『An unexpected excuse』
〜ライダー編〜
「俺が、好きなのは……」
と、一際、強い風が吹き、恭也は一旦、口を閉ざす。
それが収まった頃、再び口を開こうとするが……。
「恭也、ここに居ましたか」
恭也の言葉を遮るように、別の声が届く。
全員がそちらへと視線を向けると、高い身長にすらりと伸びた足、整った顔立ちに長い髪の美しい女性が居た。
同性であるFCたちからも、感嘆の吐息が洩れる中、一斉に視線に晒されたその人物は、
多少、たじろいだように、二、三歩後退ると、すぐに気を取り直したように恭也へと向き直る。
何故か、少し悲しそうな目をして。
それが、他の者たちには愁いを帯びたようにでも映ったのか、またしても吐息が零れる。
そちらを気にしないようにしつつ、その女性は恭也へと何やら手渡す。
「恭也、これを忘れていましたよ」
「ああ、そうだったのか。助かったよ、ライダー」
「いえ、それでは、私はこれで」
早々に立ち去ろうとするライダーだったが、そこへFCの一人が上げた声によって、その足を止める。
「高町先輩、そちらの綺麗な方は」
「……綺麗? 私がですか?」
その言葉に、ライダーが怪訝そうな表情を浮かべる。
それに対し、その女子生徒が頷くのを見て、ライダーは少し照れつつも、信じられないといった顔を恭也へと向ける。
それに苦笑を返しつつ、恭也はライダーへと頷く。
「ああ、ライダーは綺麗だって。前から言ってるだろう。
どうせ、さっきも何か勘違いしたんだろうが、あれは、皆、ライダーに見惚れていたんだぞ」
「か、からかわないでください、恭也。私みたいに背の高い女性がそんな……」
「そんな事ないですよ。まるで、モデルさんのようですよ」
ライダーの言葉に、その女子生徒が答えた声に、他の者たちも頷く。
「あ、そ、そんな……」
照れて困ったように見上げてくるライダーを見て、恭也は知らずに呟く。
「……可愛いな」
「なっ!? きょ、恭也、い、一体、何を言ってるんですか!?」
「す、すまん。つ、つい、口が滑った」
「く、口が滑ったという事は、恭也は、つ、つまり、そういう風に思ったという事で……。
そ、そんな、わ、わ、私が、か、可愛いだなんて事……」
「いや、さっきのライダーは、かなり可愛かったって。あっ! だ、だから、こ、これは……」
「さ、さっきから、な、何を言うんですか」
お互いに慌てつつ、照れ臭そうに顔を赤くする。
かなり熱を持った頬を擦り、恭也は誤魔化すように話を変える。
「と、所で、よくここが分かったな」
「え、ええ。恭也の教室の方へと伺ったら、ここに居るだろうと聞きましたので」
「そうか。……って、教室に行ったのか!?」
「はい。やはり、何かまずかったでしょうか」
恭也の上げた声に、ライダーは何か間違いをしたのかと、眉を寄せてシュンとなる。
それを見て、またしても可愛いと思ったが、今度は口に出すような事はしなかった。
「い、いや、別に問題はない…………多分」
何となく、教室に戻ってからの事を想像してしまったが、それを振り払うように首を軽く振ると、そう答える。
「そ、そうですか。でしたら、良かったです。
恭也に迷惑を掛けるような事をしてしまったのかと思いましたよ」
「ああ、問題ない。それに、ライダーに掛けられる迷惑なら、程度の差はあるが、そんなに嫌ではないしな」
「それはいけません。私は恭也に迷惑を掛けるつもりはありませんから。
もし、迷惑を掛けるような事があれば、はっきりと仰って下さい」
「別に、迷惑は掛けられてない。それと、俺が言いたかったのは、迷惑を掛けてくれって事じゃなくて……。
