『An unexpected excuse』

    〜サイネリア編〜






「俺が、好きなのは…………」

恭也はそこで言葉を飲み込むと、ふと辺りを見渡す。
そんな恭也の様子に、美由希が不思議そうに尋ねる。

「どうかしたの、恭ちゃん?」

「いや、何かちょっとした予感というか……」

「予感? 何か悪い予感でもしたの?」

「いや、寧ろ嬉しい予感と言うか」

「そんな事より!」

そんな恭也と美由希の会話を遮るように、忍が割って入ってくる。

「その辺りをはっきりとしておかないと、後で知らないわよ」

「言われるまでもない。それに、別に隠すような事じゃないしな」

恭也と忍の言葉の意味が分かる人物は、この場には他に美由希しかおらず、他のものは一様に首を傾げる。
そんな他の面々を見渡した後、恭也はゆっくりとその名を口にしようとするが……。

「恭ちゃ〜ん。お久し振り〜」

いきなり後ろから抱き付かれ、言葉を飲み込む。

「リ、リア!?」

首に抱きついたまま、恭也の前面へと周り込んできた少女の顔を見て、恭也は驚いた声を上げる。
そんな恭也の様子に、リアは頬を膨らませる。

「む〜、何よ、その顔は。ひょっとして、迷惑だったとか?」

「いや、それはない。単に驚いただけ……って、顔が赤いが大丈夫か?」

「あ、あははは。だ、大丈夫だって。顔が赤いのは、恭ちゃんが照れるような事を言ったからだよ。
 でも、嬉しいよ」

「お久し振りです、リアさん」

「あ、美由希ちゃんも久し振り。忍ちゃんもね」

「はい、久し振りです」

リアと挨拶をした後、美由希は恭也へと声を掛ける。

「恭ちゃんがさっき言ってた嬉しい予感がするっていうの、もしかして……」

美由希の言葉を聞き、リアは嬉しそうに笑う。

「恭ちゃん、そんな事言ってたんだ〜。
 う〜ん、それってやっぱり、ラヴよね♪」

ニコニコと微笑みながら言うリアを首に抱きつけたままの恭也に、晶が少し遠慮がちに話し掛ける。

「あのー、師匠。そちらの方は? 美由希ちゃんや忍さんは顔見知りみたいですけど……」

「ああ、そう言えば晶たちは初めてだったな」

恭也はそう言うとリアの手を取り、そっと首から離して隣りに立たせると、リアを促がす。
それを受け、リアはスカートの裾を優雅に持ち上げつつ、綺麗にお辞儀をしてみせる。

「私、現在の魔界を統べる王の娘で、サイネリアと申します。
 宜しくお願いしますね」

「は、はい。うちの方こそ……」

「……って、魔王の娘!? そ、それってつまり、魔界のプリンセスって事ですか、恭也さん!?」

「し、師匠、どうしてそんなに偉い人と知り合いなんですか!?
 しかも、美由希ちゃんたちまで……」

挨拶を返すレンの横で、那美が驚いて尋ねてくるのに恭也は頷いて答える。
それを見て驚く面々に向かい、リアはさっきと同じようににこやかな笑みを見せると、全員へと言う。

「リアって呼んでね♪ それと、恭ちゃんと知り合いなのは、私と恭ちゃんが幼馴染だからだよ。
 まあ、昔は魔界と人間界が簡単に行き来できなかったから、そう簡単には会えなかったけどね」

「いや、今でも人間界から魔界や神界へは普通は行けないんだがな」

「でも、この間、恭ちゃんは魔界に来てくれたよね♪
 本来なら、これないのにね。やっぱり、これはラヴよね。まさに二人の愛のなせる技!」

「……まあ、あれは単に忍の家で見つかった魔法具を、何処かの馬鹿弟子が勝手に触って発動させたからだがな」

「う、うぅぅ、反省してますって」

「当然だ。偶々、魔界へのゲートを開くだけの魔法具だったから良かったものの……」

「恭ちゃん、それだけでも大事なんだよ。って、でも、美由希ちゃんには感謝よね。
 お陰で、こうして私も人間界へと来る事ができるようになったし」

「そうなのか?」

「そうなのよ♪ お兄さまの結婚も決まった事だし、私が人間界で暮らす許可も出たのよ。
 だから、こうして真っ先に恭ちゃんに教えに来たのよ。恭ちゃんってば、私にこんなにも愛されているなんて、幸せね〜」

言いながらリアは恭也の腕を取り、自らの腕と絡めると、首を傾げながら見上げる。
恭也はリアのそんな視線を受け止める。

「まあ、それは否定しないが」

「……うぅ〜、そう真面目な顔であっさりと返されると、こっちの方が照れちゃうな。
 まあ、これも恭ちゃんの愛って事で、私は嬉しく受け取るわ」

そんな二人のやり取りを見ていた者たちの殆どは、既に恭也が語るであろう名前が分かり、大人しく諦める。
それでも、数人は諦めれないのか、もしくは本人から直接答えが聞きたいのか、じっと恭也を見詰める。
その視線に気付いた恭也が何か言うよりも早く、リアが首を傾げる。

