『An unexpected excuse』

    〜ネリネ2編〜






「俺が、好きなのは……」

「恭也〜」

恭也の言葉を遮るようなタイミングで、恭也へと飛び付いてくる一人の少女。
赤みがかった長い髪に何よりも特徴的な魔族特有の長い耳。
魔族の少女は嬉しそうな笑みと共に恭也に抱きついたまま、恭也の肩越しに顔を出して話し掛ける。

「恭也、元気にしてた?
 私に会えなくて、寂しかったんじゃない? 勿論、私もすごく寂しかったわ」

立て続けに言葉を紡ぐ少女に恭也は最初こそ驚いていたものの、すぐに薄っすらと、分かる者にしか分からないような笑みを見せる。

「ネリネ、久し振りだな。俺は元気だったが、ネリネはどうだった?」

「うん、私も元気だよ。で、で、私と会えなくて寂しかった?」

「別に言わなくても分かっているだろう」

恭也の肩に顎を乗せ、ネリネはすぐ真横にある恭也の耳に囁くように話し掛けながら、恭也の首に回して腕にそっと力を込める。

「はっきりと口にしてくれないと分からないわよ。それに、不安だもん。
 そりゃあ、言わなくても大体の事は分かるつもりだけど、ちゃんと言って欲しいし」

「そうか。まあ、その、ネリネと会えなくて俺も寂しかった」

「恭也〜」

「ちょっ、ネリネ、首に入っているから、あまり強くするのは……」

「あ、ごめんごめん」

苦しそうな恭也の言葉に、ネリネは舌をちろっと出して恭也から離れる。

「それじゃあ、ここで……」

ネリネはそう言いながら座る恭也の前へと回り込むと、座っていた恭也の右足を真っ直ぐに伸ばさせ、
そのまま足と足と間に身体を入れて、その右足太腿へと座り、恭也の右手を取って、自身の右肩を抱くように動かす。
それが終わると満足そうに頷き、そっと恭也の胸に手を添えて見上げる。

「うん、恭也の匂いだ。本当に久し振りだよ……」

そんなネリネの様子に目を細めながら、恭也はネリネの髪に顔を埋め、そっと呼吸を繰り返す。

「こっちも、ネリネの甘くて良い匂いがする」

「何か恥ずかしいけれど、恭也が望むんなら、幾らでもどうぞ」

言ってネリネはもっと恭也にくっ付くように首筋に顔を埋める。
恭也はネリネの肩を抱いているのとは逆の手で、そっと髪を掬い、指から零れ落ちて行くのを眺める。
それから今更のように、ネリネがここに居る理由を尋ねる。

「勿論、こっちで暮らすからよ。多分、来週の頭には恭也と同じクラスに転入する事になると思うから」

「そうか。それは嬉しい知らせだな。だが、もう既にクラスが決まっているのか」

「うん。って言うか、恭也と一緒のクラスが良いなって零したのを聞かれたみたいなのよね、どうも」

「ああ、成る程」

この場合、誰が、とは敢えて尋ねるまでもなく、恭也の脳裏に一人の男の顔が浮ぶ。
あの人なら、間違いなくこれぐらいは訳もなくやってのけるだろう。
例え、魔界の権力を使ったとしても、それが一人娘のためならば、それこそ躊躇もなく。
二人して何ともいえないような顔になるが、恭也はすぐに優しい笑みを見せる。

「まあ、だけど、この件に関してはおじさんには感謝だな。
 ネリネと同じクラスになれるんだから」

「だよね。うん、後でお礼言っておこう」

娘に礼を言われて感涙にむせぶ父親の姿が浮んで来た恭也だったが、それを打ち払い、ネリネとの時間を楽しむ。
と、そんな二人に非常に遠慮がちに声が掛かる。

「あ、あの……」

今にも消え入りそうな小さな声に、恭也は周りを見渡し、現状と今までの行為を思い出して、僅かに照れる。
同じく周りを見たネリネも恭也と同じように一瞬だけ照れたような素振りを見せるものの、そのままの体勢から動かない。
恭也もネリネを離すという事は思いつかないのか、そのままで声を発したFCの一人へと顔を向ける。
恭也からの視線を受けた少女は、何か言おうとするのだが、既に目の前の光景によって解答を得たようなものなので、
何と言っていいのか分からずに黙り込む。
そこへ、ネリネが今更のように恭也へと現状を尋ねる。

「ねえ、恭也。これって、何かの集まりなの?」

「いや、そうじゃない。
 ネリネが来たから途中で中断していたんだが、これは俺が本当にネリネの事が好きだと言う事を再認識させられたって所か」

「嬉しいよ、恭也〜」

言って恭也に抱き付くネリネ、と言っても既に抱き付いていた状態だったのだが、とりあえず喜びを現すネリネに恭也も笑みを見せる。
そんな二人を呆れたように見遣りつつ、忍が大きく一つ手を打つ。

「はいは〜い、恭也からの答えは貰った事だし、これでお開きにしましょ〜。
 全くやってられないわよ、このバカップルが!」

「忍〜、その言い方は酷いじゃない」

「そりゃあ言いたくもなるわよ。たかが数ヶ月会ってなかっただけで、人前も気にせずにそんな事をされたら……」

忍の言葉に頷く美由希たちを視界に入れつつ、ネリネは拗ねたように言う。

「数ヶ月しか、じゃないわよ。数ヶ月も、よ!
 それに、正確に言うのなら、三ヶ月……、えっと、そう、八十三日ぶりよ!」

「あ〜、はいはい」

ネリネの言葉に忍はおざなりに頷くが、ネリネはそれで満足なのか、分かれば良いのよ、と言ってまた恭也にべったりと寄り添う。
そんな二人の様子を呆れたように眺めつつ、忍は立ち上がる。

「これ以上、ここに居たらたまんないわ。私は先に戻ってるからね」

忍はそう言って二人を残して立ち去る。
その後を、美由希たちも同じように追いながら、美由希は呆れたように溜息を吐き出し、追いついた忍へと話し掛ける。

「でも、忍さん。ネリネさんがこっちに来たって事は、これからずっとあんな調子なんじゃ……」

「……はぁぁ。まあ、ネリネが来て楽しくなるのは良いんだけどね」

「言いたい事は分かりますから……」

そんな会話をしながら美由希たちは教室へと戻って行く。
一方、中庭へと残されるような形となった恭也たちだったが、そんな事は全く気にも止めず、二人だけの時間を楽しんでいた。
特に何かを話す訳でもなく、ただ二人で最初の格好のまま座っているだけだったが、二人はそんな時間に満足していた。
時折、恭也の手がネリネの髪を梳くように動き、ネリネが甘えたような声を出す。
時間さえもがゆっくりと流れるような錯覚を抱かせるようなその光景は、誰にも見られる事無く予鈴が鳴り響くまで続くのだった。





<おしまい>




<あとがき>

という訳でネリネはネリネでも、赤ネリネ〜。
美姫 「タイトルが紛らわしい!」
あ、あはははは〜。
ま、まあ、それは半分はわざとだし。
美姫 「あのね〜」
なははは。
美姫 「って言うよりも、連続で『Tick! Tack!』からね」
まあな。うーん、何となく?
って、冗談だから、その手のものを……。
美姫 「はぁ〜。で、次は誰なの?」
誰にしようか? 候補は何人かいるけど。
美姫 「はいはい。私は早く書いてくれれば良いわよ」
が、頑張る……。
美姫 「それじゃあ、また次回でね〜」
ではでは。







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