『少し変わったバレンタイン』
2月14日。
言わずと世間では知られたバレンタインデーの日である。
自分の想い人へと、その想いとともにチョコを届ける日。
捻くれた言い方をするのなら、製菓会社、それもチョコレート会社の陰謀の日。
ともあれ、年に一度の大イベントである。
しかし、朝から憂鬱そうな人物が高町家に一人。
「はぁー。去年の二の舞だけはごめんだぞ」
ややげんなりしつつ、去年の事を思い返し、重い溜め息を吐く。
去年、ティオレから送られて来たダンボール箱数個分のチョコと見合い写真。
その事を思い出して朝からげんなりとする恭也であった。
ティオレの暴走をイリアが止めてくれている事に期待しつつ、リビングへと顔を出す。
朝の挨拶をしてくる皆に挨拶を返し、恭也が席に着くなり高町家の面々が回りに集まる。
家族や知人の分まで嫌がるほど薄情ではない恭也は、これから起こる事を待つ。
最初に動いたのは、この家の大黒柱である桃子である。
「今日はバレンタインでしょう。という訳で、桃子さんも頑張っちゃった。
今年はチョコレートケーキよ。でも、甘さはかなり控え目。
これなら甘いのが苦手な人でも食べれると思うんだけど。
あ、食べるのは帰ってきてからでも良いから、後で味の評価を教えてね。
もし良いようなら、来年はこれを売り出すんだから」
ちゃっかりと恭也に新作ケーキの試食という任務を付け加えつつ、桃子は恭也の前にケーキを置く。
とりあえず、味の評価があるのなら帰ってからにしようとケーキを脇に退ける。
そこへ次は晶は一枚の皿を差し出す。
その上に乗っているのは……。
「これはおはぎか?」
「その通りです。何もチョコばかりじゃなくても良いんじゃないかって思いまして。
餡子なら師匠も少しは大丈夫でしょう」
「ああ、これは良いな。うん、とっても良い。ありがとう晶」
恭也の嬉しそうな声と、褒められた事に晶は照れつつもレンに挑戦的な笑みを見せる。
これが日本の味だ、とばかりに。
「甘い、甘いで晶。中国四千年を舐めたらあかんでー!」
言ってレンも恭也の前に皿を置く。
そこに乗っているのは白と緑、そしてほのかに桃色のお菓子であった。
「ほう、桃饅頭か」
「そうです。まあ、あのおサルと同じ発想やったんはあれですけど、黒こしあんなら大丈夫かと」
「レンもありがとうな」
褒められたレンは、先程の晶同様に胸を逸らして笑みを浮かべる。
今しも激突しそうな二人だが、なのはがいる為か大人しくしている。
そのなのはが恭也へと何かを手渡す。
「はい、お兄ちゃん。私からはこれです」
「ああ、ありがとう。これは……煎餅だな」
「うん。流石にお煎餅は作れないから買ってきたやつだけれど…」
「いや、ありがとうな」
恭也は嬉しそうになのはから受け取ると、その頭を撫でてあげる。
嬉しそうに笑うなのはを撫でながら、恭也もまた嬉しそうになのはから貰った煎餅を大事そうにそっと置く。
そんな恭也の様子に美由希は肩を竦めるが、すぐに気を取り直したように今度は自分の番だと小さな包みを渡す。
包みを受け取り、期待するように窺う美由希の前で包装紙を取り除き中身を取り出す。
中から出てきたのは、少々歪な形をした白い物体。
「これは……?」
「食べたら分かるよ」
そう言って食べる事を急かす美由希に、恭也はソレを慎重に手に持つと口に運ぶ――前に匂いを確認する。
別段、おかしな匂いがしないのを確認すると、思い切って口の中へ。
「んんっ」
恐る恐る一口食べ、特に問題ないと分かると残り全部も口に入れる。
「……ご馳走様。なるほど、おにぎりだったのか。
まあ、形は少々歪だったが、味はそんなに悪くなかったな。ただ、塩をもう少し少なめに」
「そっか。ちょっと塩が多すぎちゃったか」
美由希が次への改良点を口にするのを聞きながら、努力している点は素直に褒めてやる。
おにぎりをラッピングした事にはこの際触れないでおく。
そんな光景を眺めながら、桃子は一人バレンタインと関係ないわよねと肩を竦めるも、
恭也自身が喜んでいるのなら、これはこれで成功だったのだろう、とそう納得するのだった。
放課後、忍からは肉まんを、ノエルからは手作りカレーチーズたい焼きを――中に入っていたカレーは、
ノエル自身がスパイスを調合して作ったもので、恭也はかなり気に入った――を貰い、那美と久遠からは豆大福を貰う。
本当にチョコレートとは関係のない贈り物たちであったが、恭也にとっては良い一日だったらしく、
リビングで寛ぐ姿は本当に穏やかであった。
そこへ来客を告げるチャイムが鳴り、美由希が何やら持って戻ってくる。
「恭ちゃん、フィアッセからみたいだよ」
「フィアッセから?」
「うん。今日指定の荷物だから、きっとバレンタインじゃないかな」
「そうか。わざわざ良いのに、本当に義理堅いな。
ありがたく頂こう」
小包を開け、恭也は中からラッピングされた荷を取り出す。
それを剥がし、中身をテーブルの上へと。
「これは…」
「CDだね。あ、手紙が入っているよ」
美由希が箱の底に残っていた手紙を恭也へと手渡す。
そこにはフィアッセの字で、このCDの中に新曲が入っている事が書かれていた。
どこかに発表する予定はなく、今日この日、恭也のためだけに作られた曲という事らしい。
「チョコレートよりも凄いプレゼントだね」
「だな」
美由希と恭也は思わず顔を見合わせて何とも言えない笑みを浮かべ合うのだった。
おわり
<あとがき>
短いけれど、バレンタインSS〜。
美姫 「ふぅ〜、頑張って書かせたわ」
うぅぅ、あちこち痛い……。
美姫 「にしても、甘々じゃないわね」
まあな。チョコがないから、甘くないってね。
美姫 「全然、上手くないから」
ぐはっ!
美姫 「とりあえず、短いけれど時事ネタをお送りしました〜」
ではでは。
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