『An unexpected excuse』

    〜静久編Ver.2〜






「俺が、好きなのは…………」


恭也はそこまで口にすると、それより先を言って良いのか悩む。
果たして、その名を口にする事さえ許されないのでは、と。
しかし、そんな恭也の胸中を知らないFCたちは、じっとその口から誰かの名前があがるのを待つ。
恭也との付き合いがそれなりに長い美由希たちは、恭也の内心を性格には読み取れなくても、
何か言い辛いのだろうと察し、互いに目を合わせ、ここで話しを打ち切ろうと決め合う。
そして、それを実行に移そうとした時、一陣の風が吹いた。
風は地面に積もった落ち葉を舞い上げ、一直線に恭也へと迫る。
渦を巻き迫り来る風に対し、恭也は小太刀を振るう。
先程までの強い風が嘘のように収まり、静けさが降りる中庭で、恭也と一人の少女が獲物を交わらせて向かい合う。
やがて、どちらともなく獲物を仕舞うと、最初に口を開いたのは恭也だった。

「……一体、何のつもりだ、静久」

どこか憮然とした口調に対し、静久は至って平静に返す。

「別に理由なんて……」

静久の態度に少し不審なものを感じつつも、恭也はその前に聞いておく事を尋ねる。

「何で、ここにいるんだ?」

「……私がここに居るのは迷惑なのね」

「そういう事じゃなくて……。お前が天地学園に居ないと、誰が星獲りの鐘を鳴らすんだ」

「会長の許可は取ってあります」

どこかつっけんどんに答える静久に、恭也は困ったような顔を見せる。
そんな恭也に静久は静かな怒りのようなものを滲ませつつ、少しだけ強い口調で告げる。

「それよりも、恭也こそこんな所で何をしてるの?
 天地学園からわざわざ転校してまで、この学園に来たのは何で?」

「別に理由なんてない。ただ、俺があの学園に居たのはちょっとした事情からで……」

「ふーん。じゃあ、それはもう必要なくなったって事ね。
 だから、天地学園を去ったんだ」

「あ、ああ」

「私には黙ったまま」

「……すまない」

今まで態度とは打って変わり、急に弱々しい口調で言う静久に恭也はただ言葉少なく謝罪する。
そんな恭也の態度に激昂しかけるのを懸命に堪えると、静久は一度大きく深呼吸をし、
恭也の目を真っ直ぐに捉えると、ゆっくりと話し出す。

「本当の事は話してくれないんだ……。会長から全ての事情を聞いたって言ったら、どうする?」

静久の言葉に、恭也が息を飲む。
その小さな変化を見逃さなかった静久は、会長の言葉が正しかったと認識し、途端に俯くと弱々しく恭也の服を掴む。

「どうして……。どうして、私に何も言ってくれなかったの……。
 そんなに私は信用できないの? 私だって、会長の刃友なのに。
 私だけ安全な所だなんて……」

服を掴み震える手をそっと優しく包み込みながら、恭也はただ無言で立つ。
そんな恭也へと、静久は声を震わせたまま続ける。

「教えて欲しかった。ううん、せめて、私も一緒に連れて行ってくれれば……。
 どうして、私を残して行くのよ!」

慟哭の声に、恭也は静久の手をそっと話すと、震える肩に手を置く。
なるべく優しく、静かに言葉を紡ぐ。

「すまない……。静久を巻き込みたくなかったから。だから、会長にも口止めを頼んだんだが……。
 だけど、それが結果として静久を傷付ける事になってたんだな」

「うっ、うぅぅ」

俯いたまま嗚咽を漏らす静久を見て、恭也はこのまま泣き出してしまうのかと焦るが、
そんな恭也の心配を余所に、顔を上げた静久の瞳には強い輝きが見えた。

「黙って学園を去っただけじゃなく、こんな所で女の子たちに囲まれてデレデレデレデレして!
 転入した本当の理由はこれじゃないでしょうね!」

先程とは打って変わって何処か怒っているようで、それでいて不安そうな拗ねたような態度の静久に、
恭也は僅かに首を傾げると、よく考えもせずに本当に口から言葉が出たというような気軽さでポロリと零す。