「そう言えば、ここで何をやってたの? はっ!? ま、まさか、浮気!?
 で、でもでも、皆平等に愛してくれるなら、それでも私は」

「って、良いのか!?」

リアの言葉に突っ込む恭也に対し、リアは笑顔で頷く。
そんなリアを見て、恭也は頭を抱えそうになるが、何とか堪えると、目の前に残っている数人へとはっきりと言う。

「俺が好きなのは、リアだから」

その言葉に幸せそうに目を潤ませて感動するリアに、それでようやく諦めたのか、残っていた者たちも去って行く。
ようやくFCたちの姿が消え、幾分か落ち着いた中庭で、恭也は疲れたようにそっと溜息を吐き出す。

「とりあえず、リア。俺はお前以外とは、その、そういう事は考えてないからな」

「恭ちゃん! とっても感激だわ! 感動よ! ラヴよ!」

大げさ過ぎるぐらいに喜び、リアは恭也の首へと抱き付く。
それを受け止めつつ、恭也はそっとリアの髪を梳くように撫で、もう一方の手をそっと背中へと回す。

「んふふふ〜、やっぱり恭ちゃんに抱き締められていると落ち着く。
 ここが私の一番の特等席ね」

「リア以外に使わせるつもりはないから、いつでもどうぞ」

「……恭ちゃんってば、天才よね」

「天才? 俺がか?」

「うん、そう。私を喜ばせる天才。もう、とっても嬉しいよ♪」

本当に嬉しげに強く抱き付くリアを眺めつつ、美由希が呆れたように言う。

「リアさん、変わってないよね」

「まあ、たかだか数ヶ月ぐらいで、そう簡単に変わる訳ないわよ」

「何か明るそうなお人ですな」

「本当に。桃子ちゃんと気が合いそう」

晶が何気なく呟いた言葉に、忍はニヤリと、美由希は何とも言えない笑みを浮かべる。

「晶〜、多分、いずれ身を持って知ることになると思うよ」

「そうそう。リアさんってば、意外と悪戯好きだしね」

美由希に続き、忍までもがそう言う。
その後、二人は声を落とし、リアには聞こえないようにそっと告げる。

「ただし、絶対に怒らせないようにしないと駄目だよ」

「美由希ちゃんの言う通りよ。何せ、見かけはああでも、魔界のプリンセスだからね。
 その魔力は物凄いから」

「私は魔力よりも、椅子が怖いです」

「「「椅子?」」」

美由希の発した言葉の意味が分からずに尋ね返す三人に、美由希と忍は今度こそはっきりと苦笑を浮かべる。

「「そのうち、嫌でも分かるから」」

よく分からないが、あまり良い事ではないのだろうと見当の付いた三人は、その時が来ない事をただ願うのだった。
そんな美由希たちのやり取りも目に入らないのか、リアは未だに恭也へと甘えるように抱き付いていた。





<おわり>







〜おまけ〜

その日の夜、当然の如く宴会となった席で、那美たちは昼間、美由希たちが言っていた言葉の意味を知ることとなる。
悪ふざけをし過ぎた忍へと、リアが椅子をその手に掴み取り、物凄い勢いで投げ付けたのだった。
それを見た一同は言葉を失うが、既にそれを知っていた忍はさっと身を翻してその攻撃を避ける。
が、そこへ運悪く席を外していた恭也が戻って来て、その攻撃を正面から受け止めるのだった。
普段の恭也なら避けていたかもしれないが、今日に限って言えば、恭也が彼女を連れてきた事に大変喜んだ桃子により、
慣れぬ酒をかなり飲まされていた所為もあり、避けることが出来なかったのであった。

「ああ〜、恭ちゃん。ごめん、ごめんね」

そう言って倒れた恭也の頭を抱き起こし、そのまま膝枕をする。
朦朧とする意識の中、恭也は大丈夫と何とか言葉に出して言う。

「そう、良かった。でも、お陰でこうして恭ちゃんに膝枕が出来るんだから、やっぱり、これってラヴ……よね?」

言いながら自分でも半信半疑だったのか、途中で疑問系へと変わり、誰にともなく尋ねるような形となる。
それに対し、美由希たちは当然の如く、揃って首を横へと振って否定の意を示すのだった。

『いや、それはラヴじゃないって』

それでも、当の本人である恭也の顔に微かに浮んだ笑みからすれば、当人たちにとっては、これはこれでラヴなのかもしれない。





<おしまい>




<あとがき>

今回は、『SHUFFLE!』は『SHUFFLE!』でも、『Tick! Tack!』から!
美姫 「って、また新シリーズ!?」
いやいや、『SHUFFLE!』だから、新ではないよ、新では。
美姫 「でも、『Tick! Tack!』なら、新じゃない」
いやいや、違うって。
美姫 「む〜、納得いかないけれど、まあ、大目に見ておいてあげるわ」
感謝♪
美姫 「さて、それじゃあ、また次回でね〜」
ではでは。







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