『An unexpected excuse』

    〜白薔薇編〜






「俺が、好きなのは…………」

恭也の言葉をじっと待つ一同を軽く見渡して、恭也は覚悟を決めたように続きを口にする。

「俺が好きな人は、可愛い子には目がなくて……」

「可愛い子? ものじゃなくて?」

「つまり、子供とかが好きという事ですかね」

恭也の発した言葉を、それぞれに解釈する美由希たち。
それに微かに苦笑めいたものを浮かべつつ、恭也は続ける。

「抱き付き魔の上に、よく人をからかったり……」

「真雪さんみたいな人って事でしょうか」

那美の言葉に、美由希たちの脳裏にセクハラしまくる真雪の姿が浮ぶ。

「でも、実はとても優しくて、妹たちを優しく見守っていて、何かあればすぐに手を差し出して……」

「本当に真雪さんみたいね」

「まさか、真雪さん本人とか!?」

「でもでも、今、恭也さんが言っているのは、ひょっとしたら、恭也さんの好みかもしれませんし」

恭也の説明に、忍が洩らした言葉に、美由希が真っ先に悲鳴じみた声を上げるが、
それを制するように那美が放った言葉によって、一同の顔に真剣さが増し、恭也の言葉により一層耳を澄ませる。
それに気付かず、恭也は更に続ける。

「後は、いつも笑みを絶やさないような温かい人で、でも、意外と頑固な所がある人で……。
 言いたい事や自分が正しいと思った事は、相手が誰であろうとはっきりと言って、友達思いな人……」

そこで恭也が言葉を区切ると、忍が焦れたように口を挟んでくる。

「だ〜か〜ら〜、それは恭也の好みなのか、実際にそういう人がいて、その人を好きなのか、どっちなの?」

忍の言葉に、美由希たちもうんうんと頷き、恭也の言葉をただじっと待つ。
そんな様子に、恭也はそっと溜め息を洩らすと、

「好きな人、になるのかな……」

どうもいまいち煮え切らない返答を返す。

「何よ、その言い方は。はっきりしなさいよね」

「あ、ああ。何と言えば良いか……。まあ、好きな人というか、たちと言うか」

「太刀? 刀って事?」

「まさか、十六夜さん!? い、一体、いつの間にそんな関係に!?」

美由希の解釈に、那美が驚いたような声を上げる。
それに対して、恭也は苦笑と共に首を振って、その意見を否定する。
そんな恭也を見て、美由希たちは詳しい説明を求めるように、恭也へと詰め寄ろうとして、新たな訪問者の声に、動きを止める。

「恭也くん、お取り込み中の所、悪いんだけれど、ちょっと良い?」

「せ、聖!? どうして、ここに?」

「恭也さん、私も居ますよ」

「私もです」

聖と呼ばれた女性の後ろから、更に二人の女性が現われる。
それぞれに、西洋人形と日本人形を思わせるような整った顔立ちの女性だった。

「志摩子に乃梨子まで……」

茫然といった感じで、目の前の女性たちの名前を呟く恭也に対し、聖は悪戯が成功したような笑みを浮かべて見せる。

「うんうん。それぐらい驚いてくれたら、私たちも遠路はるばるやって来た甲斐があったというもんだよ」

そんな聖の言葉に、志摩子と乃梨子は顔を見合わせて苦笑する。

「三人共、学校の方は……。いや、聖は兎も角として、志摩子や乃梨子まで」

「ちょっと〜、私は兎も角って、どういう事よ」

「言葉のままだ。……って、冗談だから、そう拗ねるな。
 聖は大学生だから、ある程度の自由は利くという事だ」

「ああ、そういう事ね」

恭也は拗ねたように見つめてくる聖に、すぐさま前言を撤回すると、そう説明する。
それを受け、拗ねていた聖も、すぐに機嫌を直し、納得したように頷くのだった。
そこへ、志摩子が恭也へと説明をする。

「実は、攫われまして」

「攫われた!? 一体、どういう事だ!?
 それで、何処か怪我とかはしてないのか? どうやって逃げ出してきたんだ?
 それよりも、犯人は捕まったのか?」

志摩子の言葉に、矢継ぎ早に質問を繰り出す恭也に、志摩子はゆっくりと笑みを浮かべると、

「そうですね。犯人はまだ捕まってませんね。でも、このすぐ近くに居ますよ」

「そうか、隙を見て逃げ出してきたのか。それで、俺の所へと来たんだな」

恭也の言葉に、いつの間にか、美由希も辺りを警戒し始めていた。
そんな中、聖の顔に、いや、三人全員の顔に楽しそうな笑みが浮ぶ。
それに気を配る余裕もないのか、恭也は真剣な顔付きのまま、犯人の容姿に付いて尋ねる。
それに答えて、志摩子と乃梨子は、一斉に自分たちの横、つまり、聖を指差す。
一瞬、どういう事か分からずに困惑する恭也に、聖は浮かべたままの笑みを隠そうともせず、手をひらひらと振る。

