『夕日隠れの道に夕日影』

   〜フィアッセ編〜






コンサートも無事終了し、カーテンが降りた今、客席は未だに覚めやまない熱気を帯びていた。
先程からアンコールを求める声が響き、CSSの生徒たちがラストステージ目指して準備をする。
やがて、観客のアンコールに応えるために、カーテンが再びゆっくりと開いていく。

「皆さん、今夜はCSSのコンサートに来てくださりありがとうございます。
 今宵、アンコールにお応えしまして、これで本当に最後となる曲は……」

ティオレが客席に向かい挨拶をする。
そして、それが済むとティオレを中心とし、彼女の想いを、そして魂を受け継ぐ生徒たちが歌い始める。
その曲を舞台袖で聴きながら、恭也はこの場を守れたことに誇りを感じていた。
やがて、アンコールの曲も歌い終え、生徒たちが順次戻っていく中、二人の人物だけが舞台に残る。
一人は、ティオレ・クリステラ。
そして、もう一人はその娘のフィアッセ・クリステラだった。

「皆さん、本日はありがとうございました」

フィアッセが日本語で観客に向って話し掛ける。
それと同じ事を、英語でティオレが話す。

「さて、ここで皆さんに一つお知らせがあります」

それを見ながら、恭也は近くにいたイリアに話し掛ける。

「イリアさん、一体何が始まるんですか?」

「さあ。私も何も聞いてないんですよ。ただ、アンコール曲の後、少し時間を頂戴と校長に言われただけで」

恭也はゆうひたちにも視線を向けるが、揃って首を横に振る。
どうやら、ゆうひたちも何も聞いていないようだった。

「先生の事やから、また何かしでかす気とちゃうやろか」

「ありえるわね。でも、一体何をする気なんだろうね」

ゆうひやアイリーンも首を傾げる中、フィアッセの言葉は続いていく。

「ここ最近、私も何度か取材を受けるよになりました。その度に聞かれる質問があるんです。
 今日はその質問に答えようと思います」

フィアッセの言葉を聞き、ゆうひたちは顔を見合わせる。

「まさか……」

誰かが零した呟きを聞き、恭也はゆうひたちに尋ねる。

「どうしたんですか?」

「ううん。何でもあらへんよ」

そんなやり取りをしている間にも、フィアッセは語るのを止めない。

「その質問とは、付き合っている人はいるのかとか、好きな人はといったものです」

ここに来て観客達からどよめきが生じる。
それを楽しげに眺めながら、二人は続ける。

「実は、今日の私とママの二人で歌った歌は、その人を想って歌いました。
 今までの中でも、とても気持ちよく、そして、最高に歌えたと思います。
 だから、今日この場でその人の名前を言っちゃいます」

同時に客席のあちこちから様々な声が出る。
そんな事を気にも掛けず、フィアッセは続ける。
そして、舞台裏ではゆうひたちが悔しげな顔をしていた。

「やられた〜」

「うぅ〜。悔しいけど、一応礼儀として、相手の返事が出るまでは待ってあげないと」

アイリーンの言葉に全員が頷く。
そんな中、恭也は一人暗い顔になる。

(フィアッセに好きな人が……)

モヤモヤする気持ちを隠しながら、恭也は舞台の方へと目を向ける。

「その人は、私の幼馴染で、いつも私が危ない時には助けてくれる人なの。
 その人の名は……」

そこまで言ってフィアッセは横を、舞台袖を見る。
そして、恭也と目が合うと、そっと微笑んで、

「恭也だよ」

「え?」

恭也は一瞬訳が分からずに、呆けた声を出す。
そんな恭也の背中をアイリーンがそっと押し、舞台へと上げる。
その耳元に、小声で話し掛けながら。

「どんな答えを出しても良いから、ちゃんと答えてあげてね」

その言葉に、力強く頷きながら、恭也は舞台へと姿を現す。
途端、客席から感嘆とも取れる声が上がり、俄かに騒がしくなる。
しかし、フィアッセが声を発すると、それは一斉に静まり辺りは水を打ったような静けさに包まれる。
そんな中、フィアッセの声が会場に響く。

「恭也、ずっとずっと好きだったよ。弟とかじゃなくて、一人の男性として。
 恭也はどうなのかな?やっぱり、お姉さん?それとも……」

客席に日本語の分かる者がいるのかどうかは分からないが、恐らくその雰囲気から言葉を発する者はいなかった。
また、いつの間にかティオレの姿も舞台から消えていた。
そんな中、恭也は微笑むとフィアッセに一歩、また一歩とゆっくりと近づいて行く。

「フィアッセ……」

そっとフィアッセの頬に手を当て、恭也はその瞳を見ながら言う。

「俺もフィアッセの事、好きだよ。勿論、姉としてではなく、一人の女性として」

「本当?」

「ああ」

フィアッセは嬉しそうに微笑むと、その目に涙を滲ませる。
恭也は目元に浮いたその水滴を、そっと指で拭う。
そして、ゆっくりと顔を近づけていく。
フィアッセは近づいてくる恭也を感じながら、徐々にその目を閉じる。
そして、二人の唇が合わさる。
数秒、静寂が辺りを支配し、やがて何処からともなく拍手が沸き起こる。
言葉が分からなくとも、ステージに立つ二人の姿で全てを理解するのには充分だった。
そんな中、恭也はここがどこか思い出し少し照れ臭そうにする。

「しまったな。ここが舞台の上だとすっかり忘れていた」

「ふふふふふ。私も途中で忘れてたよ」

二人して顔を見合わせると、どちらともなく笑みを浮かべる。
そして、フィアッセはまだ恥ずかしそうにしている恭也の頬にそっとキスをする。

「ふふ。これからも宜しく、という証よ」

そう言って微笑んだフィアッセの顔は、恭也が今までに見た中でも最高の笑顔だった。



The promise of a smile.





  〜 後日談 〜




<あとがき>

ライジングさんの45万Hitリクエストで、夕日影のフィアッセ編でございます。
美姫 「うわー、懐かしい作品ね」
……はい、懐かしいです。
かなり昔に書いたので、細かい部分を忘れていたり……。
あははははは。
美姫 「笑い事か!」
ま、まあ、今回フィアッセ編が出た事で、久々の更新です。
最も、これは一応完結してるんだけどね。メインはゆうひだったし。
美姫 「でも、マルチエンドと言ったのは浩自身よね」
はい、そうです。
とりあえず、こんな感じになりました〜。
美姫 「という訳で、またね」





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