「ひょっとして、焼き餅か?」

途端、静久は耳まで赤くしたかと思うと、有無を言わさぬ間に恭也の鳩尾へと肘を叩き込んでいた。
流石にここまで接近していた上に、静久相手で完全に油断していた恭也は、それをまともに喰らい、
数瞬の間、呼吸が止まる。

「ぐっ……。い、いきなり何を……」

「し、知らない! もう、恭也なんて、知らない」

膨れてそっぽを向く静久を恨めしそうに見遣る恭也に対し、美由希たちは呆れて盛大な溜め息を吐き出す。

「あそこであの言葉はね〜」

「ちょっと自業自得という気はしますね」

「恭ちゃん、流石にそれは……」

口々に恭也を非難するような言葉に、恭也は何か反論しようとするが、
横目でこちらをこっそりと窺っている静久に気付き、それらを黙殺すると静久を背中から抱きしめる。
これに慌てて恭也の腕から逃れようとする静久の耳元へと、恭也が囁く。

「何も言わなかったのは、本当にすまなかった。
 もう遅いかもしれないけれど、俺と一緒に来るか?」

「……うん」

恭也の言葉に頷く静久をそっと抱きしめつつ、恭也はその首筋に軽く唇を触れさせる。
思わず小さく吐息を零し、慌てて手で口を塞ぐ静久だったが、気を利かせた忍たちにより、
いつの間にかこの場には誰も居なくなっていた。
ほっとしている静久へ、恭也が確認するように尋ねる。

「本当に一緒に来るんだな」

「勿論です。その為に、会長の許可も取りましたから」

「そうか。だけれど、それだと、会長は挑戦が来たらどうするつもりなんだ」

「さあ? でも、何か考えがあるような事は言ってましたから、私たちが心配するだけ損のような気がします」

「……確かにな」

静久の言葉に苦笑しつつも同意する恭也へと、静久はゆっくりと体重を掛けて身体を預ける。
久しぶりに近くで触れられるという事に喜びを隠しもせずに。
そんな静久の喜びを感じてか、恭也もしっかりと静久を支え、片腕は腰から前へと回す。
互いに呼吸がぶつかる程近くに相手の顔を眺めつつ、二人は暫くそのまま寄り添っていた。





<おわり>




<あとがき>

という事で、前回やった静久のVer.2。
美姫 「アハトさんから、こっちのヴァージョンもリクされて、急遽仕上げたのよね」
まあな。でも、途中までは出来てたしな。
美姫 「所で、恭也が天地から風校に移った理由って、会長が関係しているみたいな言い振りだけど……」
さて、それじゃあ、次回は誰にしようかな〜。
美姫 「って、あっさりと流すな!」
いや、だって、なあ……。
美姫 「まさか、何も考えてないとか?」
そんな事はないぞ。ただ、あまり関係ないから、割愛したまでだ!
美姫 「ふ〜ん」
な、何だ、その疑いの眼差しは。本当だぞ!
本当に考えているぞ!
美姫 「へ〜」
くっ、そこまで言うのなら……。
1番、剣待生候補を探すため。
2番、天地学園を支配しようとする者が居て、それの調査のため。
3番、会長の気紛れ。
さあ、どれだ。
美姫 「4番、浩の思いつき!」
いや、ねえし、そんな選択!
美姫 「はいはい。ん〜3番かな?」
……それはそれで面白いだろうな。
とまあ、どれもが正解という事で。
美姫 「何よ、それ!」
ほら、だから、ここでの話しにはそんなには関係ないし。ね、ね。
美姫 「むー、確かにそうかも」
だろ、だろ? というわけで、また次回で!
美姫 「って、アンタが締めるな!」
ぐげっ、ぐぎょ、にょぴょ〜〜!!
……ん、んな理不尽な……。
美姫 「それじゃあ、またね〜」






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