「はいは〜い、私が二人を連れ去った犯人よ〜。
 で、どうする? とりあえず、手足でも縛っておく?」

そんな聖の言葉に、恭也は肩を落としながら此れ見よがしに盛大な溜め息を吐き出す。

「聖なら兎も角、志摩子や乃梨子まで一緒になって、笑えない冗談は勘弁してくれ。
 本当に、何事もなくて良かった」

ほっとする恭也の言葉に、文句を言おうとした聖だったが、志摩子たちと顔を見合わせると、少し反省する。

「ごめんね、恭也くん。この手の冗談は、あまり通じないって事を忘れてたわ」

「本当に申し訳ありません」

「ごめんなさい」

「いや、本当に何もないのなら、問題ない」

恭也の言葉に、三人もほっとしたように胸を撫で下ろしつつ、何処か嬉しそうな顔を覗かせる。

「でも、そこまで心配してくれるなんて、ちょっと嬉しいわね」

「当たり前の事だと思うが」

「そうかもしれませんけれど、やっぱり女心としては好きな方に心配されるのは、悪いもんじゃないですから」

「お姉さまの言う事も一理あります。
 恭也さんには悪い事をしましたけれど、それでも本気で心配してくれていると分かった時には、
 申し訳ないという気持ち以外にも、嬉しいという気持ちも確かにありましたから」

「俺にはよく分からんな」

「分からない方が、恭也くんらしいわ」

「そうですね。そういった女性の心の機微に敏感な恭也さんというのは、ちょっと想像できませんね」

「聖に志摩子は、俺を馬鹿にしているのか、乃梨子?」

「そんな事はないですよ。その、どちらかと言うと、私もお姉さまたちと同じ意見と言いますか……」

恭也の問い掛けに対し、乃梨子は申し訳なさそうにしながらも、そう告げる。
そんな恭也へと、美由希たちから声が掛かる。

「恭ちゃん、そちらの方たちは……」

もの問いたげな美由希たちに、恭也は聖達を紹介する。
名前を紹介し終えると、当然、次は恭也との関係を聞かれる。
それに対し、恭也は非常に言い難そうにしつつも、告げる。

「俺の好きな人だ」

「だ、だ、誰がそうなんですか、師匠」

「お師匠、その三人のうちの誰が好きなんですか!?」

「もしかして、もう恋人とか?」

美由希の言葉に、恭也が頷くと、三人のうちの誰がそうなのかと、俄かに騒がしくなる。
そんな中、聖が恭也の後ろから抱きつくように腕を回し、志摩子と乃梨子が恭也を挟むように、両脇からその腕を取る。

「恭也くん、いい加減に教えてあげないと、騒ぎが収まらないと思うけれど」

「はぁ、仕方がないか」

そのやり取りが聞こえたのか、先程までの騒動が嘘のようにピタリと収まり、急に静かになる。
そんな中、恭也は全員に聞こえるように言う。

「三人共だ」

この答えに、一瞬、辺りを静寂のみが支配する。
どうやら、恭也の言った言葉の意味を理解出来なかったらしく、全員が動きを止める。
それをじっと見詰める恭也たちの前で、不意に一陣の風が吹き、軽く葉が音を立てる。
すると、それを切っ掛けにしたかのように、全員の口から一斉に悲鳴じみた声が上がる。
一人一人では大した事はなかったかもしれないが、かなりの人数が一斉に叫んだ事もあり、恭也たちは一斉に耳を防ぐ。
そんな恭也たちの行動に気付いていないのか、真っ先に恭也に親しい者たちから、声が上がる。

「きょ、きょきょきょきょ、恭ちゃん、それって、一体、全体、どういう事!?」

「きょ、恭也さん、どういう事なんですか」

「説明よ! 説明を求めるわ!」

次々に同じような事を恭也へと向かって言ってくる忍たちを制するように片手を上げると、騒動が収まるのを待って、口を開く。

「まあ、色々とあったという事だ」

「それじゃあ、分からないですよ、師匠〜」

恭也のこれ以上ないというぐらいの簡潔な説明に、晶が情けない声を出す。
それに対し、恭也は困った顔をするが、それを助けるように、未だに後ろから抱きついたままの聖が代わりに答える。

「もう少しだけ詳しく説明すると、私たち全員が傷物にされたって事よね」

「お姉さま、その表現は少し間違っているかと思いますけれど」

「でも、完全に間違いでもないのが、困った事なんですよね」

「…………」

三人が口々に言う中、恭也は説明を任せるつもりなのか、それとも既に諦めたのか、ただ黙して語ろうとはしなかった。

「うーん、それじゃあ、ずばり、恭也くんが私たちの中から一人を選べなかったから」

「確かに、その通りですね、聖さま」

「それだけだと、恭也さんだけが悪いみたいに聞こえますよ、お姉さまに乃梨子。
 実際に、私たちの中から、一人を選べなかったというのもありますけれど、私たちも、お互いに遠慮したという事もありますし」

