まあ、疲れているかもな」

「だろう。だから、特別に、予鈴までゆっくりとするといい。
 もし、眠ってしまっても、私が責任を持って起こしてやるから」

「は、はあ」

「だから、ほら」

そう言うと智代は、恭也の肩を掴んで地面へと寝かせると、その頭を自分の足の上に置く。

「と、智代!?」

驚いたのは恭也の方で、慌てて起き上がろうとするが、智代が上から覗き込んでくる。

「嫌か。やはり、私みたいな女の足は、固いか」

「いや、そんな事はないぞ。柔らかくて、温かくて気持ちがいい」

「そうか。なら、暫らくはこのままで」

「ああ」

智代はその顔に優しい笑みを浮かべると、そっと恭也の髪に触れる。

「恭也の髪はサラサラしてて気持ちが良いな」

「そうか? 俺は、智代の方が綺麗で良いと思うけれど」

そう言って、恭也は手を伸ばすと、肩から前へと垂れている髪に触れる。

「そうか。恭也にそう言ってもらえて、大変嬉しいぞ。
 そうだ。ついでに、耳掻きでもしようか」

「道具はあるのか」

「そういえば、なかったな」

「だったら、それはまた今度だな」

「ああ、また今度な。約束だ」

「ああ」

そう言って小指を出してくる智代に、恭也は笑みを浮かべつつ、自分も小指を出して指きりをする。
小指を離した後、智代は感慨深そうに言う。

「今のは、結構、女の子らしかったと思うんだが……」

「……別に、そんな事をしなくても、智代は充分、女の子だよ」

「お前はまた、そうやっていい加減な事を……」

「いい加減な事じゃないさ。俺が、実際にそう思うんだから。
 それとも、そう思われるのは嫌か?」

「そんな訳あるか。
 他の誰よりも、恭也にそう言ってもらえる事が、私にとっては何よりも嬉しいに決まっているだろう」

「なら、素直に受け取っておけ」

「分かった」

そう言って頷く智代の頬をそっと撫でる。
智代は目を細めつつも、どこか呆れたような顔を見せる。

「またか。お前は、意外とキス魔だからな」

「人聞きの悪い事を言うな」

「事実だろうが」

「そうかもしれないが、智代にだけだろう」

「当たり前だ。もし、他の者にもやっていたら……」

「やっていたら、蹴られるか?」

「いや、そんな事はしない。ただ、物凄く悲しい」

そう言って、智代は本当に泣きそうな顔を見せる。
そんな智代を安心させるように、恭也は笑みを浮かべて見せる。

「大丈夫だ。智代にだけだから」

「それを聞いて安心した」

「だから……」

「しょうがない奴だな」

そう言いつつも、智代は微かに笑みを見せると、そっと恭也へと顔を下ろしていく。
そこへ、遠慮がちな声が聞こえてくる。

「あのー、出来ればそういう事は、二人っきりの時にして欲しいかな〜。
 確かに、食べさせろとは言ったけれど、そこまでは、流石に……」

「「あっ」」

忍の言葉に、恭也と智代は我に帰ると、顔を赤くして離れる。

「いや、今更、照れても……」

呆れたように告げた忍の後ろでは、既に解答をもらったとばかりに、FCたちが立ち去る。
それを見送りながら、美由希がフォローするように言う。

「まあ、これで、あの人たちも答えてもらったのと同じ解答を得た訳だし……」

「あ、ああ。しかし、お前にフォローされると、素直に喜べないのは、何故だろうな」

「……酷いよ、恭ちゃん」

「冗談だ」

言いつつ、恭也は未だに赤い頬を誤魔化すように擦りつつ、智代の方を見る。
智代は、顔を真っ赤にしたまま、固まっていた。

「智代、智代」

「あ、ああ、恭也か。わ、私は皆の前で、あ、あんな事を……」

「……ああ、そうだな」

「う、うぅぅ、穴があったら入りたいぐらい、恥ずかしいぞ」

「それは、俺も同じだ」

「弁当を食べさせるまでは良かったんだが……」

「いや、そこは良いのか」

「ああ、問題ない。た、ただ、それに夢中になり過ぎて、周りに人がいる事を忘れるなんて……。
 う、うぅぅ、あの後の事を思い出すと……」

「智代は、夢中になると、偶に周りが見えなくなる所があるからな……」

「……所で、解答とは何だ?」

今更ながらに訊ねてくる智代に、那美が教えてやる。

「なるほど、そういう事だったのか。だったら、さっきの事は、恥ずかしかったが、いい牽制になったな」

「牽制?」

「そうだ。いい加減に、恭也は自覚するべきだな」

「何の自覚だ」

「……いや、まあ、良いんだけれどな」

呆れたように言う智代に、忍が笑いながら言う。

「牽制どころか、二人の仲を見せ付けたという感じだったけれどね」

「頼む、思い出させないでくれ」

「今更、照れない、照れない。
 私たちは、もう行くから、まだ時間もある事だし、二人は続きでもどうぞ」

「月村!」

「忍!」

忍の言葉に、智代と恭也は揃って叫ぶ。

「いやーん、怖い、怖い。それじゃあ、忍ちゃんはここらで退散するわ」

言うや否や、忍は逃げるように、いや、実際に逃げる。
その後を苦笑しながら、美由希たちが付いて行く。
苦りきった顔で美由希たちを見送った二人は、何となく視線を合わせる。
暫らく無言だったが、恭也はその手をそっと智代へと伸ばす。
智代も大人しく、恭也に抱き寄せられると、そっと目を閉じる。
そんな智代へと、恭也はそっとキスをするのだった。





<おわり>




<あとがき>

CLANNADから三人目は、智代〜。
今度は、ちゃんと予告通りだぞ。
美姫 「ふーん、あ、そう」
ひ、酷い……。
美姫 「で、次は誰かしら?」
ん〜、誰だろうね〜。
美姫 「まだ未定なのね」
その通り!それじゃあ、また次回で。
美姫 「じゃ〜ね〜」







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