『An unexpected excuse』

    〜リシアンサス編〜






「俺が、好きなのは…………」

「あ、恭也くん、みっけ〜♪」

急に後ろから抱き付かれ、座っていたとはいえ、僅かに前に傾くが、何とか堪えて首だけを後ろへと回す。
最も、わざわざ確認にしなくても、声や抱きつかれた時に誰かは分かってはいたが。
抱きついた人物はそのまま恭也の首へと腕を回し、恭也の顔のすぐ横に自分の顔を持ってきていたため、
恭也が振り向くと。思ったよりも間近に相手の視線とぶつかる。
少し気恥ずかしいものを感じつつ、恭也は知らず頬を緩める。

「丁度、良かった」

「ん? 何が?」

「ああ、ちょっとな。……と、それよりも、神界の方の用事はもう良いのか?」

「うん、ばっちりだよ。
 本当は、もう数ヶ月掛かる所なんだけど、お父さんがね、少しでも恭也くんの所に早く行きたいだろうからって」

「そうか、それは後で礼を言っておかないといけないな」

「多分、気にするな! とか言って笑うだろうけどね」

「確かに」

「……久し振りだね。約一年ぶりかな?」

「だな」

「…………」

じっと恭也を見つめてくる視線に、恭也は不思議そうな顔をする。
幾ら待っても期待した反応のない恭也へと抗議するように、少女は頬を膨らませる。

「もう〜。久し振り!」

「あ、ああ、久し振り」

「そうじゃなくて」

「??」

「ほら、本当に久し振りに人間界へと来たんだよ」

「ああ、そうだな」

「人間界に来たんだけど、私は恭也くんの元に戻ってきたの。つまり、帰ってきたの。
 もう分かるよね。それじゃあ……。久し振り」

「お帰り、シア」

「うん、ただいま」

恭也の言葉にようやく納得したのか、シアと呼ばれた少女は満面の笑みでそう返すと、恭也の首に腕を回した格好のまま、
人差し指を唇に当てると、不思議そうな顔付きになる。

「そう言えば、さっき恭也くん、丁度良かったって言ってなかった?
 あれって、どういう事?」

「ああ、そうだった」

恭也はそう言うと、そこで言葉を区切り、茫然と今まで黙ってこのやり取りを眺めていた美由希やFCたちへと顔を向け、
首に回されたシアの腕にそっと手を置きながら、その口を開く。

「この人が、俺の恋人のシアだ」

「……えっ! こ、恋人って、な、何を……」

「何だ、違うのか。ひょっとして、俺一人の勘違いだったのか……」

分かっているくせに、恭也はわざとらしく悲しむような仕草を見せる。
それが恭也の悪ふざけと分かっていても、思わずシアは力一杯首を振る。

「そ、そんな事ないよ! 私は恭也くんの恋人だよ!」

微かに頬を赤く染めつつも、力一杯言ったシアの言葉に、逆に恭也が僅かに照れつつ、今までの事情を簡単に説明する。
その説明を首をフンフンと縦に動かしながら聞いていたシアは、全て聞き終わると、改めて全員を見渡して声を掛ける。

「えっと、それじゃあ、改めて……。初めまして、だね。
 美由希ちゃんたちの話は色々と聞いているけれど、こうして会うのは初めてだしね。
 私はリシアンサス。シアって呼んでね」

シアの挨拶に、美由希たちも少し戸惑いつつ挨拶を返す。
と、シアが突然、恭也へと振り返る。

「ちょっと恭也。私の事も紹介してよ」

「……えっと、紹介してもらったんだけど」

突然、そんな事を言い始めたシアに忍がそう言い、恭也は少し疲れたように眉間へと指を当てる。

「キキョウ、ややこしくなるから、大人しくしててくれ」

「ぶ〜」

「えっと、恭ちゃん、どういう事」

「あー、話せば長くなるんでな。まあ、そういう事だ」

「どういう事かは分からないけれど、とりあえず分かったよ」

「ちょっと、分からないのに、分かったってのはどういう意味よ」

美由希へと喰って掛かるキキョウだったが、この時、全員が同じ事を思った。

(事情や状況は分からないけれど、きっと厄介な事になるっていうのは、分かった)

この辺り、恭也の周りが如何に不可思議な出来事で溢れているのかが窺える。
勿論、それぞれがその一端である当事者という自覚がそれぞれにあるかどうかは別として……。
とりあえず、この辺りに関しては後で聞こうと決めつつ、美由希が先に一番気になっていることを口にする。

「それよりも、どうして恭ちゃんが神族の人と知り合いなの?
 まあ、ここ最近では別に珍しくはないんだけど、そこまで親しいのかな?」

「……まあ、話せば長くなるんで、短く説明するが、昔、今のように神界や魔界が人間界と行き来できるようになるよりも前だが。
 その時にも、一度、魔界や神界に繋がる穴が開いた事があるんだ。
 で、その時、俺はその穴の中に入って、神界へと行ったんだ。
 しかも、運が悪い事に、その人間界へと繋がる穴が閉じてしまってな。
 で、まあ、色々と歩き回っているうちに、シアと出会ったという訳だ。
 シアだけじゃなく、そのご家族の方には非常にお世話になってな。
 まあ、それから色々あって、何とか人間界に戻って来れたという訳だ」