「そうよね。それを察した恭也くんが、誰も選ばないっていう選択肢を選ぼうとした時に、
 私たちから、三人一緒じゃ駄目かって言ったのもあるしね」

「つまりは、なるべくして、こうなったという訳ですね」

「私は後悔してません。これが、一番良かったと思ってます。
 お姉さまや乃梨子と一緒ですから。お二人となら」

「それは、私たちも一緒だって」

「そうですよ」

美しい姉妹愛を確認し合う三人の真ん中にいて、恭也は一人ただ黙っていた。
そんな恭也へと、聖が楽しそうに言う。

「こんな所よね、恭也くん」

「……ああ」

聖の言葉に、恭也は短く答えると、茫然としている美由希たちを見る。

「まあ、そういう事だ」

それを聞き、FCたちはのろのろと動き始める。
聞きたいことを聞けたので満足したのか、予想外の出来事に思考が追いついていないのか。
どちらにしろ、その場には恭也と美由希たちのみが残される。
そんなFCたちを見送り、詳しい事は兎も角、大体の事情を察した聖は恭也へとからかうように話し掛ける。

「いやー、相変わらずモテモテだね」

「何処を見たら、そうなる。単に面白がっているだけだろう」

「お言葉ですが、何処をどう見ても、迫られているようにしか見えませんでしたが……」

恭也の反論をあっさりと封じる乃梨子に続き、志摩子までもが困ったような顔をする。

「流石に、お姉さまや乃梨子以外の方との仲を認めるわけには……」

「俺に、そんなつもりはないぞ」

「ん〜、まあ、今回の件で、もう大丈夫だとは思うんだけどね〜」

言いつつ、聖は美由希たちを見渡す。

「念のために……」

そう言うと、そのまま恭也の頬へと口付けをする。

「な、何をするんだ、聖」

慌てる恭也に対し、聖は笑いながらあっけらかんと言う。

「ん〜、売約済みっていう証?」

「あのな、少しは信用をしろ」

「勿論、恭也の事は信用してるわよ。でも、念のためにね」

「でしたら、私も」

「あ、ずるいお姉さま。だったら、私も」

聖の言葉を聞き、志摩子と乃梨子もそれぞれに恭也の頬へとキスをする。
いつになく大胆な二人に、恭也は顔を赤くさせる。

「ひょっとして、照れてる?」

「そんな事は……」

「ふっふっふ〜。その割には、顔が赤いわよ〜」

「……志摩子と乃梨子は、学校は大丈夫なのか」

「あ、はい。丁度、試験休みに入った所ですから」

「それで、私服だったのか」

「はい」

「だったら、もう二、三日はゆっくりできるのか」

「ええ」

「そうか。なら、明日は丁度、休みだし、何処かに出掛けるか」

恭也の言葉に、志摩子と乃梨子は嬉しそうに頷く。
その後ろから、

「恭也くん〜。私だけ除け者にする気? 流石に、それは酷いわよ〜」

「聖は、少し反省してろ」

「そんな〜。もう充分、反省したから、許してよ〜。ね〜、ね〜ってば〜」

「……はぁー、冗談だ。だが、あまりおちょくるな」

「はい、はい」

「本当に分かっているのか?」

あまりにも軽い返事に、恭也は訝しむように後ろへと顔を向ける。

「勿論よ。だから、安心して」

「まあ、いまいち信用しきれないが、とりあえずは信用しておこう」

「何か、微妙な言い回しね」

「気のせいだろう」

「む〜」

拗ねる聖を見ながら、志摩子と乃梨子も可笑しそうに笑う。
そんな二人を見て、聖は益々拗ねたような態度を見せ、また、そんな三人を見ながら、恭也も口元を緩める。
学園内でありながら、そこだけは家にいるような、そんな空気が流れる中、タイミングを逸して、
立ち去るに去れなくなった美由希たちは、ただただ苦笑を零すのだった。





<おわり>




<あとがき>

halさんからの170万Hitリクエスト〜。
美姫 「白薔薇姉妹編〜」
今回は甘さを控えてみたんだが……。
美姫 「もうちょっと甘めでも良かったかもね」
かもな。
とりあえず、こんな感じに仕上がりました〜。
美姫 「リクエスト、ありがとうございます〜」
さて、それじゃあ、また次回で。
美姫 「次は誰の番なのかしらね」
それは、次回までの秘密〜。
美姫 「それじゃ〜ね〜」







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