えーっと、そうだな。つまり、ライダーが少しは頼ってくれたらって事だよ」
「私は恭也に頼っていますよ」
「そうか。なら、いい」
恭也はこの話はこれでお終いと打ち切る。
ライダーの方にも、異論はなかったので、この話題に付いては、これで終わりとなった。
「それでは、私はこれで失礼します」
「ああ、また後でな」
「はい。ああ、そうです恭也。今日は良いお酒が入りまして。
また夜に月見でも」
「ああ、それは良いな。だが、俺はお茶だがな」
「ええ、分かってます。茶っ葉も良いのを入手できましたので、楽しみにしててください」
「そうか、それは楽しみにしておこう」
「はい、では、これで」
そう言って背を向けたライダーを見ていた恭也だったが、ふいに呼び止める。
「ライダー」
「どうかしましたか、恭也」
「いや、ちょっとな」
そう言って、ライダーへと歩み寄った恭也は、そっと手を伸ばして、ライダーの後ろ髪へと触れる。
「ほら、葉っぱが付いていたから」
「そうでしたか。ありがとうございます」
「いや。折角の長くて綺麗な髪だからな」
「……そ、そうですか」
「ああ。俺は、ライダーの髪、好きだけどな」
「あ、ありがとうございます。そ、それでは」
「ああ」
ライダーの姿が見えなくなるまで見送った後、恭也は美由希たちの元へと戻る。
戻った恭也は、辺りを見渡し、少し先程とは違う光景に首を傾げ、それが何か分かると、不思議そうに尋ねる。
「そういえば、さっきまで居た生徒たちは?」
「それなら、さっき帰ったよ」
「帰った?」
答えた美由希に、恭也は安堵しつつも、どこか不思議そうな顔をする。
そこへ、忍が苦笑しながら、恭也へと声を掛ける。
「そりゃあ、二人のやり取りを見てればねー。
よっぽど鈍い人なら兎も角、大概の人、ましてや、恋する乙女ならなおの事、言われなくても分かるって」
「言っている意味がよく分からんが、それならそれで良い」
本当にほっとしたような顔をする恭也に、美由希たちは顔を見合わせて、ただただ苦笑を浮かべるしかなかった。
深夜の高町家。
美由希との鍛練を終えた恭也は、縁側に腰掛けていた。
その隣に、音もなくすっと一人の女性が現れ、腰を降ろす。
「恭也、お茶です」
「ああ、ありがとう、ライダー」
「今日は、月がとても綺麗ですね」
「ああ、綺麗だな」
二人は静かに、夜空に浮かぶ月を眺める。
時折吹く風に、微かに木の葉が音を立てる中、二人はただ言葉もなく空を見上げる。
そっと、恭也は隣に座るライダーの姿を盗み見る。
月光に照らされ、淡い光をその身に浴びる女神に、ただただ言葉をなくして見惚れる。
そんな恭也の視線に気付いたのか、ライダーは恭也へと顔を向けると、そっと柔らかい笑みを浮かべる。
「どうかしましたか?」
「いや、何でもない」
そんなライダーに、恭也は首を振って言葉を返すと、同じように柔らかな笑みを見せるのだった。
静かに、ゆっくりと、ただ時間だけが流れていく。
そんな高町家のある日のひとコマ。
<おわり>
<あとがき>
Fateで、ライダー!
やっとだよ、やっとライダーですよ。
美姫 「あー、うんうん。とりあえず、落ち着こうね」
す〜は〜、す〜は〜。
よし!
美姫 「さて、落ち着いた所で、次は誰?」
いきなりかい!
美姫 「良いから、良いから」
ふ、ならば、俺もいつもの様に答えてあげよう!
さあ?
美姫 「何か、最早、定番?」
というよりも、書き終わってすぐに、次は考えてないってば。
美姫 「ちっ」
な、何で舌打ち!?
美姫 「まあ、良いわ。それじゃあ、また次回でね〜」
何か、少し納得がいかないけれど、まあ良いか。
ではでは。