恭也の説明が終ると、その後を継ぐように今度はシアが口を開く。

「お別れは悲しかったですけど、また会おうって約束をしたんです。
 それから暫らくして、また人間界と繋がって、しかも今度はずっと繋がったまま。
 これで会いに行けると思ったんだですけど、そこは異世界同士。
 色々と話し合いが行われる事となって、それがある程度、落ち着くまでは、私も人間界へと行くことが出来ませんでした。
 で、人間界、神界、魔界、それぞれのトップたちの話し合いで、今のような状態になったのが、約四年前。
 今度こそ会いに行けると思ったのに、お父さんったら、もうー!」

いきなり当時を思い出したのか、怒り出すシア。

「まあまあ、落ち着きなさいよシア」

「だって〜」

「それだけ、娘が心配だって事よ」

「でもでも〜」

「まあ、確かに行き過ぎる感は否めないけれどね」

「でしょう」

いきなり一人芝居を始めるシアに、何となく事情を理解した者、声を掛けれずにいる者と、様々な反応を示す中、
恭也がそれを止める。

「とりあえず、落ち着け。皆が戸惑っているだろう」

「あ、ごめんね〜。えっと、何処まで話したっけ?」

尋ねるシアに答えず、いや、このままシアに話させたら、今までの事を全て話すまで終らないと思った恭也は、
自分で説明を始める。

「とりあえず、シアの方にも色々とあって、再会したのは一年半程前だ。
 丁度、夏休みの時にな。で、まあ、また色々とあって、恋人になったんだ。
 それから、ちょっとした事情で、シアは神界に戻らないといけなくなって、俺は帰ってくるのを待ってたと。
 まあ、大体はこんな所だな」

「だね♪」

恭也の言葉に、シアはもう少し詳しい説明をしたかったみたいだが、恭也が言った恋人という言葉に気分を良くしたのか、
笑みを浮かべて、何処か満足そうに頷き返す。

「にしても、本当に会いたかったよ〜」

シアはそう言うと、すぐ近くにあった恭也の頬に自分の頬を合わせてすりすりと擦り付ける。
恭也は恥ずかしさから引き離したいのだが、久し振りの再会を喜ぶシアの笑みを間近に眺め、それを躊躇う。
と、不意にその動きを止め、今度はそのまま首筋に猫が甘えるように鼻を擦り付けるようにしてくる。

「シアばっかりずるい! あたしも〜」

「あ、キキョウちゃん、ずるい。私はそこまでしてないのに」

「だったら、すれば良いじゃない〜」

「む〜。じゃあ、私はこうするもん!」

シアはそう言うと、恭也の首に腕を回した姿勢のまま、恭也の前へと回り込むと、そのまま恭也の足の上に乗る。

「何してるのよ、シア」

「良いじゃない、キキョウちゃんも同じなんだから」

「まあ、確かにね。じゃあ、次はあたしの番ね」

「うん。ちゃんと交代してよ」

「分かってるって」

「……二人共、俺の意思は無視か」

二人(?)のやり取りに、恭也は恥ずかしさを感じつつ呟くが、当然の如く、その意見が二人に通る事はなかった。
傍から見れば、いちゃつく二人に、FCたちもその場を去り始める。
FCたち全員が去った後、美由希たちも立ち上がると、それぞれに恭也へと言葉を掛けて行く。

「それじゃあ、詳しい事は放課後にでも聞きに行くから」

「じゃあ、放課後、翠屋に集合という事にしましょうか」

「いい案ですね、那美さん。それじゃあ、お師匠。また後で」

「それじゃあ、俺もそろそろ教室に戻りますんで」

「じゃあ、恭ちゃん、また後でね。シアさんたち? を連れて行ったら、かーさんも喜ぶと思うよ。
 ……尤も、からかわれるかもしれないけどね」

そう最後に言い残すと、美由希も足早に去って行く。
その背中を眺めつつ、恭也はもう暫らくは大人しくされるがままになる事を決めると、手持ち無沙汰からか、シアの髪を手で弄る。
それに気持ち良さそうに目を細めつつ、シアとキキョウは代わる代わる恭也へとじゃれ付くのだった。





<おわり>




<あとがき>

今回はシア編〜。
美姫 「メインの三人は無理だったんじゃ……」
強引に過去を捻じ曲げました!
美姫 「いや、まあ、良いんだけれどね」
ははは。これで、ネリネも書けるという事だ!
美姫 「つまり、すぐに書くと?」
……ごめんなさい。
美姫 「はぁ〜。で、それだと次は誰になるのかしら」
うーん、誰だろうな。
それは、次回の……。
美姫 「お楽しみ♪ ってやつね」
さ、先に言われてしまった。
なら、俺は何を言えば良いんだ?
美姫 「何も言わなければ良いのよ。それじゃあ、また次回でね〜」
では……んごふごぉ……(口を塞ぐなー!)







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